会社のM&Aとは何か?方法・価格・利点と欠点・流れを簡単に解説

M&Aとは、合併&買収を指します。人口構造の変化、都市部への一極集中、働き方の多様性など様々な理由で、多くの中小企業が後継者不足の課題を抱えております。その後継者課題の対応策として、第三者への事業承継(M&A)が増加しています。この記事では、中小企業におけるM&Aの現状、方法、成功のポイントなどについて解説します。

中小企業のM&Aとは?

M&Aとは、企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)を総称する用語です。企業は成長や規模拡大、新市場への進出、シナジー効果の追求を目的としてM&Aを行います。M&Aには、以下のような手法があります。

合併:複数の企業が統合して新しい企業を設立する方法です。これにより、各企業の強みを結集し、シナジー効果を得ることを目指します。
買収:ある企業が他の企業の経営権を取得する方法です。この中には企業買収も含まれます。

日本で行われるM&Aの殆どで、中小企業のオーナー経営者が、その保有する自社株を大手企業に譲渡しています。この株式譲渡に比べるとだいぶ少ないですが、事業譲渡が選択されることもあります。合併は(極一部の超大手企業を除き)殆どありません。

中小企業とは

中小企業基本法において、業種により区別され、企業の資本金もしくは出資金と、常時使用する従業員数によって定義されます。

業種定義
製造業その他資本金・出資金の総額が3億円以下の会社
または常時使用する従業員数が300人以下の会社および個人
卸売業資本金・出資金の総額が1億円以下の会社
または常時使用する従業員数が100人以下の会社および個人
小売業資本金・出資金の総額が5,000万円以下の会社
または常時使用する従業員数が50人以下の会社および個人
サービス業資本金・出資金の総額が5,000万円以下の会社
または常時使用する従業員数が100人以下の会社および個人
中小企業の定義

M&Aの動向

M&Aが増えている背景や今後について概説します。

経営者の高齢化により休廃業する中小企業が多い(2024年公表)

帝国データバンクの調査によると、2023年の休廃業・解散件数は、全国59,105件で、引き続き高水準であると言えます。その中でも51.9%の企業が黒字休廃業、休廃業した企業の経営者の年齢は平均70.9歳となりました。

後継者問題の解決策として中小企業のM&Aが増加(2024年公表)

独立行政法人中小企業基盤整備機構の公表資料によると、2023年度の全国の事業承継・引継ぎ支援センターへの相談者数は、23,722者(前年度比106%)、M&A(第三者承継)の成約数は、2,023件(前年度比120%)となっており、相談者・成約数数ともに過去最高件数でした。中小企業の後継者問題解決策として、M&Aが増加していることがうかがえます。

また、MARR集計によると、2024年1月~6月も日本企業のM&A件数は高水準(2,321件)で、前年同期比19.4%の増加、同期間では過去最多を更新しました。

国が支援体制を整備し中小企業のM&Aを推進

国としても、中小企業の事業承継が円滑に進む為の支援様々な支援を行っており、事業承継の選択肢である第三者承継(M&A)についても、支援機関の強化や補助金、税制優遇措置の拡充など支援体制を整備しております。具体的には以下が挙げられます。

中小企業が安心してM&Aに取り組める為の基盤として、中小企業庁「M&A支援機関登録制度
M&Aの基本的な事項や手数料目安、M&A業者に対しての行動指針の提示の為、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」策定
事業承継に対する金銭面での支援として、事業承継・引継ぎ補助金の設置
経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、経営資源の集約化(M&A)によって生産性向上等を目指すため、計画に基づいてM&Aを実施した場合の減税・準備金の積立として、中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」の制定

M&Aの目的・課題

M&Aで達成すべき目的、解決が期待される課題は、以下のとおりです。

売主側

売り手の目的・課題は、およそ次のようなものです。

事業承継(後継者不在)

  • 後継者がいない、または子供の資質に不安がある
  • オーナーが病気になり、周囲が心配している
  • MBO(経営陣買収)を用いた社員承継も検討しているが現実的でない

創業者利益の実現

  • 創業家としての長年の苦労が報われたい
  • 今後の経営に自信がないが、これまでの頑張りを利益として確保したい
  • 経営を続けたいが、いったん創業者利益を確定しておきたい

事業基盤の強化

  • インターネットで直接消費者に販売したい
  • 海外市場での販売や製造を行いたい など

事業の選択と集中

  • 不採算事業を切り離したい
  • ノンコア事業を売却し、コア事業に集中したい
  • 既存事業を売却し、新規事業に取り組みたい
  • スポンサーを得て資金難から脱出したい

買主側

買い手の目的・課題は、およそ次のようなものです。

事業規模の拡大

  • 事業エリアの拡大、店舗やフランチャイズの増加
  • 販売先の確保、工場の設置、契約の締結

新規事業の獲得

  • 迅速に開始したいが、新規事業には時間がかかる
  • 適任者の採用が難しく、ライセンス取得にも時間が必要

技術開発と人材確保

  • 自社での研究開発には時間と費用がかかる
  • 事業拡大を望むが、適切な人材の採用が難しい

販路拡大と海外展開

  • 販売先、販売エリア、販売手法の確保
  • 海外市場への進出、海外製造拠点の設置、海外企業との提携

M&Aの方法(スキーム)

M&Aのスキームとは、M&Aを実行する際の手法(株式譲渡・事業譲渡・吸収合併など)のこと言います。譲渡側のM&Aの目的やM&A対象資産、事業の特性や事業に必要な許認可などを考慮しM&Aスキームを検討します。M&Aスキームによって譲渡側の獲得できる利益が異なったり、税務・会計上のメリット・デメリットがあったりしますので、専門家に相談しながら最適なM&Aスキームを決定することが大切です。

M&Aの方法・スキーム

M&Aの方法・スキームのすべて

※1 最も一般的なM&Aの手法。MBOやTOBでも株式譲渡が用いられる。
※2 会社分割の類型の1つである「新設分割」が用いられる。
※3 会社分割の類型の1つである「分社型分割」又は「分割型分割」が用いられる。

株式取得・資本参加

M&Aとは、法人同士の合併または買収のことを意味しており、合併や買収の方法として株式取得と資本参加という形態がとられます。代表的なM&Aスキームを説明します。

株式譲渡

譲渡企業の株式を、譲受企業が買収することで経営権を獲得するスキームとなります。譲渡企業の株主が変更するのみで、譲渡企業に付随する資産・負債、権利・義務がすべて引き継がれるのが特徴です。譲受側が譲渡側に株式対価として現金を支払うことにより完了します。

株式交換

譲渡企業の発行済み株式のすべてを譲受企業が取得する為、その対価として譲受企業の発行済み株式を交付するM&Aスキームのことを言います。完全子会社を図る際に使われるスキームですが、譲受側が非上場会社の場合は、非上場株式の現金化が難しい為、あまり使われないスキームです。

第三者割当増資

譲渡企業が、自社の新しく発行する株式を特定の第三者(譲受企業)に交付するM&Aスキームのことを言います。業務提携における関係性の強化や資金調達方法の一つとして用いられるスキームで、M&Aを成長戦略として検討する譲渡企業で多く実施されています。

事業譲渡・資産買収

事業譲渡・資産買収とは、譲渡企業の経営権ではなく、事業や資産の一部または全部を売買するM&Aスキームのことを言います。

事業譲渡

譲渡企業が持つ事業の一部またはすべてを譲受企業が引継ぐスキームを言います。譲受企業は対価として現金を支払います。譲渡側または譲受側が引き継ぎたい資産や負債、各種契約など指定して譲渡することができますが、権利・義務は引き継がれない為、事業に必要な権利・義務の再取得が必要となります。

新設分割

譲渡企業の事業に付随する権利義務の全部または一部を新たに設立した会社に引継ぎ、その引き継いだ会社を譲渡するスキームです。事業に付随する権利義務を直接、譲受企業へ譲渡するか、一旦新しい会社へ引継いだ後に譲渡するかの違いで吸収分割とほぼ同じスキームとなります。

吸収分割

譲渡企業が持つ事業に付随する権利義務の一部またはすべてを譲受企業へ引き継ぐスキームを言います。譲受企業は、譲渡対価としては自社株式の交付や現金で支払います。事業譲渡と違い引継ぎ対象となる事業に付随する権利・義務の移転手続きが必要ないことが特徴です。

M&Aの形式

M&Aで会社を売却する方法には、「相対形式」と「入札(オークション)形式」があります。相対形式では、売手と買手が1対1で交渉を行い、双方の希望条件が満たされた場合に合意が成立します。合意に至らなければ、次の買手との交渉に移ります。一方、入札(オークション)形式では、複数の買手と同時に交渉し、最も条件が良い買手と合意に至ります。

相対形式

  • 売手と買手が1対1で交渉します。
  • 双方の希望条件が満たされた場合に合意に至ります。
  • 合意に至らなかった場合は、次の買手と交渉を行います。
  • 何社かと交渉を行った結果、希望条件で売却できない場合、売却を中止することも可能です。

入札(オークション)形式

  • 売手企業の情報を社名を伏せた状態で公開し、広く買手企業を募集します。
  • 候補先を2、3社に絞り、条件提示を受けた上で最終的な買手企業を選びます。
  • 財務が安定している、特別な技術がある、市場価値の高い会社の売却に向いています。
  • デューデリジェンスを複数社から受ける必要があります。
  • 原則として途中で売却を中止することはできません。
  • 複数企業に情報を公開するため、情報漏洩のリスクが高くなります。
  • 情報漏洩対策を万全にする必要があります。

あなたの会社の価格は?

非上場企業の場合、株式市場での取引価値(マーケット・バリュー)がないため、その価値を一概に提示することは困難です。企業の価値は、規模や特性、成長ステージ、企業を取り巻く環境、業種の人気度、株式市場の動向など、多くの要素を総合的に判断して算出します。M&Aの価値評価には絶対的な方法がなく、複数の評価方式の中から事案に適したものを選択して評価します。

代表的な評価方法は次の3つですが、実際の価値と大きく異なる金額にならないよう、複数の評価方法を組み合わせて計算することもあります。

  1. 時価純資産方式(年買法)
  2. 類似会社比較方式(マルチプル)
  3. ディスカウント・キャッシュフロー方式(DCF法)

時価純資産法(年買法)

中小企業のM&Aで頻繁に使用される評価方法として、時価純資産法(年買法)があります。これは、時価に換算した資産から負債を差し引いた金額に「のれん」を上乗せして計算する方法です。「のれん」とは、財務諸表に表れない顧客、取引先、技術、ノウハウ、人材などの目に見えない価値を指します。ただし、のれんが上乗せされるのは黒字企業に限られ、過去3年間の営業利益や税引後利益の平均値を基に、2年から5年分を目安として上乗せされます。

計算例:

  • 資産:5億円
  • 負債:2億円
  • 平均利益:1億円
  • のれん:3年分と仮定

株式価値:(5億円 – 2億円)+1億円× 3年分 = 6億円

類似会社比較法(マルチプル)

買手側がよく利用する評価方法の一つに、類似会社比較法(マルチプル)があります。これは、売手企業と事業内容や規模が類似する複数の上場企業を選び、その経営指標を比較して、倍率(マルチプル)を適用して株価を算出する方法です。一般的にはEBITDA(営業利益+償却費)が使用されますが、直近の実績、過去の平均値、事業計画の値など、どの数値を採用するかで評価が大きく変わります。

DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法

DCF法は、将来のキャッシュフローに基づいて会社の価値を評価する方法です。まず、将来の収益が見込める期間(3~5年)の事業計画を策定し、将来発生するフリーキャッシュフローを計算します。次に、それらのキャッシュフローを現在価値に修正するための割引率を決定し、現在価値を求めます。この事業価値に非事業用資産を加えた企業価値から、有利子負債や余剰現預金を引いて株式価値を算出します。

売り手のメリット・デメリット

M&Aの売り手側のメリットとデメリットを分けて紹介します。

メリット

主なメリットは以下のとおりです。

経営者保証を引き継いでもらえる

経営者が、事業承継を進めることを躊躇する理由の一つに経営者の保証があります。中小企業では経営者が債務の連帯保証人となっている場合が多く、後継者に債務保証を引き継ぐことができるのか、債務保証引継ぎ後、事業運営は大丈夫なのかなど心配ごとはつきません。また、後継者がいない中で会社を清算した場合、会社の状況によっては債務のみが残る可能性もあります。M&Aによる事業承継では、個人保証の免責を条件とすることが可能で、事業と合わせて経営者の保証債務の整理もできることも大きなメリットの一つです。

後継者問題を解決できる

後継者不在、後継者の経営力不安など様々な後継者問題があります。M&Aはこれらの後継者問題の解決策として最も合理的で有効な手段と言えます。親族内・自社社員などから後継者を探すも担い手がいない場合は、第三者への事業承継(M&A)により会社を引き継いでもらうことで解決します。また、後継者はいるものの経営能力に不安を感じる場合、後継者は事業に残しつつ経営支援を受ける為、M&Aにて経営権を譲渡することで後継者の負担を軽くすることも可能です。

売却益を得られる

M&Aは、業績不振に陥った企業が従業員の雇用や債務保証の免責を目的として実施されるケースもありますが、優良企業や成長企業など事業継続が今後も可能な企業がM&Aを実施するケースがほとんどです。業績のよい企業は企業価値が高い為、対象株主はM&Aにより多くの売却対価を得ることが可能です。

従業員の雇用を守れる

M&Aにより会社を存続させることができれば、従業員の雇用を守れます。地方においては、地域の雇用を守る意味でも重要な役割だと感じます。また、多くのM&Aが対象会社よりも資金力や経営能力のある相手先を選ばれる傾向にあり、雇用の安定や福利厚生の向上などが見込まれます。

デメリット

主なデメリットは以下のとおりです。

希望価格以下での売却になる可能性

譲渡側は高く売却したく、譲受側は安く買収したいという意識が働く為、必ずしも希望価額での売却で成約するとは限りません。譲受側は、決算書を元に資産の含み損益や未払い残業・税金の有無を検証し、最終的な売却価額が決定されます。希望価額での売却の為には、資金余力のある譲受会社をみつけることはもちろんのこと、複数社の候補先をみつけ競わせることも有効です。

従業員の雇用条件が変わる可能性

M&A後の従業員の処遇については法令違反や社会通念上相当のものを除き原則、譲渡前の水準が維持されることがほとんどです。よって雇用の安定化や処遇改善等のメリットがあります。しかしながら、譲渡側の社員と譲受側から派遣される人材との関係性や譲受側の譲渡後の関わり方により、譲渡側従業員との摩擦や古株人材の退職などを誘発することがありますので、M&A後も当面は前経営者が従業員と譲受側人材の橋渡し役になることが重要です。

取引先との関係性が悪くなる可能性

譲渡側の取引先は、現経営者が長年培ってきた信用のもとお付き合いされていることが多くM&Aによって経営者や担当者が変更になることを良く思わない取引先や、優良顧客が離れてしまうことも考えられます。取引企業との基本契約を確認の上、譲渡側と譲受側が一緒に説明に行くなど、M&A後の丁寧な引継ぎが大事だと言えます。

買い手のメリット・デメリット

M&Aの買い手側のメリットとデメリットを分けて紹介します。

メリット

主なメリットは以下のとおりです。

事業・売上規模・シェアの拡大

M&Aを行うことで、事業の成長を加速させることが可能です。例えば、新しい事業に参入する際、自社で一から立ち上げるよりも、M&Aで既存の企業を買収する方が低リスクで迅速に進められます。

人材や技術力の獲得

人材育成や販路拡大には多くの時間と労力がかかりますが、M&Aを通じて必要な人材や技術力、商圏を一度に獲得することができます。

デメリット

主なメリットは以下のとおりです。

統合フレームワークを策定する必要がある

M&Aで取得した企業や事業を効果的に活用するためには、既存の企業と統合する必要があります。この統合作業は、文化やビジネス慣習の違い、現場のマネジメントの統合、既存ブランドとの融合など、非常に多くの作業が伴います。そのため、経営体制、組織構造、制度、業務システム、財務の柔軟な統合フレームワークを策定することが求められます。

M&Aの流れ

一般的なM&A(会社売却)のプロセスは以下のようなものです。

M&Aのプロセス

以下では、これらM&Aの手順を大きく3つのフェーズに分けて説明しますす。

  • 準備
  • 交渉
  • 最終契約

準備

準備の段階は、2つのフェーズに分けることができます。

M&Aの検討

M&Aは企業の命運を左右する重要な経営判断です。そのため、まず正確な情報を適切な方法で集めることが不可欠です。M&Aを経験した経営者の話を聞くのも有効な手段ですが、慎重になりすぎて適切なタイミングを逃さないようにするバランスが重要です。

M&Aの準備

準備段階では以下の作業があります。

  • 企業概要書(IM)の作成
  • 資料の収集
  • 株式価値算定

特に株式価値算定は重要で、詳しくは下の章で説明します。

交渉

交渉の段階は、以下の5つのフェーズに分けることができます。

お相手候補先への打診

M&Aの対象となる候補を見つけるためには、専門家に依頼して候補リスト(いわゆるロングリスト・ショートリスト)を作成します。候補先を絞り込む際、売り手が開示する「ノンネームシート」を利用し、財務状況や事業内容の概要を匿名状態で提供します。買い手はこれを基に検討を進めます。

企業概要書(IM)の提示

買い手がノンネームシートを見て興味を持った場合、秘密保持契約を結び、IM(Information Memorandum)とも呼ばれる企業概要書を提示します。IMには会社名、事業内容、財務情報などが記載されており、買い手はこれを基に更に詳細な検討を行います。

トップ面談

売り手と買い手のトップ同士が面談することで、M&Aの方向性や将来性、運営方法について話し合います。この面談を通じて信頼関係を構築することが重要です。

意向表明・基本合意

譲渡価格や譲渡時期その他の主要な条件だけを、取り決めます。これらには法的拘束力が無いこととするのが一般的ですが、事実上、その後に新たな事実が判明する等しない限りは、安易に反故にできない位置付けのものになります。

デューデリジェンスの実施

基本合意後、デューデリジェンス(DD)を実施します。DDは売り手の状況を詳細に調査するもので、財務や法務など様々な側面から行われます。問題が見つかれば破談の可能性もあります。

最終条件交渉

DDが無事終了したら、最終条件交渉に入ります。経営者や従業員の処遇、契約までのスケジュール調整などを行います。また、契約成立までの秘密事項も定められます。

最終契約・実行

M&Aの最終段階は、以下の2つのフェーズに分けることができます。

最終契約の締結

これまでの過程をクリアしたら、最終契約書を締結します。契約内容には株式譲渡の合意、譲渡価額、対価の支払い方法、表明保証、誓約事項、付帯合意、損害賠償、一般条項が含まれます。クロージング条件を満たさないと決済は行われず、最悪の場合M&Aが白紙に戻ることもあります。

取引の実行

M&Aを成立させるための売り手と買い手の双方の義務がすべて履行された状況、いわゆるクロージング条件が充足された状況において、M&Aが実行されます(クロージングします)。例えば株式譲渡であれば、株券等の引き渡しと、譲渡対価の受取(決済)が生じます。

M&A後の手続(主に買い手側)

M&Aの実行後に必要となる、主として買い手側のイベントは以下のようなものです。

開示

最終契約が締結されたら、従業員や取引先など関係者への情報開示(ディスクロージャー)を行います。タイミングや伝え方に注意し、発表前の情報漏洩を防ぎます。主な対象は以下の通りです。

  • 売り手の役員・従業員
  • 売り手の取引先・関係者
  • 売り手の金融機関
  • 証券取引所・プレス(上場企業の場合)

経営統合(PMI)

M&A取引が完了すると、PMI(Post Merger Integration)プロセスに移行します。PMIは、経営戦略やビジョンの浸透、従業員のモチベーション維持や向上などを目的に実施され、良いスタートを切るために重要なプロセスです。

M&Aにかかる費用

M&Aをやり遂げるには、様々な費用が生じます。金額に大きな費用は、M&A仲介会社への手数料と、税金費用です。

仲介手数料・報酬

M&Aは条件交渉の範囲が広いことや専門的な知識が必要となることから、M&A仲介会社の存在が中小企業のM&Aでは非常に重要です。仲介会社への費用は、各社によって様々で着手金・中間金・成功報酬などフローが進むごとに費用が発生する会社やM&Aが成約したときのみ発生する完全成功報酬の会社がありますので、M&A仲介会社を選定する際は、費用体系の確認をすることも選定基準の一つと言えるでしょう。詳細は以下の「M&A仲介会社を選ぶ際の3つのポイント」で紹介しています。

税金

M&Aにおいては、多くの場合、投資金額が大きくなるため、税金の負担が重要な関心事となります。税金は、売り手・買い手の双方に直接影響を及ぼし、M&Aのコストやその効率、最終的な成果にも関わってきます。ここでは、M&Aに関連する税金の基礎知識について詳しく解説します。

株式譲渡にかかる税金

株式譲渡とは、会社の所有権が移転するプロセスです。

売り手側

売り手は株式を売却して得た利益(譲渡益)に対して税金を支払う必要があります。個人が株式を譲渡する場合、所得税として20.315%(内訳は所得税15.315%と住民税5%)が課税されます。法人が株式を譲渡する場合、その利益は法人税の対象となり、法人の所得として計算されます。また、2037年までは株式の取引に対して復興特別所得税が課せられます。

買い手側

株式譲渡の場合、買い手には税金が課されることはありません。

事業譲渡にかかる税金

事業譲渡は、会社が事業の一部または全部を別の会社に譲渡する方法です。事業譲渡では、株式譲渡とは異なり、売り手だけでなく買い手にも税金の負担が生じます。

売り手側の税金

売り手は、譲渡した事業から得られる利益に対して所得税や法人税を支払う必要があります。利益の計算は、事業の譲渡価格とその事業の帳簿上の価値(簿価)との差額で決まります。事業を高い価格で売却できれば、その分税負担も増えるため、事前の適切な価値評価とタックスプランニングが重要です。

買い手側の税金

事業譲渡における買い手には、消費税や不動産取得税、登録免許税など、さまざまな税金が課せられます。事業譲渡は、事業の一部または全部を譲渡する取引であるため、通常の商取引と同様に消費税の負担が発生します。また、事業譲渡の対象資産に不動産が含まれる場合、不動産取得税や登録免許税の負担も発生します。

M&Aの成功ポイント

失敗しないM&Aのために、以下の点に留意頂きたいと思います。

M&Aの目的を明確にする

M&Aを検討する場合、目的を明確にしておくことが重要です。この目的が明確であれば、どのような譲受企業を選ぶべきか、条件交渉で譲れない条件は何かなどの基準ができます。また、交渉が難航した際は、本当にM&Aをするべきなのかと迷いが出ることも珍しくありません。M&A実行の為の正しい判断とスムーズな意思決定は、M&Aの目的が明確であることが重要です。

M&A後の影響を考慮しておく

M&Aは、譲渡企業に携わる様々な方に大きな影響を与えます。従業員は、自分たちの雇用や処遇はどうなるのかなど不安を抱えることになりますので、M&Aに至った経緯や今後の運営方針など、丁寧な説明が必要になります。また、取引先についてもM&A後も変わらぬ取引を継続頂く為、経緯の説明はもちろん取引先に迷惑をかけないよう、スムーズな業務の引継ぎが必要となります。M&A後の影響を予測し譲渡側・譲受側一体となって対応していくことが重要となります。

M&Aに詳しい人材を確保する

中小企業では、M&Aに精通した人材や専門部署を抱える企業はほとんどありません。顧問税理士などに相談することも可能ですが、M&Aの専門家ではないので知識や経験は限定的な可能性があります。広範囲な知識と交渉が必要なM&Aには、アドバイザリー会社などM&Aに詳しい専門家を確保することが重要です。

M&Aおすすめの支援機関

M&Aに詳しい専門家は、一般的には以下のような支援機関になります。

事業承継・引継ぎ支援センター

後継者不在や未定の中小企業に対して、専門家が事業承継・引継ぎに係る課題解決に向けた助言、情報提供及びマッチング支援を行う公的サービスです。公的サービスの為、全国の47都道府県に設置されており信用力はあるものの、民間と比べて実績数がまだ少ないことや競争がない為、スピード感は遅いなどを感じことがあるかも知れません。

金融機関

メガバンク、地銀、信金、日本政策金融公庫など最近は各金融機関でもM&Aに力を入れています。取引金融機関ですと自社のことをよく理解してくれているというメリットはありますが、行内マッチング(取引先同志のマッチング)が優先される為、相手候補先の選定が限定的になる可能性があります。

商工団体

「商工会議所」「商工会」「中小企業団体」など地域に根差した団体で、中小企業の経営者の方には身近な存在かも知れません。事業承継の相談はもちろん経営相談なども行っており、補助金などの公的制度のアドバイスも受けることができます。M&Aにおいては、実績数の少なさから相手候補先の選定やマッチング力に少しもの足りなさを感じるかも知れません。

税理士・公認会計士

中小企業の経営者が相談窓口として、一番近い存在であるのが顧問税理士です。税務や会計の視点で検討し税務メリットを検討してもらえる点でも、経営者の強い味方です。独自のネットワーク構築やM&A専門子会社を作りサービスを提供している会社などM&A支援サービスが充実している会社もあります。

なお、弁護士は、法律の専門家であることから、M&Aのお話がある程度進行し、M&A前の組織再編や株主間の紛争などの具体的な法律課題が生じたタイミングでは相談することをお勧めします。

M&A(仲介)会社

M&Aのアドバイザーとして、仲介業務やFA(ファイナンシャルアドバイザイー)業務を遂行するM&Aの専門家です。M&Aの専門知識を持たない中小企業にとっては、なくてはならない存在です。M&Aの条件交渉の上で、幅広い知識と経験を活かしM&A成約へ導いてくれます。

M&Aプラットフォーム

インターネット上のシステムを使い、譲渡側と譲受側のマッチングを行うプラットフォームサービスです。M&Aの当事者(譲渡側オーナーと譲受側企業)が、直接情報を記載し相手先とマッチングするケースや、アドバイザリー会社に依頼しプラットフォームを活用するケースがあります。プラットフォームを通じて候補先と出会えるチャンスは増えることやマッチングのスピード短縮などのメリットはありますが、M&A交渉は独自でやることになるので、プラットフォームの活用にはアドバイザリー会社を通して活用することをお勧めします。

適切なM&A仲介会社に相談する

上記で様々なM&A支援機関があることを紹介しましたが、実際にはM&A仲介会社がサポートすることが多いです。何といっても、適切なお相手探しに長けているのは、一般に仲介機能に強みを有する仲介会社になります。

M&A仲介会社は、営業色の強い会社が殆どですが、中には会計事務所から派生した会社や、コンサルティングに強みを発揮する会社もあります。会社売却という極めて大事なテーマを扱いますので、自身に合ったM&A仲介会社を選んで頂きたいと希望します。

過去の実績を確認

M&Aにおける経験値は交渉時の武器となる為、経験豊富なM&A会社を選ぶことが大事です。業界によって、事業運営特性が異なることから、優良な相手先とのマッチングや対象会社の強みを理解し相手方へ交渉することが必要なM&Aは、過去の実績から支援機関の経験値を図ることをお勧めします。

M&Aに関する専門家の存在を確認

法務・税務・財務・不動産・ビジネスなどM&Aを実行する為には、幅広い知識が必要です。検討や交渉をコーディネートする専門家(M&A仲介やFAなど)と各専門分野の専門家(弁護士・税理士・公認会計士など)で相談できる先を見つけておくことも重要と考えます。

費用感を比較する

M&Aの支援機関の費用体系は、M&A仲介会社によって様々です。着手金が無料、月額報酬も無料、成功報酬のみといった場合もあり、M&A会社によって報酬体系に違いがあるので、よく確認すると良いでしょう。

M&A仲介会社に支払う報酬イメージ
着手金・業務委託契約時
・金額目安:50~300万円
中間金・意向表明時または基本合意時
・金額目安:下記成功報酬の10%(M&A不成立でも返金なし)
成功報酬・M&A成立時
・金額目安:売買金額の1~5%(レーマン方式)
・最低報酬の金額目安:500~2,500万円
リテイナーフィー
(月額報酬)
・業務委託契約時~M&A成立まで毎月
・リテイナーフィーの目安:月額10~100万円

書籍等でM&Aを知る

M&Aに関する書籍は多くありますが、例えば以下のような書籍があります。

M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本

中小企業オーナーが事業承継の選択肢としてM&Aを選択した事例を集めた一冊。後継者候補を誰にするか、株主・取引先・親族など関係者が、多くのことを決断しなければならない事業承継をM&Aにて実施した中小企業オーナーの事例をまとめております。

事業承継のツボとコツがゼッタイにわかる本

中小企業オーナーの多くは、事業承継も時がくれば進めれば良いと思いギリギリまで準備をしません。いざ、事業承継のタイミングになり事業承継を進めると税務や法務の課題で進まないケースも少なくありません。そんな中小企業オーナーの悩みに税理士・会計士・弁護士などの専門家の視点で解説しています。

ストーリーでわかる初めてのM&A 会社、法務、財務はどう動くか

ストーリー形式でM&Aの過程を追えるので誰にとっても読みやすい形式になっており、法務のみならず、財務、税務、ビジネスの各パートについても満遍なく過程を追えるので各専門分野の視点からのM&Aを追体験ができる一冊です。

M&Aの成功事例

M&Aの事例も多々ありますが、ここでは幾つかの実例を紹介します。

感染症の影響で閉店した豆腐店の承継により事業多角化に挑んだ中小企業

  • 譲渡側:深山豆腐店
  • 業種:石豆腐の製造・販売   
  • 譲受側:株式会社ヒダカラ
  • 業種:ご当地食材のECサイト運営

深山豆腐店は、伝統食材「石豆腐」を製造・販売する豆腐店で、新型コロナウイルスの影響による売上減少・また店主の高齢化も手伝い廃業することになる。そんな中、店主よりヒダカラへ事業を引き取ってもらえないかと冗談交じりでお話があり、伝統食材を絶やす訳にはいかないとの思いで事業承継を決意。クラウドファンディングで設備費用を集め、テイクアウトやイートインに対応する店舗へリニューアルし事業を展開している。伝統を守りながら事業の多角化に挑戦している。

長年愛される地元の味を守り続けている中小企業

  • 譲渡側:夜来香(イエライシャン)
  • 業種:餃子屋
  • 譲受側:株式会社上町家守舎
  • 業種:不動産活用事業

岩手県花巻で1955年から続く老舗の餃子屋「夜来香(イエライシャン)」の店主が、自身の年齢が75歳を迎え事業承継を検討していた。地元の良いものを残していきたいと考えていた上町家守舎社長は、店主へ事業承継(M&A)を打診。他の候補先があったものの、事業への取り組み姿勢や味を守りぬくという固い決意を感じ同社への事業承継(M&A)を決意。事業承継後は、テイクアウトの対応の為、製造体制の強化・譲受側の飲食店事業とのコラボなどで売上を2.5倍に伸ばしている。

M&Aにより地元企業同士のグループ会社化により事業拡大を図る中小企業

  • 譲渡側:株式会社PAL構造
  • 業種:各種構造物の設計
  • 譲受側:不動技研工業株式会社
  • 業種:火力発電プラントのボイラーやタービン、舶用機械の設計

長崎県長崎市の不動技研工業は、2018年に過去最高益を計上したが、脱炭素を目指す世界的潮流や主力事業である火力発電事業の先細りが懸念され、新規顧客の開拓や新規事業への進出などの検討をしていた。同じく長崎県のPAL構造も好業績を維持しながらも後継者不在による、事業承継課題を抱えており、不動技研工業へM&Aの声掛けを行い交渉が開始された。PA構造の経営陣や従業員の継続雇用、当面は事業内容の変更をしないことなどを条件にM&Aが成立。共に大手重工・エンジニアリングメーカーを顧客とするが、得意分野のすみ分けがでていること、今までは専門外として取れなかった仕事も両社の機能を活用し受注に至るなどグループシナジーが見込まれている。

M&Aによる成長戦略で首都圏進出を加速させた中小企業

  • 譲渡側:株式会社キョウワ
  • 業種:印刷業
  • 譲受側:株式会社タカハシ包装センター
  • 業種:包装資材卸

島根県浜田市のタカハシ包装センターは、食品加工業者や食品スーパーへ包装資材の卸業と営んでいたが、人口減少による地域市場の縮小もあり、首都圏市場への進出を検討。本格的に進出を試みたが、地元志向の従業員が多く、首都圏への人材配置が難しかった。そこでM&Aを活用し首都圏での経営資源を獲得すべく動き出した。そんな中、食品業界に顧客を持つキョウワと出会い、M&Aの交渉を始めた。異業種であるものの商圏・顧客業界などは条件を満たしており、若さと真面目さを感じる社風に感銘受けM&Aが成立。キョウワの経営資源を活用し首都圏市場への足掛かりとなり、手ごたえを感じている。

業績不振の同業他社からの事業・従業員の引き継ぎにより事業多角化を実現した中小企業

  • 譲渡企業:日測エンジニアリング株式会社
  • 業種:温度試験に必要な装置(特殊チャンバー)などの製造や受託試験
  • 譲受企業:エミック株式会社
  • 業種:複合環境試験装置の製造・販売

日測は、埼玉県中小企業再生支援協議会が策定支援した再生計画に基づき、事業譲渡先を公募。かつての発注元であったエミックは、協力会社の手助けになるのであればとの思いと、注力していた受託試験事業に強みを持つ企業であったことあり、入札に参加し落札。受託試験事業と特殊チャンバーの製造販売事業をエミックが譲受した。エミックの受託試験事業の利益は2倍に拡大、景気に左右されにくい特殊チャンバーがサービスラインに加わったことにより経営の安定化にもつながった。また、文化の違う従業員同士が交わることにより切磋琢磨が生まれ、M&Aによる人材育成の効果も感じている。

参考:2021年版 中小企業白書(M&Aを通じた経営資源の有効活用)|中小企業庁

参考:2022年版 中小企業白書(経営資源の有効活用)|中小企業庁

中小企業のM&Aとは(まとめ)

中小企業がM&Aを検討する場合、社内に専門部署や専門人材を置くことが難しいことマッチング力やネットワークなどのリソースが足りないことを考えると、M&Aの専門家である支援機関の活用は必須だと考えます。幅広い専門知識とネットワークで最適な相手先とのマッチングがM&Aが成功の近道です。

みつきコンサルティングは税理士法人グループという強みを生かし、税務・会計の視点から譲渡企業オーナーの利益を最大化するスキーム検討も可能です。また、M&A専門会社としての経験と知識、ネットワーク力を持ち合わせおりますので、最適なお相手先とのマッチングを実現しますので、M&Aをご検討の際には、是非一度ご相談ください。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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