M&Aのクロージングとは|当日の流れと必要書類・前提条件を解説

M&Aのクロージングは、最終契約のあとに譲渡対価の決済と株式や事業の引き渡しを同時に実行する最終手続です。前提条件の充足や書類の準備でつまずくと、成約目前でも取引が止まりかねません。中小企業の会社売却を検討するオーナーに向けて、期間の目安からスキーム別の実務、当社が現場で押さえる注意点まで整理します。

「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。

M&Aのクロージングとは

M&Aのクロージングとは、最終契約(株式譲渡契約など)にもとづき、株式や事業の譲渡を実際に「実行」「決済」する手続をいいます。ここを通過して、はじめてM&Aは完結します。

M&Aのクロージングにおける譲渡オーナーと譲受企業の決済の流れ(現金と自社株等の引き渡し)の図解

具体的には、譲受企業から譲渡オーナーへ譲渡代金が支払われ、それと引き換えに株式や事業が引き渡されます。M&Aの一連の工程を締めくくる、いわば最後の関門です。

契約調印とクロージングは別物

意外と混同されるのが、契約の締結(サイニング)と実行(クロージング)の区別です。

サイニングはあくまで「約束」の段階にすぎません。取引金額や実行日、満たすべき条件を確定させるのが最終契約書の記載項目で、その約束を実際に果たすのがクロージングという整理になります。細かな条件を先に文書化しておくタームシートの役割も、この段取りを支えています。

クロージングが重要な理由

最終契約まで終えているのだから、あとは形式的に終わるはず。そう考えるオーナーは少なくありません。実際は違います。

書類に一つでも漏れがあれば、譲渡の有効性を証明できず、取引は完結しません。「M&Aはクロージングするまで何が起こるか分からない」と言われるのは、このためです。真摯に交渉を重ねてきても、条件が整わなければ延期や中止(ブレイク)となり、双方に大きな損失が残ります。

クロージングまでの期間の目安

準備の着手からクロージングまでの全体像は、M&A全体の流れのなかで把握しておくと迷いません。

着手からクロージングまでは、短くて数か月、長ければ1年以上に及びます。最終契約からクロージングまでに限れば、前提条件がなければ同日実行も可能で、中小企業のM&Aではよく見られる形です。前提条件がある場合は、その充足に必要な期間として1か月から数か月ほど空くのが一般的といえます。売却全体の時間軸は売却スケジュールの記事もあわせて確認してください。

契約締結からクロージングまでの実務フロー

最終契約からクロージング当日までは、いくつかの段階を踏みます。下表に、この期間に何が起きるかを整理しました。

ステップ主な内容
最終契約(サイニング)譲渡価格・クロージング日・前提条件(CP)を確定させる
前提条件の充足許認可の承継や主要取引先の同意など、契約で定めた条件を期日までに満たす
プレクロージング数日前に必要書類の不備がないか最終確認する
クロージング(決済実行)譲渡対価の送金・着金確認と、重要書類・物品の引き渡しを同時に行う
ポストクロージング役員変更登記や対外発表を行い、経営統合へ移行する

この段階の前提として、譲受企業はデューデリジェンスで把握したリスクを最終契約に反映しています。だからこそ、契約と実行のあいだの一つひとつが、後戻りのきかない工程になります。

クロージング条件(前提条件)とは

M&Aでは、最終契約書に「クロージング条件」を書き込み、譲渡オーナーと譲受企業の双方が条件を履行してはじめて決済が実行されます。

クロージング条件の意味

クロージング条件(前提条件・CP)とは、最終契約の締結後、実際に株式や対価を引き渡すために満たされるべき条件のことです。

たとえば重要な取引先との取引継続の合意、主要な従業員の雇用維持、特定の許認可の取得などが挙げられます。これらがすべて満たされて、譲受企業に代金を支払う義務が、譲渡オーナーに株式を引き渡す義務が生じます。条件の具体的な組み立て方は前提条件の一覧で詳しく確認できます。

代表的なクロージング条件

中小企業のM&Aで実際に問題になりやすい条件を、いくつか具体的に見ていきます。

表明保証とMAC条項

契約時に開示した決算書や法務の情報が、実行日時点でも真実であること。これを担保するのが表明保証の条項例です。

あわせて、契約から実行までの間に業績の急激な悪化や重大な悪影響が生じていないことを条件とするのがMAC条項です。想定外の事態から譲受企業を守る仕組みといえます。

キーマン条項とCOC条項

技術や取引ネットワークが特定の人に依存している会社では、その人物の残留がM&A後の事業継続を左右します。これを条件化したものがキーマン条項で、3年から5年で定められることが多いです。

また、支配権の変更で取引先が契約を解除できるCOC条項が主要取引先との契約に潜んでいると、思わぬ障害になります。事前の同意取得が欠かせません。

許認可と個人保証の解除

事業継続に必要な認可の承継や再取得が済んでいることも、実行の前提になります。業種によっては許認可の承継が思いのほか時間を要します。

当社が関わる中小案件で目立つのが、経営者の個人保証の扱いです。保証は自動では外れません。金融機関との個別交渉が必要になるため、経営者保証の解除合意を前提条件に組み込んでおくと安心です。中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版、中小企業庁)でも、経営者保証の取扱いが整理されています。

競業避止義務の設定

譲渡後に前オーナーが同種の事業を始めれば、譲受企業が引き継いだ価値は損なわれます。これを防ぐ競業避止義務の範囲も、最終契約とクロージングの前後で確認しておきたい論点です。

条件が満たされないとどうなるか

前提条件が履行されない場合、早急に条件を満たすか、契約で定めた期限までクロージングが延期されます。

最悪の場合、ここまで積み上げた交渉ごとブレイクになることもあります。条件が満たされなければ、当事者は取引を中止する権利を持つ。裏を返せば、条件設計こそが取引の確実性を高める要になります。

クロージング当日の流れと必要書類

クロージングは、M&Aの締めくくりとなる大切なセレモニーです。前準備から当日の進行、そして書類まで、順を追って見ていきます。

M&Aのクロージング当日における進行手順(書類の最終確認、決済・重要書類の引渡し、関係構築のための会食)のスケジュール図解

プレクロージングでの最終確認

プレクロージングとは、クロージングの準備そのものを指します。条件の充足に見通しが立った時点で行います。

ここで役立つのが、確認事項をリスト化したチェックリストです。譲渡オーナーと譲受企業が同じ表を見ながら、書類・手続・担当者を一つずつ潰していく。地味な作業ですが、当日の混乱を防ぐ最大の保険になります。

現場で使うクロージング直前チェック

当社が実務で確かめる要点を、絞って挙げておきます。

確認項目着眼点
前提条件の充足許認可・取引先同意・個人保証解除など、未充足がないか
書類の完備契約書で定めた必要書類がすべて揃っているか
資金の準備指定口座への着金がその場で確認できる段取りか
引き渡し物品通帳・銀行印・各種パスワードなど重要物品の受け渡し準備

クロージングの場所と参加者

譲渡金額が大きい案件では、譲受企業のメインバンクや、譲渡側の取引銀行の応接室が選ばれます。資金移動や書類確認をその場で完結できるためです。

M&A仲介会社の会議室やホテルが使われることも珍しくありません。参加者は、譲渡オーナーと譲受企業の代表者や幹部、担当アドバイザー、場合によっては銀行担当者。それぞれが専門の立場から手続の適正を確かめます。

当日の進行手順

「クロージング日」とは、前提条件がすべて充足され、決済が実行される日を指します。

当日はまず、双方が必要書類を持ち寄って最終確認を行います。続いて譲受企業から譲渡オーナーの指定口座へ代金が振り込まれ、着金が確認できた時点で重要書類が交付され、クロージングは完了です。その後、今後の関係づくりを兼ねて会食の場が設けられることもあります。

譲渡側が用意する書類・物品

準備書類はM&A手法で変わります。ここでは株式譲渡の仕組みを例に、譲渡オーナー側の主なものを挙げます。

書類・物品役割
株式譲渡承認請求書の写し株主が対象会社へ第三者への譲渡承認を求める書面
承認決議の議事録・承認通知書会社として譲渡を承認したことを記録し、株主へ通知する書面
株主名簿記載事項書換請求書譲渡後の名簿書換を対象会社へ依頼する書面
株主名簿クロージング後の現株主を記した名簿
印鑑証明書・委任状個人と会社の実印の証明、複数株主がいる場合の委任

株券発行会社なら株券そのものを、株券不発行会社なら名義書換請求書に代表者が署名・捺印したものを持参します。個人と会社の実印、印鑑証明書も通常求められます。

譲受企業が用意する書類

譲受企業側は、受領書と資金関係の書類を中心にそろえます。

具体的には、クロージング書類の受領書、実印・銀行印・通帳などを受け取る重要物品受領書、印鑑証明書や登記事項証明書、そして譲受資金の振込に必要な書類です。LBOの仕組みのように資金を借り入れるケースでは、借入関連の書類も加わります。

M&Aスキーム別のクロージング

クロージングの中身は、選んだ譲渡スキームで変わります。代表的な3つを見ていきます。

株式譲渡のクロージング

株式譲渡は、対象会社の株式を譲受企業が取得する、最も多く使われる手法です。手続は対象会社の状態で異なります。

上場会社なら証券保管振替機構のシステムを通じて株主名が変更され、実物の株券は動きません。非上場の株券発行会社は株券を交付し、速やかに株主名簿を書き換えます。株券不発行会社は、株券に代わる書換請求書などの重要書類を交付する流れです。

事業譲渡のクロージング

事業譲渡の手続は、譲渡する資産や負債を選べる一方で、移転手続が個別になる点が特徴です。

不動産の所有権移転登記、知的財産権の名義変更、従業員の雇用契約の引き継ぎなど、手続が多岐にわたります。すべての事業を譲渡する場合や、事業の帳簿価額が総資産の5分の1を超える場合などは、株主総会の特別決議も必要です。準備が複雑になりがちで、時間の見積もりが甘いと当日に間に合いません。

合併・会社分割のクロージング

事業会社と不動産管理会社を分けて事業会社だけを売るような、組織再編を伴うM&Aで使われるのが会社分割の手続です。

合併や会社分割のクロージングには、株主総会の特別決議に加え、債権者保護手続が必要になります。官報公告や個別の債権者への通知など、法定の手続に一定の期間を要するため、スケジュール管理が肝になります。実務では合併は稀で、事業の一部を切り出す会社分割が選ばれやすいところです。

M&A検討からクロージングまでの流れ

最後に、最初の検討からクロージングまでを俯瞰しておきます。大きく3段階に分けて、下表に譲渡オーナーと譲受企業それぞれの動きを整理しました。

段階譲渡オーナーの主な対応譲受企業の主な対応ポイント
検討・準備目標・条件の設定、譲渡価格の試算、アドバイザー選定戦略・予算の検討、シナジーの計画目標と条件の明確化が成否を分ける
マッチング・交渉ノンネームでの情報提供、秘密保持契約後に情報開示、基本合意候補選定、詳細情報の入手、基本合意基本合意は法的拘束力が限定的でも意思確認として重要
最終契約・実行調査対応、最終条件交渉、契約締結、クロージング準備・実行デューデリジェンス、条件交渉、契約締結、資金準備調査結果が最終条件に反映され、準備の精度が当日を左右する

交渉段階の詳細は基本合意書の内容もあわせて押さえると、全体像がつかみやすくなります。

クロージング後の対応と注意点

決済が終わっても、M&Aはまだ終わりではありません。クロージング後にやるべきことと、起きやすいトラブルを見ておきます。

ポストクロージングで行うこと

ポストクロージングとは、実行後に義務づけられた手続を指します。

株式譲渡なら株主総会・取締役会での役員変更決議、クロージング時点の決算書作成などが含まれます。将来収益に応じた追加対価を定めるアーンアウト条項の検証や、代金の一部を第三者に預けるエスクローの仕組みを使う場合は、継続的な対応も要ります。関係者へのM&Aの挨拶状の送付も、この段階の仕事です。

クロージング後の経営統合(PMI)

実行後の統合作業をM&A後の経営統合(PMI)と呼びます。

譲受企業がM&Aで狙うシナジーは、統合がうまくいってはじめて実現します。組織・人事・業務・ITと領域が広く、クロージング前から計画を進めておくのが定石です。丁寧さを欠くと従業員の退職や事業への悪影響を招きます。とりわけ難しいのが企業文化の統合で、移行期にはTSAの活用で業務継続を図ることも有効です。

クロージング後に起きやすいトラブル

クロージング後のトラブルは「ビジネス」「財務・会計」「税務」「法務」の各面から生じます。聞いていた事業実態との相違、簿外債務の発覚、契約解釈の齟齬などです。

これを防ぐ鍵が、調査の徹底と契約内容の精査、そして一定期間残る表明保証違反の補償条項の確認です。近年は中小規模の案件でも表明保証保険を使い、双方のリスクを抑える動きが広がっています。

円滑なクロージングのための準備

譲渡オーナーに求められるのは、調査への協力と、書類の早期準備、関係者との調整を前倒しで終えておくことです。

当社の支援現場でも、決済日をずらす原因の多くは「あと一歩の未充足」に集約されます。主要取引先の同意、許認可の承継、個人保証の解除。この3点を早い段階から潰しておくだけで、当日の景色は大きく変わります。専門家の伴走を受けながら準備を進めることが、円滑なクロージングへの近道です。

M&Aのクロージングに関するFAQ

クロージングをめぐって、売り手のオーナーから寄せられることの多い質問をまとめました。

Q:最終契約とクロージングは同じ日にできますか?

前提条件がなければ同日も可能で、中小企業のM&Aではよくある形です。許認可の再取得や取引先の同意取得などが残る場合は、その充足に必要な期間だけ日を空けます。契約と決済の段取りを、事前に詰めておくのが実務です。

 Q:クロージング当日、売り手は何を持っていけばよいですか?

株式譲渡なら、株主名簿記載事項の書換請求書、承認決議の議事録、株主名簿、代表者と会社の印鑑証明書が基本です。株券発行会社は株券そのもの、通帳・銀行印・各種パスワードなどの重要物品も引き渡します。前日までにチェックリストで揃えます。

 Q:クロージング直前に取引が白紙になることはありますか?  

あります。前提条件が満たされない、重大な悪影響が生じた、主要取引先の同意が取れない、といった場合です。現場ではまずどの条件が未充足かを洗い出し、期限内に解消するか決済日をずらすかを判断します。金融機関の条件次第となる場面も少なくありません。

Q:個人保証はクロージングで外れますか?

自動では外れません。金融機関との個別交渉が必要で、保証解除の合意を前提条件に組み込むのが安全です。譲受企業の信用力や借り換えの条件で結論が変わります。契約条項と金融機関の対応次第で、決済前に外れる場合も、一定期間残る場合もあります。

M&Aのクロージングのまとめ

M&Aのクロージングは、最終契約にもとづき譲渡対価の決済と株式や事業の引き渡しを同時に実行する最終手続です。前提条件の充足や書類の準備でつまずくと、成約目前でも取引が止まりかねません。ここまで積み上げた交渉を実らせる最後の関門として、段取りを一つずつ確かめておきたいところです。

当社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却を数多く支援してきました。前提条件の設計から当日の段取りまで、初回相談から成約後まで一貫して伴走します。会社売却をご検討なら、まずは当社へご相談ください。

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著者

潟野 和徳
潟野 和徳名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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