事業承継においてM&Aを決意した背景とは?多い相談事例も紹介

本コラムでは、M&Aによる会社譲渡を決意した理由や状況などについて紹介していきます。譲渡を決意した理由は様々ですが、事業承継の参考の一つにしていただければと思います。ぜひお読みください。

年によって多少の幅があるものの、ここ20年で見ていくと確実にM&Aの件数が増えて いるのが分かります。

M&A件数の推移(2000年~2020年)

出展:中小企業庁2021年版「中小企業白書」第2節M&Aを通じた経営資源の有効活用より

この件数のうち、どのような背景や要因があってM&Aを決心したのでしょうか。その詳細を解説し、実際の事例と併せて紹介していきます。

1.M&Aを選択した理由一覧

①後継者不在の解消のため
②自身の健康問題に対応するため
③親族の介護のため
④早期引退を希望としているため
⑤遠方へ移住するため
⑥自社を発展させるため
⑦不採算事業の切り離しのため

①後継者不在の解消のため

第三者承継としてM&Aを選択する多くの理由は後継者不在の問題を解決するためです。経営者が引退をしたくても親族や社内に後継者がいない、または適格人材に育ってない場合も多く、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aにより会社・事業の経営権を譲り渡すケースは多く見られます。ご子息ご令嬢がいらっしゃっても、社外で活躍され後継者不在となったケースも増えております。

②自身の健康問題に対応するため

社長自身の年齢や健康を理由にM&A・会社売却・事業譲渡などを決断することも少なくありません。年齢を重ねると自然と体調を崩すことや思うように体を動かせなくなってきます。そのようなどうしようもない問題を放置しておくと経営の維持が難しくなるため、M&A・会社売却・事業譲渡を選択する経営者も多いです。このような経営難以外の理由で、会社の業績が保たれているならば、譲受先企業も見つかりやすくなります。

③親族の介護のため

経営者自身の健康が良好でも、親族の介護を理由に第三者への承継としてM&A・会社売却・事業譲渡を選択する経営者も多いです。実家の母の介護をしなければいけない、家族に寄り添いたいという思いから決断されるようです。

④早期引退(アーリーリタイア)を希望としているため

「疲れてしまった」「事業に飽きてしまった」などやる気やモチベーションの低下が要因の経営者も少なくありません。そのような理由で40・50代の比較的早い段階で会社売却を実施して経営から退くケースもあります。 また、アーリーリタイア生活で第二の人生を楽しむために、会社売却などを行うケースもあります。

⑤遠方へ移住するため

経営者の国内、国外への移住を理由とするケースがあります。海外への移住を計画する際、日本国内にある会社経営のすべてを把握することは困難であるため、そのような理由からM&A・会社売却・事業譲渡を実行されるケースもあります。

⑥自社を発展させるため

自社をさらに発展させるために、M&Aで会社売却や事業譲渡を行うケースも多いです。例えば、大手の傘下に入れば、豊富な資金力や、より幅広い販路を生かした事業を展開できます。中小企業には、技術力があっても十分な資金力がないことが多いですが大手の傘下に入ることでその技術を発揮できる環境が十分に整うでしょう。会社売却により自社の弱点補完を目指すことは、相乗効果(シナジー)を生み出す経営戦略と言えます。

⑦不採算事業の切り離しのため

中小企業では資金力に欠ける場合が多く、複数の事業を走らせていれば、時にそのうちの一つが不採算事業となる可能性もあります。不採算事業の譲渡を行うことで、今後の成長が見込める事業に集中させられ、経営の安定を図ることが可能です。

2.事業承継の相談事例の紹介

ここからは実際に当社に寄せられた相談内容や事例を紹介していきます。個人が特定されないよう、一部内容を変更しております。

(1)理由第一位「後継者不在」

一番多い理由が「後継者不在」です。そもそも少子高齢化でどの業界も人材不足の中、後継者を確保するのは容易ではありません。中には段階的に親族内承継、社内承継を進めていたにも関わらず、突然後継者不在になってしまうケースもあります。

①息子に承継予定が~

会社を創業して50年目に突入の2代目経営者Aさん。年齢62歳。東京の企業に就職した長男35歳を次期後継者として呼び戻し、育成すること5年。まだ経験が浅いが着々と承継の準備を進めていた。しかし、ある日突然長男が「東京の会社にまた戻りたい」と言い出す。長男は家業を継ぐという強い意志を持って帰ってきたが、実際の業務や経営者としての父の背中を見てきて責任の重さを日々感じていたようだった。そのタイミングでお世話になっていた上司から新規事業の誘いが。
父親のAさんは長女に承継を試みるも、子育てが大変で到底できないと断られる。息子に承継予定だったため番頭もおらず、今から育成する手間を考えると第三者への承継としてM&Aを選択したのだった。

②慢性的な人材不足で

産業廃棄物の事業会社を経営するHさん。業界イメージから慢性的な人材不足で後継者を確保、育成するのを後回しになっていた。いよいよ70代に突入し、後継者候補を考えるも社内に親族は入れておらず、後継者育成に力を入れてなかったため番頭的存在もなし。廃業を考えるも地域になくてはならない事業のため廃業もできない。八方塞がりの状況を打開するためにM&Aによる会社譲渡を決意。中堅~大手の同業他社が数社候補としてあがり、最終的に人員が豊富でエリアが近い候補先とのM&Aが成立した。

(2)業界の先行き不安で

「後継者はいるが・・・」「まだ自身は30代だが・・・」と後継者の有無に関わらず、業界衰退の動きを見て会社譲渡を決意するケースも少なくありません。

①新型コロナウイルスで

イベント運営会社を経営していた40代Kさん。これまで順調に従業員を増やしながら収益を伸ばしていたが突然新型コロナウイルスが猛威を振るい、開催予定だったイベントが軒並み中止に。続く緊急事態宣言で給付金の申請等も行い会社の維持を試みるも、世の中の回復の兆しが見えず、M&Aを検討。トップ面談を数社と行い、譲渡後も子会社として社長職を続けていくことで合意しM&Aが成立。1年後、徐々にイベントが開催できるようになり、収益は以前の1.5倍にも。大手の傘下に入ったことで資金力も強くなり受注できる仕事の幅も広がったようです。

②不採算事業の切り離し

複数の事業会社を経営するNさん。そのすべてが上手くいっているわけではなく、良い時もあれば悪いときもあるような状況。その中でも数期連続で赤字をだしている事業があり、黒字の事業でなんとか補填しているのが続いていたためM&Aを検討。赤字収益だったため譲渡価格は高くないものの、マイナスを続けるよりはという思いでM&Aを選択したのだった。

(3)拡大戦略のひとつとして

中には会社や経営者自身のステップアップのために会社譲渡を決意するケースもあります。

①大手の傘下で資金力アップ

自転車レンタル会社を経営していたGさん。観光地をターゲットにしたレンタルサービスが成功し、自治体からの受注が好調だった。そんなある日、未上場ながらも多くの不動産を所有する賃貸住宅事業を手掛ける会社からM&Aのオファーを受けることに。駅から遠い物件に自転車を備え付けることで、入居率を上げる戦略を説明された。年々同事業者が増え始め、競合他社の存在が気になっていたところであったGさん。住宅×自転車でシナジーが大いに発揮できると考え、後継者有無や自身の年齢に関わらず、M&Aでの会社譲渡を決意したのだった。

3.事業承継の課題解決にM&Aを選択した理由のまとめ

M&Aによる会社譲渡を決心された理由は様々ありますが、どのケースにおいても最初からM&Aを検討していたケースは少なく、多くが「思わぬ出来事」によって検討し始めるケースです。そもそもどんな承継方法であっても時間のかかるものなので、不測の事態に備えて親族内承継、社内承継のみ考えているのであれば、M&A「も」選択肢の一つに入れておくのが最善の策と言えるでしょう。

著者

野口慎矢
野口慎矢熊本支店長 兼 事業法人第四部長
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人