M&Aは秘密保持に始まり、秘密保持に終わるといわれます。情報が漏れれば、交渉は一瞬で止まる。NDA・CAを結ぶ時期、盛り込むべき条項、口頭情報や従業員引き抜きといった落とし穴まで、会社売却を考える経営者の目線で整理しました。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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秘密保持契約(NDA・CA)とは何か
会社を譲るかどうか迷っている段階で、最初に名前が出てくる契約がこれです。秘密保持契約とは、相手に開示した情報を勝手に第三者へ漏らしたり、目的以外に使ったりすることを禁じる約束を指します。M&Aでは、譲渡オーナーと譲受企業が直接結ぶ前に、まずM&A仲介のアドバイザリー契約とあわせて仲介会社との間で締結するのが通例です。
そもそもM&Aの進め方や仲介会社の役割を整理しておくと、この契約の位置づけがつかみやすくなります。
機密保持契約・NDA・CAはすべて同義
呼び名がいくつもあって戸惑う経営者は多い。中身はどれも同じです。
| 呼称 | 正式名称・補足 |
|---|---|
| 秘密保持契約 | 日本語での一般的な呼び方 |
| 機密保持契約 | 「秘密保持契約」と同じ意味 |
| NDA | Non-Disclosure Agreement(エヌ・ディー・エー) |
| CA | Confidentiality Agreement(シー・エー) |
名称が違っても効力は変わりません。両者の使い分けは、NDAとCAの意味の違いで詳しく整理しています。
差入方式と契約書方式の2種類
締結のかたちには2通りあります。どちらを使うかで、署名する人数が変わります。
差入方式
当事者の一方だけが作成・捺印し、相手に差し入れる方式です。簡便ですが、一方向の義務になりやすい。
契約書方式
両者が署名捺印して双方に義務を課す方式を指します。M&Aの実務では、双方が情報を出し合うため、この契約書方式が選ばれることがほとんどです。
なぜM&Aで秘密保持契約が欠かせないのか
「契約書を一枚増やすだけ」と軽く見ると、あとで足をすくわれます。理由は3つに整理できます。
情報漏洩とM&A検討事実そのものの秘匿
財務データや顧客リストの流出はもちろん、「あの会社は売却を考えているらしい」という噂が立つだけで、取引先や従業員が動揺します。守るべきは数字だけでなく、検討している事実そのものです。
知的財産・ノウハウの保護
検討の途中で、譲渡対象会社が持つ独自技術や製法を相手に見せる場面が出てきます。将来の特許申請に関わる情報もあるため、開示前に秘密保持契約で囲っておく必要があります。
不正競争・模倣の防止と損害賠償の根拠
譲受候補が同業であることは珍しくない。開示した情報を相手が模倣すれば、自社の競争力は大きく削がれます。契約があれば、万が一漏洩した際に損害賠償を請求する法的根拠にもなります。
秘密保持契約を締結するタイミング
結ぶ順番を間違えると、本来守れたはずの情報が裸で出ていきます。M&Aの一般的な流れに沿って、どの段階で締結するのかを押さえておきましょう。契約書の全体像はM&Aで必要な契約書でも整理しています。

譲渡オーナーが情報を開示する最初の段階
譲渡側が仲介会社へ依頼する場合、アドバイザリー契約と同時、またはそれに先立って秘密保持契約を締結します。財務資料や人事資料を渡すのは、署名を交わしたあと。順番は絶対に逆にしない。
譲受候補企業へ開示する段階
候補先へのアプローチは、社名を伏せたノンネームシートから始まります。相手が詳細検討に進むときに企業概要書(IM)で実名を含む情報を開示するため、その前に仲介会社と譲受候補企業の間で秘密保持契約を結びます。
デューデリジェンス実施時
基本合意の締結後、譲受側がデューデリジェンス(買収監査)でより詳細な情報を直接確認します。この場面で譲渡オーナーと譲受企業が直接、秘密保持契約を結ぶこともあります。DD特有の情報開示と守秘の論点はデューデリジェンスと秘密保持契約にまとめています。
秘密保持契約書の記載項目とひな形
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月公表)には、秘密保持契約のサンプル条文が参考資料として収録されています。

実際の契約で押さえるべき項目を、下表にM&A特有の確認ポイントとあわせて整理しました。
| 主な条項 | 内容 | M&Aでの確認ポイント |
|---|---|---|
| 目的の限定 | 情報開示はM&A検討のためと明記 | 新規事業や営業への流用を禁じる文言があるか |
| 秘密情報の定義 | 除外情報以外のすべてを秘密情報とする | 書面・口頭・電子データを問わない形になっているか |
| 開示範囲 | 役員・従業員、弁護士・公認会計士・税理士等に限定 | 開示先にも同等の守秘義務を負わせているか |
| 適用除外 | 既に公知の情報、独自に開発した情報などを対象外に | 除外の範囲が広すぎないか |
| 無断接触の禁止 | 仲介会社を介さない直接接触を禁止 | 当事者同士の抜け駆けを防げているか |
| 返還・破棄義務 | 交渉終了時に情報を返還または破棄 | 破談時の扱いが明記されているか |
| 有効期間・存続 | 本体は6カ月〜1年、守秘義務は終了後も2〜3年存続 | 存続期間が情報の重要度に見合うか |
| 損害賠償 | 違反時の賠償請求を明記 | 弁護士費用など賠償範囲が妥当か |
| 準拠法・管轄 | 日本法、被告本社所在地の地裁など | 自社に不利な管轄になっていないか |
譲渡オーナーと譲受企業が直接結ぶ場合
仲介会社を介さず、当事者同士で直接締結するケースもあります。ガイドラインのサンプルでも、譲り渡し側との契約を前提にした条文が示されています。



現場でまず確認する独自チェックリスト
支援現場で契約書を受け取ったとき、当社が最初に目を走らせるのは次の5点です。ひな形をそのまま使う前に、ここだけは目視してほしい。
- 秘密情報の定義が「口頭・電話を含む」形になっているか
- 開示先のアドバイザーにも守秘義務が及ぶ条文があるか
- 破談(白紙)時の返還・破棄が明記されているか
- 守秘義務の存続期間が長すぎず短すぎないか
- 個人保証の相談先(金融機関)が除外できる余地があるか
見落としがちな注意点
ひな形が整っていても、運用でつまずく経営者は意外と多い。教科書には書かれにくい、現場の落とし穴を挙げます。
「書面で指定したものだけ」という定義の罠
「書面で秘密と明示した情報に限る」という定義になっていると、面談や電話での口頭発言が保護されない。M&Aの初期は口頭でのやりとりが多いだけに、ここは危うい。「口頭情報も含む」あるいは「口頭開示後○日以内に書面で特定する」といった条文になっているかを必ず確認してください。
従業員の引き抜き禁止条項
譲渡側が見落としやすいのが、引き抜き防止の規定です。譲受候補がデューデリジェンスを通じて自社の優秀な人材に目をつけ、交渉が流れたあとに引き抜く——こうしたリスクは現実にあります。譲渡オーナー側に立つなら、秘密保持契約のなかに従業員の引き抜きを禁じる条項をあらかじめ入れておきたい。
有効期間と存続条項の設計
守秘義務の期間は、長すぎれば受領者の負担が重く、短すぎれば提供者のリスクが残る。M&Aが成立しなかった場合でも、目的外使用の禁止などは契約終了後2〜3年は存続させるのが一般的です。相手としっかり協議して決めましょう。テール条項など契約終了後の論点は、M&A仲介のテール条項でも触れています。
破談を想定した条文になっているか
順調に進んでも、最終段階で検討が止まるケースは少なくありません。そのとき秘密情報を返すのか、破棄するのか、一定期間の守秘を続けるのか。途中解約の扱いも含め、仲介契約を解除する場合の条件を事前に確認しておくと安心です。
経営者保証と金融機関への相談
借入のある会社が大半で、個人保証もほぼ必ず付いています。会社を譲る目的のひとつが、この連帯保証からの解放です。ところが、譲渡後に保証を外してもらえないケースが昨今ニュースにもなっている。秘密保持の徹底と、保証解除の段取りは、実は綱引きの関係にあります。
経営者保証が解除されるタイミング
経営者保証の解除や譲受企業への移行は、クロージング後の代表者変更を経て実施されます。金融機関はクロージング後に審査を行うため、譲受企業の信用力が著しく低いと、スムーズに移らないリスクが残ります。
事前相談と秘密保持条項からの除外
金融機関への相談は、秘密保持の観点からクロージング後に行うことが多い。一方で、保証を確実に外すには、最終契約前に譲受企業とともに事前相談する選択肢もあります。中小M&Aガイドラインの参考資料でも、相談を行う際は相談先の金融機関を秘密保持条項の対象から除外すべきとされています。譲受企業との契約に守秘条項がある場合、その対象から金融機関を外すよう働きかけるのは、仲介会社の役割です。
情報管理を徹底するための実務
契約書の文言だけでは情報は守れません。M&Aの検討事実は、譲渡側・譲受企業の双方にとって極秘事項。社外はもちろん、社内の役員や親族への共有も、時期と範囲を慎重に判断する必要があります。
社内・親族への共有タイミング
最終契約の前に、一部の幹部役員や親族へ極秘に伝えることはあります。それ以外の関係者には、原則としてクロージング後、最短でも最終契約締結後に知らせるのが望ましい。よくある相談として、社長の不用意な一言から噂が広がり、交渉が頓挫した例があります。頓挫後に情報が広まると、取引先との関係悪化や従業員の離職など、事業そのものに傷がつく。
マッチングと支援機関の選び方
複数の支援機関に同時に相談すると、必要以上に情報が外へ出ていきます。同じ譲受候補に複数ルートから同じ案件が持ち込まれれば、相手に悪印象を与えかねない。そのため、マッチング支援は単独の機関に依頼するのが一般的です。
相談先を選ぶ際は、その仲介会社がどの系統かも見ておきたい。M&A仲介会社は、大きく上場会社系・非上場会社系・会計事務所系(士業系)の3つに分かれます。みつきコンサルティングは、みつき税理士法人を母体とする会計事務所系・士業系の代表的なM&A仲介会社です。財務や税務に踏み込んだ情報を扱う場面が多いM&Aでは、守秘の感度と専門性を兼ね備えた相談先かどうかが効いてきます。仲介会社の系統別の特徴は上場・非上場・会計系の仲介会社一覧で、選び方の基準は資格と実績での見極め方で確認できます。
銀行・税理士・仲介会社それぞれの違いは中小企業M&Aの相談先で、各社の比較は仲介会社の比較ポイントで整理しています。規模で迷うなら売上高・成約件数ランキングも判断材料になります。
M&Aの秘密保持契約に関するFAQ
譲渡を検討する経営者から、現場で実際に寄せられる質問をまとめました。
現場ではまず、資料を一枚でも出す前に締結してください、とお伝えします。仲介会社へ依頼するなら、アドバイザリー契約と同時か、それより前が原則です。署名を交わしてから財務資料を渡す。この順番だけは崩さないことをお勧めします。
目的外使用の禁止と適用除外の範囲を、契約書で具体的に詰めるのが基本です。さらに、ノンネームの段階では社名を伏せ、実名開示は相手の関心を確認してから行う。引き抜き禁止条項を入れておくと、人材面のリスクも抑えられます。
名称は別ですが、仲介契約やアドバイザリー契約の中に秘密保持条項として含まれることも多いです。別契約か条項かは、契約書の構成次第。どちらの形でも守秘義務が及んでいるかを確認すれば問題ありません。
損害賠償を請求できる旨が明記されていれば、それが根拠になります。ただし実損の立証は容易ではないのが実情です。だからこそ、漏らさせない運用——開示範囲を絞り、共有時期を管理することが先決になります。
M&Aの秘密保持契約まとめ|守秘の徹底が成約を守る
秘密保持契約は、締結の時期と盛り込む条項、そして口頭情報や引き抜きといった見落としを押さえることで、はじめて機能します。情報が漏れれば交渉は止まり、従業員や取引先にも影響が及ぶ。だからこそ最初の一枚を丁寧に。譲渡を考えるほど、慎重になって当然の論点です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、会計事務所系・士業系の立場から中小企業の会社売却を数多く支援してきました。財務・税務に踏み込む場面の多いM&Aで、秘密保持から事業承継まで一貫してサポートできるのが強みです。守秘を徹底しながら譲渡を進めたい経営者の方は、まず当社へご相談ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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