経営者必見!M&Aにおける中小企業の企業価値評価の実態を徹底解説

本記事では、M&Aにおける一般的な企業価値評価の説明ではなく、中小企業M&Aの実践的な評価手法について説明していきます。本記事を通して、企業価値評価について理解し、自社の企業価値の向上や譲受における適正価格の把握など今後の企業経営に活かしてみてください。

中小企業のM&Aにおいては、特に企業価値評価がその成功の可否を握ります。そのため、一般的な評価手法の認識だけではなく実践的なポイントを押さえ、自社の企業価値や譲受案件の企業価値が適正か否かを理解する必要があります。

本記事では、中小企業のM&Aで一般的に使用されている評価手法から企業価値の算定結果を決めるポイントまで網羅的に説明していきます。中小企業における企業価値評価のポイントを押さえ、今後の企業経営に役立てていただければと思います。

1.企業価値評価の基礎知識

企業価値評価とは、経営者や投資家が企業の価値を的確に把握するための重要な指標です。この指標を把握することにより、適切な投資判断や事業戦略を立案することが可能になります。実際に、中小企業がM&Aを行う際の企業価値評価には一般的に時価純資産+のれん法、DCF法、マルチプル法の3つの手法が主に使用されております。それぞれの一般的な考え方や評価ポイントについて説明していきます。

時価純資産+のれん法の概要とポイント

純資産+のれん法は、特に中小企業のM&Aにおける企業価値評価で最も一般的に採用されている評価手法と言われています。純資産+のれん法について簡単に説明すると、対象企業の純資産を時価評価し、その金額に一定額ののれん(営業権)を加えて評価する手法です。この評価手法のメリットは過去の利益が反映された純資産に、将来の利益を踏まえたのれんを加えるため、対象企業の現在と未来の価値を概ねともに評価に反映できることにあります。

のれんの設定の仕方は業界によっても異なりますが、一般的には対象企業のEBITDAや修正後の営業利益を基準に1年~5年分を設定することが多いです。ただし、特定分野に強みを有するIT企業やスタートアップ企業では10年以上ののれんが設定されるケースも珍しくありません。この評価手法は業歴が長く、純資産が積みあがっている企業ほど評価額が大きくなる傾向にあるため、設立間もない企業や資産そのものが少ない企業を評価する際には、時に不利な金額になってしまうというデメリットもあります。

DCF法の概要とポイント

DCF法は対象企業の将来的な収益を予測し、将来の価値を基準に評価する手法です。この評価手法もM&Aにおいて広く一般的に採用されますが、スタートアップ企業など将来的に売上が拡大していく可能性が高い企業の評価を行う際に多く使用されます。計算方法としては、対象企業の事業計画をもとに将来的なキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いたうえで企業価値を評価する手法です。この評価方法は、将来価値に軸を置き評価するため、対象企業の業歴や純資産に大きく影響されることなく、対象企業のビジネスの価値を一律に評価できることが特徴といえます。一方で、将来価値を軸に評価するため、事業計画の数値を誤ると実態と乖離した企業価値になってしまい、M&Aの失敗に繋がります。正しく活用するには、しっかりとした事業計画を立て将来の事業環境を予測したうえで、適切な割引率を設定することが重要です。

マルチプル法の概要とポイント

マルチプル法は対象企業と類似する上場企業の株価がEBITDAやPERの何倍になっているのかを求め、算出した倍率を対象企業に当てはめて算出する手法です。単純に説明すると、「同業他社の企業価値が利益の5倍なら、対象企業も同じく、利益の5倍が企業価値になる」という考え方です。非常にシンプルな手法のため、金額根拠が明確になるという特徴があります。ただし、選定した類似上場企業の数値が基準になるため、類似企業は慎重に選ぶ必要性があります。中小企業のM&Aを行う際には上場企業と比較するのが難しいケースもありますので、恣意性を排除するために本評価方法を避けた方が良いでしょう。

2.企業価値評価における重要なポイント

前項で企業価値評価について3つの手法をご紹介しました。本項では企業価値評価を正確に行うために必要なポイントについて説明していきます。企業価値を評価するためには評価対象の基準となる数値を作る作業が非常に重要となります。今回は時価純資産法における時価評価やDCF法で使用する事業計画の作成、3つの手法に共通する正常収益力の認識について解説していきます。

純資産の時価修正や簿外債権債務の確認

時価純資産+のれん法で重要となる時価評価について説明していきます。貸借対照表上に記載されている数値は「簿価」と呼ばれます。これらの簿価には土地の価格が購入時の価格で計上されているため、既存の価値と大きく乖離しているケースや退職金の引き当てがされていないなど実態的な価値と異なる場合が多いです。本項では、資産の時価修正と簿外債権債務の確認の2点に分けて説明していきます。

  1. 資産の時価修正

一般的に該当するものは「不動産、保険積立金、ゴルフ会員権、有価証券」などです。流通価格、返戻金相当額、時価評価額など実際に対象資産を処分した場合の金額に修正していきます。また、売掛金、棚卸資産などは、長期滞留債権の有無についても確認し修正します。

一般的に償却資産については簿価で評価されますが、資産性の高い自動車や機械設備などは流通価格を調べて、時価評価するケースもあります。

2.簿外債権債務の確認

貸借対照表に計上されず、簿外に債権債務が隠れているケースがあります。実務上、退職金や賞与引当金の未計上が該当する企業が多いです。退職金規定を設けている企業では、現時点で従業員が退職した場合に退職金の支払い義務が生じます。そのため、退職金は企業にとって負債とみなされ引き当てが必要になります。また、賞与については来期支払う金額の内、今期評価分は期中の計上となるため、その金額を負債とみなし引き当てます。

中小企業の実務で発生する主なポイントを2点説明しました。将来的にM&Aを検討している場合には、この2点を想定して経営を行うことでより良い結果につながるでしょう。また、譲受を検討する際には、簿外債務を見落とさないようにしっかりと確認しましょう。

事業計画作成のポイント

DCF法を採用する際には、対象企業の事業計画が企業価値を決める要となります。そのため、計画数値の設定が非常に大切です。事業計画は未来を予測して作成するものになるので、作成者の恣意性が入りやすい傾向にあります。例えば、譲渡側であれば楽観的なシナリオになり、譲受側であれば悲観的なシナリオを作成したくなります。事業計画の中立性を守るためには、第三者であるM&Aアドバイザーを通して作成することが効果的です。また、対象企業の現状をしっかりと理解し、将来的なリスクや業界動向を認識することで整合性のある事業計画の作成につながります。

正常収益力の認識

のれんの設定やマルチプル法の基準値にEBITDAや修正営業利益が使われます。そのため、対象企業の正常収益力を認識する必要性があります。一般的に中小企業では、販管費に役員の私的な費用が含まれていることや税金対策をしていることが多いかと思います。そのままでは本来の収益力が把握できないため、販管費から対象企業の事業運営に不要な費用を取り除いていきます。実務上多く見られるものとして、節税用保険や接待交際費、旅費交通費、車輌費などがあげられます。また、役員報酬が売上に対して、極端に高額な場合にはM&A実行後を考慮した適切な役員報酬額に修正します。正常収益力を認識することは企業価値評価だけではなく、M&A実行後の運営や企業の事業戦略を考える際にも非常に重要です。

3.企業価値を高めるポイント

これまで、企業価値評価の手法や価値を決めるのに重要なポイントについて説明してきました。本項では、実際に企業価値を高めるためのポイントを2つ解説します。実務的な内容になりますので、企業オーナーは自社の経営の参考にしてみてください。

収益力から考える企業価値向上

基本的な考えとして、収益力が高いほど企業価値は高くなります。シンプルで当たり前なことですが、非常に重要です。中小企業では私費の計上や税金対策によって実態より利益を下げている会社が多いです。正常収益力を求める際に控除すべき費用を確認していきますが、やはりシンプルに利益を出している会社の方が企業価値を高く評価されるケースが多いです。利益を出すことで純資産が積みあがるというのもありますが、譲受企業が検討する際に正常収益力の算出に修正が多いと実現性に不安が残り、投資するうえでの懸念材料になります。譲渡・譲受企業双方が納得して企業価値を高める方法という観点では、実態のまましっかりと利益を出すことも重要といえるでしょう。

資産・負債から考える企業価値向上のポイント

純資産法では純資産が大きい会社ほど企業価値が高くなります。そのためには会社に資産を残していくということが重要になります。実務においては、ゴルフ場やリゾートホテルの会員権の評価損を計上することが多くあります。基本的にこのような会員権は購入時より、売却価格が下回ったり、売却に制限が付いたりと資産性に乏しいケースが多いです。そのため、M&A時の企業価値の向上という観点では、売却時を想定して購入されるのが望ましいです。また、事業と無関係の収益不動産や私用の高級車はM&A時に切り離しや買い取る必要がありますので、直近でM&Aをお考えの際は慎重にご購入をご検討ください。企業経営に必要な資産のみ購入し、しっかりと利益を出して内部留保を増やすことが企業価値の向上につながります。将来的なM&Aを見据える場合には、シンプルな決算書を心掛けることが重要でしょう。

4.適切な企業価値の認識

算定した企業価値が適切なのかどうかの判断は非常に難しいです。上場企業のように株式が市場に流通していれば広く認知された価値といえますが、中小企業では企業価値を譲渡・譲受企業が相対で決めていきます。本項では、実際に算定した企業価値が適切か否か判断するためのポイントを説明していきます。

手法ごとの企業価値の比較検討

企業価値を算定する際には、1つの評価手法のみ採用するのではなく、本記事で紹介した手法などを複数採用し、より合理的な評価に近づけることが望ましいです。

複数の算定結果を並べ、その中央値で認識することも多いです。

M&Aにおいて譲渡側が求める価値と譲受側が求める価値に乖離が生まれることは少なくありません。その際にも様々な手法を採用したうえでの複数結果の中央値であれば、中立的な評価と考えられ、双方が納得しやすいかと思います。

企業価値の相場観の認識

企業価値を判断するうえで相場観を用いるケースもあります。例えば、のれんの設定年数や投資回収期間など相場観を把握するのに使用されております。これは対象企業が属する業界によっても大きく異なるため、一概には言えませんが、のれんの1~5年や投資回収期間3年などが採用されることが多いです。あくまでも、参考程度の数字のため、業界に精通したM&Aコンサルタントに相談することが良いでしょう。特にスタートアップ企業については評価が難しく、のれんが10年以上つくケースもありますので、専門家に相談しながら過去の事例と比較して検討することが望ましいです。

5.まとめ: 中小企業の企業価値評価の重要性とポイント

本記事では、中小企業における実務的な企業評価について説明してきました。未上場企業は上場企業と違い企業価値の認識が難しいです。そのため、評価手法やポイントをしっかりと押さえ、現在の企業価値を認識し価値向上につながる経営を行うことが重要です。現在は、WEB上で企業価値を評価するサービスや専門家が提供する無料診断もありますので、一度そのようなサービスを活用することもおすすめです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として無料で企業価値算定を行っております。社内にはM&Aに精通した公認会計士・税理士が多数在籍し、中小企業のM&Aを専門的にサポートしております。また、スタートアップ企業から上場企業まで豊富な支援実績をもつM&Aアドバイザーが在籍しており、公認会計士・税理士と連携した複合的な提案が可能です。 M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにぜひご相談ください。 

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人