デューデリジェンスの調査項目|種類・費用相場・注意点とは?

デューデリジェンスとは、M&Aにおいて、譲渡対象会社に対して譲受企業が行う調査手続です。本記事では、デューデリジェンスの目的や実施手順、注意すべきポイントなどを解説します。デューデリジェンスを実施または受ける際の参考にしてください。

デューデリジェンスとは

デューデリジェンスとは、M&Aを行うにあたって、買い手企業が売り手企業の実態を事前に把握し、価格や取引について適切な判断をするための調査手続の総称です。「デューディリジェンス」ともいい、「デューデリ」や「DD」と省略して呼ばれます。日本語では「買収調査」や「買収監査」とも表記されますが、公認会計士・監査法人が行う「会計監査」とは似て非なるものです。譲渡対価が適正か、譲渡企業に潜在的なリスクがないかなど、様々な角度から、それぞれの分野の専門家が調査します。

買い手企業は、以下のような観点からDDを実施します。

  • その買収プロセスを進めるか
  • 買収価格は幾らが妥当か
  • 最終契約に反映すべきリスクファクターは何か
  • 買収後の経営体制をどうするか

デューデリジェンスはいつするのか

デューデリジェンスは基本合意契約を締結した後に実施します。M&Aの主な流れを下記に記載しますので、デューデリジェンスがどのタイミングで行われるか確認してください。

  1. M&Aの準備期間
  2. 譲受候補先への情報開示と交渉
  3. 譲受候補先とのトップ面談を実施
  4. 譲受候補先を1社に絞り基本合意締結(独占交渉権の付与)
  5. デューデリジェンスを実施する
  6. 最終条件調整を行う
  7. 最終契約を締結する
  8. クロージング(株式譲渡実行)

デューデリジェンスの実施期間

デューデリジェンスの実施期間としては、資料収集等の準備からレポート提出まで1~2ヶ月が目安です。譲渡対象企業や事業規模、実施するデューデリジェンスの種類の幅や深度などによって調査完了までの期間が変わります。

デューデリジェンスの目的

企業価値を適正に評価する

デューデリジェンスの目的の一つは、譲渡企業の企業価値評価が適正であるか総合的に調査することです。

M&Aに伴うリスクを調べる

企業には数字でははかれない様々なリスクが内包されています。例えば、決算書を見ても、従業員や取引先と紛争が起こっているかどうかの事実はわかりません。デューデリジェンスによってこうした予期せぬリスクの有無を事前に確認することも目的となります。

譲渡側企業の情報を集める

自社のM&A計画に合致するかの検証材料の収集、M&A後の経営計画を立案する上での情報把握、M&Aの方法を決定する上でも、譲渡対象企業の情報取得は大きな目的の一つです。

適正な契約内容にする

M&A実行後は契約の内容は変えられませんが、M&A実行前に問題点を把握できれば、問題点を踏まえた契約内容に変更し、お互いが納得する条件で契約を有効に進められる可能性があります。

デューデリジェンスの種類(調査項目)

デューデリジェンス(DD)の調査項目について、主要な分野に分けてご説明します。各分野における具体的な調査内容や、調査の基となる資料についても触れていきます。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは、財務資料を対象とした調査で、財務上のリスクの洗い出しと適正な企業価値評価を行うことが目的となります。この場合のリスクは、簿外債務や偶発債務、粉飾決算などがあります。財務デューデリジェンスにより、譲渡企業の実態を把握することは譲受価格の決定や買収の判断における重要な基準とすることができます。デューデリジェンスの結果次第では、M&Aを中止する場合もあります。

例えば、以下のような資料を、譲受企業にご覧いただきます。

  • 会社案内
  • 商品・製品のカタログ、サービス案内
  • 定款
  • 社内規程(特に、就業規則・賃金規程・退職金規程・役員退職慰労金規程など)
  • 全部履歴事項証明書
  • 株主名簿
  • 組織図

以上は他の種類のデューデリジェンスでも共通して利用されます。

  • 直近3年もしくは5年の決算書や税務申告書一式について
  • 銀行取引の残高証明書
  • 各勘定科目の明細
  • 固定資産台帳
  • 生命保険の解約返戻金に関する資料
  • 含み損益に関する資料
  • 資金計画・資金繰り表

税務デューデリジェンス

税務に関する資料を対象とした調査です。譲渡企業の過去の税務リスクを洗い出すことを目的としています。重大な税務リスクがあった場合、企業価値に反映させるか、そもそも譲受を取りやめるかを検討するための調査です。具体的には、税務申告書や納税状況、税務処理などがチェックされます。書類だけでは不十分な場合には、オーナーへのインタビューも実施されます。

例えば、以下のような資料を、譲受企業にご覧いただきます。

  • 税務調査の履歴、修正申告の履歴
  • グループ会社間、役員個人との取引履歴

法務デューデリジェンス

法務上のリスクを調査するのが、法務デューデリジェンスです。取引先との基本契約など主要な契約書、社内規程、違法行為の有無、簿外債務の有無、重大な訴訟等の有無等を調査します。具体的には、会社所有の資産を適法に所有しているか、事業引き継ぎに許認可が必要かなども調査の対象となります。

例えば、以下のような資料を、譲受企業にご覧いただきます。

  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録(取締役決定書ファイル)
  • 主な契約(知的財産に関するものを含む)
  • 訴訟、紛争、クレームの記録
  • 許認可書類

事業デューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスとは、譲渡会社の収益力や事業戦略の調査です。経営管理資料や販売先、仕入先、今後の市場調査ならびに事業のキーマンなどを調査し、自社のM&A戦略に合致するかを検討します。

例えば、以下のような資料を、譲受企業にご覧いただきます。

  • 事業計画書
  • 予算・実績の差異分析
  • 主な営業上の取引契約
  • 主な得意先リスト
  • 主な仕入先・外注先リスト

人事労務デューデリジェンス

人事労務デューデリジェンスは、人事制度や人件費を対象とし、人事や労務状況のリスクを把握するための調査です。海外企業を対象に行われることが多い調査となります。

例えば、以下のような資料を、譲受企業にご覧いただきます。

  • 従業員名簿
  • 賃金台帳
  • 就業規則、労務関連規程
  • 残業管理・休日管理の記録
  • 各種ハラスメントの履歴

ITデューデリジェンス

情報システムに対する調査です。M&A実施後、情報システムを1つにまとめたり、システムを入れ替えたりする必要があるのかどうかを調査します。

具体的には、譲渡企業の情報システムを調べて情報システムの有効性を図り、システム統合や更新にかかる費用を把握します。譲渡側の業種によっては、ITデューデリジェンスをしない場合も数多くあります。

環境(不動産)デューデリジェンス

環境デューデリジェンスは、譲渡企業が所有もしくは使用している不動産と動産を対象とした調査です。環境リスクを把握するための調査で、土壌汚染や大気汚染の有無などを調査します。

知的財産デューデリジェンス

知的財産デューデリジェンスは、知的財産に関わる情報を対象として調査です。具体的には、権利侵害がないか、知的財産がどのような価値があるのかを調べる調査です。近年、知的財産保護を目的とした法整備も進められており、知的財産に関する争いが発生した場合における損害賠償額も高額になっていくことが予想されており知的財産デューデリジェンスの重要性は高まっています。 

デューデリジェンスの費用相場と会計処理

デューデリジェンスの費用は、基本的には譲受企業が負担します。

譲渡側が負担することがあるとすれば、物理的なデータルームを設置する場合で、社内に適当な会議室が確保できないときに、近隣の貸会議室をレンタルする際の、そのレンタル料位です。もっとも、近年は、データルームもクラウド上に設置されることが多いため(バーチャル・データルーム)、貸会議室料すら生じないことが多いです。

DD費用の相場

デューデリジェンスの費用負担は譲受企業が行うのが一般的です。デューデリジェンスの費用としては、中小企業で数十万~数百万円程度、大企業や中堅企業・海外の会社は数百万円~数千万円程度が一般的です。

DD費用の会計処理

デューデリジェンス費用の会計処理は、譲受側対象会社株式の取得価額に含まれる形で処理されます。この会計処理は、税法、会計上のルールと裁決事例に基づいた適正な処理です。

デューデリジェンスの実施手順

本章では、デューデリジェンスの実施手順について解説します。

チームを編成する

デューデリジェンスを始めるにあたり先ず、担当者や専門家を集めてデューデリジェンスチームをつくるケースが多く、チームの中に専門家がいない場合は、デューデリジェンスを専業としているコンサルティング会社や税務会計事務所へ依頼し、デューデリジェンスチームへ専門家を招聘します。

初期情報を取得する

次に、デューデリジェンスに必要な初期情報を取得し、その情報整理を行います。下記にデューデリジェンスに必要となる初期情報に関連する資料の一例を記載します。

〈初期情報資料の一例〉

  • 登記簿謄本
  • 事業計画書
  • 直近の財務諸表、月次推移
  • 株主構成の資料、資本政策表
  • M&A仲介会社が作成した企業概要書

キックオフミーティングを開く

次の段階では、取得した初期情報をもとに、デューデリジェンスをどのように進めていくか、デューデリジェンスチームでキックオフミーティングを開き、デューデリジェンスの種類ごとにデューデリジェンスの進め方を決めていきます。

依頼資料リストを作成する

デューデリジェンスの進め方がきまったら次に、詳細な情報取得のために必要となる依頼資料リストを作成して譲渡側企業に渡します。依頼資料リストを受け取った譲渡側企業は、資料を期日までに準備することとなります。

受領資料を整理・分析する

依頼資料を受領後は、資料を適宜、整理、分析をします。分析を進めるうえで、追加で資料が必要な場合は、再度依頼資料リストを作成し、譲渡側企業へ資料を依頼することになります。

マネジメントインタビューを実施する

譲渡側企業から受領した資料を整理、分析する過程で、譲渡側企業の経営者やキーマンへインタビューも実施します。このインタビュー実施に際しては、予めインタビューしたい内容を譲受側へ事前に通知したうえで実施されます。

現地調査と中間報告をする

デューデリジェンスにおいては、譲渡企業の本社や工場などの施設で、現地調査をすることは一般的となっています。その際には、中間報告やマネジメントインタビューが実施され、デューデリジェンス報告書にまとめるべき事項の仕上げの分析が行われます。

専門家からの最終報告を受ける

調査が終了し報告書が完成したら、専門家が譲受側企業に譲渡側企業の分析結果やリスクを最終報告します。

交渉の継続可否を判断する

譲受側は、デューデリジェンスの結果を踏まえてM&Aを進めるか判断します。交渉を進める場合、デューデリジェンスで見つかったリスクについて価格反映するなどの交渉を行うことが一般的です。重要なリスクが新たに見つからなかった場合は、基本合意書の内容に沿った形で最終契約へ進みます。

デューデリジェンスの注意点

DDでの注意点を売り手側と買い手側に分けて説明します。

譲渡側の注意点

まず、譲渡側企業が注意すべきポイントについて解説します。

自社のリスクは譲受側企業へ事前に伝える

譲受側が安心して検討を進められるように、譲渡側は、誠実な対応を意識して、リスクが顕在化しているものは全て事前に開示することが重要です。また、アドバイザーからの事前質問に対し、ありのままを回答するようにすると良いでしょう。

質疑応答や資料提供は前向きに協力する

譲受側から要求された資料はなるべく提供するようにすることで、譲受側企業の信頼につながります。一方で、存在しない資料は提供しなくても問題ありません。

譲受企業の注意点

本章では、譲受側企業が注意すべきポイントについて解説します。

予算や規模に見合っているか確認する

デューデリジェンス費用は高すぎても安すぎてもよくありません。費用が高いイコール、大掛かりなデューデリジェンスとなるケースが多く、過度なデューデリジェンスは譲渡側の不信感や譲渡意欲の低下を招きかねません。一方で、デューデリジェンス費用が著しく安い場合は、デューデリジェンスの機能を果たしていない場合もありますので、M&Aの規模と自社の予算からデューデリジェンスを設計することが大切です。

情報漏えいに細心の注意を払う

譲受側は譲渡側と秘密保持契約書を締結したうえで、譲渡側の機密情報を取り扱います。デューデリジェンスでは、譲渡側の経営そのものに関する情報を入手するため、特に情報の重要性は高いものとなり、情報漏えいが発覚した場合、損害賠償請求される可能性があります。そのため、入手した機密情報が決して外部に流出することがないよう管理を徹底する必要があります。

仮に譲渡企業の情報を外部流出させてしまった場合には、M&Aが破談になるだけでなく、譲渡企業から秘密保持契約に基づき損害賠償請求される恐れもあります。

デューデリジェンスのまとめ

デューデリジェンスは、譲渡企業のリスク把握、経営統合の準備に必要な情報を得るために実施します。譲渡企業の財務、税務、法務、人事、IT、ビジネス、環境と様々な方面から調査を実施します。デューデリジェンスにおいては、適切な専門家に委託することが重要であり、案件規模に合ったデューデリジェンスチームを組成することが重要となります。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、デューデリジェンスチームへの専門家の派遣、M&A仲介としてのデューデリジェンス時の立会いや対応などにも対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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