投資を目的としたM&Aにはさまざまな種類や方法があります。M&A投資を成功させるためには、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。本記事では、投資を目的としたM&Aの基礎的な知識や株式投資との違い、メリットやデメリットについて解説します。
M&Aと投資の違い
そもそも、M&Aと投資にはどのような関係性があるのでしょうか。詳しく解説します。
M&Aとは
M&Aは「Merger(合併)and Acquisition(買収)」のことをいい、2つ以上の会社が1つになったり(合併)、会社が他の会社を買ったり(買収)することを指します。経営の難しくなった企業を存続させる手法としてだけでなく、資本提携や事業承継、投資の手段としても活用されます。
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投資とは
投資は大きく、以下の2種類に分けられます。
- 金融投資
- 事業投資
金融投資とは、株式や債券などの金融商品を購入し、利息や配当などを得ることです。事業投資は、企業や事業に対してお金や人材などを提供し、事業の成長や利益に参加することをいいます。
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M&Aと投資の関係
M&Aは、事業投資の1手法として用いることもできます。事業投資としてのM&Aは、通常の投資よりも企業に対して持つ権限が大きいという特徴があります。
金融投資では、投資家が企業に対して有する権限は、事業投資よりも少なくなることが一般的です。たとえば株式投資では持っている株の割合に応じて議決権を持つことはできますが、経営方針や戦略に全面的な影響力を持てるわけではありません。事業投資としてのM&Aは、経営に直接関与しながら、経営者の目線で売上の拡大を目指せます。
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企業買収と株価の関係
M&Aは、金融投資にも影響する場合があります。M&Aを経ることで企業の株価も上下することがあるからです。たとえば、買収が適切な金額で実施されない場合や、譲受側の企業との文化や経営方針が合わない場合は、株価が下がることが予想されます。M&Aが失敗に終わる可能性が高く、投資先として期待が持てないと市場から判断されるからです。
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M&Aによる投資方法
M&Aによる事業投資には、株式取得や事業譲渡、分割、合併といった手法があります。それぞれの手法について、解説します。
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株式取得(株式譲渡、第三者割当増資、株式交換】)
企業の株式を多数取得して経営権を移行する、M&Aでは一般的な手法です。株式を取得して経営に関与するためには、一般的に過半数以上の株式を所有していなければなりません。過半数以上の株式を取得する方法には以下のようなものがあります。
- 株式譲渡
- 第三者割当増資
- 株式交換
株式譲渡は、譲渡側企業の株式を譲受側企業が取得するものです。第三者割当増資とは、譲渡側企業の株式を新規に発行し、譲受側企業が取得するものを指します。株式交換とは、譲受側企業の株式一部と、譲渡側企業の株式全てを交換するものです。
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事業譲渡
事業譲渡とは、企業全体ではなく、特定の事業だけを譲渡する方法です。譲受側は、新規に事業をスタートさせる必要なく、ある程度のスキームやノウハウを持った状態で事業に取り組める魅力があります。譲渡側のメリットとしては、赤字になっていた事業などを手放せることがあります。
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会社分割
会社分割とは、会社の事業などを分割し、他の会社に承継させることをいいます。分割の形態には以下の2種類があります。
- 新設分割
- 吸収分割
新設分割か吸収分割かは、承継する企業が分割をきっかけに新たに設立されるかどうかによって変わります。新規に設立する場合は新設分割、既存の会社に承継する場合は吸収分割と呼ばれます。
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合併
2つ以上の会社を、1つの会社に統合する「合併」の手法もあります。合併には以下の2種類があります。
- 新設合併
- 吸収合併
それぞれの場合について、A社とB社が合併する場合を考えながら解説します。新設合併の場合、A社とB社はどちらも解散します。そのうえで、新規に会社を設立し、その会社が両社の資産や負債などを引き継ぐのがポイントです。吸収合併では、A社がB社の中に吸収される形で合併が実施されます。
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M&A投資のメリット・デメリット
M&A投資は、通常の投資に比べてどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット
最初にメリットです。
資金回収が早い
事業が成長し軌道にのれば、譲受の際に投資した資金を早期に回収できます。たとえば、事業の拡大には一般的に、新規事業の立ち上げなどが効果的と考えられます。M&Aの場合、すでに開発された製品やサービスを買収できるため、早く市場に参入できるようになるでしょう。
ほかの投資と異なり、戦略次第で企業の競争力を効率的に高められたり、時間や費用を削減しながら事業を拡大させられたりする可能性が生まれるのも大きな特徴です。
シナジー(相乗効果)につながる
M&A投資は、シナジー(相乗効果)を得られることも大きな特徴です。これは、2つ以上の要素が組み合わさることで、それぞれ単独では得られない効果や価値が生まれることを指します。
たとえば、自社の技術と他社の技術を組み合わせて、より高品質や高機能な製品やサービスを提供できることなどが考えられるでしょう。また、M&Aによって効率化を実現した例もあります。
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デメリット
メリットの多いM&A投資ですが、デメリットも存在します。2点のデメリットについて解説します。
まとまった資金が必要
M&Aを実施するためには、高額な資金が必要です。さらにM&A後も、利益を生み出せるかどうかは経営者の実力次第。初期にかかる費用が高額なうえ、確実に成功するとは限らないため、投資としてはリスクが高い部類に該当するといえるでしょう。
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人材流出のリスクがある
M&Aでは、譲受側と譲渡側の企業文化や組織風土を融合させる必要があります。しかし、これは簡単なことではありません。時間がかかるだけでなく、企業体制の変化が従業員の不満につながれば、従業員の退職や人材流出につながることもあるでしょう。
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M&A投資を成功させるポイント
M&Aによる投資を成功させるには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。3つのポイントについて解説します。
投資減税を利用する
いわゆる経営資源集約化税制の適用を受けることができれば、減税になります。実質的な投資額を引き下げることになるため、投資の採算を高めることになりますので、検討すると良いでしょう。
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回収期間の目安(投資基準)を持つ
中小企業の買収を前提に考えると、M&Aの成否を評価する上で最も実用的で効果的な指標は投資額の回収状況です。数年以内に買収に費やした資金を取り戻せれば、その買収は一般に成功と見なせます。
中小企業のM&Aでは、「年買法」という企業価値評価手法が広く用いられています。この方法は買収金額の回収年数に重点を置いています。現在の相場では、業種等にもよりますが、回収見込年数は2〜3年程度が多い印象です。これは、2〜3年で回収できる金額を適正な買収価格とみなし、その期間内に投資額を回収できれば買収を成功と考えていることを示しています。
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M&Aによる投資枠を設定する
M&Ano投資枠とは、企業が将来の買収に向けて準備している投資の予算枠のことです。M&Aによって投資をするためは高額な資金が必要であり、その分失敗したときのリスクも高いもの。多額の融資を受けることは避けるなど、仮に投資が失敗しても企業の財政基盤が揺らがない手法を検討しましょう。
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まずスモールM&Aで成功する
スモールM&Aとは、規模の小さい会社向けに対して実施する、必要な初期資金が比較的少ないM&Aのことをいいます。大規模なM&Aよりも実施しやすく、M&Aの経験やノウハウを積むためにも適しているといえるでしょう。
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従業員のモチベーションを高める
従業員のモチベーションは、M&A後の経営に大きく左右されます。M&A後は、買収側と買収先の企業文化や組織風土を融合させる必要がありますが、これに失敗してしまうと、人材流出や業績低下の原因にもなりかねません。経営層は従業員と密にコミュニケーションを取り、M&Aへの理解や協力を得ることが必要です。
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M&Aと市場株価
M&Aは、株価にも影響を及ぼします。一般的には、成長して業績が好転すると市場から予想されれば、株価は上昇する傾向にあります。逆に、業績好転への期待値が低い場合には、株価が下落する傾向にあります。期待値が低くなる理由には、以下のようなものが考えられます。
- 譲受側企業の経営赤字が続いている
- M&Aによって競争力や利益率が低下することが予想される
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M&Aによる事業投資のまとめ
この記事では、投資としてのM&Aについて、株式投資との違いやメリット・デメリット、成功のポイントを解説しました。M&Aによる投資は、通常の投資に比べて高いリターンやシナジー効果を狙える一方で、経営上のリスクや人材流出などのデメリットもあります。M&Aによる投資で何を実現したいのかを念頭に置きながら、目的に合った手法を選択しましょう。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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