M&Aに利用できる税制優遇措置「経営資源集約化税制」について解説します。中小企業のM&Aを後押しする本制度の概要やメリット、2024年度の税制改正の内容など、M&A実施を検討する経営者必見の情報をお届けします。
M&Aには優遇税制が利用できる
M&Aを実施する際には、「経営資源集約化税制」という税制優遇措置を利用することができます
。この制度は、中小企業の経営資源の集約化(M&A)を後押しするために2021年8月から開始されました。
経営資源集約化税制を活用すると、M&A後のリスクに備える準備金や設備投資などに対して、税金の繰延や投資額の一部を税額控除することが可能となります。これにより、M&Aに伴う税負担を軽減し、中小企業の成長や事業承継を支援する狙いがあります。
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M&Aに利用できる優遇税制の内容
経営資源集約化税制できる3つの支援措置について、解説します。
設備投資減税(中小企業経営強化税制)
経営力向上計画に基づき、一定の設備を取得等した場合、以下のいずれかの優遇措置を受けることができます。
優遇措置
- 投資額の10%を税額控除(資本金3,000万円超の中小企業者等の税額控除率は7%)
- 全額即時償却
適用要件
この制度を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 経営力向上計画の認定を受けていること
- 対象となる設備が要件を満たしていること(A~Dの4類型があり、工業会等または経済産業局の確認が必要)
- 青色申告書を提出する中小企業者等であること
- 2025年3月31日までの期間内であること
経営力向上計画の策定には、商工会議所や商工会、中央会など認定経営革新等支援機関のサポートを受けることができます。また、経営診断ツールによる策定も可能です3。
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準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
M&A実施後の発生し得るリスク(簿外債務)に備えるため、以下の措置を受けることができます。なお、2024年度の税制改正で制度が拡充していますので、その点についても紹介します。
優遇措置
- 投資額の70%以下の金額を、準備金として積み立て可能(積み立てた金額は損金算入)
- 準備金積立の据置期間は5年間
- 簿外債務が発生した場合には準備金を取り崩し可能
適用要件
この制度の適用要件は以下の通りです。
- デューディリジェンス(事前承継等の事前調査)についての事項が含まれた経営力向上計画が認定されていること
- 他の特定事業者等の株式等を取得し、実質的に他社の経営資源を引き継いでいること(親族内の株式移転などは対象外)
- 2027年3月31日までに経営力向上計画認定を受けていること
- 株式取得または持分の取得によってM&Aを実施すること(取得価額10億円以下に限る)
準備金には5年間の据置期間が設定されており、期間中に偶発債務・簿外債務などが発覚した時は取り崩しが可能です。取崩要件に該当する問題がなければ、期間経過後に5年間に分けて均等に益金算入されます3。
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2024年度の税制改正による拡充
2024年度の税制改正により、中小企業事業再編投資損失準備金の内容が拡充され、適用期限も延長されました。
2024年度税制改正の主な変更点
- 一定の要件を満たす中堅・中小企業の積立率を引き上げる
- 措置期間が5年間から10年間へ延長される
- 対象となる株式などの取得金額が、1億円以上100億円以下になる
- 現行制度の適用期限を2027年3月31日まで延長する
新設された「拡充枠」の対象となる条件を満たすと、1回目のM&Aでは株式取得価額の90%まで、2回目以降は株式取得価額の100%まで積立可能となります3。
2024年度税制改正の対象
拡充枠を活用できる対象は以下の通りです。
- 産業競争力強化法で新設される特別事業再編計画の認定を受けた中堅・中小企業
- 過去5年間にM&Aを実施した企業
この改正は、中堅企業や中小企業が事業拡大のため、複数回のM&Aを実施することを後押しする制度となっています3。
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雇用確保を促す税制(賃上げ促進税制)
M&Aにともない給与等を引き上げた場合、以下の税額控除を受けることができます。
優遇措置
- 給与等を前年より2.5%以上引き上げた場合、給与等総額の増加額の25%を税額控除
- 給与等を前年より1.5%以上引き上げた場合、給与等総額の増加額の15%を税額控除
2022年度の税制改正により、この制度の内容が変更されました。主な変更点は以下の通りです。
改正内容
- 経営力向上計画の認定という要件が廃止
- 雇用者給与等支給総額が前年度に比べ2.5%以上増加していれば、15%の控除率の上乗せを受けられる
- 教育訓練費の額が前年度に比べ10%以上増加していれば、さらに10%の控除率上乗せを受けられる(最大40%の控除が可能)
これにより、要件が緩和され、控除率も大幅に上がりました。
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経営資源集約化税制とは
経営資源集約化税制は、経営資源の集約化(M&A)によって生産性向上等を目指す中小企業のM&A支援制度です。経営力向上計画の認定を受けた中小企業を対象とし、以下の3つの支援措置があります。その内容は上記したとおりです。
- 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
- 準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
- 雇用確保を促す税制(賃上げ促進税制)
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3つのメリット
経営資源集約化税制を利用することで、以下の3つのメリットが得られます。
従業員の給与に対する税控除を利用できる
所得拡大促進税制(賃上げ促進税制)により、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できます。
設備投資費用の税控除を利用できる
M&Aの効果を高めるための設備としてM&A後に取得した場合、投資額10%の税額控除か全額即時償却いずれかの減税を受けることが可能です。
資金繰りやお金の流れを改善できる
経営資源集約化税制等の制度の活用により、減税によるキャッシュフローの改善や内部留保増加に寄与するため、M&A投資に回せる費用の捻出やM&A後の設備投資・人材投資に貢献します。
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制度の目的
経営資源集約化税制の主な目的は以下の通りです。
- 減税措置によるM&Aを推進し、中小企業の生産性を向上させる
- 中小企業における生産性の向上を図る
- 新型コロナウイルスの影響による企業の廃業を防ぎ、経営資源の散逸リスクを低減する。新型コロナウイルス感染症の影響による先行き不透明な状況下で、地域経済・雇用を担う中小企業による経営資源の集約化等(統合・再編等)を後押しする
経済産業省の調査によると、M&Aを実施した企業は実施しなかった企業と比較して、その後の5年間でより高い生産性の向上が見られたとのことです。
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制度の対象
経営資源集約化税制の対象となる企業は、以下の2つの要件をともに満たす必要があります。
特定事業者等
- 常時使用する従業員数が2,000人以下の法人
- 協同組合等
中小企業者等
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人
- 協同組合等
ただし、資本金1億円超の法人に株式の50%以上を所有されている法人や、前事業年度前3年度の平均所得金額が15億円の法人は除外されます。また、準備金制度においては、他の特定事業者等の株式または持分の取得のみが対象となります。実質的に他の事業者の事業を承継するものである必要があるため、グループ内および親族内でのM&Aは対象とならないことに留意が必要です。
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制度創設の背景
経営資源集約化税制が制定された背景には、以下のような要因があります。
中小企業の生産性を向上させる
中小企業におけるM&A後の設備投資や雇用確保を積極的に行うことにより、生産性を向上させ、新規事業の展開や事業の多角化など経営の選択肢を増やすことができます。
廃業する企業を減らす
新型コロナウイルス感染症の影響で経済的な打撃を受けた中小企業の経営資源の集約(M&A)により、廃業を減らすことが期待できます。また、事業承継の解決方法としてM&Aの認知度が浸透してきており、今後さらなる活用が予想されます。2025年問題(団塊の世代が75歳を迎えること)により、中小企業における事業承継が加速すると予想されるため、地域経済・雇用を担う中小企業の経営資源の集約(M&A)を後押しする支援体制の構築が必要とされています。
M&Aのリスクを軽減する
M&Aには、譲渡側・譲受側ともに自社を成長させる・経営を安定させるための手法として多くのメリットがありますが、同時にデメリット(リスク)もあります。株式取得のための費用の一部を経費として計上できることや、M&A後の設備投資や雇用確保に対する減税や経費計上は、M&Aのリスクを軽減する効果があり、中小企業のM&A活性化の後押しになると期待されています。
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経営資源集約化税制を利用する流れ
経営資源集約化税制の「準備金の積立」を例に、申請から税務申告までの流れ解説します。
1.経営力向上計画の認定を受ける
M&Aの相手候補先が決まる基本合意締結後、M&Aによる株式取得を行うことが経営力向上に寄与する旨と事業承継等事前調査(デューデリジェンス)の内容を記載した経営力向上計画を作成し、主務大臣の認定を受けます。認定に当たっては、十分な事前調査を実施するか否かを確認する為、「事業承継等事前調査チェックシート」を作成し合わせて申請が必要です。
- 基本合意書締結:基本合意書締結により、M&Aで買収する相手候補先が決定。
- 経営力向上計画の申請:経営力向上計画書及び事業承継等事前調査チェックシートを作成し申請。
- 主務大臣による認定:経営力向上計画について、主務大臣の認定を受ける。
2.M&Aを実施して税務申告する
実際にM&A(企業買収)を実行し、税務申告を行う過程で、以下の手続を踏んでいきます。
1.M&Aの実施(株式取得の実行)
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を行い、計画に基づきM&Aを実施し譲渡対象会社の株式取得します。
2.主務大臣への報告・確認書の交付
主務大臣に対して「事業承継等を実施したこと」及び実施したデューデリジェンス(買収監査・企業調査)における「事業承継等事前調査の内容」について報告し、確認書を受け取る。
3.税務申告
確定申告時に、準備金の積立を行い、損金算入します。「経営力向上計画の申請書」「経営力向上計画の認定書」「確認書」を添付します。
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経営資源集約化税制を利用する際の注意点
経営資源集約化税制を活用する際には、以下の点に注意が必要です。
適用要件を満たしているか確認する
経営資源集約化税制の各支援措置には、それぞれ適用要件があります。自社がこれらの要件を満たしているか、事前に確認することが重要です。特に、以下の点に注意してください。
- 対象となる企業規模(従業員数、資本金等)
- 経営力向上計画の認定
- M&Aの形態(株式取得または持分取得)
- 取得価額の上限
適用期限がある
経営資源集約化税制の各支援措置には適用期限があります。2024年度の税制改正により、一部の措置の適用期限が延長されましたが、引き続き期限に注意が必要です。
- 設備投資減税:2025年3月31日まで
- 準備金の積立:2027年3月31日まで
- 雇用確保を促す税制:各年度の税制改正で適用期限が定められる
手続きが複雑で時間がかかる
経営資源集約化税制の活用には、経営力向上計画の策定や税務申告など、専門的な知識が必要となります。税理士や公認会計士、M&Aアドバイザーなどの専門家のサポートを受けることを検討してみてください。
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M&Aを成功させるポイント
経営資源集約化税制を活用してM&Aを成功させるためには、以下のポイントに注意する必要があります。
明確な目的を持つ
M&Aを行う目的を明確にし、自社の経営戦略に沿った形で実施することが重要です。単に税制優遇を受けるためだけにM&Aを行うのではなく、長期的な視点で自社の成長につながるかを検討しましょう。
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適切なデューディリジェンスを実施する
M&Aを成功させるためには、対象企業の財務状況や法的リスク、事業の将来性などを適切に評価することが不可欠です。専門家の協力を得ながら、綿密なデューディリジェンスを実施しましょう。
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シナジー効果を最大化する
M&A後の統合プロセスを慎重に計画し、両社の強みを活かしたシナジー効果を最大化することが重要です。経営資源集約化税制の設備投資減税や雇用確保を促す税制を活用し、積極的な投資を行うことで、より大きな効果を得ることができます。
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コミュニケーションを重視する
M&Aの成功には、従業員や取引先、顧客とのコミュニケーションが欠かせません。特に、従業員の不安を解消し、モチベーションを維持するためには、適切な情報共有と丁寧な説明が必要です。
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PMIを適切に実施する
M&A成立後の統合プロセス(PMI)を適切に実施することが、M&Aの成功につながります。経営資源集約化税制の支援措置を活用しながら、組織体制の整備や業務プロセスの統合、企業文化の融合などに取り組みましょう。
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M&Aに係る減税措置のまとめ
経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aを支援する重要な制度です。この制度を活用することで、M&Aに伴う税負担を軽減し、より積極的な投資や事業拡大が可能となります。2024年度の税制改正により、さらに使いやすい制度となりましたが、適用要件や期限には注意が必要です。M&Aを成功させるためには、税制優遇措置の活用だけでなく、明確な目的設定や適切なデューディリジェンス、シナジー効果の最大化、コミュニケーション、PMIの実施など、総合的なアプローチが重要です。専門家のサポートを受けながら、自社の成長戦略に沿った形でM&Aを実施し、経営資源集約化税制を効果的に活用することで、中小企業の持続的な成長と競争力強化につなげることができるでしょう。
みつきコンサルティングは、会計系M&A仲介会社の強みとして経営コンサルティング経験者も多くおり計画策定や行政への申請ノウハウも持ち合わせおります。M&Aと合わせて税制優遇や助成金などを活用する際は、弊社へ一度ご相談ください。
著者
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
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