M&Aにおけるシナジー効果とは、グループ化することで1+1が2より大きくなるようなビジネス上の相乗効果(売上拡大や利益増加など)がある場合の、その効果をいいます。本記事ではM&Aを検討する経営者に向けて、シナジー効果とは何か等を解説します。
シナジー効果とは
M&Aにおけるシナジー効果とは、譲渡企業と譲受企業がM&A実行により一緒のグループになることで、お互いのリソースの活用や弱みの補完により収益増加やコスト削減などの効果のことを指します。
なお一般に、シナジーとは、英語のsynergyのことで、複数で協力し合うことにより、単体で行うよりも良い機能を発揮することや良い効果を得ることを指します。ビジネスの世界では相乗効果など言われ、複数社の協力により1社だけでは達成できないポジティブな効果という意味で使われます。
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コンプリメント効果(相補効果)との違い
コンプリメント効果とは、相補効果とも呼ばれ1つの企業が所有する資産を複数の事業に活用したことによって得る効果のことを言います。一方、シナジー効果(相乗効果)は、複数社の協力により1社だけでは達成できないポジティブな効果のこと言います。
コンプリメント効果とシナジー効果は、範囲の経済において発生する効果で、コスト削減やブランド力の共有などが代表的な効果と言えます。M&Aにおいては、企業同士が合併・買収しお互いの協力により、よりポジティブな効果を生むシナジー効果の方が重要と言えます。
アナジー効果(相互マイナス効果)との違い
アナジー効果とは、シナジー効果の対義語として使われます。複数社の協力により1社だけで得ることのできないポジティブな効果を得るという意味のシナジー効果に対して、ネガティブな効果を得ることをアナジー効果と言います。
M&Aにおいては、多角化経営の失敗、キーマンや優秀人材の退職、主要取引先の離脱などM&A実行後に起こるネガティブ効果のことを指します。アナジー効果を出さない為にも、譲受企業はPMI作業(M&A後の経営統合作業)を慎重に行うことが重要と言えます。
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シナジー効果と企業価値評価
シナジー効果は、M&Aにおける譲渡企業の企業価値算定金額に影響することがあります。譲受企業が、譲渡企業とのM&A実行により大きなシナジー効果が期待できる場合、譲渡企業の企業価値にシナジー効果の価値を加算しM&A取引価額を決定することがあります。主にのれん代として加算されることが多く、譲受企業がどのくらい対象会社とのM&Aを成約させたいかを図る指標の一つとも言えるでしょう。
シナジー効果の定量化
M&Aの最終的な取引金額は、定量化したシナジー効果を基に決定されます。譲渡側・譲受側双方のシナジーをリスト化、譲受側の事業計画に基づいて、項目ごとにシナジー効果がもたらす予想金額の算定・実現可能性の検討・コストの見積もりなどの分析を行いM&A取引額が決定されますので、シナジー効果の定量化は慎重に行うことが重要です。
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シナジー効果の種類
M&Aは、2つ以上の企業が合併・買収することを言い、M&Aでグループとなった企業同士の協力で1社では得ることのできないポジティブな効果を得ることが重要となります。M&Aにおけるシナジー効果の例を紹介します。
売上シナジー
譲渡側・譲受側の生産設備や流通経路など共有、譲渡側・譲受側の取引先や顧客へ自社製品以外の製品販売、グループのブランド力の活用により単価の向上・製品やサービスの認知度向上など、お互いの売上増加を実現する効果のことを言います。売上シナジーは、クロスセリング・アップセリング・ブランド効果を得ることにより実現できるシナジーです。
研究開発シナジー
研究シナジーとは、M&Aで同じグループとなった企業がそれぞれの得意とする分野の技術を掛け合わせることによって、自社の研究分野の技術を向上せることを言います。研究開発シナジーが新商品開発や既存商品のアップデートに寄与することが期待できます。また、商品開発やアップデートのみならず管理システムや研修制度など自社の間接部門分野による開発シナジーなども期待されます。
コストシナジー
コストシナジーとは、M&Aで同じグループとなった企業の協力で、仕入れ量のスケールメリットによるコスト削減や営業拠点や生産拠点の統廃合による人件費・事務所費用などの削減などの効果を得ることを言います。この他にも、物流機能の共有による輸送費削減やグループの一括採用による広告費削減などM&A実行は多くのコストシナジーを期待することができます。
財務シナジー
財務シナジーとは、M&Aによって資金調達力を強化する効果を言います。例えば譲渡企業の金融機関借入の条件は譲受企業の借入条件よりも悪い(利率が高い)ことが多い為、M&A実行後、譲受会社のグループ会社になることにより借入条件が譲受企業の借入条件に変更されることにより、金融機関の借入コストの削減が可能でとなります。
「アンゾフの成長マトリックス」とは
M&Aのシナジー効果を予測する為のフレームワークとして、「アンゾフの成長マトリックス」があります。戦略的経営の父と呼ばれるアメリカ人経営学者のイゴール・アンゾフが提唱したもので市場環境が大きく変わるなかで、自社が成長を続けるためには、どのような成長戦略をとれば良いのかを考える為のフレームワークです。
具体的には、成長戦略を「市場」と「製品」、「既存」と「新規」に分け、「市場浸透」「新製品開発」「新市場開拓」「多角化」の4象限のマトリクスでどの戦略をとるかの検討・分析・決定を行う為のフレームワークで、M&Aのシナジー効果を分析する上でも活用できるフレームワークです。
M&Aにおけるそれぞれの4象限について解説致しますので、自社のM&A戦略を検討する際の参考にしてください。
既存製品 | 新規製品 | |
既存市場 | 市場浸透戦略 | 製品開発戦略 |
新規市場 | 新市場開発戦略 | 多角化戦略 |
※アンゾフの成長マトリックス
市場浸透戦略
M&Aにおいての市場浸透戦略とは、既存市場で既存製品の競争力を高める為、譲受企業が同業他社を対象会社としてM&Aを実行する戦略を言います。譲受企業は既存事業の規模の拡大で、売上拡大やコスト削減が見込めます。
自社の既存市場で既存商品から戦略を練る為、市場の知見やノウハウがあることから他の経営戦略に比べてリスクが低いと言えるでしょう。事業規模の拡大でシェアを拡大となりますが、競合との差別化や自社の強みを磨くことが重要となります。
新製品開発戦略
M&Aにおいての新製品開発戦略とは、既存市場で新製品の販売を強化する為、譲受企業が同業で異なる商品を扱う会社を対象会社としてM&Aを実行する戦略を言います。
その他にも、ブランドの確保や技術や特許の確保の為のM&Aもこれに該当します。例えば水回りの住宅設備販売会社が、空調設備販売会社のM&Aを実行し住宅設備販売のサービスラインを拡充や、機械設備メーカーが川上の機械設備設計会社のM&Aを実行するなどの戦略が考えられ、複数の事業展開で経営効率のアップが期待できます。
新市場開拓戦略
M&Aにおいての新市場開拓戦略とは、既存サービスで新市場開拓の為、譲受企業が他エリアの同業他社を対象会社としてM&Aを実行する戦略を言います。その他にも自社が開拓できていない大手取引先の口座獲得や同業種の異なる取引先の獲得などが該当します。
例えば首都圏を主要エリアとするリフォーム会社が、東海圏を主要エリアとする同業者とのM&Aや家電向けのソフトウェア開発会社が、自動車向けのソフトウェア開発会社のM&Aを実行するなどの戦略が考えられ、既存サービスの規模の拡大による収益アップが期待できます。
多角化戦略
M&Aにおいての多角化戦略とは、新市場で新製品に参入する為、譲受企業が、異業種の他社を対象会社としてM&Aを実行する戦略を言います。例えば、建設会社が介護業界進出の為のM&Aや、飲食店運営会社によるスポーツジム運営会社のM&Aなどが該当します。
譲受企業は、既存事業以外の成長戦略として新たな柱事業の構築など多角化戦略を実施する企業が増えています。知見やノウハウがない分リスクは高い戦略となりますが、業界や事業の分散で不景気時のリスクヘッジに有効な戦略と言えます。
同業種・異業種でのシナジー効果
M&Aの対象企業を、同業種・異業種どちらの企業を選ぶかによって得られるシナジー効果が違います。それぞれどのようなシナジー効果が得られるのかの解説をしますので参考にしてみてください。
同業種間のM&Aによるシナジー効果
同業種のM&Aは、既存事業強化となるシナジー効果が期待できます。生産能力の向上や販路拡大による売上シナジーや原料の共同購入や生産・営業拠点の統廃合など生産性・経営の効率化、既存事業拡大の為の時間や投資コストの削減などコストシナジー効果が期待できます。これは既存市場においても新規市場においても獲得できるシナジー効果と言えます。
異業種間のM&Aによるシナジー効果
異業種のM&Aは知見やノウハウがない為、M&A後の予想が難しいことからリスクは大きいと言えますが、同業種のM&Aよりも大きなシナジーも期待することができます。通常、新規事業参入には市場調査・設備投資・投資回収までの資金など時間とコストが多くかかることが一般的です。
しかし、自社が参入したい事業をすでに運営している企業とM&Aを実行することにより、市場の知見や販売ノウハウなどを獲得できることから時間とコストの削減に大きく貢献します。また、新規事業は自社の新しい柱事業として収益拡大が期待できます。
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M&Aによるシナジー効果の事例
M&A実行により大きなシナジー効果を得ることができた成功事例を紹介します。シナジー効果は効果としての大小はありますが、企業規模の大小に関わらず効果を得ることが可能ですのでM&A戦略検討時の参考にしてください。
【大手企業】オイシックス・ラ・大地株式会社
オイシックス・ラ・大地株式会社は、2018年にNTTドコモから、らでぃっしゅぼーや株式会社の株式を100%譲受しました。
同業種のM&Aとなり、オイシックス・ラ・大地としては、「Oisix」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の3ブランドを展開。有機野菜宅配業界のシェア拡大により同業界の最大手となり、食品宅配市場での地位を確固たるものにしました。
【大手企業】日本電産株式会社
日本電産株式会社は、積極的なM&Aによって事業を拡大してきた企業として知られます。2022年までに68社のM&Aを実行してきました。日本電産は技術力の向上・販路の獲得の為に要する時間を買うという考え方でM&A戦略を選定。
モーター事業に関連する企業に特化しM&Aを実行し部品調達の一元化によるコスト削減などのシナジーで収益を拡大、最近では工作機械メーカーなどのM&Aを実施で新規事業参入も果たすなどM&Aを活用し飛躍的な事業拡大を実現した企業です。
【中小企業】小野写真館
小野写真館株式会社は、2020年温泉旅館の桐のかほり 咲楽をM&Aにて譲受しました。異業種同士のM&Aですが、お互いの強みを掛け合わせることによりシナジー効果を得ることができた事例と言えます。
小野写真館の提供する写真撮影・衣装レンタルサービスを顧客の満足度向上の為、客室が4部屋の小規模旅館である桐のかほり 咲楽にフォトスタジオを併設したり、貸し切りウェディング場として活用したりするなど感動体験施設として事業を展開。お互いのリソースを掛け合わせることにより顧客満足度の向上を図り、売上シナジーを得た事例となります。
【中小企業】丸井織物株式会社
合成繊維メーカーの丸井織物株式会社は、2019年ネイルチップを販売する株式会社ミチからネイルチップ販売サイトの「ミチネイル」の事業を譲受。異業種のM&Aとなりますが、お互いの強みを生かしM&A実行後も良い関係性で事業運営を行っている事例です。
丸井繊維は、子会社にデジタルマーケティングを強みとする会社を持っており、ECサイト運営とのシナジーを見込みM&Aが成立。ECサイト運営は丸井織物として新規参入事業となりますが、M&A後も譲渡側の支援を受けるなど良好な関係性を構築し事業運営を行う事例となります。
M&Aにおけるシナジー効果のまとめ
M&Aにおけるシナジー効果は、M&Aを実行する相手によって変わります。譲渡側・譲受側共に自社のM&A戦略において、どのようなシナジー効果を求めたいのかを明確にした上で、相手の選定が必要となります。
弊社みつきコンサルティングは、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先の紹介が可能です。また、候補先からの事業分析や企業価値算定の為の事業計画書の作成などの依頼にも対応しております。これらの体制で経験豊富なM&A担当者が、各企業様に専任で付きM&A成功への支援を実施致しますのでM&Aご検討の際には、是非ご相談ください。
著者
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
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