M&A仲介会社の選定は、企業の将来を左右する重要なプロセスです。本記事では、M&A仲介会社の特徴や選び方のポイント、注意点を詳しく解説します。適切な仲介会社を選んで、円滑なM&Aを実現しましょう。
M&A仲介会社とは
M&A仲介会社とは、企業の譲渡や譲受を希望する当事者の間に立ち、中立的な立場でM&Aの成立をサポートする機関です。M&A仲介会社は、特に譲渡オーナーにとっては、M&Aに関する殆どすべてのプロセスを支援してくれる存在になります。具体的な役割には、以下のようなものがあります。
- お相手候補先の選定
- 企業価値の概算、譲渡価格の調整
- スケジュール調整
- 交渉・協議の仲介
- デューデリジェンスのコーディネーション
- 各種契約書など重要書類の作成支援
これらの業務を通じて、M&A仲介会社は取引の円滑な進行と成功を支援します。
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M&A仲介とFAの違い
M&A仲介会社とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、似たような役割を果たしますが、重要な違いがあります。
- M&A仲介:中立的な立場で両者をサポート
- FA:契約した一方の利益を最大化することを目指す
また、手数料の受け取り方にも違いがあります。M&A仲介は両者から手数料を受け取りますが、FAは契約した一方からのみ手数料を受け取ります。
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M&A仲介会社の種類と比較
M&A仲介会社は、その成り立ちにより、幾つかの種類に分けることができます。中小企業庁によると、M&A支援機関に登録されている仲介業者(FAを含む)は、2025年1月20日時点で2,873件あり、その内訳は以下のとおりです。

中小企業庁「令和6年度公募(12月分)における登録について」を当社にて加工
数の上では、税理士と公認会計士を合わせた会計事務所(733事務所)が最大勢力です。また、経営コンサル(470社)の中にも会計事務所を母体とするコンサルティング会社が少なからず含まれているため、それも合算した「会計事務所系」が最大のシェアを占めています。
上記のデータにM&A仲介業の現場感覚を加味すると、現実的な相談先となるM&A仲介会社は、以下の2つに集約されると考えられます。
- 営業会社系
- 会計事務所系
なお、銀行等の金融機関も身近な相談先ですが、融資背景から相談し難い場合があるため、除いています。また、プラットフォーム事業者は、小規模案件に適しているなど利点もありますが、マッチングサイトに抵抗を感じる経営者もいるため、除いています。
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営業系の仲介会社とは
ここで言う営業会社系の仲介とは、営業色の強いM&A仲介会社を指します。これらに共通する特徴は、経営者を含む幹部人材の全員(または殆ど)が他業種での営業職からの転職組であるため、営業力が強いことです。中小企業のオーナー経営に対して、日夜、お手紙や電話、テレビCM等、様々な手段で接触・広告を試みます。そのような活動の結果、現状では、国内のM&Aの多くを営業系仲介が支援しています。
営業系仲介は、設立母体となった会社の業種によって、人材系、IT系、不動産系、医療系などに細分化することができますが、そのような特定のカラーのない仲介会社が大多数になります。そこで以下では、営業系仲介を上場会社と非上場会社に分けて、それぞれの一般的な特徴を紹介します。
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上場している営業系仲介
約10社のM&A仲介会社が株式を上場しており、今後も増加することが見込まれています。コンサルタント個人の力量が成否を左右するM&Aにおいて、そのコンサルタントが所属している仲介会社が上場しているか否かは関係ありません。しかしながら、多くのM&A仲介の中から信頼できる(信頼できそうな)会社を選択する上で、上場会社の看板が安心材料になる面はあるでしょう。
強い営業力
上場している仲介会社は特に、営業に力を入れています。潜在的な譲渡オーナーへの架電件数、アポイント件数、契約受託件数、手数料収入などに高いノルマがあり、達成できたコンサルタントらには高い業績賞与が支給される仕組みです。ノルマ未達者への扱いは、ここでは言及しません。
四半期ごとの業績プレッシャー
上場企業であるため、四半期ごとに業績を公表する必要に迫られます。このことが、M&Aという業務の性質とは相いれないデメリットを生む可能性があります。例えば、顧客の利益よりも自社の業績のために、スピードを重視した案件の進行になる可能性があります。
分業制
すべてのM&Aのプロセスを同じコンサルタントが担当しない上場会社は多いです。譲渡側と譲受側で担当者が分かれていたり、企業概要書や最終契約の作成、譲受候補のリスト化・打診(マッチング)などの専門性の高い業務を社内アウトソースするなど、分業制を図っている会社が少なくありません。
安心感
上場企業であることから、一定の信頼性があります。企業規模等に惹かれ、安心して任せたい方にとっては、上場会社の看板は魅力になるでしょう。
主なM&A仲介会社
上場している主な営業系仲介は、以下の会社です。
▷関連:M&A仲介会社の売上高・成約件数の比較|大手に依頼すべきか?
非上場の営業系仲介
M&A仲介は上場していない会社が大部分です。それらの会社の得意業種や地域、成約実績などは千差万別になります。
一気通貫のサービス提供
非上場仲介では、担当者が一気通貫で案件に携わることが多いです。案件の始まりから終わりまで、同じ担当者または少人数のチームが全てのプロセスを担当するわけです。その背景は様々で、分業したくでも人員規模的にできない、コンサルタントの地力を付けるために敢えて分業しない等です。譲渡側・譲受側双方の想い・事情を踏まえた機微な対応は、一気通貫型でなければ難しく、それが顧客満足にも適う、という見方もあります。
柔軟な案件進行
上場企業のような四半期ごとの業績プレッシャーがないため、顧客のペースに合わせた柔軟な対応が可能です。じっくりと時間をかけて最適なお相手候補を探したり、交渉を進めることが可能です。
柔軟な手数料設定
非上場仲介も、手数料の体系そのものは上場仲介と大差ないことがあります。ただし、譲渡企業が小規模な場合などでは、最低報酬(1000万円~2000万円が多い)の設定でディスカウントがあるなど、柔軟な対応が期待できます。また、小規模案件を専門に扱うM&Aブティックでは、手数料体系そのものが他社と異なることがあります。
領域特化
非上場仲介の中には、特定の業界や地域の企業に特化したサービスを提供している会社があります。そのため、その分野に関する深い知識と経験を持つコンサルタントが在籍していることがあります。
主なM&A仲介会社
非上場の営業系仲介は、数多くあります。あくまで一例ですが、以下のような会社があります。
注)独立系の会社のみを掲載しています。
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会計系の仲介会社
ここで言う会計事務所系のM&A仲介会社とは、会計事務所の1部門または会計事務所を母体とするコンサルティング会社を指します。以下に、会計系仲介の主な特徴を紹介します。
非上場の営業系仲介と共通の特徴
会計事務所系のM&A仲介会社も、上記「非上場の営業系仲介」と以下の点で同じ特徴を持っています。
- 一気通貫のサービス提供
- 柔軟な案件進行
- 柔軟な手数料設定
これらに加えて、会計系仲介は、以下のような独自の特徴も備えています。
信頼性の高さ
会計事務所系のM&A仲介会社の最大の特徴は、その信頼性の高さです。業歴のある税理士法人は、長年の実績と信頼関係を持つ顧問先企業と、公認会計士法・税理士法の両面から、高度な職業倫理を保つことが求められるため、顧客からすると安心です。また、組織化された税理士法人であれば、情報管理を含む社内管理体制も整っており、上場会社並みに安全です。
中小企業への理解が深い
会計系仲介の母体となる会計事務所の長年の顧問先は中小企業です。そのため、中小企業のオーナー経営者が、どのような思いで事業を運営してきたのか、譲渡に向けての葛藤などを、深い部分で理解できます。M&A業界では、顧客に「寄り添う」ことが謳われますが、中小企業の経営者の心情を理解した上で、真に寄り添うことができるのが会計系仲介の特徴です。
高度な専門性
会計系仲介は、税務・会計に関する深い知識と経験を持つ専門家が多数在籍しています。特に税務面は、譲渡側にとっては手取金額を、譲受側にとっては実質的な譲受価格をシミュレーションする上で最重要であり、ときに高度かつ詳細な分析・助言が必要となります。また、譲渡後のオーナー家の相続まで視野に入れた助言が可能である点も、会計系仲介の持ち味です。
総合的なサービス提供
法務や労務に関しては、会計系仲介は弁護士や司法書士、社労士等と緊密なネットワークを構築しているため、M&Aの前後で必要となる様々な専門的サービスをワンストップで提供できます。その他、いわゆる事業承継型M&Aは勿論のこと、それ以外の、例えば以下のようなケースにも、会計系仲介は対応できることが多いです。
- 再生型M&A
- 将来のIPOを前提としたM&A
- クロスボーダーM&A
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主なM&A仲介会社
会計系仲介のうち十分に機能している会社は、まだ少ないのが現状です。ただし、前記のデータが示すように潜在母数は多いため、今後は増加すると思われます。

M&A仲介会社を選ぶポイント
M&A仲介会社を選ぶ際には、以下のようなポイントを比較することが重要です。
サポート体制
サポート体制の充実度は、M&Aの円滑な進行と満足度に直結します。以下のような点を確認しましょう。
- 担当者の業歴、経験、実績
- チーム体制(上司の経験・実績、一気通貫か分業制か)
- 提供されるサービスの範囲(企業価値算定、デューデリジェンスのサポートなど)
- コミュニケーションの頻度と方法
上記のほか、M&Aは担当する個人の能力に依存する面が大きいため、担当コンサルタントの誠実性・倫理観など、人柄も重要なチェックポイントになります。2024年に発覚した問題事案では、15社のM&A仲介会社が譲渡代金を支払わない等の問題ある買い手を紹介しており、15社の中には上場仲介も含まれているようです。
参考:日本経済新聞「悪質な中小M&A、仲介15社に再発防止指示 経産省」
手数料体系
M&A仲介会社の手数料体系は多様です。主な費用項目とチェックポイントは以下のとおりです。
着手金の有無
M&A仲介会社によっては、着手金が発生するケースがあります。譲渡側では、作業料や調査費用といった名目で請求されることが多いです。一方、譲受企業に対しても、具体的な情報や資料提供を行う際に費用が請求される場合があります。
中間金の有無
譲渡オーナーと譲受企業の間でM&Aに関する基本合意書を締結する際に、中間金が発生することがあります。この中間金は、最終的に想定される成功報酬金額の10%~20%程度が一般的な目安とされています。
月額報酬の有無
着手金や中間金とは別に、M&A業務の進行中に発生する作業や業務に対して、月額報酬が請求される場合があります。ただし、極めて稀です。
成功報酬の算定基準の違い
M&Aの成功報酬においては、譲渡価額や移動総資産などの「基準金額」に対して1~5%の料率を乗じる「レーマン方式」が採用されることが一般的です。ただし、この「基準金額」となる数値が譲渡価額なのか移動総資産なのか等によって報酬額が大きく変動します。
成功報酬としての「最低報酬」金額
完全成功報酬制を謳うM&A仲介会社では、着手金や中間金などの費用は発生しません。しかしながら、必ずしも費用が抑えられるとは限りません。一般に、最低報酬の設定があるからです。
最低報酬は1000万円~2000万円が一般的ですが、零細企業に特化したM&Aブティックなどでは300~500万円の設定も散見されます。反対に、一部の大手M&A仲介では2,500万円の設定も見受けられます。譲渡価格が5億円未満と想定される場合には、この最低報酬の金額設定が重要となりますので、その仲介会社の手数料体系や、案件サイズに応じて柔軟にディスカウントしてくれるか等、確認すると良いでしょう。
▷関連:M&Aの手数料は、いつ支払う?着手金・中間金・成功報酬の時期とは
成約実績、ユーザーの声
M&A仲介会社の信頼性と実力を判断する上で、成約実績とユーザーの声はヒントになります。
成約実績・件数
成約実績を確認する際は、単純な件数だけでなく、以下のような観点から評価することが重要です。これらの情報は、多くの場合、仲介会社のホームページ等で確認できます。ホームページ等での掲載が十分にない会社は、実績が乏しい可能性があるため、注意が必要です。
- 規模感:自社と同程度の規模の案件実績があるか
- 業種:自社の業種における実績があるか
- 地域:自社の地域での実績があるか
- 成約率:案件の成約率はどの程度か
なお、「成約率」とはM&Aの成約件数÷受託件数ですが、そのM&A仲介会社の取組姿勢を類推することができます。営業優先の仲介会社では、譲渡オーナーから仲介契約を受託だけしておいて、その後マッチングが難しいと見るや距離を置く行動を取ることがあるため、成約率は低くなります。他方で、お相手探しを粘り強く継続するスタンスの仲介会社は、成約率が高くなります。
ユーザーの声
ユーザーの声は、M&A仲介会社の実際のサービスの品質を知る手掛かりになります。例えば、以下のような方法で情報を集めることができます。
- 仲介会社がホームページ公開している顧客インタビューや事例紹介
- 業界誌やウェブサイトでの評価やレビュー
- 顧問税理士や知人からの評価
もっとも、公開されている情報は肯定的なものが多い傾向にあるため、可能であれば複数の情報源を比較検討すると良いでしょう。
利益相反の可能性
M&A仲介は、譲渡側と譲受側の双方から手数料を受け取るため、利益相反の可能性があります。特に以下のような点に注意が必要です。
- 買い手優遇の可能性:継続的な取引が期待できる買い手を優遇する可能性があります。
- 高額案件への偏重:成功報酬が高額になる大型案件を優先し、中小規模の案件を蔑ろにする可能性があります。
- スピード重視の交渉:早期成立を目指すあまり、十分な交渉や検討が行われない可能性があります。
これらのリスクを軽減するためには、以下のような対策が有効です。
- M&A仲介会社の取組姿勢を比較する
- 契約内容を十分に確認し、利益相反の可能性がある場合は明確に指摘する
▷関連:M&A仲介会社の利益相反問題とは?M&A仲介会社の選び方
取扱規模・業種・地域
M&A仲介会社によって、得意とする案件の規模や業種、地域が異なります。自社に合った仲介会社を選びましょう。
取扱規模
M&A案件の規模によって、適切な仲介会社が異なります。一般的な目安は以下の通りです。
- 100億円以上:外資系ブティック、投資銀行
- 50~100億円:メガバンク、証券会社
- 数億~50億円:M&A仲介会社、地域金融機関
- 数千万~10億円:M&A仲介会社、中小専門ブティック
- 数百万~5億円:M&Aプラットフォーム、事業承継・引継ぎ支援センターなど
取扱業種
特定の業種に特化したM&A仲介会社を選ぶメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 業界特有の知識とノウハウ
- 業界内のネットワークの活用
- 類似案件の経験による的確なアドバイス
なお、業歴が長く、組織化されたM&A仲介会社は、全業種に対応しています。
取扱地域
地域に密着したM&A仲介会社を選ぶメリットとしては、以下のようなものがあります。
- 地域のネットワークの活用
- 地域特有の商習慣や市場動向の理解
- 地域に根ざしたニッチな案件の取り扱い
なお、業歴が長く、組織化されたM&A仲介会社は、全国に対応しています。
M&A仲介の比較まとめ
M&A仲介会社の選定は、M&Aの成功に大きく影響する重要な場面です。自社の状況や目的に合った仲介会社を選ぶため、サービス内容、実績、費用などを十分に比較検討しましょう。仲介への取組姿勢や担当者の誠実性は、特に重要です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループが母体のM&A仲介に強い経営コンサルティング会社です。業歴が長く、M&Aの実績・経験が豊富なアドバイザーが担当します。M&Aなら、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第一部長
-
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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