企業買収とは|M&Aの一部・目的・利点と欠点・手法・流れ・注意点

企業買収とは、一方の会社(買い手企業)が、他方の会社(売り手企業)の株式や事業を取得する行為です。企業買収はM&Aの1つの手法であり、具体的な手法はさまざまあります。この記事では、企業買収とM&Aの関係や、近年の企業買収の動向、企業買収における目的やメリット・デメリット、具体的な手法や成功するためのポイントについて解説します。

企業買収とM&Aと違い

企業買収は、M&Aの一部で、ある企業が他の企業の経営権を取得する取引です。以下、詳しく解説します。

企業買収とは

企業買収とは、他社の事業を一部もしくは全てを買収するM&Aの1つの手法です。上場会社、非上場会社に限らず、企業価値は専用の計算式で算出され、株式の売買や交換といった方法で取引が行われます。

中小企業・小規模事業者における企業買収の現状

中小企業・小規模事業者においては、2025年までに70歳を超える経営者は245万人と言われており、そのうちの約半数127万人が後継者未定との統計があります。これは日本企業全体の1/3にあたり、後継者不足課題は深刻な問題となっております。こうした問題を受け、中小企業庁は2021年に中小M&A推進計画を策定。国をあげてM&Aを推進する方策を打ち出しました。

友好的vs敵対的

企業買収には同意なき買収(敵対的買収)と友好的買収があります。敵対的買収は、譲受側企業が譲渡側企業の取締役会の承認を得ず企業買収を行うことを言います。主に上場会社が譲渡対象企業となる際が多く、ほとんどの場合TOB(株式公開買付け)によって進められます。

一方で、友好的買収は譲受側企業と譲渡側企業の交渉の結果、譲渡側企業の取締役会で株式譲渡の承認を得て買収することを言います。近年は同意なき買収が増えてきているとニュースになることがありますが、それは上場企業の中の極一部の話であり、非上場企業の買収は常に友好的M&Aになります。

M&Aとは

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略称で、「合併&買収」を意味する言葉です。資本移動による「買収」「合併」を行うことを、一般的にM&Aと呼びます。M&Aは企業同士に限らず、企業と個人で実施されるケースもあります。近年はM&Aのプラットフォームの普及などによって、M&Aのハードルが下がっています。

M&A(買収)は投資の1類型

投資とは、一般に、リスクを取って資金を拠出し、その投資対象からリターンを得る取引をいいます。不動産投資や株式投資がの典型ですが、リスクマネーの共有と引き換えに、将来的に何かしらの果実を得る活動という意味では、M&Aによる買収も投資の一形態ということができます。

起業・独立する手段としてのM&A(買収)

自ら事業・会社を立ち上げるに際して、ゼロからスタートするやり方が一般的です。しかし、近年は、日本でもM&Aが一般化してきたため、既に存在する事業・会社を譲ってもらってスタートを切る起業家(アントレプレナー)も増え始めています。

企業買収の目的

譲受側企業のM&A戦略により企業買収の目的は様々です。代表的な例を紹介しますので、自社のM&A戦略策定の際の参考にしてください。

設備や人材など経営資源の確保

譲受側が譲渡対象企業や事業を買収すると、設備や人材、ノウハウや販売網など、目に見える資産から、技術力や営業力など目に見えない資産まで、さまざまな経営資源を獲得することができます。経営資源の獲得は、事業拡大や新規事業立ち上げ時に欠かせない要素で、企業買収することで、短期的且つ効率的に経営資源を手に入れることが可能です。

組織再編を促す

組織再編とは、グループ企業間で事業を統合したり、子会社化させたりすることを言います。組織再編によって、企業の競争力を高めたり、コスト(費用)削減効果を得たりと、経営の効率化を図ることができます。組織再編を目的とした買収の場合の買収スキームとしては、株式交換や株式移転、会社分割といった手法が用いられることが多くあります。

多角化によるリスク分散

企業買収をすることで、事業を多角化させ経営のリスク分散が可能になります。ここでいう事業の多角化とは、本業とはまったく関係のない事業をおこなう経営戦略を指します。事業の多角化は、企業が経営する1つの事業が収益悪化したとしても、多角化した別事業で利益を得ることができ、経営のリスク分散が可能となります。

節税効果が見込める

譲渡対象企業が赤字企業の場合、譲受企業は譲渡対象企業の繰越欠損金を引き継ぐことになります。引き継いだ繰越欠損金は、一定の条件のもと譲受企業の所得に含め利益を減らせることが可能になります。結果として、法人税の節税効果が期待できます。ただし、一定の要件に該当する場合、繰越欠損金は引き継ぐことができないよう制限がされているので注意が必要です。

企業買収のメリット・デメリット

企業買収は、様々なメリットとデメリットがあります。

買収のメリット

主なメリットは以下のとおりです。

事業拡大が進む

企業買収をすることで譲受側企業は、グループの売上規模や販売シェアが拡大できます。また、自社と同業企業を買収すれば、人材やノウハウ、販路を獲得できることや自社が展開していない地域の進出など既存事業のスケールアップにつなげられます。

コスト(費用)削減になる

企業買収により譲受側企業の事業規模が拡大することで、原料や資材の大量仕入れが可能となり、仕入れ値や原材料などのコスト削減が期待できます。また、優れた人材や技術、拠点を獲得することで生産性の向上や物流の効率化が進み、コスト(費用)削減効果が期待できます。

競争力のスピーディーな強化

企業買収をすることで、人材確保・育成や新規事業の創出といった、時間がかかることも早期に達成することが可能です。買収は企業や事業を急速に成長させる可能性を秘めており、ひいては企業のスピーディーな競争力強化を達成することができます。

シナジー(相乗効果)の創出

M&Aにおけるシナジー効果とは、譲渡企業と譲受企業がM&A実行により一緒のグループになることで、お互いのリソースの活用や弱みの補完によりシナジー効果を創出することが期待できます。シナジー効果の例としては、収益増加やコスト削減などがあります。

新規事業・地域への参入ができる

譲受側企業が未参入分野の企業を買収すれば、新規分野への参入が可能です。ノウハウや取引先、その事業分野での経験値も保有した状態から事業をスタートできる為、自力で新規事業を立ち上げ参入するよりも失敗リスクが大幅に軽減できます。

また、従前より、大企業では、海外企業を買収することで、事業エリアをグローバルに広げる動きが見られたところです。これに加えて近年は、中堅企業がASEAN地域などにローカル企業を買収することで進出や事業拡大しています。

買収のデメリット

企業買収は他社が運営していた会社を買収しますので、過去の事業運営状況をすべて把握することができません。また、企業文化や社風も異なり同じグループとして統合することは簡単ではありません。買収後の過去の運営状況や企業文化等のすり合わせ時に起こるデメリットもありますので代表的なものを紹介します。

簿外債務や偶発債務が発生する可能性がある

株式譲渡スキーム等で企業の全部を買収する場合、簿外債務や、偶発債務も引き継ぐリスクがあります。簿外債務とは、未払い賃金や退職給付債務など貸借対照表に計上されていない債務のことを指します。偶発債務とは、現時点では債務ではないものの将来、訴訟等の賠償請求が発生する等のリスクを言います。

PMI(統合プロセス)の負担が増大

企業買収後は、譲渡対象企業と譲受企業のシナジー効果を最大限に発揮する為、PMI(経営統合プロセス)が欠かせません。PMI(経営統合プロセス)の際は、人員配置や人事制度、労働条件などをグループ方針に沿って統合することがあり、従業員にとっての負担が大きくならないよう、慎重に実施することが必要です。

人材流出のリスクが高まる

買収後のPMI(統合プロセス)が、不十分だと譲受企業の役員や従業員との関係が悪化し、譲渡対象企業の人材が離職したり、転籍を拒んだりするケースがあります。PMI(統合プロセス)における労働環境や人事評価制度の変化は、人材流出の要因になりますので慎重に行うようにしてください。

のれん減損リスクが発生

「のれん」は、譲渡対象企業の時価純資産と買収対価額の差額のことを言います。買収当初に想定していたよりも収益力が低い場合などは、のれんを減損損失や株式評価損として計上する必要があります。買収金額の高掴みは、譲受側の業績にも大きく影響することになります。

企業買収の手法

M&Aにおいては、事業の一部のみを買収することもあれば、株式を100%取得して会社全体を買収するケースもあります。M&Aの買収には、「株式譲渡」「株式交換」「事業譲渡」「第三者割当増資」といった方法があります。各買収方法の特徴を理解し、最適なものを選ぶことがM&Aの成功につながるポイントです。

株式譲渡

M&Aにおける株式譲渡とは、50%超の株式を金銭などの対価と引き換えて買収する方法を意味します。買収された企業は譲受側の子会社となり、事業継続が可能となります。株式譲渡には、直接株式を売買する「相対取引」、株式証券取引所で上場企業の株を買う「市場買付け」、不特定多数の株主から株式を買い集める「TOB(公開買い付け)」があります。

株式交換

株式交換とは、子会社となる企業の発行済株式のすべてを、親会社が取得するM&Aの方法です。買収された企業は別法人として存続できるため、余裕のある経営統合が可能な点が特徴です。2022年に法律が改正され、「株式交付」という制度が創設されました。株式交換においては、すべての株式を対象としなければなりませんが、株式交付では一部の交換が可能になっています。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の一部、もしくはすべてを買収するM&Aの方法です。事業用資産や権利義務に加えて、会社の事業部が持つ独自のノウハウなどの無形資産も譲渡の対象になる点が特徴です。事業譲渡によるM&Aでは、譲渡側の会社が対価を受け取るため、株主は直接利益を得られません。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を発行する方法です。出資を受ける形になるため、財務基盤の強化や事業継続などに効果が見込めます。公開会社は発行可能株式の総数範囲内なら、取締役会決議で新株の発行が可能です。そのためスムーズなM&Aが実施できますが、いくつかの要件に当てはまると、株主総会の普通決議もしくは特別決議が必要になります。

合併とは

M&Aは買収以外に「合併」による方法もあります。以下では、M&Aにおける合併の基本について解説します。

合併とは、複数の会社を統合させるM&Aの手法です。会社そのものを消滅させて、その会社が持っていた権利義務をほかの会社に引き継がせることが特徴です。一般的にグループ内の組織再編を目的として、実施されることが多い手法となっています。M&Aの合併には、「吸収合併」と「新設合併」があり、それぞれ異なる特徴・メリットがあります。

吸収合併とは

吸収合併とは、合併によって消滅した会社の権利や義務を、合併後の会社が引き継ぐ方法です。法人格を一体化することから、高いシナジー(相乗効果)が期待できます。資産だけでなく負債も引き継ぐ点がポイントであり、資産の管理に悩む経営者は、吸収合併で権利を放棄する方法も考えられます。

新設合併とは

新設合併とは、消滅する会社の権利・義務を新設される会社が引き継ぐ形式です。合併するすべての法人格が消滅することから、吸収合併と比較して必要な手続きが多くなります。また、消滅する会社の許認可や免許はなくなるため、新設会社が新規で取得する必要があります。

その他のM&A手法

M&Aには、買収と合併以外にも方法があります。

会社分割とは、譲渡側の企業が持つ特定の事業を、ほかの会社に承継する方法です。M&Aにおいて会社分割を実施する際には、新規に交付された株式を、譲受企業に譲渡する形が取られます。事業に関する権利・義務を、新設する会社に継承する場合には「新設分割」、既存会社に継承する場合には「吸収分割」と呼びます。

企業買収の流れ

M&Aにおける買収を実施する際には、手順の理解も重要です。以下では、M&Aの買収手順について解説します。

M&Aの目的達成を実現できる会社を選定する

M&Aの目的達成を実現できる会社を設定し、実際に選定します。求めるシナジー(相乗効果)を生み出せるように、慎重な判断が必要とされる段階です。M&Aにおける当初の目的から外れないように、軌道修正をこまめに実施しつつ最適な交渉先を探します。

M&Aで実施する買収方法を決める

先に解説した買収方法から、M&Aで実践するものを選択します。買収の目的や譲渡先企業との交渉を通して、最適な方法を導き出すことが重要です。買収方法の選定に悩む際には、早めにM&A仲介会社などに相談することも対策になります。

対象会社(事業)の企業価値評価を実施する

納得のいく買収結果を出せるように、M&Aの際には買収価格の企業価値算定を実施します。企業価値算定の方法には、主に以下の種類があります。

コストアプローチ:純資産を基準に、企業価値算定をする方法
インカムアプローチ:将来性を考慮した収益力で、企業価値算定をする方法
マーケットアプローチ:株式市場・M&A市場の取引金額で、企業価値算定をする方法

買収後の経営統合に注力する

M&Aは買収を実行して終わりではありません。むしろ、その後の対象会社との経営統合作業(PMIとも言われます)こそが企業買収の成否を決める重要なプロセスとなります。

企業買収の価格相場(目安)

企業買収の価格は、譲渡対象企業の規模や目に見えない価値(ノウハウや取引先等)により、大きく変わります。

また、企業買収にかかる費用としては、企業を買収する費用だけでなく、仲介会社への仲介手数料やデューデリジェンス(買収監査・企業調査)実施費用などもあります。

企業買収のポイント

企業買収における成功と失敗のポイントについて解説します。

成功のポイント

譲受企業における企業買収を成功させるポイントを紹介します。

シナジー(相乗効果)を見極める

企業買収のメリットとして、シナジー効果の創出があります。譲渡対象企業と譲受企業が同じグループになることで得られるシナジー効果は、お互いの経営基盤強化に役立ちます。グループ売上の増加、大量仕入れによる単価交渉、物流網拡大による輸送体制の効率化など企業買収による様々なシナジーを想定することが重要です。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底する

企業買収には、事業や人材などの資産や経営資源のみを引継ぐわけでなく、譲渡対象企業にかかるリスクも引き継ぐことになります(株式譲渡の場合)。主なリスクとしては、未払い残業代や退職給付債務などの簿外負債、訴訟による損害賠償請求が発生するなどの偶発債務などが挙げられます。これらのリスクを回避する為、譲受側はデューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底して行うことが重要です。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)には、財務・税務・法務・ビジネス等の専門知識が必要なため、専門家へ依頼することをお勧めします。

大規模な企業買収は避ける

自社と比較し規模の大きな企業を買収すると、その分買収リスクも高まります。買収価格が高額となると失敗した際、譲受企業本体が再起不能となるほどの損失を抱えるケースも考えられます。また、買収企業の規模が大きくなるほど、買収後のPMI(経営統合プロセス)の検討事項も増える為、多くの時間が必要となりますので企業買収の経験値を積むまでは、大規模な企業買収は避ける方が良いでしょう。

PMI(統合プロセス)を徹底して行う

企業買収は買収が完了すること終わりではなく、業務フローや人材交流、人事評価制度や管理システムなど両社の統合作業が必要となります。想定通りのシナジー効果を得る為には、買収検討と並行してPMI(統合プロセス)を準備し、迅速かつスムーズなPMI(統合プロセス)の遂行が必要です。

信頼のおける専門会社を早期に頼る

企業買収は、検討フェーズごとに専門的な知識を要します。範囲や業務量も多いため、自社のみで検討を遂行することは困難と言えます。スムーズに買収を進めるためにも、早期に信頼のおけるアドバイザリー会社や専門会社を頼ることをお勧めします。

特にプロジェクト初期段階での譲渡案件のソーシングは、売り案件の掘り起こしに長けたM&A会社を利用することが考えられます。

企業買収の注意点

M&Aで買収をする際には、注意すべきポイントがあります。どのような点に注意が必要になるのかを紹介します。

希望条件で買収できない場合がある

M&Aでは、希望条件で買収できないケースもあります。譲渡側にも思惑や事情があるため、交渉が難航する可能性も十分に考えられるからです。譲受側は企業価値の向上を図り、好条件での買収が実現できるように備えることがポイントです。

買収の成約まで時間がかかる場合がある

M&Aを実施してから買収の成約まで、時間がかかる可能性があります。譲受相手がみつからずに焦って買収を決めると、想定していた結果を引き出せないことも懸念されます。M&Aでは中長期的な視点も持ちながら、買収先を探すことが重要です。成約率の高い仲介会社を利用し、クロージング(成約)までの流れを支援してもらうのも1つの対策です。

社内にM&A人材がいるか

M&Aを成長戦略の中核に据えている場合には、買収を積極的かつ繰り返し行っていきたいものです。そうなると、M&A会社等の協力をもらいながらも、経営トップ層とそれらプロフェッショナルの橋渡しとなる社内人材がいることが望ましいです。いない場合には、実績豊富で信頼できるM&A会社を選定していくことが重要になります。

企業買収のまとめ

M&Aを実施する際には、さまざまな手法が検討されます。買収による方法は柔軟性があり、スムーズな成約が可能なケースも多いです。「株式譲渡」「株式交換」「事業譲渡」「第三者割当増資」と、多くの手法がある点も特徴です。この機会にM&Aにおける買収についての詳細を確認し、具体的な計画に生かしてみてはいかがでしょうか。

M&Aによる買収を考える際には、「みつきコンサルティング」にご相談ください。財務のプロとして企業価値を正確に把握した上で、最適な提携先候補の検討とご提案が可能です。M&Aで少しでもお困りなら、ぜひ「みつきコンサルティング」にお問い合わせください。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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