企業買収とM&Aは違う?メリット・デメリットや手続・手法を解説

企業買収について考えたとき、詳しい内容を知らない人も多いと思います。企業買収はM&Aの1つの手法であり、具体的な手法はさまざまあります。この記事では、企業買収とM&Aの関係や、近年の企業買収の動向、企業買収における目的やメリット・デメリット、具体的な手法や成功するためのポイントについて解説します。

1.企業買収とは

企業買収とは、他社の事業を一部もしくは全てを買収するM&Aの1つの手法です。上場会社、非上場会社に限らず、企業価値は専用の計算式で算出され、株式の売買や交換といった方法で取引が行われます。

2.近年の企業買収とM&A動向

2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、日本企業のM&A件数は減少しました。しかし、2021年には再び増加し過去最高件数となり、更に2022年も4304件と過去最高件数を更新し、日本企業のM&A件数は増加傾向にあります。

中小企業・小規模事業者における企業買収の現状

中小企業・小規模事業者においては、2025年までに70歳を超える経営者は245万人と言われており、そのうちの約半数127万人が後継者未定との統計があります。これは日本企業全体の1/3にあたり、後継者不足課題は深刻な問題となっております。こうした問題を受け、中小企業庁は2021年に中小M&A推進計画を策定。国をあげてM&Aを推進する方策を打ち出しました。

参考:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf

3.企業買収の目的

譲受側企業のM&A戦略により企業買収の目的は様々です。代表的な例を紹介しますので、自社のM&A戦略策定の際の参考にしてください。

設備や人材など経営資源の確保

譲受側が譲渡対象企業や事業を買収すると、設備や人材、ノウハウや販売網など、目に見える資産から、技術力や営業力など目に見えない資産まで、さまざまな経営資源を獲得することができます。経営資源の獲得は、事業拡大や新規事業立ち上げ時に欠かせない要素で、企業買収することで、短期的且つ効率的に経営資源を手に入れることが可能です。

組織再編を促す

組織再編とは、グループ企業間で事業を統合したり、子会社化させたりすることを言います。組織再編によって、企業の競争力を高めたり、コスト(費用)削減効果を得たりと、経営の効率化を図ることができます。組織再編を目的とした買収の場合の買収スキームとしては、株式交換や株式移転、会社分割といった手法が用いられることが多くあります。

多角化によるリスク分散

企業買収をすることで、事業を多角化させ経営のリスク分散が可能になります。ここでいう事業の多角化とは、本業とはまったく関係のない事業をおこなう経営戦略を指します。事業の多角化は、企業が経営する1つの事業が収益悪化したとしても、多角化した別事業で利益を得ることができ、経営のリスク分散が可能となります。

節税効果が見込める

譲渡対象企業が赤字企業の場合、譲受企業は譲渡対象企業の繰越欠損金を引き継ぐことになります。引き継いだ繰越欠損金は、一定の条件のもと譲受企業の所得に含め利益を減らせることが可能になります。結果として、法人税の節税効果が期待できます。ただし、一定の要件に該当する場合、繰越欠損金は引き継ぐことができないよう制限がされているので注意が必要です。

4.企業買収の種類

企業買収には敵対的買収と友好的買収があります。敵対的買収は、譲受側企業が譲渡側企業の取締役会の承認を得ず企業買収を行うことを言います。主に上場会社が譲渡対象企業となる際が多く、ほとんどの場合TOB(株式公開買付け)によって進められます。

一方で、友好的買収は譲受側企業と譲渡側企業の交渉の結果、譲渡側企業の取締役会で株式譲渡の承認を得て買収することを言います。

5.企業買収のメリット

企業買収は、譲受側企業の経営基盤の強化を目的とした場合、様々なメリットがあります。メリットの一例を紹介しますので参考にしてください。

事業拡大が進む

企業買収をすることで譲受側企業は、グループの売上規模や販売シェアが拡大できます。また、自社と同業企業を買収すれば、人材やノウハウ、販路を獲得できることや自社が展開していない地域の進出など既存事業のスケールアップにつなげられます。

コスト(費用)削減になる

企業買収により譲受側企業の事業規模が拡大することで、原料や資材の大量仕入れが可能となり、仕入れ値や原材料などのコスト削減が期待できます。また、優れた人材や技術、拠点を獲得することで生産性の向上や物流の効率化が進み、コスト(費用)削減効果が期待できます。

新規分野への参入ができる

譲受側企業が未参入分野の企業を買収すれば、新規分野への参入が可能です。ノウハウや取引先、その事業分野での経験値も保有した状態から事業をスタートできる為、自力で新規事業を立ち上げ参入するよりも失敗リスクが大幅に軽減できます。

競争力のスピーディーな強化

企業買収をすることで、人材確保・育成や新規事業の創出といった、時間がかかることも早期に達成することが可能です。買収は企業や事業を急速に成長させる可能性を秘めており、ひいては企業のスピーディーな競争力強化を達成することができます。

シナジー(相乗効果)の創出

M&Aにおけるシナジー効果とは、譲渡企業と譲受企業がM&A実行により一緒のグループになることで、お互いのリソースの活用や弱みの補完によりシナジー効果を創出することが期待できます。シナジー効果の例としては、収益増加やコスト削減などがあります。

6.企業買収のデメリット

企業買収は他社が運営していた会社を買収しますので、過去の事業運営状況をすべて把握することができません。また、企業文化や社風も異なり同じグループとして統合することは簡単ではありません。買収後の過去の運営状況や企業文化等のすり合わせ時に起こるデメリットもありますので代表的なものを紹介します。

簿外債務や偶発債務が発生する可能性がある

株式譲渡スキーム等で企業の全部を買収する場合、簿外債務や、偶発債務も引き継ぐリスクがあります。簿外債務とは、未払い賃金や退職給付債務など貸借対照表に計上されていない債務のことを指します。偶発債務とは、現時点では債務ではないものの将来、訴訟等の賠償請求が発生する等のリスクを言います。

PMI(統合プロセス)の負担が増大

企業買収後は、譲渡対象企業と譲受企業のシナジー効果を最大限に発揮する為、PMI(経営統合プロセス)が欠かせません。PMI(経営統合プロセス)の際は、人員配置や人事制度、労働条件などをグループ方針に沿って統合することがあり、従業員にとっての負担が大きくならないよう、慎重に実施することが必要です。

人材流出のリスクが高まる

買収後のPMI(統合プロセス)が、不十分だと譲受企業の役員や従業員との関係が悪化し、譲渡対象企業の人材が離職したり、転籍を拒んだりするケースがあります。PMI(統合プロセス)における労働環境や人事評価制度の変化は、人材流出の要因になりますので慎重に行うようにしてください。

のれん減損リスクが発生

「のれん」は、譲渡対象企業の時価純資産と買収対価額の差額のことを言います。買収当初に想定していたよりも収益力が低い場合などは、のれんを減損損失や株式評価損として計上する必要があります。買収金額の高掴みは、譲受側の業績にも大きく影響することになります。

7.企業買収の手法

企業買収の手法は、何を譲渡(譲受)対象とするのか、企業買収の目的は何かによって変わります。代表的な企業買収手法を開設します。参考にしてください。

株式譲渡

株式譲渡は、譲受候補企業が譲渡対象企業の発行済株式を、買い取ることで経営権を取得する手法を言います。株主総会(定款の定めによる)による承認や債権者保護手続きが不要で、手続きが簡単に実施できる点がメリットです。

株式交換

譲受企業が譲渡対象企業を完全子会社にする際に、株式取得の対価として、お互いの株式を交換することにより株式取得することを株式交換と言います。譲受側としては、買収資金の準備が不要なことや一定の要件を満たせば、少数株主を強制的に排除して100%子会社化することができるなどのメリットがあります。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、ある特定の第三者に譲渡対象企業の新株を割り当てて発行する手法を言います。財務状態が悪化している企業の買収や、資本提携、関連会社化を目的に活用されるケースが多くあります。譲渡対象企業の新株を買収してもらうことになるので買収対価が株主ではなく会社に支払われる為、譲渡対象企業としては資金調達策として活用が可能です。

事業譲渡

事業譲渡とは、買収対象企業が経営する事業の全部もしくは一部を買い取る手法を言います。事業譲渡は単に事業用資産や権利義務を売買するだけではなく、ノウハウなど無形資産が売買に含まれることがポイントです。譲受側としても、譲受する資産負債を限定することができる点、簿外債務や偶発債務などのリスクを引き継がなくてよい点がメリットとなります。

会社分割

会社分割は、企業が保有する権利義務の全部または一部を、他の会社が買収する手法を言います。会社分割には2種類あり、新会社に譲渡対象企業の保有する権利義務を承継する場合を「新設分割」と言い、譲受企業が継承する場合「吸収分割」と言います。譲渡対象を限定できるのは事業譲渡と同じですが、譲渡対象企業の保有する権利義務も譲渡することができる為、譲受後の運営がスムーズに遂行できる点がメリットです。

8.企業買収の価格相場(目安)

企業買収にかかる費用としては、企業を買収する費用だけでなく、仲介会社への仲介手数料やデューデリジェンス(買収監査・企業調査)実施費用などもあります。また、企業買収の価格は、譲渡対象企業の規模や目に見えない価値(ノウハウや取引先等)により、大きく変わります。

9.企業買収 成功のポイント

譲受企業における企業買収を成功させるポイントについて解説します。企業買収検討時の参考に確認してみてください。

シナジー(相乗効果)を見極める

企業買収のメリットとして、シナジー効果の創出があります。譲渡対象企業と譲受企業が同じグループになることで得られるシナジー効果は、お互いの経営基盤強化に役立ちます。グループ売上の増加、大量仕入れによる単価交渉、物流網拡大による輸送体制の効率化など企業買収による様々なシナジーを想定することが重要です。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底する

企業買収には、事業や人材などの資産や経営資源のみを引継ぐわけでなく、譲渡対象企業にかかるリスクも引き継ぐことになります(株式譲渡の場合)。主なリスクとしては、未払い残業代や退職給付債務などの簿外負債、訴訟による損害賠償請求が発生するなどの偶発債務などが挙げられます。これらのリスクを回避する為、譲受側はデューデリジェンス(買収監査・企業調査)を徹底して行うことが重要です。デューデリジェンス(買収監査・企業調査)には、財務・税務・法務・ビジネス等の専門知識が必要なため、専門家へ依頼することをお勧めします。

大規模な企業買収は避ける

自社と比較し規模の大きな企業を買収すると、その分買収リスクも高まります。買収価格が高額となると失敗した際、譲受企業本体が再起不能となるほどの損失を抱えるケースも考えられます。また、買収企業の規模が大きくなるほど、買収後のPMI(経営統合プロセス)の検討事項も増える為、多くの時間が必要となりますので企業買収の経験値を積むまでは、大規模な企業買収は避ける方が良いでしょう。

PMI(統合プロセス)を徹底して行う

企業買収は買収が完了すること終わりではなく、業務フローや人材交流、人事評価制度や管理システムなど両社の統合作業が必要となります。想定通りのシナジー効果を得る為には、買収検討と並行してPMI(統合プロセス)を準備し、迅速かつスムーズなPMI(統合プロセス)の遂行が必要です。

信頼のおける専門会社を早期に頼る

企業買収は、検討フェーズごとに専門的な知識を要します。範囲や業務量も多いため、自社のみで検討を遂行することは困難と言えます。スムーズに買収を進めるためにも、早期に信頼のおけるアドバイザリー会社や専門会社を頼ることをお勧めします。

特にプロジェクト初期段階での譲渡案件のソーシングは、売り案件の掘り起こしに長けたM&A会社を利用することが考えられます。

10.企業買収のまとめ

企業買収は、譲渡側・譲受側両者にとってメリットを見出す必要があります。メリットを見出す為には、事前の調査や買収後のPMI(統合プロセス)が、重要となってきます。弊社、みつきコンサルティングは、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先の紹介を実施しております。

また、豊富なM&A支援実績から培ったノウハウを活用し、譲渡側・譲受側共に納得のいく条件交渉のお手伝いをさせて頂いております。企業買収をご検討の際は、是非一度ご相談くださいませ。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋事業法人第二部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人