M&Aの目的と課題|譲受側と譲渡側それぞれの目的・課題を解説

敵対的買収というイメージが強かったM&Aも、近年では上場・大手企業のみならず中小企業なども実施されるケースが増加しています。この記事では、譲渡側と譲受側のM&Aの目的と課題について解説します。M&Aを検討し始める方は、参考にしてみてください。

1.M&Aとは

M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略です。M&Aの意味は、法人同士の合併または買収のことを意味します。

2つ以上の法人が一つの法人に統合されたり(合併)、ある法人が他の法人を買い子会社化すること(買収)を言います。

M&Aの種類としては、「資本提携」「合併」「買収」の3つとなります。以前のM&Aのイメージは、会社が乗っ取られるという、ネガティブなイメージが強かったですが、最近では企業の成長戦略や事業承継の選択肢として認知されてきていおります。

2.譲受企業側のM&Aの目的

譲受側のM&Aの目的としては、事業の拡大、人材の確保、新規事業リスクの軽減など、資本を活用し外的リソースを獲得することで事業運営を強固なものにすることを目的やメリットとされています。

多角化への対応

事業の多角化とは、主事業のみでの成長の限界や事業のリスクヘッジを理由に複数の事業運営を行うことを言います。

しかし、事業の多角化は新規参入事業であることから、設備投資や用地取得、人材やノウハウ確保など多くの資金と手間がかかります。そこでM&Aを活用することにより、すでにその事業のリソースを保有する会社を買収することにより、資金と手間を軽減じ事業の多角化を図ることができます。

技術・ノウハウの獲得

譲受企業は、M&Aを活用することで譲渡企業が保有する技術やノウハウを獲得することができます。獲得した技術を活用し新製品の開発や新な市場開発など事業強化や拡大が見込めます。

通常、事業の多角化や新な技術の獲得には資金と時間を要しますが、M&Aによって資金や時間コストを軽減できることがメリットとして挙げられます。

人材の確保

慢性的に人材確保が難しい資格者や専門知識やノウハウを持つ人材などの特殊人材の確保や工場や工事など手数が必要となる人材の確保など、M&Aは譲渡企業が保有する人材リソースの獲得が可能です。

これらの人材の育成で幹部人員の補充や後継者候補の発見につながることもあります。M&Aは事業拡大に欠かせない人材確保の手法としても有効です。

海外への進出

日本の人口減少・高齢化など業界によっては市場が縮小傾向にあり、新な市場を求めて海外市場への進出を目指す企業が増加しています。また、国内の人件費の高騰を理由に海外で生産拠点を持つ企業もあります。

しかし、海外市場は、市場の特性や製造販売規制など日本とは異なる商習慣や法律の対応が必要となる為、現地の市場や法律の知識を有する海外企業をM&Aで買収する会社も増えております。

成長スピードの上昇

1社の限られたリソースで、事業を成長させるには一定の時間を要します。M&Aにより新しい技術・ノウハウ・人材など新たなリソースを獲得することにより、事業強化を図り成長スピードを向上させることが可能です。

また、譲渡企業が自社で運営していない事業を運営している場合、スピーディーな新規事業参入が可能となり、自社の成長スピードを向上させる大きな要因となります。

3.譲渡企業側のM&Aの目的

M&Aは、第三者への事業承継となる為、事業承継問題の解決策として活用されたり、技術の伝承、従業員の雇用確保、成長戦略など様々な目的が考えられます。

事業の整理と集中

M&Aと聞くと、経営権をすべて譲渡しなければならないというイメージがあるかもしれません。

一方で事業の選択と集中の為に一部事業や赤字部門のみをM&Aと対象としたり、事業の成長の為、設備投資や開発資金獲得など資金調達の手法として活用したりとするケースもあります。

現経営者が経営権を保有しつつ、事業運営のスリム化や成長戦略としてM&Aを活用することが可能です。

後継者問題の解消

日本では、少子高齢化・都会への一極集中・働き方の多様性などの理由で中小企業を中心に多くの企業で後継者不在または未定という「後継者問題」を抱えております。

また、後継者候補に事業を引き継いだものの外部環境の変化による業績不振や経営能力の不足などで事業承継が完了しないというケースも散見されます。

そんな後継者問題の解決策として、資本力や事業運営リソースを持った譲受企業とのM&A有効な手段と言えるでしょう。資金支援による事業再生や経営支援による事業運営能力の向上などが見込め、M&A後の事業成長も期待できます。

従業員・ノウハウの継承

企業が事業承継できず、廃業を選択すると従業員は仕事を失います。また、その企業で培ってきた技術やノウハウも途絶えることになります。

その点、M&Aでは譲渡企業の技術やノウハウはもちろんのこと、従業員についても引き継ぐことを条件に実行される為、従業員の雇用を守り技術やノウハウも承継ができることもメリットと言えるでしょう。

投資回収までの時間短縮

事業に投資した資金を回収して収益を上げる為には、多くの時間が必要となります。何らかの理由で投資した資金を早く回収する必要が生じた際にM&Aが有効な手段となり得ます。

M&Aにおいては、譲渡側の資産を現金化することに加え、将来得られる予定の収益を加味してM&A価額が決定されることから投資資金の回収と将来得るはずだった収益も獲得できることから、投資回収の時間短縮手法としてもM&Aは有効だと言えます。

企業の再生・存続

近年、市場の変化スピードの速さや外的要因(政治・天候・ウイルス)による景気悪化など、企業が事業継続する為の環境としては難しい時代になってきたと言えます。

そんな厳しい環境下で業績不振が続く企業が、事業を再生し企業を存続させる為、M&Aを活用することがあります。譲受企業の豊富な経営支援を受けることで、自社で足りないリソースを獲得し、企業を存続させることに成功した企業も多数あります。

4.M&Aにおける課題

M&A完了後に発生する課題を事前に把握しておくことで、発生を回避する為の対策や発生時の対応方法について検討が可能です。

人材の流出

M&Aは、経営者にとっては経営課題を解決する為の合理的な手法と言えますが、従業員の中にはM&Aを前向きに捉えることができない人材もいます。

M&Aの経緯やM&A後の運営方針・従業員の処遇の変化などの説明を怠るとキーマンや幹部と言った優秀な人材が流出することもありますので、従業員に対しても丁寧な説明と従業員の意見を受け入れながらの事業運営が必要となります。

企業文化の融合

同業種であっても企業が違えば、社風や文化は異なり、異業種であればなおさらです。社風や企業文化は時間をかけて構築されたものですので、急な変更や強制的な変更は得策ではありません。

しかし、M&Aによりお互いの強みや弱みを補完しシナジーを得る為にも企業文化の融合は必要不可欠です。時間はかかりますが、経営層と従業員間でのコミュニケーションを図り、お互いに歩み寄りながら企業文化の融合を進めていくことが大事だと考えます。

債務の発生

M&A検討時には確認されなかった簿外債務発見や訴訟に伴う債務の発生など、M&A完了後に想定外の債務が発生するケースがあります。

簿外債務については、デューデリジェンス(買収監査)の調査である程度は回避が可能ですので、M&A後のトラブルを避ける為にも、専門家に依頼の上、網羅的なデューデリジェンスの実施が必要です。

のれんの減損

のれんとは、譲渡企業の時価純資産とM&A価額との金額差のことを指し営業権と呼ばれることもあります。のれんは、ブランド的な価値や将来性を評価した際の金額と言えます。

M&A完了後、買収した企業を再評価した際に企業価値が下がった場合、差額を減損処理する必要があります。のれんの減損は、会計上は損失となりますが、税務上は損金として認められないケースが多く、営業利益が減少しても実効税率が上昇することになります。

想定外の価格

M&Aの中には、譲渡側・譲受側ともに合意の上で交渉を進める友好的買収だけでなく、譲渡側の意向が整わない中で進められる敵対的買収もあります。基本的には上場会社を対象としたTOB(株式の公開買い付け)がそれに該当します。

対象会社の既存株主から株式を買い集め株式保有比率を高めることを目的としている為、市場の株価よりも高い金額で株式を購入することになる可能性が高く、想定外の価額でM&A取引が完了するケースもあります。

雇用や労働条件の変更

中小企業のM&Aでは、M&A後も原則M&A前の給与水準と労働条件で雇用を継続されることがほとんどです。

しかし、業績不振を理由に社会通念上認められる範囲で変更されることが稀にあります。従業員にとっては不利益変更となり、人材の流出につながる原因となりますので、慎重な検討が必要となります。

5.まとめ

中小企業におけるM&Aの目的は、自社に足りないリソース補完という意味合いを強く感じます。

譲渡側では、後継者不在・資金の調達・経営支援、譲受側では、事業の多角化に伴う人材・ノウハウの確保・取引先・成長スピードの加速などお互いに足りないリソースを補完し合い成長していく為に、多くのM&Aが成約に至っております。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して検討頂くことが可能です。

また、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先を紹介も得意としております。M&Aご検討の際には、是非ご相談ください。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋事業法人第二部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人