M&Aに利用できる税制優遇措置「経営資源集約化税制」について解説します。中小企業のM&Aを後押しする本制度の概要やメリット、2024年度の税制改正の内容など、M&A実施を検討する経営者必見の情報をお届けします。
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M&Aに利用できる優遇税制
M&Aを実施する際には、「経営資源集約化税制」という税制優遇措置を利用することができます。この制度は、中小企業の経営資源の集約化(M&A)を後押しするため、2021年度税制改正で創設され、2021年4月1日から適用開始されました。
経営資源集約化税制はM&Aに利用できる
経営資源集約化税制を活用すると、M&A後のリスクに備える準備金や設備投資などに対して、税金の繰延や税額控除・即時償却が可能となります。これにより、M&Aに伴う税負担を軽減し、中小企業の成長や事業承継を支援する狙いがあります。なお、賃上げ促進税制(旧:所得拡大促進税制)は別制度ですが、経営資源集約化税制と併用可能です。
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M&Aに利用できる優遇税制の内容
経営資源集約化税制は、設備・人材・資金の再配分を迅速化し、M&A後の統合や拡大型投資の実行を税制面から一貫支援するパッケージです。以下の2本柱で、M&Aによる事業再編・統合・成長投資を後押しします(賃上げ促進税制は併用可能な別制度)。
- 設備投資減税
- M&A準備金の積立

2025年度の見直しを踏まえ、設備投資減税は期限延長・要件調整、準備金は2024年度拡充の運用定着、賃上げ促進税制はM&A後の給与引上げもカバーする実務寄りの制度設計となっています。
設備投資減税(中小企業経営強化税制)
M&Aで獲得した拠点・設備の再配置や生産ライン更新、IT刷新などの投資を、税額控除や即時償却でキャッシュフロー面から後押しします。PMIの投資ロードマップとの連動が鍵です。
経営力向上計画に基づき、M&A後の設備統合や追加投資を含む一定設備の取得等に対して、税額控除または即時償却の選択適用が可能です。M&AによるPMIフェーズでの更新投資・増強投資の資金繰りを下支えします。
優遇措置
短期の資金負担を抑えつつ、M&A後の成長投資を前倒しできるのが実務上の大きな利点です。投資利益率の設計とも相性が良好です。
- 投資額の10%を税額控除(資本金3,000万円超の中小企業者等は7%)
- 全額即時償却(資金繰りや投資回収の平準化に有効)
適用要件
M&Aの統合計画・KPIと整合した経営力向上計画の設計が前提です。類型ごとの事前確認や期限管理をプロジェクト計画に織り込みます。
- 経営力向上計画の認定を受けていること(M&Aの統合計画・生産性向上計画と一体で策定可能)
- 対象設備が類型の要件を満たすこと(C類型は廃止。D類型(経営資源集約化設備)は継続し、E類型(経営規模拡大設備)が追加。所管確認が必要)
- 青色申告書を提出する中小企業者等であること
- 適用期限は2027年3月31日まで
実務のポイント
M&Aのクロージング前から認定・確認のタイムラインを逆算し、漏れや遅延を防止。C類型廃止などの見直し点は投資順序にも影響します。
- M&Aを前提とするD類型は、投資計画の妥当性確認や経済産業局等の手続が肝要。ディール前後で段取り設計を。
- 経営力向上計画は、認定支援機関の伴走や経営診断ツールを活用し、M&A統合のKPI・投資ROIと整合的に策定。
M&A準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
M&A後に発生し得る簿外債務・偶発債務に備え、損金算入可能な準備金で財務バッファを確保します。複数回M&Aの継続にも対応可能です。
優遇措置
キャッシュアウトを伴わずに損金算入でき、M&A関連リスクへの耐性を高めます。据置期間中の機動的な取り崩しも実務的です。
- 投資額の70%以下を準備金として積み立て(損金算入)
- 準備金の据置期間は5年間(期間中に簿外債務等が発覚すれば取り崩し可)
- 据置期間満了時、取り崩し事由がなければ5年間で均等に益金算入
適用要件
デューデリジェンスの設計を計画書に反映し、実質的に経営資源を承継するM&Aであることが要件です。親族内の形式的移転は対象外です。
- デューディリジェンス(詳細な事前調査)に関する事項を織り込んだ経営力向上計画の認定
- 他の特定事業者等の株式等を取得し、実質的に他社の経営資源を引き継ぐM&Aであること(親族内の形式的な株式移転は対象外)
- 計画認定期限は2027年3月31日まで
- 株式または持分の取得によるM&Aであること(現行枠は取得価額10億円以下)
2024年度改正による拡充(運用定着)
複数回M&Aを促す設計に進化。積立率・据置期間・金額レンジが拡大し、スケール型の成長戦略に適合します。要件充足の事前設計が重要です。
- 一定の要件を満たす中堅・中小企業の積立率を引き上げ(拡充枠)
- 据置期間を5年から10年へ延長
- 対象となる取得金額レンジを拡大(拡充枠で1億円以上100億円以下)
- 適用期限を2027年3月31日まで延長
- 拡充枠の条件を満たす場合、1回目のM&Aは取得価額の最大90%、2回目以降は最大100%まで積立可能(多頻度のM&A戦略を制度面で後押し)
活用の勘所
ディール設計段階から拡充枠の認定・時期を織り込み、M&AのPMIと内部統制運用でモニタリング精度を高めるほど、取り崩し判断が迅速化します。
- ディール設計段階から拡充枠の認定・時期を織り込み、PMIと内部統制運用でモニタリング精度を高める。
- ・DDの深度・範囲と準備金設計を連動させ、PMIでの統合・モニタリング(内部統制・IT・人事・法務)と一体管理。
雇用確保を促す税制(賃上げ促進税制:別制度・併用可能)
M&A後の人材定着・組織安定に向けた賃上げを税額控除で支援します。人材投資のコストオフセットにより、PMIの早期安定化を後押しします。
優遇措置
適用判定は年度ごとの給与等総額の増加率が軸。M&Aに伴う制度改定・評価時期の見直しを早めに設計します。
- 給与等を前年より1.5%以上引き上げた場合:給与等総額の増加額の15%を税額控除
- 給与等を前年より2.5%以上引き上げた場合:給与等総額の増加額の30%を税額控除
- 上乗せ:教育訓練費の増加等の要件充足で最大+10%、女性活躍・子育て両立支援等の認定で+5%(最大45%)
実務のポイント
M&A後の賃金・評価制度統合は控除判定期間と整合。人材流出抑制と税効果最大化を同時に満たす運用設計が重要です。
- M&A後の人件費ポリシー、賃上げタイミング、評価制度切替時期を税額控除の判定期間と揃えることで、控除最大化と従業員エンゲージメントの両立がしやすくなる。
- 設備投資減税・準備金と合わせ、M&A全体のキャッシュフローモデル(買収資金・統合投資・人件費)に税効果を織り込むと、投資採算(IRR/ROIC)の安定性が向上する。
M&Aでの経営資源集約化税制の活用順序
M&Aにおける経営資源集約化税制の利用は、ひとつずつバラバラに考えるより、全体の流れを時間順にそろえて動かすことが大事です。計画づくり、投資、手続き、人の配置までをつなげて考えると、ムダややり忘れを減らせます。
- おおまかな順番は「M&Aをやるか決める」→「経営力向上計画を作る(投資・人材・統合の目標づくり)」→「設備投資減税と準備金をどう使うか当てはめる」→「賃上げ促進税制の使い方を設計する」という流れです。
- 取引の大きさ・回数・スケジュールに合わせて、早めに必要な手続きや期限を確認し、M&Aの実行計画と税金まわりの予定を一緒に管理すると、失敗しにくくなります。
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経営資源集約化税制の詳細
経営資源集約化税制は、経営資源の集約化(M&A)によって生産性向上等を目指す中小企業のM&A支援制度です。経営力向上計画の認定を受けた中小企業を対象とし、以下の3つの支援措置があります(賃上げ促進税制は別制度で併用可能)。
- 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
- M&A準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)
3つのメリット
経営資源集約化税制を利用することで、以下の3つのメリットが得られます。
従業員の給与に対する税控除を利用できる
所得拡大促進税制(賃上げ促進税制)により、一定の要件を満たした上で前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できます。
設備投資費用の税控除を利用できる
M&Aの効果を高めるための設備としてM&A後に取得した場合、投資額10%の税額控除か全額即時償却いずれかの減税を受けることが可能です。
資金繰りやお金の流れを改善できる
経営資源集約化税制等の制度の活用により、減税によるキャッシュフローの改善や内部留保増加に寄与するため、M&A投資に回せる費用の捻出やM&A後の設備投資・人材投資に貢献します。
制度の目的
経営資源集約化税制の主な目的は以下の通りです。
- 減税措置によるM&Aを推進し、中小企業の生産性を向上させる
- 中小企業における生産性の向上を図る
- 新型コロナウイルスの影響による企業の廃業を防ぎ、経営資源の散逸リスクを低減する。新型コロナウイルス感染症の影響による先行き不透明な状況下で、地域経済・雇用を担う中小企業による経営資源の集約化等(統合・再編等)を後押しする
経済産業省の調査によると、M&Aを実施した企業は実施しなかった企業と比較して、その後の5年間でより高い生産性の向上が見られたとのことです。
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制度の対象
経営資源集約化税制の対象となる企業は、各制度で要件が異なるため、制度ごとに確認が必要です。一般的には、以下の2つの要件をともに満たす必要があります。
特定事業者等
- 常時使用する従業員数が2,000人以下の法人
- 協同組合等
中小企業者等
- 資本金または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人
- 協同組合等
ただし、資本金1億円超の法人に株式の50%以上を所有されている法人や、前事業年度前3年度の平均所得金額が15億円の法人は除外されます。また、準備金制度においては、他の特定事業者等の株式または持分の取得のみが対象となります。実質的に他の事業者の事業を承継するものである必要があるため、グループ内および親族内でのM&Aは対象とならないことに留意が必要です。
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制度創設の背景
経営資源集約化税制が制定された背景には、以下のような要因があります。
中小企業の生産性を向上させる
中小企業におけるM&A後の設備投資や雇用確保を積極的に行うことにより、生産性を向上させ、新規事業の展開や事業の多角化など経営の選択肢を増やすことができます。
廃業する企業を減らす
新型コロナウイルス感染症の影響で経済的な打撃を受けた中小企業の経営資源の集約(M&A)により、廃業を減らすことが期待できます。また、事業承継の解決方法としてM&Aの認知度が浸透してきており、今後さらなる活用が予想されます。2025年問題(団塊の世代が75歳を迎えること)により、中小企業における事業承継が加速すると予想されるため、地域経済・雇用を担う中小企業の経営資源の集約(M&A)を後押しする支援体制の構築が必要とされています。
M&Aのリスクを軽減する
M&Aには、譲渡側・譲受側ともに自社を成長させる・経営を安定させるための手法として多くのメリットがありますが、同時にデメリット(リスク)もあります。株式取得のための費用の一部を経費として計上できることや、M&A後の設備投資や雇用確保に対する減税や経費計上は、M&Aのリスクを軽減する効果があり、中小企業のM&A活性化の後押しになると期待されています。
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経営資源集約化税制を利用する流れ
経営資源集約化税制の「準備金の積立」を例に、申請から税務申告までの流れを表形式でまとめました。
| ステップ | 手続内容 | 詳細 |
|---|---|---|
| 1. 基本合意書締結 | M&Aの相手候補先を決定 | 基本合意書締結により、M&Aで譲受する相手候補先が決定します。 |
| 2. 経営力向上計画の申請 | 計画書と事前調査チェックシートを作成 | M&Aによる株式取得を行うことが経営力向上に寄与する旨と事業承継等事前調査(デューデリジェンス)の内容を記載した経営力向上計画を作成します。十分な事前調査を実施するか否かを確認する為、事業承継等事前調査チェックシートを作成し合わせて申請が必要です。 |
| 3. 主務大臣による認定 | 経営力向上計画の認定を受ける | 主務大臣から経営力向上計画について認定を受けます。 |
| 4. M&Aの実施 | 株式取得の実行 | デューデリジェンス(譲受監査・企業調査)を行い、計画に基づきM&Aを実施し譲渡対象会社の株式取得を行います。 |
| 5. 主務大臣への報告 | 確認書の交付を受ける | 主務大臣に対して事業承継等を実施したこと及び実施したデューデリジェンス(譲受監査・企業調査)における事業承継等事前調査の内容について報告し、確認書を受け取ります。 |
| 6. 税務申告 | 準備金の積立と損金算入 | 確定申告時に、準備金の積立を行い、損金算入します。経営力向上計画の申請書、経営力向上計画の認定書、確認書を添付します。 |
経営資源集約化税制を利用する際の注意点
経営資源集約化税制を活用する際には、以下の点に注意が必要です。
適用要件を満たしているか確認する
経営資源集約化税制の各支援措置には、それぞれ適用要件があります。自社がこれらの要件を満たしているか、事前に確認することが重要です。特に、以下の点に注意してください。
- 対象となる企業規模(従業員数、資本金等)
- 経営力向上計画の認定
- M&Aの形態(株式取得または持分取得)
- 取得価額の上限(準備金:現行枠は10億円以下、拡充枠は1億円以上100億円以下 など)
適用期限がある
経営資源集約化税制の各支援措置には適用期限があります。2024年度の税制改正により、一部の措置の適用期限が延長されましたが、引き続き期限に注意が必要です。
- 設備投資減税:2027年3月31日まで
- 準備金の積立:2027年3月31日まで
- 雇用確保を促す税制:いわゆる賃上げ促進税制で、各年度の税制改正で適用期限が定められる
手続が複雑で時間がかかる
経営資源集約化税制の活用には、経営力向上計画の策定や税務申告など、専門的な知識が必要となります。税理士や公認会計士、M&Aアドバイザーなどの専門家のサポートを受けることを検討してみてください。買収資金を外部借入で調達する場合には、金融機関にも説明しておくとよいでしょう。
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M&Aを成功させるポイント
経営資源集約化税制を活用してM&Aを成功させるためには、以下のポイントに注意する必要があります。
明確な目的を持つ
M&Aを行う目的を明確にし、自社の経営戦略に沿った形で実施することが重要です。単に税制優遇を受けるためだけにM&Aを行うのではなく、長期的な視点で自社の成長につながるかを検討しましょう。
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適切なデューディリジェンスを実施する
M&Aを成功させるためには、対象企業の財務状況や法的リスク、事業の将来性などを適切に評価することが不可欠です。専門家の協力を得ながら、綿密なデューディリジェンスを実施しましょう。
シナジー効果を最大化する
M&A後の統合プロセスを慎重に計画し、両社の強みを活かしたシナジー効果を最大化することが重要です。経営資源集約化税制の設備投資減税や雇用確保を促す税制を活用し、積極的な投資を行うことで、より大きな効果を得ることができます。
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PMIを適切に実施する
M&A成立後の統合プロセス(PMI)を適切に実施することが、M&Aの成功につながります。経営資源集約化税制の支援措置を活用しながら、組織体制の整備や業務プロセスの統合、企業文化の融合などに取り組みましょう。
コミュニケーションを重視する
M&Aの成功には、従業員や取引先、顧客とのコミュニケーションが欠かせません。特に、従業員の不安を解消し、モチベーションを維持するためには、適切な情報共有と丁寧な説明が必要です。
M&Aに係る減税措置のまとめ
経営資源集約化税制は、中小企業のM&Aを税制面で後押しする制度です。設備投資への税額控除や準備金の損金算入により税負担を軽減します。2024年の改正で準備金の積立率や据置期間が拡大し、複数回のM&Aにも対応しやすくなりました。
適用には経営力向上計画の認定が必要で、期限管理や要件確認が重要になります。みつきコンサルティングは会計系M&A仲介会社として、計画策定や行政手続の支援実績があります。税制優遇を活用したM&Aをお考えの際は、ぜひご相談ください。
著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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