「中小M&A推進計画」とは、経済産業省・中小企業庁が策定した計画です。2021年4月に策定された本計画は、中小企業の事業承継の課題を解決し、適切なM&Aの実施を推進しています。本記事では、中小M&A推進計画の目的や背景、中小企業がM&Aを行うメリットなどについて解説します。
中小M&A推進計画とは?
中小M&A推進計画とは、中小企業の経営資源集約化を推進するために、官民が2021~2025年度の間に行う取り組みをまとめた計画です。2021年4月28日に、経済産業省と中小企業庁によって策定されました。同計画は、中小企業の持続的な成長と、競争力向上を支援するために、重要な役割を果たしています。M&Aの知名度向上にも役立ち、多くの企業が1つの選択肢として採用するに至っています。
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中小M&A推進計画の目的
中小M&A推進計画は、経営者の高齢化やコロナウイルス感染症の影響に対応するために、中小企業の事業再構築や生産性向上を図ることを目的としています。そのほか、中小M&Aを通じて、事業の継続や再構築を支援することも目的に含まれます。後継者がいないことで事業継続が困難なケースを、少しでも減らすことが中小M&A推進計画の役割となります。
また、中小企業の生産性向上を促進する役割も果たしている点が、本計画の特徴です。
参考:「中小M&A推進計画」を取りまとめました (METI/経済産業省)
中小M&A推進計画が策定された背景
経営者の高齢化と事業の後継者不足による、事業承継の難しさが昨今の課題となっています。この課題を解決するために、中小M&A推進計画が策定され、M&Aのメリットを認知してもらう取り組みが進められました。M&Aを支援する機関も増加していますが、M&Aに対する知見や経験が不足しているケースも多いです。これらの課題や懸念を払拭するために、本計画が策定された背景があります。
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中小M&A推進計画の3つのポイント
中小M&A推進計画には、3つのポイントがあります。以下では、中小M&A推進計画の3つのポイントについてそれぞれ解説します。
小規模・超小規模M&Aの円滑化
小規模・超小規模M&Aを円滑に実施することが、中小M&A推進計画における1つのポイントです、全国的にみても、近年は経営者の高齢化やコロナウイルスなどの影響によって、自社の事業を譲渡する企業が増えています。事業承継に関する課題解決を支援する「事業承継・引継ぎ支援センター」や「民間のM&A支援機関」も、その数に対応しきれていない現場があります。
そこで中小M&A推進計画を実施し、企業と支援側の連携を強化することで、小規模・超小規模M&Aを円滑に行える環境を整備することが目的となっています。
大規模・中規模M&Aの円滑化
中小M&A推進計画では、大規模・中規模M&Aの円滑化も推進しています。支援を受ける企業の価値を評価するツールを提供したり、ほかのM&A支援機関にセカンドオピニオンを依頼するための補助金を支援したりといった対策を実施しました。結果的に企業価値を正しく見極め、適切な支援を受けられる環境構築が可能となりました。
中小M&Aに関する基盤の構築
中小M&Aに関する基盤の構築も、中小M&A推進計画の目的に含まれます。事業承継が必要な企業であっても、M&Aへの対応は遅れがちなケースが多いです。その背景には、少子高齢化によって子どもなどに事業を譲る「親族内承継」が、少なくなっていることも関係しています。後継者がいないことが課題になっているが、どこに相談していいのか分からずに、対応が遅れてしまう事例も多いです。
トラブルも多い事業承継においては、M&Aにおける計画性の立案も大切な工程です。そこで、本計画は現在も行われている事業承継診断を企業健康診断へ改組し、よりM&Aの悩みに対応できる基盤の構築を実現しました。
参考:「中小M&A推進計画」を取りまとめました (METI/経済産業省)
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中小企業がM&Aを行う3つのメリット
中小企業がM&Aを行うことには、さまざまなメリットがあります。以下では、中小企業がM&Aを実施することによるメリットを、3つ紹介します。
後継者問題を解消できる
経営者に親族がいない、経営を引き継げる人材がいないといった問題を解決できる点は、M&Aを行うメリットの1つです。自身の年齢による体調の悪化や、取引先との継続した関係などに不安を抱える経営者は多いです。信頼できる企業にM&Aを行うことで、そういった不安を払拭しつつ、事業承継が実現できます。
後継者がいないケースでは、今後もM&Aが中小企業にとって有益な手段として実行されると予想されるでしょう。
企業の存続を狙える
企業の存続を目指すには、経営を安定させて、成長率を高めることが必要です。中小企業はM&Aによって大手企業の傘下に入ることも可能なため、資金面での安定化や事業統合による成長につながる可能性があります。他企業との差別化にもなることから、事業存続を図るための手段としてM&Aに注目が集まっています。また、M&Aによって会社が抱える資産を守れる点もメリットです。
従業員の雇用や培ってきた技術・ノウハウを、次の世代でも活用できる地盤づくりも可能です。
利益を最大化できる
M&Aは、自社を譲渡した際に利益を得られる可能性があります。廃業や倒産では利益を得られないだけでなく、会社を清算するために費用がかかります。そのため廃業したくても、負債によって身動きが取れなくなる事例もあります。経営から退いた後の生活費や、別の事業を始める資金が得られるのも、M&Aのメリットです。
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中小企業がM&Aを行う際の4つの課題
中小企業がM&Aを行う場合、いくつかの課題もあります。以下では、中小企業がM&Aを実施する際に課題となり得る4つのポイントを解説します。
従業員の処遇
M&Aを行った後は、従業員の労働条件や会社の環境が変わる可能性があります。そのため従業員は、心理的な負担を抱える可能性が懸念されます。環境変化に適応できずにモチベーションが下がり、離職につながる恐れもあります。M&Aを行う際は、譲渡側・譲受側で密な連携をとり、従業員への処遇を明確にすることが重要です。
事前にM&Aの目的やメリット、その後の対応などを従業員へ説明し、理解を得ることがポイントです。
顧客や取引先への対応
中小企業では、経営者と顧客・取引先と人間関係が、密接な形で構成されているケースも多いです。そのため経営者が変わると、M&Aのタイミングで取引の見直しや、契約を終了される可能性もあります。取引が打ち切られると、M&A後の事業継続が困難となるケースも想定されます。M&Aによって信頼関係が揺らがないように、事前に今後の取引について相談し、コミュニケーションを強化しておくこともポイントです。
M&Aに関わるコスト(費用)への知識をつける
M&Aでは、譲渡側・譲受側ともに、さまざまな費用や手続きが発生します。例えばM&Aの仲介会社を利用する費用や、士業などに依頼する費用、契約書の印紙代などが該当します。譲渡側のキャッシュフローも、企業価値評価に影響します。そのため事前のコスト(費用)の計算やお金の流れを把握して、適切な金額で売却できるように備えることが重要です。
PMI(統合プロセス)の理解不足
M&Aでは、「PMI(Post Merger Integration 統合プロセス)」が重要視されています。PM(統合プロセス)Iとは、M&Aを実施した後の「経営統合プロセス」を意味する言葉です。M&Aの条件がよくても、PMI(統合プロセス)の理解不足により、実際のM&Aでシナジー(相乗効果)を得ることが困難となる場合もあります。
PMI(統合プロセス)を成功させるには、十分なデューデリジェンス(買収監査・企業調査)を行い、M&A後の具体的な行動を計画しておくことが重要です。
中小M&A推進計画のまとめ
中小企業にとってM&Aは、事業承継の課題を解決する手段の1つとして認識されつつあります。中小M&A推進計画などによる後押しもあることから、今後もM&Aを実施する中小企業が増加する可能性があるでしょう。中小企業におけるM&Aのメリットや課題を理解して、具体的な計画立案に役立ててください。
M&Aを実施する際には、ぜひ「みつきコンサルティング」にご相談ください。「みつきコンサルティング」は、税理士や会計士などのプロの手によって、正確な企業診断や財務分析を行っています。M&Aにおける利益を最大限に引き出すサポートが可能なため、お悩みや課題がみつかった際には、お気軽にお問い合わせください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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