M&Aにおけるトップ面談とは、譲渡オーナーと譲受企業のマネジメント層が直接顔を合わせる面談です。本記事ではM&A実施を検討している方に向けて、トップ面談の意味や目的、想定問答などを解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
そのような漠然とした疑問をお持ちではありませんか? みつきコンサルティングでは、本格的なご検討の前でも、情報収集を目的とした無料相談を随時お受けしています。まずはお話をお聞かせください。

▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
M&Aの「トップ面談」とは?
M&Aにおけるトップ面談は、 譲渡側オーナー経営者と、譲受企業の経営者・幹部役員が顔を合わせ、相互理解を深める重要なプロセスです。
基本的には、直接の条件交渉をする場ではなく、相互理解を深めるための場として位置付けられます。譲渡側は、自社を託せる経営者か否かの判断材料となりますし、譲受側としては現経営者の経営方針や人柄を見ることにより、譲渡企業の雰囲気を把握することができます。また、互いが目指している方向性のすり合わせの場としても良い機会になります。
M&Aにおけるトップ面談の目的・重要性
譲渡側にとっては相手側の企業文化や経営者の人間性を感じることで、自社の社員との相性を図ることができます。譲受側にとっても企業文化などを把握する目的もありますが、譲渡側経営者から直接、相手側のビジネスの状況を聞くことで譲渡対象企業の理解を深めることも目的の一つです。
トップ面談でお互いの人間性や価値観を把握することは、M&Aの交渉過程をスムーズに進めることやクロージング(成約)後のPMI(統合プロセス)を成功に導くためには、重要なフェーズとなります。
M&Aにおけるトップ面談の出席者
譲渡側の主な出席者としては、譲渡対象会社の大株主(オーナー)となります。場合によっては株主でないですが、譲渡対象会社のキーマン人材(M&A後も継続する役員や従業員など)や大株主(オーナー)が信頼する顧問税理士などが同席されるケースがあります。
譲受側の主な出席者としては、経営陣(社長や役員)やM&A担当責任者が出席します。その他、当該案件のマッチングを行ったM&A仲介会社の担当者やそれぞれが依頼しているアドバイザーが同席します。
M&Aにおけるトップ面談の場所
譲渡対象企業の社内で行うことが一般的です。M&Aにおいては、譲受側が譲渡側から譲り受ける立場であることから譲渡側へ足を運ぶという面もありますが、譲渡対象企業の設備や会社の雰囲気などの把握を目的とする意味もあります。
例外としては、商品やサービスの秘密保持の観点や社内では落ち着いて話せる環境が準備できないなどを理由に仲介会社のオフィスやホテルの会議室などで行われる場合もあります。
M&Aにおけるトップ面談のタイミング
譲渡側から提示される企業概要書(IM)を基に検討した結果、譲受側が「前向きに検討する」と判断したタイミングで実施されます。企業概要書(IM)には、譲渡対象会社の財務情報やビジネス・人材・不動産など経営に関する情報やM&A実行時の希望条件や希望M&A取引金額等がまとめられており、譲受側は譲渡対象企業として選定可能と判断した上でトップ面談となりますので、譲渡対象会社のM&Aを真剣に検討をしている状況です。
▷関連:M&Aの基本的な流れ|中小企業の会社売却のプロセス・進め方とは
トップ面談を成功させるポイント
M&Aのプロセスのなかでも、重要なものの1つがトップ面談です。それを成功させるためのポイントを譲渡側と譲受側に分けて説明します。
譲渡オーナーのポイント
譲受側と初めて会うタイミングとなりますので、相手方へ敬意をもって対応することが重要です。真摯な対応を前提にトップ面談を成功させるポイントを解説します。
具体的な条件交渉はしない
トップ面談で具体的な条件交渉をするとその場の雰囲気が壊れる可能性があります。M&Aはビジネスの場ではありますが、人間関係を構築した上で条件交渉を実施することをお勧めします。トップ面談においては、まずはお互いを知ることに重点を置き望むことが良いでしょう。
一方的に話しすぎないように気をつける
自社を知って理解してもらいたいという気持ちは理解できますが、一方的に話しすぎると、譲受側が確認したいことが確認できません。譲渡側・譲受側両者とも経営のトップが面談する機会ですので、限られた時間の中でお互いの理解を深める必要があります。譲渡側としては、譲受側の懸念点を解決することを優先するよう心掛けましょう。
質問に対して真摯に答える
譲受側からの質問に対しては、自社の良いことも悪いことも明瞭な回答が重要です。事実と異なることを伝えたり、濁した回答をしたりすると後々トラブルになりかねません。不明瞭な回答は譲受側の不信感につながり、M&Aが不成約になるリスクにもなりますので真摯な対応を心掛けましょう。
前向きかつ建設的な回答を意識する
譲受側からの質問に対して「それはできない」「やったことがない」などの回答ばかりすると、M&A後の成功イメージが沸かず譲受側にとっては印象が良くありません。自社単独ではできなくても、譲受側のノウハウや経営リソースの活用で実現できる可能性もあります。嘘をつく必要はありませんが、前向きで建設的な回答を意識することが重要です。
▷関連:中小企業のM&A仲介とは?メリットとデメリット・費用相場・選び方
譲受企業のポイント
譲渡側と同じで相手側への敬意をもって対応することが重要です。譲渡側のオーナーは、何十年も経営してきた自社を第三者へ譲渡する寂しさや迷いがあって当然です。丁寧な対応を前提にトップ面談を成功させるポイントを解説します。
譲渡側を尊重する
多くのケースが譲渡対象企業よりも譲受候補企業の方が、企業規模や業績が大きい会社です。しかし、M&Aにおいては譲渡側・譲受側は対等な立場です。譲渡側を見下す発言は慎み相手方を尊重することで良い関係性を築くことができ、その後のM&A交渉も進めやすくなるでしょう。
将来の展望・期待する相乗効果を明確化する
譲渡側は「自社になぜ関心を持ったのか」「M&Aを実施する場合、どのような展望を抱いているのか」などを必ず関心を持っています。自社を譲るかも知れない相手先の考えや方針が曖昧であると不安を抱きます。譲渡側の不安を払拭するため、また自社のM&Aの目的やM&Aを通して獲得したシナジーを明確にするためにも方針や考えを整理いておくことが重要です。
▷関連:M&A条件の交渉ポイント!交渉の流れ・注意点・確認事項も解説
M&Aのトップ面談の流れ
トップ面談のイメージを掴んで頂くため、この記事ではM&Aにおけるトップ面談の流れを紹介します。譲渡側・譲受側共に有意義なトップ面談が実施できるよう参考にしてください。

▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
1.名刺交換をする
トップ面談開始時間の少し前に集合し、参加者の方々で名刺交換をします。譲渡側が上座、譲受側が下座に着席することが多いです。
2.両社の代表者が自社を紹介する
自社に関する資料を活用しながら、両社の代表者が自社を紹介します。譲渡側の紹介資料はトップ面談前に企業概要書(IM)で開示されているため、譲受側より自社の紹介するようにしましょう。
3.質疑応答をする
譲渡側・譲受側の両者が自社を紹介した後、質疑応答を行います。主に譲受側から譲渡側への質疑が主で、譲渡対象企業の特徴や現状を把握するための質疑になります。質疑とは言え、調査ではないため、お互いにコミュニケーションを取りながらざっくばらんに行われることが多いです。
4.店舗・工場を見学する
譲渡対象企業が飲食業・小売業・製造業などの場合、店舗や工場の見学を行います。譲渡対象企業のビジネスの根幹の部分となりますので、トップ面談で譲渡側へお伺いする機会に確認することが一般的です。
5.トップ面談後のM&Aのすすめ方
参考までに、トップ面談後は、譲渡側としては交渉相手を1社に絞り、具体的な条件等のM&A交渉を進めることになります。トップ面談後の流れについても解説します。
1)譲受側より譲渡側へ意向表明書を提出する
トップ面談までに譲渡側より開示された譲渡を基に、現段階での譲受側が考えるM&Aの検討方針を意向表明書という形で明示します。M&A取引金額の目途や雇用条件などが記載されおり、譲渡側としては意向表明書を基に、交渉を継続する譲受候補先を絞ることになります。
▷関連:M&Aの意向表明書とは|目的、記載内容、基本合意書との違い、注意点
2)基本合意書を締結する
譲受側から提出された意向表明書の内容をベースに、譲渡側と譲受側がトップ面談までの情報で合意してきた条件を基本合意書にまとめ、譲渡側・譲受側で書面を締結します。基本合意書締結時は、限定的な情報に基づいての交渉事項のまとめとなりますので、法的拘束力は有しません。また、基本合意書は譲渡側が交渉を継続する譲受候補先1社とのみ締結しますので、独占交渉権を付与することが特徴です。
▷関連:M&Aの基本合意書とは?意向表明との違い・目的・注意点・雛形
3)デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を実施する
・デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、譲渡対象企業の詳細情報を譲受側へ開示し、M&A後のリスクの洗い出しやPMI(統合プロセス)の準備のために行います。財務・税務・法務・ビジネスなど調査内容の範囲は広く、専門知識も必要となるため、一般的には、譲受側が選定した弁護士、税理士、会計士などの専門家が派遣されて、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)が行われます。
▷関連:デューデリジェンスとは?M&Aの重要調査で、成功の鍵!
4)最終契約書を締結する
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の実施結果を参考に、譲渡側と譲受側で最終条件の交渉を行います。最終的な条件が決まったら、譲渡側・譲受側で合意した最終条件を最終契約書にまとめ、書面を締結します。最終契約書は、M&Aにおける最終契約書となるため、法的拘束力を有し、譲渡側がM&A実行の前提条件を充足することで資金決済等のクロージング(成約)を行います。
▷関連:最終契約書(DA)はM&Aで最重要の契約!記載項目・注意点とは
▷関連:M&Aのクロージングとは?流れ・必要書類・前提条件を徹底解説
M&Aのトップ面談の事前準備
トップ面談は1回しか実施できない訳ではなく、複数回実施することも可能ではありますが、忙しい経営者同士の面談となりますし、自社と並行して本M&Aを検討している競合がいる可能性もありますので時間を有効に活用することが求められます。トップ面談をスムーズに実施するための事前準備について解説します。
情報収集をする
トップ面談前に相手側の企業について情報収集をすることをお勧めします。相手側のホームページや東京商工リサーチや帝国データバンクなどのシンクタンクの情報を確認することも良いでしょう。相手側の情報を事前に調べておくと真剣に検討しているという相手方へのアピールにもなりますし、余分な質問事項が減り面談時間の短縮にも役立ちます。
自社の情報を整理しておく
相手側からの質問にスムーズに答えられるように、自社の創業経緯、事業内容、組織体制、経営方針などを整理しておきましょう。相手側が理解しやすいよう回答はシンプルにしておくことも重要です。
質問事項・疑問点を整理しておく
M&Aは、検討範囲が広いため、必要な情報を精査し質問事項や疑問点をまとめておくことをお勧めします。一例を紹介します。
- M&A完了後、現社長が退任された後、事業を任せることができる人材はいるか。
- 借入金が年々増えているようだが、理由は何か。
- 労務管理や経理などバックオフィス業務の管理方法はどのようにしているのか。
など、ヒアリングをしなければ確認できないことをまとめておくと良いでしょう。
日程調整をする
検討しているM&A案件が、M&A仲介会社やアドバイザリー会社を通して検討している場合、M&A仲介会社やアドバイザリー会社が日程調整をします。トップ面談は複数社の譲受候補先と行う場合があるため、譲渡側からの打診のあった予定に合わせるよう調整が必要です。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
M&Aのトップ面談で譲渡オーナーがよく訊かれる質問(FAQ)
譲受企業とのトップ面談は、M&Aプロセスにおいて非常に重要な段階です。ここでは、面談時に譲渡オーナーがよく訊かれる質問とその回答のポイントについてご紹介します。
Q:譲渡の理由や目的は何ですか
譲受企業との初回の面談では、売却の理由や目的、時期、そして売却後に何をしたいのかという質問が頻繁に聞かれます。例えば、長期的な経営継続に難しさを感じたため売却を検討しているケースや、売却後の明確な計画(海外での暮らしなど)がある場合も具体的に伝えることが重要です。これらの情報は、譲受企業が譲渡オーナーの意向を理解し、今後の交渉を進める上で非常に役立ちます。事前にこれらの点を整理し、明確に回答できるように準備しておくことをお勧めします。
Q:M&Aのスキームについて希望はありますか
株式譲渡、事業譲渡、株式交換など、M&Aのストラクチャーに関する質問を受けることがあります。特に、譲受企業から「事業譲渡ではどうですか」と聞かれる可能性もありますが、事業譲渡では売却対価が会社に入り、個人には直接入らないといった税務上の違いなど、譲渡オーナー様にとってデメリットとなる場合もあるため注意が必要です。安易に「それでも良い」と回答せず、事前に検討し、自身の希望するスキームを明確にしておくことが望ましいです。特に希望がなければ、現状は株式譲渡を前提としている旨を伝え、持ち帰って検討する姿勢を示すことも有効です。
Q:譲渡に関する前提条件はありますか
譲受企業は、M&Aを承諾する上での前提条件について質問することがあります。これには、譲渡オーナー様の残任期間の希望(例:1年間のロックアップ期間後、または3年間の社長継続など)、従業員の処遇(例:数年間は退職勧奨をしないこと)、連帯保証の解除などが含まれます。これらの譲渡オーナー様が譲れない条件は、M&A取引の早い段階、特に最初のミーティングで明確に伝えることが得策です。書面で提示することで、後の価格交渉に影響を与えるリスクを低減できる可能性があります。
Q:売却における優先順位は何ですか
M&Aにおける優先順位についても質問されることがあります。例えば、価格、シナジー、譲渡オーナー様自身の早期退任など、様々な要素が挙げられます。一般的には、譲受企業との交渉を有利に進めるため、価格を最も重視していると伝えることが有効な戦略の一つとされています。価格を重視する姿勢を示すことで、他の条件を譲歩してもらうための交渉材料とすることも可能です。しかし、ケースによっては従業員の雇用維持や事業の継続性を最優先とするなど、譲渡オーナー様の真の意向を伝えることも重要です。
Q:M&Aの検討状況や、他の譲受企業の候補はいますか
現在、他の譲受企業候補と交渉しているか、M&Aの検討状況はどうか、といった質問もよく聞かれます。譲渡オーナー様の立場としては、複数の譲受候補に打診している旨を伝えることが、交渉上の優位性を保つ上で有効です。市場の相場感を把握し、より良い条件を引き出すためには、複数の意見を聞くことが重要であると伝えることもできます。譲受企業によっては、1対1での交渉を求める場合もありますが、これは失礼なことではありません。交渉を進める中で、条件提示を受けた後に特定の譲受企業と深く交渉する意向を示すことも可能です。
Q:対象会社のキーマンや重要な取引先について教えてください
対象会社の事業におけるキーマンは誰かという質問も重要です。キーマンの特定は、譲受企業にとって事業承継後のリスクとなり得るため、そのキーマンが退職しないための仕組みや、インセンティブについて事前に検討し、説明できるように準備することが重要です。また、重要な取引先についても聞かれます。これらの取引先との関係性が強固であることや、仮に契約が解除された場合のリスクヘッジ策などについて説明できると、譲受企業は安心感を得やすくなります。
Q:コスト削減の可能性や主なリスクは何ですか
譲受企業は、譲受後のコスト削減の可能性についても関心を持つことがあります。例えば、役員報酬の適正化や家族への報酬など、削減可能なコストがある場合は、自ら積極的に情報提供することが有効です。また、対象会社の主なリスクについても質問されることがあります。例えば、特定の取引先への依存度が高い、特定の法令改正リスクがあるなど、潜在的なリスクがあれば、それを正直に伝え、同時にそのリスクに対するヘッジ策や対応策を説明できるよう準備しておくことが重要です。これにより、譲受企業はリスクを正確に評価し、譲受後の計画を立てやすくなります。
Q:譲渡希望価格や株式の譲渡比率について教えてください
譲渡希望価格のような主要条件に関する質疑がトップ面談の場でなされることは基本的にありません。M&A仲介会社が、両者の意向を踏まえ、トップ面談の前後を通じて調整するからです。しかしながら、万一、質問を受けた場合には、慎重に回答することが求められます。一度具体的な金額を提示すると、それ以上の価格で売却することが難しくなるためです。
なお、これも少数派ですが、全ての自社株を譲渡せず、一部を保有し続けることを希望する場合には、譲渡希望の株式比率については訊かれる可能性はあります。所有する株式の何パーセントを譲渡したいのか、一部を保有し続けたいのか、あるいは全て譲渡したいのかを明確にしておくことが重要です。稀に、譲受企業によっては、譲渡オーナー様に一定の株式を保持してもらい、事業承継後のインセンティブを維持したいと考える場合もあります。
M&Aのトップ面談のまとめ
みつきコンサルティングは、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先を紹介が可能です。譲受側より譲渡対象企業の事業分析や企業価値算定のために事業計画書の提出を求められることが増えてきていますが、経営コンサルティング経験を有する弊社M&A担当者が、精緻な計画の策定可能です。M&Aを検討される際は是非、ご相談ください。
著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
-
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年7月13日企業買収の目的|利点と欠点・種類と手法・流れ・M&Aの注意点
2025年7月13日M&Aアドバイザリーとは?仲介会社との違い・業務内容・手数料
2025年7月12日企業買収が失敗する理由とは?失敗する場合・公表成約事例を紹介
2025年7月6日事業譲渡とは?M&A・事業承継との違い、メリット・手続・税金