事業承継型MBOの利用| スキーム、流れ、メリット・デメリットを解説

本コラムでは、M&Aにおいて事業承継策のひとつであるMBOについて解説します。 

MBOは、事業承継を検討している会社の経営陣のうち専務や常務など、いわゆる番頭格にあたる方に会社を譲る方法ですが、M&Aの手法の一つといえます。 そのMBOが中小企業における事業承継の対策として適切かどうか、詳しく検討します。 

MBOとは 

MBOとは、マネジメント・バイアウトの略で、事業承継を検討している会社において、経営陣の中から後継者を選んで会社を譲渡する方式をいいます。 

MBOの類語としてEBO(エンプロイー・バイアウト)があり、こちらは経営陣以外の従業員を後継者とする用語ですが、社員より現実に会社経営を担っている番頭格の経営陣から後継者を選ぶという方がより現実的な対応といえます。 

しかし経営者の年齢的に近い方が後継者になれば、すぐに本人の年齢が問題になって再度事業承継問題が再燃するほか、経営幹部がMBOで会社を買収する際には多額の買収代金を個人で用意しなければならず、その資金をどのように調達するか、という問題が発生します。 

MBOと親族内承継・社内承継との違い 

MBOは、マネジメント(経営陣)を買収主体とするM&Aの一種です。例えば、現経営者の子供が経営陣の一角を担っており、その子供を買収主体とするMBOであれば、それは親族内承継ということになります。非親族の経営陣を買収主体とするMBOなら、それは社内承継(従業員承継)になります。

親族内承継は経営者のご子息・ご息女や経営者の兄弟等、親族に会社を譲る方式で、贈与・相続等を使い事業承継することが一般的です。 贈与・相続の場合、ケースによって多額の税金が発生するので、事業承継のネックとなってしまいます。 さらに経営者のご子息・ご息女であっても、すでに別の仕事に就いていて後継者になる意思がない場合や、会社に借金があって経営者が個人保証していた場合、事業承継でその保証を引き受けることに難色を示すこともあります。 このように親族内承継も乗り越えねばならないハードルが多々存在します。 

M&A手法としてのMBO

MBOと外部第三者へのM&Aの主な違いは何かというと、誰に会社を譲るかという点です。 MBOは会社の役員など、内部の関係者が後継者になりますが、M&Aでは他の企業が会社を買収して後継者となります。 ただしMBOは大きなくくりで考えるとM&Aひとつであり事業承継を実現するための1手法といえます。 

以下、一般的な事業承継の類型を階層図で示します。 

事業承継の類型

事業承継はまず親族内承継と親族外承継に分類されます。 

さらに親族外では(事業承継型)MBOのように経営幹部に売却・譲渡後の会社経営を任すMBO等と外部の第三者に完全譲渡するM&Aに分かれます。 

ここで(事業承継型)MBOとは、これまで解説してきたように、経営幹部が何らかの方法で手に入れた買収資金を持って会社を買収し、以後の経営を行っていく事業承継策です。 

社内経営権委譲とは、経営者が事業承継を行わず、株式を保有したまま、後継者と見なした有能な経営幹部・従業員に経営権のみ委譲する方式のことです。 経営権委譲後、経営者は直接的に経営には関与しませんが、会長や顧問・相談役として依然と会社に対して影響力を残します。 

所有と経営の分離とは、会社の株式は経営者一族で保有したまま、有能な経営者候補を外部等から招請して経営を任せ、以後経営には一切タッチしない方式です。 

このように親族外承継の社内分類でも、誰が後継者になるかで様々なタイプの承継策があります。

MBOを実行する3つのスキーム 

MBOを実行する際、事業承継をめざす経営陣(単独または複数)は会社の経営権を手に入れるため、何らかの方法で買収資金を確保し、その資金で経営者(含む親族株主)の保有する株式を買い取らねばなりません。 

一般的に買収金のタイプによってMBOの実施スキームは3つに分かれます。 

  • 経営陣の自己資金によるMBO 
  • ローン(融資)によるMBO 
  • ファンド(出資)によるMBO 

経営陣の自己資金によるMBOですが、この方法が使えれば事業承継の手続きはスムーズに進み、経営権の移行も比較的容易です。 さらにもともと経営に参加している経営陣が後継者となるため、M&A等外部による買収と比べて従業員や取引先からの反発も少なく、経営理念や企業文化もそのまま引継ぎ可能です。 

ただ問題は経営陣が株式の買収資金を全額自己資金でまかなえるかという点ですが、たとえ中小企業の未上場株式といえども金額的には大きくなるので現実的には難しいでしょう。 そうなると銀行のローンなど、他の資金調達方法とミックスして資金を準備するという可能性が出てきます。 ローン(融資)によるMBOは文字通り、銀行等の金融機関から資金を調達して会社買収する方法ですが(LBOと呼ばれます)、これについては手順も含めて後半で解説します。 

ファンド(出資)によるMBOですが、これはVCやPEファンドなどの投資家から資金を得て会社を買収する方式です。 

投資家には資金と引き換えに買収後の会社の株式の一部を渡し、その会社が成長して株価が上がったときなどに投資家が株式を売却して利益を確定します。 

MBOの流れ(ローンと自己資金併用ケース) 

次はMBOの流れ(手順)について解説します。 

なおここではMBOの必要資金をローンと自己資金で調達するケースで説明します。 

後継者である経営陣(単独または複数)は、手続きに係る資金を自己資金で準備するとともに、以下の手順で銀行等の金融機関から融資を受けて株式買収資金を調達します。 

MBOの流れについては以下の通りです。 

  • STEP①新株主(後継者)による買収会社の設立 
  • STEP②買収会社による対象会社の買収 
  • STEP③買収会社と対象会社の合併 
MBO(マネジメントオブバイアウト)の流れ
MBOの流れ

STEP①.新株主(後継者)によるSPC※(買収会社)の設立 

まず後継者である新株主は買収会社(SPC)を設立して、買収資金を金融機関から調達します。 

  • 新株主は自己資金にて買収会社(SPC)に出資 
  • 金融機関は買収会社(SPC)に対して融資 

金融機関は経営陣個人に対して融資するのでなく、法人であるSPCに対して融資を行います。 また審査の際、金融機関が融資実行の根拠とするのは、買収後の対象会社の業況、財務内容やキャッシュフローなどです。 経営陣個人の手元資金には限界があるため、通常、MBOでは外部借入により買収資金を調達することが多くなります。これをLBO(レバレッジド・バイアウト)といいます。

(※)SPCとは、特別目的会社(Special Purpose Company)の略で、金融機関からの資金調達、企業保有の不動産の証券化等を目的に特別に設立される会社のこと。SPCは果たすべき当初の目的をやり終えたら、後に精算して法人格を消滅させるのが一般的です。 

STEP②.SPCによる対象会社の買収 

買収会社(SPC)は手順1で調達した資金をもとに対象会社を買収します(株式譲渡により経営者含む既存株主から株式取得)。 買収完了後、買収会社(SPC)は対象会社を完全子会社化します。 SPCの株主は自己資金で出資した経営陣なので、これで事業承継の対象会社は経営陣のコントロール下に入ります。 

なお、対象会社の株主の中にMBOに反対の株主がいて、株式を譲渡してくれない場合があります。そのような場合には、その反対株主を合法的に排除する手法(スクイーズアウト)の採用が検討されます。

STEP③.SPCと対象会社の合併 

最後のステップとして、買収会社(SPC)を存続会社、対象会社を消滅会社として吸収合併を実施します。 以後はSPCに出資している新株主(経営陣)が存続会社を経営していくことが可能となり、これでMBOに係る全ての手続きが完了します。 実務的には、対象会社と買収会社(SPC)を合併させず、併存することもあります。

MBOのメリット・デメリット 

次はMBOに係るメリット・デメリットです。 MBOを実施する際、実現までのハードルやネックとなるのがデメリットなので、本章では特にデメリットの各項目に注目してご覧になって下さい。 

メリット 

経営理念や企業文化が守られ、従業員からの理解が得やすい 

メリットの1点目は、経営理念や企業文化が守られ、従業員や取引先からの理解が得やすいことです。 MBOでの承継者は会社の経営陣であり、これまでの経営理念や企業風土を熟知しているので、従業員もそのまま安心して働けるし取引先も関係を継続してくれます。 円滑な事業継続の実現と外部に影響されない独立した経営が可能です。 

後継者問題が解決できる 

メリットの2点目は、後継者問題が片付くことです。 MBOも事業承継策のひとつであり、実現すれば経営者の大きな悩みの後継者問題が解決でき、経営者は廃業を考えることなく事業を継続できて社員の雇用も守れます。 

少ない資金で経営権を取得できる 

メリットの3点目は、少ない資金で経営権を取得できることです。 たとえ経営陣に会社を買収するだけの自己資金がなくても、SPCを設立して経営陣が株主として出資、必要な買収資金はSPCが金融機関から融資を受けて調達すれば良いので、買収が成立すれば経営陣は少ない資金で経営権を取得できることになります。 

相続対策上のメリットがある

相続問題は、オーナー経営者にとっては事業承継と密接に関係するテーマです。一般に、MBOにより、相続問題に関する以下のメリットが考えられます。

・自社株を遺留分から除外できる

・譲渡後の相続税株価の上昇を相続財産から切り離せる

・譲渡代金を老後資金にできる

デメリット 

MBO実施時に既存株主と対立する 

デメリットの1点目は、MBO実施時に現経営者以外の既存株主と対立するリスクがあることです。 既存株主にも会社経営に対して様々な意見を持っています。 その結果、MBOの際に経営陣と既存株主の間で利害対立が顕在化して、思った通りの買取価格でMBOが進められない事態が起こるかもしれません。 

資金調達が難しい 

デメリットの2点目は、買収資金の資金調達が難しいケースがあることです。 すでに説明済みですが、経営陣がSPCのスキームを使って金融機関から買収資金を借りようとしたとき、対象会社の財務内容やキャッシュフロー等に問題があれば、金融機関も当然に融資を渋ります。 さらに融資で資金調達できMBOが成立したとしても、合併後の存続会社には融資が借金として残るため、返済で資金繰りがうまくいかず経営が悪化するリスクがあります。 

経営体質が変わらず成長のかせとなる 

デメリットの3点目は、実施後も経営体質が変わらず企業成長のかせとなることです。 MBO実施後の新経営者は旧経営陣出身なので、経営体質が変わらずその後の経営に大きな変化が生まれないリスクがあります。 経営に変化がなければ会社が成長しない可能性もあるのでMBOのデメリットといえるでしょう。 

ファンドで資金調達すると経営の自由度が下がる 

デメリットの4点目は、ファンドで資金調達すると経営の自由度が下がるリスクがあります。 MBOの際、経営陣が資金調達する方法のひとつがVCやPEファンド等の投資家から出資で資金を受けとる方法です。 投資家に対しては資金と交換に存続会社の株式を引き渡すことになるので、その渡し具合によっては会社の経営に関与され経営の自由度が下がるリスクがあります。 

ファンドは最終的には株式を高値で売却することが目的ですので、程度の差こそあれ経営に関与してきます。 特に発行済み株式数の50%以上を投資家に握られてしまうと、株主総会で経営陣が解任されてしまうリスクがあるので、経営陣として資本政策を考える際、株式割合は十分検討しておかねばなりません。 

後継者世代の事業承継対策の難易度が上がる

買収会社(SPC)は、その株主(後継者)の相続税・贈与税を計算する上で、「株式保有特定会社」に該当する可能性が高いです。そうすると自社株の税務上の評価額が、(時価)純資産価額でしか評価されなくなり(類似業種比準価額が使えなくなり)ますが、そのことが後継者が将来、相続・事業承継を考える際の選択肢の幅を狭めてしまう可能性があります。後継者が相応の年齢で、遠くない将来に次世代(現経営者からすると孫世代)へのバトンタッチを考えた方が良い場合には、留意が必要です。

相続対策上のデメリットの可能性

既存株主は、SPCに株式を譲渡する際に譲渡税が生じますが、譲渡代金は将来の相続財産となるため、相続税の対象もなる可能性があります。

また、SPCに譲渡する際の株価は、一般に税務上の株価(純資産ベースの株価)となりますが、それが高額となる場合には、SPCに譲渡する際の譲渡税、将来の相続税、ともに多額となる可能性があります。

上場会社におけるMBO

上場会社が非公開化する際には、その方法としてMBOが採用されることが少なくありません。そこでの買収主体は現経営者であることもあり、本コラムで扱う中小企業の事業承継型MBOとは、様相が異なります。

上場会社が(MBOにより)非公開化する主なメリットは、短期の業績や株価を意識せず、中長期の視点で経営に取り組めることです。少なくとも、なぜMBOで上場廃止するのかを説明した開示資料には、そのように記載されることが殆どです。

なお、上場会社でのMBO(による上場廃止)は創業家の株式保有比率の高い企業で実施されることが多い傾向にあります。創業家から賛同を得られれば一般株主から株式を買い集めやすく、MBOが成立し易いからでする。創業家にとっては、税務対策上、上場株式は市場価格がそのまま相続税評価額となる一方で、非公開して非上場株式になれば株価引下げ対策の余地が生まれます。このような事情も非公開化にはあるものと思われます。

MBOスキームは中小企業と同様

 MBOの手法・流れは、基本的には、上場会社であっても、中小企業と同じです。経営陣が特別目的会社(SPC)を設立し、その会社が金融機関や投資ファンドから資金を調達して、一般株主から株式を買い取ります。上場会社特有の注意点としては、株式の買付価格や買付期間などを提示して市場外で買い集めるTOB(株式公開買付)の規制に服する点が挙げられます。

2024年度のMBO(非公開化)も増加見込

レコフデータ調べによると、公表社数ベースのMBO件数は、2023年度が18件で、22年度比6社増と、大幅に増加しました。2024年に入っても、多くの企業がMBOの実施を公表しており、増加傾向にあると考えられます。

上場を廃止する企業が増加する背景には、東京証券取引所が要請する市場規律やアクティビスト等に対応するための上場維持コストが高まっていることが背景にあります。

事業承継型MBOのまとめ

本コラムにおいて詳しく見てきたように、たしかにMBOは事業承継策のひとつではあります。 しかしMBOが抱える課題は多く、中小規模の未上場会社ではMBOは事業承継の方法としては現実的でないと考えます。 むしろ中小企業では、条件さえ整うのであれば、親族内承継もしくは外部の会社に後継者を求めるM&Aのどちらかが現実的な解決方法といえるのではないでしょうか。 

MBOが抱える課題は、

  1. 買取りに反対した株主を残した場合、内紛の種が残る
  2. SPCスキームでMBOを進めても資金調達、会社合併など手続きが複雑になりすぎて、トラブルが発生すると先に進まない
  3. 融資や出資は会社の経営状態が健全かつ順調でないと検討されない、など多くあります。 

さすがにこれらの課題を全て満たせる中小企業は数として少ないのではないでしょうか。 

MBOはこの課題をクリアできると判断した場合のみ実施すべきで、中小企業ではやはり可能な限り、親族内承継またはM&Aで事業承継の道を模索すべきと考えます。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人