「補助金を受けた会社でも売れるのか」と迷う譲渡オーナーは少なくありません。再構築補助金の新規公募は2025年で終わり、株式取得の対価や仲介報酬は元々対象外でした。受給済みなら承継承認や財産処分、5年間の報告義務が価格や契約に響きます。後継の補助金・税制の使い分けも含め、売却前に押さえる論点を整理しました。

事業再構築補助金とM&Aの関係は2つの場面で考える
「M&Aの費用を補助金でまかなえないか」。事業承継の費用を抑えたい経営者から、相談の入口でよく聞く質問です。答えを先にいえば、M&Aの対価や仲介報酬には使えない制度でした。使われてきたのは、M&Aで取得した事業を伸ばす設備投資などです。
もうひとつが、すでに補助金を受けた会社を売る場面。後継者不在で事業承継の選択肢を探す譲渡オーナーには、この場面のほうが切実です。自社で整理する範囲と、事業承継の相談先に委ねる範囲も含めて見ていきます。
新規公募は2025年の第13回で終了している
事業再構築補助金の新規公募は、2025年1月10日から3月26日まで受け付けた第13回が最後です。第13回公募の結果では、応募3,100件に対して採択1,101件、採択率は35.5%でした。今から新たに申請する道はありません。M&Aとあわせて補助金を検討するなら、後継制度に目を向けることになります。
補助対象になる費用とならない費用
下表は、M&Aに関わる支出を補助対象の内外で分けたものです。M&Aを成立させるための支出は対象外、成立後に新事業を動かすための投資が対象という線引きでした。
| 区分 | 主な費用 | M&Aとの関係 |
|---|---|---|
| 補助対象外 | 株式・事業の取得対価、仲介手数料・FA報酬、デューデリジェンス費用、公租公課 | M&Aを成立させるための支出 |
| 補助対象 | 建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、外注費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費、研修費など | 取得した事業で新事業を立ち上げるための投資 |
表中の「専門家経費」は新事業の遂行に必要な助言への謝金などを指し、M&Aの仲介報酬とは別物です。ここを混同した資金計画は、意外と多い落とし穴です。
交付決定前の発注は対象外になる
見落としやすいのがタイミング。補助対象は、原則として交付決定後に契約・発注した経費に限られていました。クロージング直後に設備を急いで発注し、対象から外れてしまう。M&Aと補助金の日程を別々に管理していると起こりがちな失敗です。この原則は後継制度でも変わらないため、成約後の投資計画は交付決定の時期から逆算して組みます。
事業再構築補助金の基礎と「事業再編」の位置づけ
ここからは、制度そのものを確認したい方に向けた整理です。採択済みの会社にとっても、自社に残る義務の範囲を理解する土台になります。
制度の目的と申請枠
事業再構築補助金は、ポストコロナの経済変化に対応するため、新分野展開や業態転換、業種転換などに挑む中小企業等を支援する制度でした。公募を重ねるごとに枠の再編が続き、終盤は成長分野進出枠やコロナ回復加速化枠などで構成されています。補助率や上限額は、枠と従業員規模で異なる設計です。
事業再構築の5類型
補助を受けるには、事業再構築指針が定める類型のいずれかに当てはまる必要がありました。下表に5つの類型をまとめます。
| 類型 | 取組の内容 |
|---|---|
| 新市場進出 | 既存事業と異なる市場への進出(新分野展開・業態転換) |
| 事業転換 | 業種は変えずに主たる事業を変更 |
| 業種転換 | 主たる業種そのものを変更 |
| 事業再編 | 組織再編を行い、新市場進出・事業転換・業種転換のいずれかに取り組む |
| 国内回帰 | 海外での製造を、先進性のある国内の製造拠点へ切り替える |
M&Aが直接関わるのは「事業再編」
事業再編は、合併・会社分割・株式交換・株式移転・事業譲渡といった会社法上の組織再編行為を補助事業の開始後に行い、新しい事業形態のもとで新市場進出や事業転換、業種転換に取り組むものと公募要領で定義されています。
例示に、株式の買取りによる子会社化は含まれていません。株式を取得しただけで要件を満たすわけではなく、審査の中心はM&A後に何を新しく始めるかにありました。
採択された計画に共通していた書き方
評価されやすかったのは、M&Aの時期と契約形態、取得する経営資源、そしてシナジー効果が付加価値額の増加にどうつながるかを数字で示した計画です。承継後の成長像を描く作業は、事業承継計画づくりとも重なり、後継制度の事業計画でもそのまま通用します。
補助金を受けた会社を売るときの確認事項
「補助金で建てた工場がある会社でも売れますか」。支援現場でよく受ける相談です。売却自体は可能ですが、スキームによって必要な手続が変わり、残っている義務は譲受企業に引き継がれます。価格や契約条件に跳ね返る前に、次の論点を押さえておきたいところです。
株式譲渡なら補助事業者は会社のまま
株式譲渡では株主が替わるだけで、補助事業者である会社は変わりません。事業化状況報告や財産管理の義務も、会社に残ったまま譲受企業のグループへ移ります。
ただし、M&A後の代表者交代や組織の変更は届出の対象です。補助事業の手引きでも、法人や代表者などに変更が生じたら直ちに事務局へ届け出るよう定められています。
事業譲渡や会社分割は事前の承継承認が要る
事業譲渡や会社分割で補助事業を移すなら、必要になるのが「承継承認申請」。承継する事業者が、事前に事務局の承認を受ける手続です。補助事業者向けの手続案内には、事後の申請は認められないと明記されています。承認を得ずに設備を移せば、後述する財産処分として国庫納付の対象になりかねません。
財産処分の制限と国庫納付
補助事業で取得した財産には、使い道の制限がかかっています。対象は取得価格が税抜50万円以上の建物や機械装置等で、制限期間は減価償却資産の耐用年数に準じて決まる仕組みです。
承認が要る行為と納付額の考え方
制限期間内に目的外で使う、譲渡・交換・貸付をする、担保に入れる、廃棄する。いずれも事前の承認が前提です。処分する場合は、残存簿価相当額または時価(譲渡額)をもとに、補助金額を上限として国庫に納付します。
譲受企業の統合計画が処分に当たるケース
盲点になりやすいのが、M&A後の統合で生じる処分です。工場の集約で設備を移す、新事業を縮小して建物を別用途に回すといった計画は、財産処分に当たる可能性があります。M&A後の経営統合を詰める段階で、対象資産の扱いを譲受企業と共有しておくと安心です。
事業化状況報告は5年間続く
補助事業が終わった年度を初回に、以降5年間は毎年、事業化の状況や付加価値額の増加状況などを報告する義務があります。M&A後は譲受企業の管理下で報告を続けることになるため、最終契約で作成者と譲渡オーナー側の協力範囲を決めておくと、引継ぎが滑らかです。
補助金が企業価値と契約条件に与える影響
補助金の論点は、手続だけで終わりません。税理士法人グループとして案件に関わっていると、価格交渉や契約条項にまで影響が及ぶ場面を何度も目にします。
圧縮記帳で税務上の簿価が小さくなっている
補助金で取得した設備は、法人税法第42条の圧縮記帳により、税務上の帳簿価額を補助金の分だけ下げているケースが少なくありません。株式譲渡なら、譲渡オーナー個人の税金に直接の影響はない論点です。一方、事業譲渡で資産を時価で移すと、圧縮した分だけ会社側の譲渡益が膨らみやすくなります。
国庫納付の可能性は価格調整や表明保証の論点になる
譲受企業から見れば、処分制限期間中の資産は将来の納付リスクを抱えた資産です。統合で処分する予定があれば、納付見込額を簿外債務と同じ感覚で価格から差し引くか、表明保証や特別補償で手当てする交渉になりがちです。義務を正確に開示しておくことが、結果として譲渡オーナー自身を守ります。
売却前に揃えておきたい補助金関連チェックリスト
補助金を受けた会社の売却を支援する際、当社が初回面談の直後に確認している項目を下表にまとめました。デューデリジェンス対応の準備と並行して進めれば、譲受企業からの質問にも慌てずに済みます。
| 確認項目 | 手元で揃える資料 | 確認の狙い |
|---|---|---|
| 補助事業の進捗 | 交付決定通知書、確定通知書 | 実施期間中か完了済みかで、売却時期と手続が変わる |
| 対象資産の特定 | 補助事業で取得した財産の管理台帳、固定資産台帳 | 税抜50万円以上かつ処分制限期間内の資産を洗い出す |
| 報告の履行状況 | 事業化状況報告の提出控え | 未提出の年度がないかを確かめ、開示内容を固める |
| スキームとの相性 | 想定する譲渡スキームの概要 | 株式譲渡の届出で足りるか、事業譲渡等で承継承認が要るかを判断 |
| 統合後の使い方 | 譲受企業との面談メモ、統合方針 | 移設・集約・撤退など財産処分に当たる予定の有無 |
| 会計・税務処理 | 補助金の仕訳、圧縮記帳の明細 | 税務上の簿価と譲渡益への影響を試算 |
| 上乗せ措置の条件 | 交付申請時の事業計画書、誓約書 | 賃上げ等の約束事項と、未達時の取扱いを確認 |
これからM&Aで使える補助金と税制
事業再構築補助金の公募は終わりましたが、M&Aに関わる支援策は形を変えて続いています。目的別に、使い分けの目安を見ていきましょう。
事業承継・M&A補助金は専門家費用とPMIが対象
M&Aそのものの費用に使えるのは、事業承継・M&A補助金です。2026年5月に十五次公募の公募要領が公表され、専門家活用枠に小規模売り手支援類型が新設されました。各枠の補助対象と補助上限額は下表のとおりです。
| 申請枠 | 主な補助対象 | 補助上限額 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 親族内・従業員承継を予定する会社の設備投資等 | 800万〜1,000万円 |
| 専門家活用枠 | M&Aの仲介・FA報酬、デューデリジェンス費用など | 買い手支援類型600万〜2,000万円 売り手支援類型600万〜800万円 小規模売り手支援類型450万円 |
| PMI推進枠 | M&A後の統合にかかる専門家費用や設備投資 | 専門家活用類型150万円 事業統合投資類型800万〜1,000万円 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 既存事業の廃業にかかる費用など | 300万円(他枠と併用時150万〜300万円) |
公募時期と依頼先の確認
十五次公募は2026年9月に採択結果が公表済みで、次回の日程は事務局サイトで確認します。専門家活用枠は、M&A支援機関登録制度に登録された支援機関への支払いでなければ対象になりません。M&A補助金の申請要件は公募回ごとに細かく変わるため、応募前に最新の要領を読み込んでおきましょう。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金はM&A後の投資の受け皿
事業再構築補助金の後継として2025年に始まった中小企業新事業進出補助金は、2026年の第4回公募を経て、ものづくり補助金と一本化された新制度へ移りました。現在はこの新事業進出・ものづくり商業サービス補助金が、M&A後に新市場へ打って出る投資の主な受け皿です。
新事業進出枠の補助上限と基本要件
中小機構の補助金活用ナビによると、新事業進出枠の補助上限は最大9,000万円、補助率は中小企業で1/2(条件を満たせば2/3)。付加価値額の年平均成長率4.0%以上と、年平均3.5%以上の賃上げが基本要件とされています。
公募が変わっても共通する申請の段取り
旧制度で申請した経験がある会社なら、流れは大きく変わりません。下表は、事業再構築補助金から後継制度へ引き継がれている基本的な段取りです。
| 段階 | 主な内容 | M&Aとの兼ね合い |
|---|---|---|
| GビズIDプライムの取得 | 電子申請に使う共通認証アカウントを取得する | 代表者交代に伴うIDの引継ぎ方法を先に確認 |
| 事業計画の策定 | 取組内容、市場と効果、取得資産、収益計画をまとめる | M&Aで得た経営資源とシナジーを数値で示す |
| 電子申請と審査 | 決算書などの添付書類とあわせて申請する | 申請主体を譲受企業とするか対象会社とするかを先に決める |
| 交付決定後の発注 | 交付決定前の契約・発注は原則として対象外 | 成約後の投資日程を交付決定から逆算する |
補助金は原則として事業完了後の精算払いです。設備代金をいったん自社で立て替える期間が生じるため、事業承継融資とあわせて金融機関と早めに話しておくと資金繰りが崩れません。
中堅・中小グループ化税制は譲受企業の税負担を軽くする
補助金ではないものの、M&Aの資金面で効くのが中堅・中小グループ化税制です。かつて経営資源集約化税制と呼ばれた制度で、正式名称は中小企業事業再編投資損失準備金。経営力向上計画の認定を受けて株式を取得すると、取得価額の70%を準備金として損金算入できます。
拡充措置と適用期限
特別事業再編計画の認定を受けた場合は1回目が90%、2回目以降は100%まで広がり、据置期間も5年から10年に延びます。適用期限は2027年3月31日です。
譲渡オーナーにとっての意味
この税制を使うのは譲受企業側です。とはいえ株式取得の実質負担が軽くなれば、提示できる価格や支払条件に余裕が生まれることもあります。交渉相手の資金計画を読むうえで、知っておいて損はありません。
自治体の助成金も確認する
国とは別に、自治体が独自の助成金を設けている場合もあります。東京都の事業承継支援助成金には2026年度もM&Aで第三者承継を目指す事業者向けの類型があり、FAやM&A仲介事業者との契約締結に要する経費が対象です。助成限度額は200万円、助成率は3分の2以内。所在地の自治体の制度も一度確かめておきましょう。
補助金ありきで会社売却の判断を急がない
補助金の話が先行すると、本来の目的である承継や成長の判断がぶれることがあります。現場でよく見かける2つの誤解を取り上げましょう。
義務が残っているから売れないという誤解
処分制限期間や報告義務が残っていても、株式譲渡なら会社ごと義務を引き継ぐ形で売却は進められます。困るのは、義務を把握しないまま交渉に入り、終盤のデューデリジェンスで発覚するケースです。後継者不足から第三者承継を考えるなら、義務は売れない理由ではなく、開示すべき情報として扱うのが現実的です。
補助金をもらってから売るほうが得とは限らない
採択や入金を待って、売却時期を後ろにずらしたいという相談もあります。ただ、経営者の年齢や業績の山は待ってくれません。受け取れる補助金額と、時期の遅れで失うかもしれない企業価値評価上の差を比べると、待たないほうが合理的な場面も少なくありません。M&Aと他の承継方法の違いを踏まえ、承継の方法から先に決めるのが順序です。
補助金と税務を一体で相談できる窓口を選ぶ
補助金の義務、譲渡スキーム、税金の3つは互いに影響し合います。補助金は申請支援の専門家、M&Aは仲介会社、税務は顧問税理士と別々に相談すると、論点のつなぎ目で抜けが出がちです。事業承継アドバイザリーと事業承継コンサルティングの役割の違いも踏まえ、全体を見渡せる窓口を軸に組み立ててください。
事業再構築補助金とM&Aに関するFAQ
補助金を受けた会社の売却を考え始めた経営者から、よく寄せられる質問です。
不可能ではありませんが、実施期間中は計画変更や届出の論点が重なります。現場では、確定検査と補助金の入金まで待つか、実施中に進めるかを、事務局への事前相談の結果を見てから決めます。株式譲渡か事業譲渡かでも答えが変わるため、スキームの検討と同時に確認するのが現実的です。
株式譲渡なら、補助金は補助事業者である会社に入金されるため、会社の資産として買い手側に残ります。譲渡価格に織り込むか、入金後に精算するかは最終契約の定め方次第です。未収の補助金をどう扱うか、基本合意の段階で方向性をそろえておくと揉めにくくなります。
必ず下がるわけではありません。買い手が設備を使い続ける前提なら、納付は生じない見込みとして価格に影響しないこともあります。統合で移設や廃棄を予定しているなら、納付見込額を価格調整や特別補償で手当てする流れが一般的です。買い手の統合方針を早めに聞くことが、価格を守る近道になります。
対象経費が重ならなければ、それぞれの制度で申請を検討する余地はあります。同じ経費の二重計上は認められません。併用の可否や重複の扱いは公募回ごとの要領で定められるため、両方の要領を並べて確認し、申請日程を1本の工程表で管理するのが実務的なやり方です。
事業再構築補助金を受けた会社のM&Aは義務の整理から
事業再構築補助金はM&Aの対価や仲介報酬には使えず、新規公募も終わりました。受給済みの会社を売るなら、スキームに応じた届出や承継承認、財産処分と報告義務の引継ぎを整理することが出発点です。義務が残っていても売却は進められるので、一人で抱え込まずにご相談ください。
みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業M&Aの豊富な実績経験をもとに、補助金の残存義務や税務まで踏まえた会社売却を支援しています。売却できるかどうかの見極めからお気軽にお声がけください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >

著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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