事業承継・引継ぎ補助金とは?補助金制度の概要や種類、交付決定率、注意点について解説

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継や事業再編などをする際に受給できる補助金の制度です。

この記事では、事業承継・引継ぎ補助金について詳しく解説します。事業承継・引継ぎ補助金の種類や申請する手順、注意点についても解説するので、参考にしてください。

1.事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継を契機として新しい取り組みを行う中小企業や、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引き継ぎを行う中小企業を支援する制度です。事業承継・引継ぎ補助金が実施されている背景には、経営者の高齢化や後継者不在率が高い水準で推移していることなどが挙げられます。

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や小規模事業者だけでなく、要件を満たせば個人事業主も対象となります。支援の対象により、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」と、3つの類型に分かれている点も特徴です。

交付決定率

令和3年度4次公募では、経営革新事業は申請264件のうち146件、専門家活用事業は申請518件のうち290件の交付が決定しています。また、廃業・再チャレンジ事業は、1件の単独申請と27件の併用申請をあわせたうち、10件に交付が決定しました。4次公募においては、申請した半分以上の事業者に補助金が下りている事実がうかがえます。

※参考:採択結果 | 令和3年度 補正予算 事業承継・引継ぎ補助金

2.事業承継・引継ぎ補助金を活用するメリット

事業承継・引継ぎ補助金のメリットは、返済不要な資金調達方法である点です。返済の必要がないため、事業承継・廃業の際の費用を抑えられるでしょう。また、申請の手間が少ない点もメリットの1つです。申請にはパソコンスキルが必要ではありますが、電子申請であるため、紙の書類を揃えるなどの作業負担が少なく済むでしょう。

3.【事業承継・引継ぎ補助金その1】経営革新事業

経営革新事業は、事業承継・M&A後の設備投資・販路開拓などにかかる費用を補助するものです。補助対象、対象経費、補助率、補助上限額は下記のとおりです。

補助対象事業承継やM&Aを機に、経営革新にチャレンジする事業者
対象経費設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用など
補助率2/3 ※補助額のうち400万円超~600万円の部分の補助率は1/2
補助上限額600万円
経営革新事業

経営革新事業は、さらに3つの型に分けられます。

創業支援型

経営革新事業の型の1つは、創業支援型です。創業支援型は、廃業を予定している人などから株式譲渡や事業譲渡などによって経営資源を引き継ぐ場合に適用されます。設備のみを引き継ぐ場合や、個別の経営資源のみを引き継ぐ場合は原則的に該当しません。

経営者交代型

経営革新事業の型の1つは、経営者交代型です。経営者交代型は、親族内承継や従業員承継などの事業承継を行う場合に適用されます。令和4年度第2次補正予算により、承継前の取り組みも支援対象となりました。

M&A型

経営革新事業の型の1つは、M&A型です。M&A型は、事業再編・事業統合などのM&Aの場合に適用されます。具体的には、同業他社の経営資源を引き継いで事業統合をするなどのケースが該当します。

4.【事業承継・引継ぎ補助金その2】専門家活用事業

専門家活用事業は、M&Aに関わる費用を補助するものです。補助対象、対象経費、補助率、補助上限額は下記のとおりです。

補助対象・M&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者 ・M&Aで他者に事業を引き継ぎたい事業者
対象経費M&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用、セカンドオピニオンにかかる費用など
補助率2/3
補助上限額600万円
専門家活用事業

専門家活用事業は、買い手側と売り手側の2つの型に分けられます。

売り手支援型

売り手支援型とは、事業再編・事業統合などによって、事業を他社に引き継ぎたい中小企業者が該当する型です。具体的な要件は、地域の雇用を促進する事業を行っていることです。この要件を満たしていて、第三者によって事業が継続される場合に適用されます。

買い手支援型

買い手支援型とは、事業再編・事業統合などによって、事業の引継ぎを受ける中小企業者が該当する型です。具体的な要件は、下記の2点です。

・経営資源を譲り受けた後に、シナジー(相乗効果)を活かした経営革新などを行うと見込まれること

・経営資源を譲り受けてから、地域の雇用をはじめとして、地域経済全体を引っ張っていく事業を行うことが見込まれること

5.【事業承継・引継ぎ補助金その3】廃業・再チャレンジ事業

廃業・再チャレンジ事業は、新たなチャレンジにともなう廃業に関わる費用を補助するものです。補助対象、対象経費、補助率、補助上限額は下記のとおりです。

補助対象既存事業を廃業して新しい事業にチャレンジする事業者
対象経費廃業支援費、在庫廃棄費、解体費など
補助率2/3
補助上限額150万円
廃業・再チャレンジ事業

廃業・再チャレンジ事業は、再チャレンジ申請型と併用申請型の2つの型に分けられます。

再チャレンジ申請型

再チャレンジ申請型とは、既存事業を廃業し、新たなチャレンジを始める場合に適用される型です。単独で申請する場合には、下記の要件を満たす必要があります。

  • 2020年以降に売り手としてM&Aへ着手し、6か月以上取り組んでいること
  • 補助事業後に廃業を完了すること
  • 廃業後に再チャレンジに取り組むこと

併用申請型

併用申請型とは、経営革新や専門家活用と併用申請できる型です。経営革新事業か専門家活用事業で廃業費用の上乗せを申請すれば、別途申請する必要はありません。そのため、廃業を検討している際には、併用申請型の利用も検討するとよいでしょう。

6.事業承継・引継ぎ補助金の申請から交付までの手順

ここでは、事業承継・引継ぎ補助金の申請から交付までの手順を解説します。

1.補助対象の事業に該当するかを確認する

事業承継・引継ぎ補助金の申請をする際には、まず補助対象の事業に該当するかを確認しましょう。事業が該当するか否かは、公式Webサイトの公募要領からすぐ確認できます。自分がどの事業に該当するのか判断したうえで、申請を進めましょう。

2.認定経営革新等支援機関へ相談する

事業承継・引継ぎ補助金の「経営革新」「廃業・再チャレンジ」を申請する場合は、あらかじめ認定経営革新等支援機関に相談をしなければなりません。認定経営革新等支援機関とは、商工会や商工会議所、経営コンサルティングを行う事業者などを、指しています。相談後、相談をした機関から確認書(証明書)を受け取りましょう。

3.gBizIDプライムのアカウントを申請・取得する

補助金の申請は電子申請であるため、gBizIDプライムのアカウントが必要です。そのため、gBizIDプライムのアカウントを申請・取得しなければなりません。あらかじめアカウント発行手続きを進めておきましょう。また、アカウントの取得には2〜3週間かかるケースもあります。そのため、余裕を持って早めに発行手続きを行っておくとよいでしょう。

4.jGrantsで交付を申請する

gBizIDプライムのアカウントを取得したら、jGrantsから事業承継・引継ぎ補助金の電子申請を進めます。事前に必要書類を揃えておけば、その場で書類を提出可能です。

5.補助対象事業を実施して実績を報告する

申請後に事業承継・引継ぎ補助金の交付決定通知を無事に受けたら、補助対象事業を実施します。事業の実施完了後は、原則30日以内に実績報告書を提出しましょう。交付決定通知を受けても、補助事業期間外に契約や支払いが発生した場合、補助対象経費と認定されない点には注意が必要です。

6.補助金が交付される

実績報告後、事業承継・引継ぎ補助金が交付されます。まず行われるのは、実施された事業の内容と経費の確認です。この確認作業を通じて、補助金の額が最終的に決定されます。その後、補助金が事業主に対して支払われます。

7.事業承継・引継ぎ補助金の申請の注意点

ここでは、事業承継・引継ぎ補助金を申請する際の注意点について解説します。

申請から補助金交付まで時間がかかる

事業承継・引継ぎ補助金を申請する際の注意点は、申請から補助金交付まで時間がかかる点です。前述のとおり、電子申請に必要なgBizIDプライムのアカウントは、申請から発行までに2~3週間程度の時間がかかります。申請受付から補助金の交付までにかかる期間は約1年です。そのため、事前に申請から補助金交付までのスケジュールを把握しておきましょう。

重複して別の補助金を受け取れない

事業承継・引継ぎ補助金を申請する際の注意点は、重複して補助金を受け取れない点です。事業承継・引継ぎ補助金は一度しか利用できません。また、すでに同一または類似事業で補助金を受けている場合も、利用できない仕組みとなっています。ただし、異なる事業内容や設備についての申請であれば、複数の補助金を受けられるケースもあります。

審査の加点ポイントには条件がある

事業承継・引継ぎ補助金を申請する際には、審査に加点ポイントがある点も押さえておきましょう。補助金の交付にあたっては原則的に審査が行われますが、一定の条件を満たせば加点がされます。

加点に該当する条件の具体例は、下記のとおりです。

  • 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けていること(経営革新事業の場合)
  • 再チャレンジの内容が「起業(個人事業主含む)」「引継ぎ型創業」であること(廃業・再チャレンジ事業の場合)

8.まとめ

今後の選択肢として事業承継を検討している場合には、事業承継・引継ぎ補助金の活用も視野に入れましょう。補助金を活用することで、費用の負担が大きく抑えられます。 事業承継を検討している際には、ぜひみつきコンサルティングにご相談ください。税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案が可能です。補助金も含め、事業承継に関することはお気軽にお問い合わせください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人