EBOとは?従業員承継の手順・MBOとの違いと資金調達を解説

EBOとは、従業員が株式を譲受して経営権を引き継ぐ事業承継の一手法です。MBO・LBOとの違い、進め方、株価の決め方や融資の組み立て、経営者保証の扱いを整理しました。社内に候補がいても資金の壁で止まる例は珍しくありません。断念した場合に第三者承継へ切り替える判断軸まで示します。

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EBOとは従業員が株式を譲受して経営権を得る手法

「この人になら任せられる」。長く働いてきた社員の顔が浮かんだところから始まる承継があります。EBOはその感覚を制度に落とし込んだ手法です。呼び名は新しく見えますが、社内の人材にバトンを渡すやり方自体は昔から続いてきました。

EBOの読み方と基本的な意味

EBOはEmployee Buyoutの略で、エンプロイー・バイアウトと読みます。従業員が対象会社の株式を譲受し、経営権を取得する手法です。役員ではない部長・工場長クラスが主体になる点に、他のバイアウト手法との違いがあります。

EBOとは - エグゼクティブ・バイアウトのプロセス図

事業承継の3つの承継先の中での位置づけ

事業承継の3つの承継先は、親族内承継・従業員承継・第三者承継に整理できます。EBOはこのうち従業員承継に属する具体的な手法。社内の人材へ株式ごと引き継ぐ形と考えると分かりやすいはずです。

譲受主体は従業員個人とは限らない

従業員が自分の名義で株式を買い取る形だけではありません。受け皿となる持株会社を新設し、その会社が金融機関から資金を調達して株式を取得する組み方も広く使われています。個人の与信だけでは足りない場面の現実解です。

内部昇格が同族承継を上回った現在の潮流

社内承継は、いまや例外的な選択ではありません。帝国データバンクの調査では、2025年の後継者不在率は50.1%。代表者交代の経緯では血縁によらない内部昇格が36.1%となり、同族承継の32.3%を上回りました。

脱ファミリー化がEBOを押し上げている

子や親族に継がせる前提が崩れた結果、社内の役員・社員へ目を向ける経営者が増えました。後継者不足の解決策を探す過程で、EBOという言葉に行き着く方も多いのではないでしょうか。

EBOが検討される主な場面

用途は1つではありません。中小企業と上場会社とでは、EBOに期待する役割がまるで違います。

後継者不在の事業承継として

業務内容も取引先との関係も分かっている社員が経営を継げば、引き継ぎの摩擦は小さく済みます。取引先や金融機関への説明もしやすい。中小企業でEBOが話題に上るのは、ほぼこの文脈です。

上場会社の非公開化として

上場会社では、外部からの譲受提案に対抗して株式を社内に集約し、非公開化する手段としてEBOが使われることがあります。規模が大きいため、投資ファンドや金融機関の関与が前提。中小企業のEBOとは別物と捉えてください。

EBOとMBO・LBO・MEBO・MBIの違い

似た略語が並ぶため、混同されがちな領域です。整理の軸は2つ。「誰が譲受するか」と「どう資金を用意するか」を分けて考えると、輪郭がはっきりします。

手法別の比較

下表は、譲受の主体と資金の出し手、経営体制への影響をまとめたものです。

手法譲受の主体資金の主な出し手経営体制への影響
EBO役員以外の従業員自己資金・金融機関・ファンド現場出身者が新経営者となる
MBO現経営陣・役員金融機関・ファンド経営トップが残り変化は小さい
LBO手法ではなく資金調達の方式対象会社のキャッシュフローを担保にした借入EBO・MBOと併用される
MEBO経営陣と従業員の共同金融機関・ファンド経営陣が残りつつ社員も株主化
MBI社外から招く経営者投資家・ファンド外部主導で体制を大きく変える
第三者承継M&A他社・投資ファンド譲受企業の資金力資本と経営資源が外部から入る

MBOとの違いは「役員かどうか」

MBOのスキームでは、現経営陣やオーナー家が譲受主体になります。EBOはそこに役員が入らない点が決定的な違い。ただし中小企業の実務では、専務や工場長が候補になることが多く、両者の境目は曖昧になりがちです。

LBOとの違いは「主体」対「資金」

LBOの仕組みは、誰が譲受するかを示す概念ではありません。対象会社の将来キャッシュフローを担保に借入を起こし、その資金で株式を取得する調達方法です。EBOの資金手当てにLBOを組み合わせる例もあります。

MEBOとの違いは参加者の広がり

MEBOは、経営陣と従業員が一緒に株式を取得する折衷型です。経営の連続性を保ちながら現場の当事者意識も高められる反面、株主が増えるぶん意思決定の設計は複雑になります。

MBIとの違いは経営人材の出どころ

MBIは社外から経営者を招き入れる手法で、抜本的な立て直しが目的になることが一般的。社内の文化を守りたいという動機で選ばれるEBOとは、狙いが正反対に近い位置にあります。

第三者承継のM&Aとの違い

事業承継とM&Aの関係を整理すると、EBOは資本が社内にとどまる承継、M&Aは資本が外から入る承継となります。譲渡オーナーの手取り、個人保証の外れ方、承継後の投資余力。どれも大きく変わります。

EBOのメリットとデメリット

利点だけを聞けば理想的に映る手法です。ところが実際に検討を始めると、詰まる箇所はだいたい決まっています。両面を並べて見ておきましょう。

EBOのメリット

社内の人材が引き継ぐことから生まれる利点を挙げます。

経営方針と企業文化が途切れない

方針も取引慣行も、そのまま引き継がれます。長年の取引先に「何も変わりません」と伝えられるのは、譲渡オーナーにとって小さくない安心材料。

引き継ぎ期間が短くて済む

事業内容も社内事情も既に理解しているため、業務の引き継ぎに時間を要しません。外部から来た経営者が一から把握する手間が省けます。

従業員の当事者意識が高まる

自分たちの会社という感覚が芽生えると、現場の動きが変わります。後継者となる社員は特に、経営数値への向き合い方が別人のように変化することも。

雇用と取引関係を守りやすい

従業員の雇用条件は原則としてそのまま。金融機関や主要取引先への説明も、社内の人物であれば通しやすい傾向にあります。

EBOのデメリット

一方で、断念に至る理由の大半はここに集約されます。

資金調達の壁が最も高い

株式の評価額が数千万円から数億円に達する会社は珍しくありません。従業員個人の自己資金では届かず、融資も出資も付かなければ、話はそこで止まります。

経営の力量は現場の実力と別物

優秀な現場責任者が、そのまま優秀な経営者になるとは限りません。資金繰り、金融機関との折衝、人事の最終判断。経験のない領域が一気に押し寄せます。

社内に温度差が生まれる

誰を後継者に指名するのか、一部の社員だけが株主になるのか。調整を欠いたまま進めると、社内対立の火種になりかねません。先代が根回しを尽くすかどうかで結果が分かれます。

譲渡オーナーの手取りが読みにくい

譲受側の資金力に価格が縛られるため、市場で評価される水準より低い金額に落ち着くことがあります。老後資金を株式の対価で賄う予定なら、早い段階で試算しておきたいところ。

EBOの進め方と手続の流れ

順番を誤ると後戻りが発生します。特に価格の話を先に出してしまい、後から株主の同意が取れないという展開は避けたいものです。

手続の全体像

下表に、中小企業でEBOを進める際の標準的な手順を整理しました。

段階実施する内容つまずきやすい点
1.後継者の選定と意思確認経営を担う従業員を特定し、本人の意思と家族の理解を確認する本人が個人保証や借入を理由に辞退する
2.株主構成の整理発行済株式の保有者を洗い出し、取得割合の方針を固める分散した少数株主の所在や意向が不明
3.株価の算定企業価値を評価し、譲渡価額の考え方を定める相続税評価額とM&Aの時価を混同する
4.資金調達の目処付け融資・出資・受け皿会社の組成を検討する返済原資を示す事業計画が用意できない
5.契約締結と経営権の移転譲渡承認手続を経て契約を締結し、登記や届出を行う譲渡承認の議事録や名義書換の漏れ

株主構成の整理と譲渡承認の手続

非上場会社の多くは、定款で株式に譲渡制限を設けています。取締役会や株主総会の承認を経なければ譲渡できないため、譲渡承認請求の実務を早めに確認しておくと安全です。

株価の算定と譲渡価額の決め方

高すぎれば従業員が買えず、安すぎれば既存株主が納得しません。EBOの価格交渉は、この狭い幅の中で着地点を探る作業になります。

相続税評価額とM&Aの時価は別物

親族内承継の感覚で相続税評価額を持ち出すと、話がかみ合わなくなります。非上場株式の評価は目的によって前提が変わるため、どの物差しを使うのかを先に決めるべきです。

低額譲渡が招く課税リスク

時価より著しく低い価額で従業員に株式を渡すと、差額に課税が及ぶ可能性があります。譲渡オーナー側は所得税法上の低額譲渡、譲受側は給与課税やみなし贈与。好意で決めた価格が、双方に税負担を生む構図です。

支援現場で必ず確認する評価の非対称性

所得税基本通達59-6では、譲渡した個人側の株主区分を譲渡直前の議決権で判定します。譲受する従業員側は取得後の立場で判定されるため、同じ取引でも両者の適正な時価が一致しないことがある。ここを詰めずに契約書を作ると、後から修正が効きません。

譲渡益への課税は申告分離課税

個人が株式を譲渡して得た譲渡益は、他の所得と分けて計算する申告分離課税の対象です。税率は所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%となります。詳細は国税庁のタックスアンサーで確認できます。手取り額の試算は株式譲渡の税金から逆算するのが実務的です。

EBOの最大の課題は資金調達と経営者保証

相談の場で議論が最も長引くのが、この2点です。逆にいえば、ここさえ組み立てられればEBOは前に進みます。

従業員側の資金調達の選択肢

単独の方法で全額を賄えることは稀。複数を組み合わせる前提で考えます。

自己資金を充てる

譲渡価額が数百万円から1,000万円台に収まる小規模な会社であれば、後継者の自己資金だけで成立する場合もあります。利息も返済も発生しない点は魅力。ただし適用できる場面は限られます。

金融機関からの融資を受ける

最も一般的な経路です。後継者個人が借り入れる形と、受け皿会社が借り入れる形があり、返済原資の見せ方が変わります。事業承継融資のスキームを先に把握しておくと、金融機関との対話が早く進みます。

公的制度も併せて検討する

日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金は、株式等の取得資金を対象に含みます。中小企業庁の経営承継円滑化法の認定を受ければ、信用保証の別枠や公庫融資の特例を使う道も開けます。

受け皿会社を組成する

後継者が新設した持株会社が株式を取得し、対象会社の利益から借入を返済していく形です。SPCを使った組み立ては、個人の返済負担を法人側へ移せる反面、財務の設計を誤ると資金繰りを圧迫します。

ファンドや投資家から出資を受ける

中小企業向けファンドが資本を入れ、後継者が一部を出資するスキームもあります。運用期間があるため、数年後に買い戻しか再譲渡の局面が来る点は理解しておきたいところ。

従業員持株会との混同に注意

福利厚生として少数株式を持たせる従業員持株会の仕組みは、経営権の移転を伴いません。EBOの代替にはならず、むしろ承継時に買い取りの論点として浮上します。

譲渡オーナーの個人保証は外れるのか

借入のある会社なら、ほぼ必ず個人保証が付いています。承継したのに保証だけ残る。これを避ける段取りが要ります。

経営者保証ガイドラインの特則

2019年に公表された事業承継時の特則では、前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求を原則行わない扱いが示されました。法人と個人の資産分離、返済能力、適時の情報開示。この3点が判断材料になります。

信用保証協会の事業承継特別保証

中小企業庁が進める経営者保証解除に向けた対策のもと、一定要件を満たせば経営者保証を不要とする保証制度が用意されています。既存借入の借換にも使える点が実務上は効きます。

保証が外れないまま進めた場合の帰結

個人保証を残したまま代表を退くと、経営に関与できないのに責任だけを負う状態になります。連帯保証を削減する対策は、株価の交渉と同じ比重で扱うべき論点。

EBOが成立するかを見極める5つの確認事項

支援現場では、初回面談の段階で次の項目を順に潰していきます。1つでも空欄が残るなら、EBO単独での完走は難しいという判断になります。

  1. 後継者候補が個人保証と借入を負う覚悟を、家族と共有できているか
  2. 直近3期の営業利益と減価償却費で、想定借入の返済原資を説明できるか
  3. 発行済株式の所在が全て判明し、少数株主の意向を確認できているか
  4. 譲渡オーナーが必要とする手取り額と、譲受側の調達可能額に重なりがあるか
  5. 金融機関が経営者保証の解除に前向きな姿勢を示しているか

EBOが成立しない場合は第三者承継のM&Aを並行検討する

よくある相談として、社内候補を1年以上口説き続けた末に断られ、そこから慌てて他の道を探す事例があります。時間の損失が大きい。初期段階から二本立てで進めるほうが、結果的にオーナーの選択肢は広がります。

譲渡オーナーの手取りはどう変わるか

下表は、EBOと第三者承継のM&Aを譲渡オーナーの視点で比べたものです。

比較項目EBO(従業員承継)第三者承継のM&A
譲渡価額の水準譲受側の調達力に上限が縛られる相乗効果を織り込んだ評価が期待できる
対価の確実性融資が付かなければ不成立譲受企業の資金力で決済される
個人保証の扱い後継者へ引き継がれる場合がある譲受企業側での差替えが一般的
従業員の雇用そのまま維持されやすい契約で処遇維持を定めるのが通例
承継後の投資余力返済負担で制約されやすい譲受企業の資本と販路を使える

従業員の雇用はM&Aでも守れる

社員を守りたいからEBOを選ぶ、という動機はよく聞きます。ただ株式譲渡によるM&Aでは雇用契約が会社に残るため、従業員の立場は原則として変わりません。親族外承継の進め方を知ると、選択の幅が変わってきます。

候補者本人にとってM&Aが有利なこともある

数億円の借入を背負う経営者になるより、資本力のある譲受企業のもとで役員として腕を振るうほう。この形が本人の希望に合う場合もあります。EBOを断った社員が、M&A後の新体制で幹部として残った例は少なくありません。

並行検討の進め方と相談先

社内調整とM&Aの初期検討は、同時に走らせても矛盾しません。事業承継の相談先を比較しつつ、承継コンサルティングの活用アドバイザリーの依頼を検討すると、判断材料が揃います。

企業価値の試算を先に済ませる

自社の評価水準を知らないまま社内交渉に入ると、価格の妥当性を誰も判断できません。中小企業M&Aの譲渡価格の考え方を押さえ、企業価値評価の目線を持っておくことが出発点になります。

費用の全体像も比べておく

承継の方式によって、税負担も専門家報酬も変わります。事業承継の費用比較を手元に置いて検討すると、感覚ではなく数字で選べます。

EBO(エンプロイー・バイアウト)に関するFAQ

相談の場でよく出る質問を集めました。

Q:中小企業ではEBOとMBOのどちらが多いですか

実際に成立しているのは、専務や取締役が主体となるMBO寄りの形が多い印象です。役員以外の社員が単独で数千万円規模の資金を用意するのは、現実には高いハードル。肩書の有無より、返済原資と保証を負えるかで決まります。

Q:従業員に自社株を無償で渡せばEBOになりますか

経営権は移りますが、税務上は別の問題が生じます。時価との差額に贈与税や給与課税が及ぶ可能性があるためです。渡す側にも低額譲渡の論点が残ります。無償や名目価格での移転は、事前に税理士の確認を取ってください。

Q:EBOだと売り手の手取りは下がりますか

下がる方向に働くことが多いのは事実です。譲受側の調達額が価格の上限になるため。ただし対象会社の収益力が高く、金融機関の評価が良好であれば、市場価格に近い水準で決着する場合もあります。決算内容と借入余力次第です。

Q:従業員持株会があるとEBOは進めやすいですか

直接の追い風にはなりません。持株会は少数株式の受け皿であり、経営権の移転を担う仕組みではないからです。むしろ承継の局面では、持株会の保有分をどう扱うかという整理作業が追加で発生します。

Q:EBOの話は社内にいつ切り出すべきですか

候補者本人への打診が先、社内公表は資金の目処が立った後。この順番を崩すと、断られた場合に組織が動揺します。金融機関への相談は本人の内諾を得た直後が目安。並行して他の選択肢も検討しておくと安全です。

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EBOによる事業承継のまとめ

EBOは従業員が株式を譲受して経営権を引き継ぐ手法で、企業文化と雇用を保ちながら承継できる利点があります。壁になるのは資金調達と経営者保証。候補者がいても成立しない例は珍しくありません。社内に人がいるのに前へ進めない状態は、経営者にとって重い時間だと思います。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の事業承継と会社売却を数多く支援してきました。EBOの可否判断から第三者承継への切り替えまで、公認会計士・税理士とM&Aアドバイザーが一体で対応します。株価の目線合わせと保証の整理から、ご一緒に検討させてください。

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著者

田原 聖治
田原 聖治事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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