近時、日本国内でも積極的にM&Aが実施されるようになり、年々件数が増加している状況です。本記事では、明治時代の19世紀末まで遡る日本のM&Aの歴史について解説します。その上で、今後のM&Aも促進させる公的支援制度も紹介します。
M&Aとは
M&Aとは、企業の合併や譲受などのことです。「Mergers and Acquisitions」を略してM&Aと呼ばれています。主に企業そのものや事業の成長が目的であり、経営戦略の1つとして実践されているのが特徴です。
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日本におけるM&Aの変遷
産業史を紐解くと、古くからM&Aが行われてきたことが分かります。その始まりから、今日までの変遷を簡単に振り返ります。
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明治~昭和初期:紡績業界で起こったM&Aブーム
日本のM&Aの始まりは、明治時代の19世紀末まで遡ります。19世紀末の日本の基幹産業は、紡績業です。しかし、中国やインドの紡績業の台頭によって安価な糸が出回り、輸出が伸び悩むようになりました。また、日清戦争による原材料費の高騰や人件費の上昇も影響し、生産にかかるコスト(費用)が上がっていました。
そこで、不利な状況を打破するために実施された手段がM&Aです。1939年までにM&Aが行われた件数は、鐘淵紡績で20件、富士瓦斯紡績で14件、東洋紡績と王子製紙で13件となっています。特に鐘淵紡績は、M&Aによって国内有数の企業に成長しました。
日本の紡績会社はもともと数百社ありましたが、M&Aにより昭和初期には6社まで減少しています。1936年になると、日本はイギリスを抜いて綿布輸出の世界一になりました。
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昭和初期:電力業界のM&A合戦
昭和初期には、電力会社のM&Aも活発になりました。第一次世界大戦の特需や関東大震災の火災による被害などを背景として、昭和初期には電力の需要が高くなっていました。当時の日本には、850社もの電力会社があったといわれています。日本における電気供給は、もともと民間企業が主導していたため、多くの電力会社が生まれています。
しかし、電気には品質の差がないため、電力会社同士の競争は激化しました。電力の過剰な供給も問題になり、M&Aによる電力会社の統合が行われるようになります。M&Aの実施により、最終的には電力会社が5つに集約されました。具体的には、東京電燈、大同電力、東邦電力、日本電力、宇治川電気の5社です。電力業界の激しいM&A合戦は「電力戦」と呼ばれました。
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1920~1930年代:鮎川義介による企業再生型M&Aの確立
1920~1930年代には、経営破綻に陥った企業を再生するために、国策としてM&Aが進められています。特に有名なのは、新興財閥の鈴木商店です。現在の双日、神戸製鋼所、サッポロビール、ニップン(旧・日本製粉)、帝人などは、鈴木商店の事業のM&Aによる再生で生まれました。
このM&Aを成功させたのは、久原鉱業の社長になった鮎川義介です。株式交換やIPO(新規株式公開)などの手法により、M&Aを行いました。その結果、日産コンツェルンといわれる一大財閥を作り上げています。破綻した新興財閥に対する活発なM&Aにより、日本は世界恐慌から抜け出して経済を発展させました。
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1930年代:大型合併が相次いだM&Aブーム
1930年代は、幅広い業界で大型の合併が起こった時期です。たとえば、製鉄業では官営八幡製鉄所と民間企業の6社が合併し、日本製鐵株式會社が設立されました。また、製紙業では、王子製紙、富士製紙、樺太工業が合併し、新しい王子製紙が発足しています。
さらに、ビール製造においては、札幌麦酒、日本麦酒、大阪麦酒の合併により、大日本麦酒が設立されました。ほかにも、三菱航空機と三菱造船の合併により誕生した三菱重工業、住友伸銅所と住友鋳鋼所の合併で生まれた住友金属工業などが有名です。M&Aにより多くの大企業が誕生しました。
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1930年代~終戦: M&Aブームの終焉
1931年に重要産業統制法が制定され、政府がM&Aを統制するようになりました。1937年に始まった日中戦争以降はその傾向が顕著になり、60社以上あった紡績会社は合併により10社になりました。さらに、第二次世界大戦後、GHQにより財閥解体が命じられます。18の財閥が解体され、50社を超える企業が会社分割や事業譲渡を行いました。
また、独占禁止法により、経済力の過度な集中が制限されるようになります。こうして、日本のM&Aブームは終焉しました。
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1980年代:バブルによる海外企業のM&Aの活発化
1980年代後半のバブル景気になると、日本企業は海外企業のM&Aに着手するようになりました。ソニーがアメリカの映画会社である「コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメント」を、コカ・コーラから譲り受けた事例が代表的です。日本企業による海外企業の活発なM&Aは、世界からも大きな注目を浴びました。
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1990年代:バブル崩壊・国内企業のM&Aの増加
1990年代のバブルの崩壊以降は、収益の高い事業に資産を集中させる企業が増えました。そのような方針の下で事業再編や経営体質の強化を目指し、M&Aを実施するケースが多く見られました。また、この時期は、少子高齢化による後継者不在の問題が明るみになり始めた頃です。そのため、後継者への事業承継の手段としてM&Aが考えられるようになってきました。
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2000年代:IT企業の台頭によるM&Aの増加
2000年代にはITバブルにより株価が上昇し、M&Aが増加しました。この時期にはニュースでM&Aが取り上げられる機会も増え、世間一般にM&Aという手法の認知が広まっています。特に、ライブドアや楽天などのM&Aが有名となり、多くの人から注目を集めました。
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2010年代:中小企業のM&Aの拡大
2010年代に入ると、中小企業のM&Aが急速に増加しました。増加率は10年前の10倍にも及びます。その背景には、後継者不在の問題に直面する中小企業の増加があります。廃業を避ける目的でM&Aに踏み切る企業が目立つようになりました。また、国際競争の激化に伴い、業界内再編のためのM&Aも拡大しています。
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2020年代:今後のM&Aの行方
2020年代には新型コロナウイルスが世界的に流行し、経済が停滞しました。それをきっかけに譲受を検討する企業が増加し、現在まで事業承継型のM&Aが増加傾向にあります。経営者の高齢化は今後より深刻化していくと考えられるため、M&Aの件数は今後も増加し続ける可能性が高いです。
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M&Aに関する公的支援制度
長期トレンドで見て増加を続けるM&Aですが、益々の増加を図るべく、国を挙げてM&Aを促進させる公的支援制度を用意しています。
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経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)
中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)では、経営力向上計画を認定された中小企業がM&Aを行う際に、税制措置を活用できるとされています。具体的な制度としては、設備投資減税と準備金の積立がその一部です。
設備投資減税では、設備投資額の税額控除または全額即時償却が可能です。税額控除は、投資額の10%または7%とされています。準備金の積立では、株式譲渡において投資額の70%以下の金額を準備金として積み立てることが可能です。詳細については、中小企業庁の公式ホームページに記載されているため、以下を参考にしてください。
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オープンイノベーション促進税制
オープンイノベーション促進税制は、一定の条件を満たした場合、スタートアップ企業へ投資した金額の25%について所得控除を受けられる制度です。従来は新規発行株式の取得に限られていましたが、令和5年度の税制改正によって、M&Aによる発行済株式の取得も対象になりました。
オープンイノベーション促進税制の詳細については国税庁のホームページに記載されているため、以下を参考にしてください。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継をきっかけとして新しい取り組みを始めたり、事業再編・事業統合に際して経営資源を引継いだりする中小企業向けの支援制度です。事業承継・引継ぎ補助金は、経営革新、専門家活用、廃業・再チャレンジの3種類に分かれています。
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M&A支援機関登録制度
M&A支援機関登録制度は、中小企業者が安心してM&Aを実施できるよう、一定の基準を満たすM&A支援機関を登録する制度です。M&A支援機関を活用するうえでかかる費用は、各機関が事前に登録している支援内容についてのみ補助されます。たとえば、仲介手数料やファイナンシャルアドバイザー費用などです。
詳細については、M&A支援機関登録制度の公式ホームページに記載されているため、ぜひ参考にしてください。
M&Aの歴史のまとめ
日本では明治時代からM&Aが行われてきました。時代によって、さまざまな理由からM&Aが実施されています。現在でもM&Aは活発に行われており、特に事業承継型のM&Aが増加している状況です。
みつきコンサルティングは、多くの企業のM&Aを成功に導いてきました。税理士法人グループの一員であり、経営コンサルティング経験者も多く在籍しています。そのため、詳細な事業分析を行い、事業所内承継や親族内承継などとも比較したうえで、M&Aの実施がふさわしいか判断できます。海外企業のM&Aにも対応可能です。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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