M&Aの法務|関連する法律・手続の流れ・Q&A

M&Aを実行する際には、法律の知識や確認は欠かせません。本記事では、M&Aの法務に関して疑問を抱える経営者に向けて、M&Aにおける法務の必要性、M&Aにおける法務手続の流れなどを解説しますので、参考にしてください。

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M&Aに関連する5つの主な法律-会社法・税法・労働契約承継法・金融商品取引法・独占禁止法

M&Aにおける法務の必要性とは?

M&Aを適法に行わなければ、取引自体が無効になる場合があるため、M&Aの実行にあたって、法律の知識は欠かせません。そもそもM&Aは、商法や民法、会社法、労働基準法など様々な法令に適合した形で進めることが求められます。

法令上の手続に瑕疵があれば、営業許可などのライセンスが失効してしまったり、取引先の口座が失われてしまったりと、M&Aの目的が果たせなくなる可能性があります。広範かつ専門的な法律の知識がM&Aでは求められます。

M&Aに関連する代表的な5つの法律

M&Aに関連する代表的な5つの法律を紹介します。

会社法

会社法は、2005年制定、2006年施行の会社について定められた法律で、会社の設立・組織・運営・管理を規律する法律で、会社に関わる幅広いルールがまとめられたものです。

会社がM&Aを実施するうえで、会社法上の手続は必ず適用されます。

税法

M&Aでは法人税法をはじめとした、さまざまな税法の適用を受けることになります。特に重要な税法は、税制適格組織再編です。

税制適格組織再編とは、税制適格要件を満たす組織再編については、資産・負債を簿価で引き継ぐことが認められており、課税が生じない組織再編のことを言います。一方で、税制適格要件を満たさない組織再編の場合は、各資産の評価損益が実現するため、法人税などの課税対象となる取引となります。

労働契約承継法

労働契約承継法とは、会社分割における労働者の保護を図るための法律です。会社分割とは、会社が営む事業の一部、または全ての事業を他の企業に継承するM&Aの手法の1つですが、会社を分割した際に労働者に不利益が生じる可能性があるため労働契約承継法によって規制が設けられています。

金融商品取引法

金融商品取引法とは、金融商品取引業を行うものに関して、必要な事項を定めた法律です。

金融商品等の取引及び有価証券の発行等を公正にし、有価証券の流通を円滑にすること等を目的としています。M&Aにおいては、基本的には、上場企業を対象とした法令となり、市場買付けや公開買付け(TOB)に関する規制を設けています。

市場買付とは、株式市場から株式を買い付けることです。また、公開買付は、上場会社の株券などを、あらかじめ買付価格、買付予定数、買付期間などの条件を公告し、条件に同意した株主から市場外で買い集める方法です。

独占禁止法

独占禁止法とは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、会社が守らなければいけない規則を定め、公正で自由な競争を妨げる行為を排除することを目的としています。M&Aの結果、譲受企業の会社規模は拡大され、市場における占有率も上昇することになります。

例えば、市場占有率48%の企業と市場占有率32 %の企業が合併した場合には、合併会社は80%の市場占有率となり、同市場において相当な影響力を得ることになります。その結果、事業者間の自由な競争が阻害されたり、商品やサービスの価格が高止まったりするなど、消費者が不利益を被る可能性が出てきます。

このような事態になりかねない一定規模以上のM&Aが行われる場合には、独占禁止法に則った事前の手続が必要となります。

M&Aにおける法務手続の流れ

M&Aにおける一般的なプロセスに沿って、必要となる法務手続の概略を解説します。

1.秘密保持契約書を作成し、締結する

譲受候補企業に対して情報を提供する際には秘密情報も提供されるため秘密保持契約書を締結することが必要です。秘密保持契約書には秘密情報の定義、内容、開示が許される範囲、秘密情報の返還・廃棄、有効期限、準拠法および管轄等について緻密に記載されています。

秘密保持契約書の作成と締結における注意点としては、「秘密情報の対象情報がしっかり担保されているか」、「情報開示権者が開示不可能な情報開示をしてしまわないか」、「秘密情報の返還と廃棄について規定されているか」、「秘密保持契約満了後の秘密保持期間は妥当であるか」などが挙げられます。

2.基本合意書・意向表明書を作成し、締結する

基本合意書とは、譲渡スキームなどの譲渡側と譲受側の了解事項を明確にするための書類です。基本合意書は、M&Aを実行する義務について法的拘束力を持たないという特徴があります。ただし、秘密保持義務・費用負担・独占交渉権・独占交渉期間・合意管轄については、法的拘束力を持たせている点は注意を要します。

基本合意書には、一般的に、「スケジュール」、「契約条件」、「費用負担」、「秘密保持」、「デューデリジェンスへの協力義務」、「独占交渉権」、「有効期間」、「準拠法・合意管轄」などの条項が記載されます。

なお、基本合意に代えて(または先立って)譲受企業から譲渡側に対して「意向表明書」が提出されることも多いです。

3.法務デューデリジェンスを実施する

法務デューデリジェンス(法務DD)とは、M&A取引等の投資実行に先立って、投資対象となる企業や事業の実態を法務リスクを中心に調査・分析する手続です。この調査は、譲受企業が対象会社の法的リスクを洗い出し、取引の適正性を確保するために実施されます。

法務デューデリジェンスの主な目的

法務DDの目的は多岐にわたりますが、主要なものは調査対象会社の関連する法規制に対するコンプライアンス状況の把握、事業上の重要な契約書に関するリスクの調査、係争中または潜在的な紛争・訴訟リスクの把握等が挙げられます。

特に重要なのは、クロージング後に投資対象の事業運営に支障をきたすような重要な法的瑕疵の有無を確認し、存在する場合はその重要性と性質を明らかにすることです。買収価格の減額では解決できない性質のもの、例えば法令違反による業務停止等、今後の事業運営自体に影響を及ぼすものや、ディールブレーカーに発展し得るような様々な法務リスクが存在し得るからです。

発見されたリスクへの対応方法

法務デューデリジェンスで明らかになったリスクに対しては、その性質に応じて適切な対応が取られます。

金額に換算することが可能なリスクについては、譲受価格への反映による価格調整が行われます。これにより、リスクの程度に応じた適正な取引価格を設定できます。一方、金額に換算することが困難なリスクについては、譲受側の表明保証による担保措置が講じられ、将来的にリスクが顕在化した場合の救済策を確保します。

ただし、重大な法務リスクが発見された場合は、譲受自体を取りやめるケースもあります。特に、法令違反による業務停止等、今後の事業運営自体に影響を及ぼすものや、ディールブレーカーに発展し得るような重大な法務リスクが発見された場合は、慎重な判断が求められます。

法務デューデリジェンスは、M&A取引の成否を左右する重要な手続であり、様々な法務リスクが存在し得るため、専門的な調査・分析が不可欠です。

4.最終契約書を締結する

最終契約書とは正式なM&Aの契約書のことで、株式譲渡の場合であれば「株式譲渡契約書」、事業譲渡の場合であれば、「事業譲渡契約書」となります。

最終契約書は法的拘束力を有するため、譲渡側と譲受側は、一定条件のもとに、M&Aを実行する法的な義務を負うこととなります。この法的義務は、M&Aがクロージング(取引実行)時点で発生します。最終契約書締結後、クロージングの前提条件が充足されて初めて、クロージングを迎える点は注意を要します。

5.各種契約の引き継ぎをする

M&Aのスキームごとの契約引継ぎに関する手続の概要について以下に説明します。

  • 株式譲渡…基本的には、各種契約の内容に影響はない。稀に例外もあるため、要確認。
  • 事業譲渡…個別に債権債務の譲渡及び引受け手続が必要です。また、雇用契約や取引先との基本契約も全て再締結する必要があります。
  • 会社分割…雇用契約の再締結は不要ですが、一部またはすべての債権者に対して公告及び催告が必要となります。
  • 合併…全ての債権者に対して、債券保護手続を行う必要があります。

M&Aの譲受をご検討の譲受企業様、あるいは事業の承継を検討されている譲渡オーナー様にとって、法務はM&Aを成功に導く上で非常に重要な要素となります。M&Aのプロセス全体を通じて、様々な法的リスクを特定し、適切に対処していくことが求められます。

よくあるご質問|M&Aの法務に関するFAQ

M&Aは、会社法をはじめとする様々な法令が適用される複雑な手続であり、特に譲受企業にとっては、対象となる会社の事業や譲渡オーナーに関する法的リスクを事前に把握することが不可欠です。また、譲渡オーナーにとっても、自身の会社の法務状況を正確に理解し、潜在的な問題を解消しておくことで、円滑なM&Aの実現につながります。ここでは、M&Aにおける法務に関するよくあるご質問にお答えいたします。

Q:M&Aにおける法務とはどのようなものでしょうか

M&Aにおける法務とは、M&Aに関連する法律や契約全般に関わる実務を指します。 M&Aを成功させるためには、法務の専門家(弁護士)、財務・会計の専門家(公認会計士)、税務の専門家(税理士)など、各分野の専門家が関与することが多く求められます。譲受企業は、法務デューデリジェンス(DD)を通じて対象会社の法的リスクを洗い出し、契約上の取り決めによりそのリスクに対処したり、時には取引の中止を判断したりする必要があります。一方、譲渡オーナーも、譲受企業が行うデューデリジェンスに適切に対応し、過大な法的責任を負わされることのないよう、専門的な視点から契約交渉に臨むことが重要です。

Q:M&Aにおいて法務の専門家はどの段階で必要になりますか

M&Aにおいて法務の専門家は、基本合意書の締結前からクロージング後の統合プロセス(PMI)に至るまで、M&Aの全般的な流れの中で幅広く関与します。特に、譲渡オーナーと譲受企業候補の間で交渉を進めるべき相手方が決まった後の基本合意書の締結、そして譲受企業が対象会社の法的リスクを発見する法務デューデリジェンスのプロセスは、法務の専門家が深く関わる重要な段階です。また、各種デューデリジェンスの結果を踏まえたM&A契約の交渉・締結、そして代金決済や必要書類の引き渡しを行うクロージングにおいても、専門的な知識と助言が不可欠となります。近年では、M&Aスキームの多様化に伴い、デューデリジェンス開始前の段階から弁護士がスキーム検討に加わるケースも増えています。

Q:M&Aで特に注意すべき法務リスクの具体例を教えてください

M&Aにおける法務リスクは多岐にわたりますが、特に頻繁に問題となる主なリスクは以下の通りです。

法律違反に関するリスク

対象会社の事業そのものが何らかの法律に違反している場合です。例えば、医薬品医療機器等法(旧薬事法)における広告表現の過剰な表現や、情報関連法令、あるいは労務関連の法令違反などが挙げられます。多くの企業が労務において何らかの法令違反を抱えていることも少なくありません。これらの違反が重大な場合、譲受企業側からの改善要求や、場合によっては取引の中止につながる可能性があります。譲渡オーナーは、事前にM&Aの専門家による簡易的なデューデリジェンス(セルサイドDD)を実施し、潜在的な法律違反を特定して対処法を検討することが望ましいです。

重要な契約書の欠如に関するリスク

長年の取引において、信頼関係を基に重要な取引先との間で契約書が締結されていないケースが挙げられます。中小企業においては、このようなケースが時折見られます。M&Aのプロセスでは、このような契約の欠如が問題となることがありますが、信頼関係が構築されている場合には、M&Aの実行前に契約書を改めて締結することで解決できる場合も多く、一般的には深刻な問題には発展しにくいです。とはいえ、事前に把握し、対応策を講じることは円滑な譲渡につながります。

チェンジ・オブ・コントロール条項に関するリスク

特定の取引先との契約に、譲渡企業の株式の異動や支配権の変更が生じた場合に、契約を解除できる旨の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれている場合です。対象会社にとって非常に重要な取引先との契約にこの条項が含まれていると、譲受企業は、譲受の瞬間にその重要な取引が解除されるリスクを抱えることになり、大きな不安材料となります。このような場合は、譲受前に当該契約を巻き直すなどの対策を講じる必要があります。

Q:法務デューデリジェンスで確認する主な論点は何ですか

法務デューデリジェンスでは、対象会社・事業の業種や規模、M&A取引の目的によって確認すべき事項は異なりますが、一般的に主要論点は以下の通りです。

株式に関する論点

対象会社が株式会社である場合、現在の株主構成、これまでの株主の変遷、種類株式や新株予約権の発行状況などが確認されます。特に株式譲渡によるM&Aでは、譲渡オーナーが株式を適法かつ有効に保有しているかが取引の有効性に直結するため、慎重な確認が必要です。中小企業では株主名簿が整備されていないこともあり、その場合、株式という権利の発生時点から現在までの権利の流れを追跡して確認する手続が行われます。

労務に関する論点

従業員との間で締結されている雇用契約や就業規則に法令違反がないか、未払賃金や退職金に関する潜在的な債務がないか、必要な社会保険への加入や36協定等の届出が適切に行われているかなど、多岐にわたる項目が検討されます。未払賃金や退職金は、その額が譲受価格に影響を与える可能性があり、法務デューデリジェンスにおいて特に重要視される論点です。

不動産に関する論点

対象会社が不動産を保有している場合、違法建築物の有無や、市街化調整区域内の建物、農地の転用状況などが確認されます。これらの問題は、行政からの除却命令や原状回復命令につながる可能性があり、高額な費用負担や事業継続への深刻な影響を及ぼすリスクがあるため、譲受企業にとって非常に重要なチェックポイントとなります。専門家を交えた詳細な調査が求められます。

契約に関する論点

主要な売上先や仕入先との取引契約の確認に加え、対象会社にとって不当に不利な条項や事業を制約するような条項が含まれていないか、また、前述のチェンジ・オブ・コントロール条項の有無も重点的に確認されます。契約書が存在しない場合も、その取引の実態がどのように行われているかを確認し、必要に応じて契約書を締結するなどの対応が検討されます。

Q:譲渡オーナーがM&Aの法務で意識すべきポイントは何ですか

譲渡オーナーは、M&Aの実行にあたり、自社の法務リスクを事前に把握し、可能な限り解決しておくことが重要です。法務デューデリジェンスにより自社の問題点が露見することは避けられませんが、事前に問題を認識し、対応策を講じておくことで、譲受企業との交渉をスムーズに進めることができます。もし譲受後に法務リスクが顕在化した場合、譲渡オーナーが損害賠償や補償の責任を負うことになる可能性があります。円滑なM&Aの実現と譲渡後のトラブル回避のためにも、譲渡前の段階で弁護士などの専門家のサポートを得て、自社の法務状況を客観的に評価し、潜在的な問題を解消する取り組みが成功の鍵となります。

Q:譲受企業がM&Aの法務で意識すべきポイントは何ですか

譲受企業は、M&Aを通じて対象会社のリスクを引き継ぐことになるため、法務デューデリジェンスを徹底し、潜在的なリスクを洗い出すことが最も重要なポイントです。洗い出されたリスクに対しては、譲受価格への反映、契約書における表明保証や補償条項の適切な設定、あるいはクロージングまでに是正させるなど、適切な対処法を検討する必要があります。また、譲受後の統合プロセス(PMI)を円滑に進めるためにも、デューデリジェンスで判明した法務的な課題に対する対応策を事前に計画しておくことが求められます。M&A案件ごとに法務リスクは異なり、専門的な知見が不可欠ですので、M&Aに精通した法務アドバイザーの助言を積極的に活用することが成功につながります。

M&Aの法務まとめ

本記事では、M&Aにおける法務の必要性、M&Aにおける法務手続の流れなどを解説してきました。M&Aにおける法務について、正しく理解したうえで自社にとって最適な専門家選びをすることが大切です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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