非上場会社同士のM&A|非上場株式の評価・取得方法、取得価額を解説

非上場会社が、他の非上場会社の株式を取得するにあたって、取得目的や方法、取得金額の設定における税務を理解しておくことは重要です。この記事では、非上場株式がどのようなものかを整理し、取得方法や税務面を考慮した取得について解説します。

非上場株式とは何か

非上場株式とは、証券取引所に上場されていない企業の株式を指します。日本では約178万社(※1)の法人企業が存在し、その中で上場企業はわずか3,900社(※2)ほどであり、全体の約0.1%に過ぎません。従って、ほとんどの日本企業の株式は非上場株式と言えます。

※1. 令和3年経済センサス-活動調査(総務省・経済産業省)

※2. 日本取引所グループ「上場会社数・上場株式数」(2023年8月16日時点)

非上場株式のほとんどは、株式の譲渡時に発行会社の承認が無いと譲渡手続きができないよう、会社法上で規定された譲渡制限が付けられることが一般的です。これらのように譲渡制限がついた株式を「譲渡制限株式」と呼ばれ、会社が意図しない株主が、経営に関与してくることを避けるための防衛策として機能しています。譲渡制限を付けていない非上場株式も一部ありますが、中小企業が発行する株式のほとんどは、譲渡制限が設けられていることが一般的です。

非上場株式を取得する理由

非上場株式の保有は、非上場株式の売買市場がないことから上場株式の保有と比較すると、流動性に欠ける(株式の譲渡が実行しにくい)というデメリットがあります。一方、昨今、中小企業のM&Aも活発に行われていることも手伝って、非上場株式を積極的に取得するケースも増えております。これらの主な理由は、大きく3つあり、それぞれについて解説します。

➀将来上場されたときのための先物買い

非上場株式は、事業が拡大し将来上場する可能性があります。非上場株式が上場されると株価の上昇が期待でき、株主は利益を享受できる可能性があります。よって将来有望な事業を行っている企業の非上場株式を先物買いのため、取得するケースがあります。

➁自社の事業規模拡大

日本の中小企業(非上場株式発行)では、優れた技術やサービスを提供する会社が多くあります。非上場株式を取得することで、その会社の経営権を取得することができます。経営権を取得することで中小企業が持っている自社にない技術を取り込んだり、サービスラインを拡充し顧客の満足度を高めたり、自社とのシナジーでお互いの事業規模を拡大させたりと自社の経営戦略実現スピードを向上させるため、非上場株式を取得するケースがあります。

➂事業承継問題の解決、事業や製品の拡大支援など

中小企業(非上場株式)では、将来的な成長が期待される企業であっても後継者が不在、経営資源が足りないなどを理由に、現在の業績が足踏みしているケースが多くあります。これらの課題を抱える中小企業の非上場株式を取得することで、経営に参画し中小企業が抱える課題解決のサポートを実施することが可能となります。このように最初は中小企業の支援目的で非上場株式を取得するのですが、課題解決後には一緒に事業の成長を目指すなど取得後、新たな目的を持ってグループ運営を行うケースがあります。

このように非上場株式の取得には、流動性に欠けるというデメリットが存在する一方で、取得によるメリットも多く存在します。非上場株式取得時には、自社の経営戦略と照らし検討することが重要となりますので、非上場株式取得時には税理士や会計士、M&A仲介会社などの専門家に相談することをお勧めします。

非上場株式を取得する方法

上場株式は、株式売買の市場が確立されていますが、一方で非上場株式は、株式売買市場がありません。流動性が乏しい非上場株式を取得する方法として、5つの方法を紹介します。非上場株式取得をご検討の方は参考にしてください。

M&A

非上場株式の取得方法としてM&Aが活用されるケースがあります。中小企業の後継者問題の解決策として、自社の事業拡大に足りない経営リソース獲得策としてなどM&Aの目的は様々ですが、相談窓口の増加や税制優遇など国がM&Aを推進する動きも活発なことからM&Aによる非上場株式取得が増えています。M&Aのスキームも多種に渡りますが、中小企業でのM&Aでは、非上場株式の取得手続きが簡便なことから「株式譲渡スキーム」が多く使われています。

直接交渉

取得したい非上場株式を発行する会社と直接交渉によって取得するケースがあります。販売先との取引を強化する目的や取引先への資金援助を目的としてものなど当事者同士の直接交渉により非上場株式を取得できる可能性があります。直接交渉は、取引関係の濃淡や経営者同士の人間関係など関係性によって取得の可否が決まることから、取得方法としてはややハードルが高い方法という認識が必要です。

ストックオプション

ベンチャー企業などは創業時、社員のモチベーションを上げる目的や資金調達の手段として、ストックオプションを活用するケースが多くあります。意図的に取得する方法ではありませんが、非上場株式取得の一つの方法と言えるでしょう。

相続や贈与

非上場株式を保有する株主が、逝去した際の相続対象として取得することや生前に経営を譲る際の贈与などにより取得する方法です。多くが親族内で活用される取得方法の一つですが、株主から社内の番頭への贈与など第三者からの取得もあります。相続税や贈与税など税務リスクも伴うため、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

クラウドファンディングなど

非上場株式の取得において、一番新しい取得方法ですが、今では最もポピュラーな取得方法として認識されております。クラウドファンディングを活用し直接投資することにより、非上場株式を取得することが可能です。

非上場株式の評価が必要になるケース

非上場株式の評価が必要となる3つのケースについて紹介します。参考にしてみてください。

株式売買

親族間や第三者間(M&A)で株式移転を株式売買にて実施する際、株式売買に係る譲渡損益が課税対象となるため、株式評価の算出が必要となります。

親族間で株式売買を行う際は、相場価格と大きく異なる金額で取引しようとすることがありますが、あまりにも相場とかけ離れる金額での株式売買を行うと、贈与税などの課税対象とされる可能性があるので注意が必要です。

例としては、非上場株式の時価評価額が5,000万円の株式を1,000万円で売買した場合、差額の4,000万円が贈与税の課税対象となり、約1,800万円の納税義務が発生するなどのリスクがあります。

相続

非上場株式を保有した株主が逝去され相続が発生した際、相続人の遺産分割協議や納税に係る相続税の計算において、非上場株式の評価額を算出する必要があります。

遺産分割協議とは、相続人たちが故人(被相続人)の財産を公平に分割するために行う協議ことを言います。株式評価額が正しく算出されなければ、公平な遺産分割が実現できないため、適切に株式評価を算出する必要があります。

また、公平な遺産分割後、一定の金額以上の遺産を相続することになった場合、相続税の計算が必要となります。被相続人が保有していた株式の評価額次第では、現金は手元になくても多額の税金を納税する必要が出てくることに注意が必要です。

贈与

株主から他の株主への株式移転を贈与にて実施する際も、株式評価の算出が必要となります。

  • 基礎控除額110万円未満の贈与に対しては非課税ですが、110万円以上の贈与が実施された場合、贈与税の課税対象になります。よって正しい株式評価を実施しなければ、非上場株式を贈与にて取得した際、大きな税務リスクを抱えることになりますので注意が必要です。

以上のように、相続発生時、株式売買時、贈与時のそれぞれのケースで、適切な非上場株式評価が求められます。株式評価には専門的な知識が必要となるため、非上場株式の評価には、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

非公開株式の評価方法の概要

上場された株式の場合、市場が確立されているため、相続や贈与の際の評価額は市場株価に基づいて算定することができます。一方、非上場株式については、市場が確立されていないため、市場株価がありません。しかし、非上場株式にも資産価値があり、非上場株式が移転される場合には課税対象となります。

非上場株式の評価額を算定する際には、相続・贈与の場合は相続税法上の株価を国税庁が示す「財産評価基本通達」に基づいて算出します。法人-個人(第三者)や法人-法人の譲渡(売買)の場合は、「財産評価基本通達」に定められた株式評価方法を用いて売主と買主の合意する株価を算出することになります。

この記事では、「財産評価基本通達」に従った原則的な評価方法(同族株主が持つ株式を算出)と特例的な評価方法(少数株主が持つ株式を算出)について説明します。

原則的な評価方法

いわゆる原則的評価の方法は2つです。

類似業種比準方式

主に大会社に分類される会社の評価に活用される方法です。類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」、「利益金額」および「純資産価額(簿価)」の3つで比準して評価する方法になります。

参考:国税庁HP

純資産価額方式

主に小会社に分類される会社の評価に活用される方法です。会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法になりすます。

参考:国税庁HP

なお、中会社に分類される会社の評価は、上記の類似業種比準方式と純資産価額方式を併用し算出されます。

特例的な評価方法(配当還元方式)

少数株主が保有する非上場株式の株価評価に用いられる評価方法です。株主が株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して元本である株式の価額を評価する方法になります。

出典:国税庁HP

これらの評価方法は、企業規模や株主の状況に応じて適用されるもので、納税者や株価算出者が選択できるものではないことに注意してください。

非上場株式の取得価額

非上場株式の取得価額は、購入代価そのものが主なものですが、これに以下で説明する付随費用を加えたものが、取得価額になります。そのため、付随費用に含まれる費用は「有価証券」等として貸借対照表で資産として計上されるのに対して、付随費用に含まれまい費用は「販売費および一般管理費」や「営業外費用」として費用(損金)として計上されることになります。

取得付随費用とは

株式の取得に係る付随費用とは、購入にかかった費用(消費税込)のうち対価性が認められるものになります。会計ルール上は、取得関連費用という言い方をすることがありますが、含まれる費用の範囲が広いです。

以下では、付随費用の範囲について説明します。

証券会社への手数料

株式の購入にかかる費用は、上場株式の購入であれば証券会社への購入手数料・名義書換料が生じます。しかし、未上場株式の取得の場合は、証券会社への手数料は生じません。

M&A関連費用

資本力のある会社が非上場会社の株式を相対で取得するM&Aが年々増加しています。このM&Aで株式を購入する場合には、デューデリジェンスや株式価値算定のための外部専門家への報酬や、M&A会社へ仲介手数料、自社および専門家の交通費・通信費等の実費などの費用が生じます。これらの費用うち、付随費用になるもの(資産計上)と、ならないもの(費用・損金計上)の区分について、明確なルールがないため、迷うことが少なくありません。

特にM&A仲介会社やデューデリジェンス業者への手数料は高額になるため、慎重な判断が必要です。この点、実務上は、株式取得を意思決定する前の費用は「購入のために要した費用」とまでは言えないと考え付随費用にあたらないとし(費用・損金計上し)、株式取得の意思決定後の費用は「購入のために要した費用」と考え付随費用に含める(資産計上する)という線引きが一応のメルクマールになっています。これは国税不服審判所の裁決例等をベースに実務に定着しつつあります。「株式の取得を意思決定した」タイミングは、譲渡企業(買収対象会社)との主要な条件交渉を経た後の「基本合意」の締結時か、買収の「意向表明」時と考えるのが一般的です。

以上が実務慣習として定着しつつありますが、これとは異なる国税不服審判所の裁決例も出ており、依然として資産計上される付随不要の範囲は不透明です。そのため、専門性の高い会計事務所への相談を検討することをお勧めします。

付随費用に含めなくてよい費用

株式の取得に関連して生じる通信費と名義書換料は、それが少額であることもあり、資産計上しなくてよい(費用・損金計上できる)ことが税務ルールで明確化されています。

参考:国税庁HP

参考:非上場株式の期末評価の会計ルール

法人が所有する有価証券については、簿価と時価の差額など一定の金額を限度として評価損の計上が認められているため、取得時と決算時の時価の差額を評価替することが可能です。また有価証券は、保有目的を4つに区分することができ、保有目的によって評価替をする基準が異なりますので下記を参考にしてください。

金融商品会計は、有価証券の評価を以下のように分類しています。

  • 売買目的有価証券
  • 満期保有目的の債券
  • 子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券
  • その他、有価証券

上記の中で非上場株式は、「子会社及び関連会社株式及びその他の有価証券」に該当します。取得価額に対し時価が50%以上下落した場合に減損処理が必要となります。

非上場株式の取得のまとめ

これまでの記事でご紹介した通り、非上場株式の取得方法は、様々です。取得方法により、取得時や売却時の課税金額が変わるため、取得価額の算定は慎重に行うようにしてください。また取得価額の算定方法は、財産評価基本通達により原則的な評価方法が決まっておりますので、間違いないように注意してください。非上場株式の評価方法や取得方法によって、思わぬ税務リスクを負う可能性があることや税務上の計算が複雑なことを考慮すると、税理士や会計士、M&Aアドバイザリーなどの専門家に相談することをお勧めします。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能です。M&Aをご検討の際は、是非一度みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人