相続による事業承継|3つの違い、生前対策、成功ポイントを解説

事業承継と相続はどちらも「引き継ぐ」という意味を持つため混同されやすいのですが、それぞれには違いがあります。

本記事では、、事業承継と相続の違い、事業承継を円滑に⾏う⽅法について解説します。

相続による事業承継とは

事業承継とは

事業承継とは、経営者が自分の会社や事業を後継者に引き継ぐことです。後継者へ引き継ぐもモノとしては、地位・事業・精神・権利・義務・財産などがあります。

後継者の属性によって、事業承継は主に以下の3種類に分類されます。

  • 親族内承継
  • 親族外承継
  • 第三者承継(M&A活用)

親族内承継では経営者の子供や兄弟などの親族が後継者となり、親族外承継では社内で親族以外の役員や従業員が後継者となります。また、M&A活用を用いた事業承継では社外の第三者(主に法人)が後継者となります。それぞれの承継方法は特徴が異なるため、後継者の属性を正確に把握することが重要です。

親族内承継には、早期に後継者を選定し、事業承継の準備が十分にできるというメリットがありますが、親族間で経営権を巡る争いが発生するリスクも存在します。一方、親族外承継では事業を理解している社内の番頭に引き継ぐことができますが、その番頭が自社株式を買い取るだけの資金力が必要となります。

親族や従業員の中に適任者がいない場合、株式譲渡や事業譲渡を通じて第三者に会社を売却する第三者承継(M&A)がおすすめです。後継者問題に悩む中小企業は、最終的に廃業に追い込まれるケースも少なくありません。しかし、第三者承継を行うことで後継者候補の選択肢が広がり、事業の存続可能性が高まります。

相続とは

相続とは、故人が遺した財産や権利、義務などを、法律に基づき、特定の人に包括的に引き継がせることをいいます。一般的には、配偶者、子ども、親族などの身分関係にある相続人が亡くなった人の財産を引き継ぐものです。日本の相続は、民法に基づいて規定されており、故人が遺した財産は、配偶者、子ども、親族などの順位で相続人が定められます。

相続の方法には以下の3つが挙げられます。

  • 法定相続:民法で定められた相続人が、所定の割合で財産を受け取る相続。
  • 遺言による相続:故人が遺言を用いて相続の内容を決定する相続。
  • 分割協議による相続:相続人全員が協議し、遺産の分割方法を決める相続。

相続手続には注意が必要であり、被相続人の死亡後7日以内から10カ月以内に必要な手続が定められています。また、時効のある手続もあるため、慎重に対応しなければなりません。

事業承継と相続の違い

事業承継と相続は、それぞれ異なる目的や方法を持っています。本章では、事業承継と相続の違い、適切な対策について解説します

相続人と後継者の違い

相続では、法律により相続人が定められており、相続順位によって相続割合が異なります。具体的には、以下のような身分関係の者が相続人となります。

  • 法定相続人:民法によって定められた、被相続人と一定の身分関係にある者
  • 受遺者:遺言書によって指定された遺産の受取人

一方で、事業承継では経営者の親族以外でも、誰もが後継者になることが可能です。

相続における「相続人」と「後継者」は以下のように異なります。

  • 相続人:法律で定められた範囲内のみ
  • 後継者:親族でなくても可能

タイミングの違い

相続は民法882条により、「死亡によって開始する」と定められています。この死亡には自然死、失踪宣告、認定死亡などが含まれます。

一方で、事業承継は経営者が存命中でも行うことが可能です。ただし、贈与税や所得税が課税対象となる場合があります。

対象となる資産の違い

相続の対象

  • 相続の対象動産(現預金、有価証券、自動車、家財など)
  • 不動産(宅地、農地、建物、店舗など)
  • 負債(現預金、有価証券、自動車、家財などの債務)
  • 未払税金等(所得税、住民税、固定資産税、延滞税などの未納分)
  • 未払費用(水道光熱費、電話代、医療費、家賃など被相続人が使用していた期間の未納分)

事業承継の対象

  • 経営権(経営者が所有する自社株式)
  • 会社の経営に必要な不動産、設備、運転資金などの資産(負債も含む)
  • 知的財産(経営者の人脈や信用、経営理念など)

以上のように、相続と事業承継の対象は異なります。適切な対策を講じるためには、これらの違いを理解し、専門家と相談しながら進めることが特に重要です。

親族内承継の生前対策

本章では、親族内承継の生前に行える対策について解説します。

遺言の作成

言書によって後継者を決めておけば、自社株をその後継者に相続させることができます。併せて、自社株以外の相続財産は後継者以外の親族に相続させることで、親族内のバランスを確保することが可能となります。

遺言書には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つの種類があり、公証役場で作成する公正証書遺言が一般的です。

連帯保証・担保の引継

事業承継の場合は、生前から準備を始めて個人保証や担保も後継者に引き継いでおく必要があります。保証や担保の変更が認められるかは金融機関の判断によりますので、生前に金融機関と事業承継について交渉する必要があります。

相続以外の方法も検討する

親族内承継における自社株の移転方法としては、相続以外に、生前贈与や売買によっても可能です。

以下、それぞれの方法について解説します。

生前贈与

生前贈与は、経営者の相続が発生する前に、後継者に自社株を贈与する方法です。贈与については税負担が大きいため、毎年少しずつ贈与していく方法や、相続時精算課税制度、自社株贈与の納税猶予・免除制度の利用を検討するのが一般的です。

売買

自社株の売買は、経営者が後継者に自社株を譲渡するシンプルな手法です。遺留分の考慮が不要であるメリットがある反面、後継者が資金調達する必要があります。

自社株の評価額を低くする

親族内承継では、自社株の移転に際して課税の問題が生じます。その際の税負担を安く抑えるため、自社株の相続税評価額を合法的・合理的に引き下げておく対策が採られることが一般的です。

具体策には、退職金や生命保険の活用といった一時的な利益引き下げ対策から、組織再編を使った抜本的な対策まで様々です。費用対効果、対策期間の長短、経営への影響等を総合的に考慮して、どの手法を実施していくか検討することになり、専門的な知識が必要となります。

遺留分に関する民法特例を利用する

自社株を後継者に承継させ時に、後継者以外の親族の遺留分が侵害される場合があります。遺留分とは、奪うことのできない相続人の財産を保障する法制度です。子や配偶者の場合は、法定相続分の2分の1が遺留分となります。

この遺留分を意識せず、後継者以外の遺留分を侵害する結果となる自社株承継を行ってしまうと、経営者の相続発生後に、後継者以外の親族からの遺留分減殺請求により残された親族間で争いが生じる危険性があります。

このリスクを回避するために、経営承継円滑化法の特例を利用することが検討されることがあります。

具体的な遺留分対策としては、以下の特例を利用することが可能です。

  • 除外合意:生前贈与した自社株を、遺留分の計算から除外する合意です。これにより、自社株が遺留分減殺請求の対象から除かれます。
  • 固定合意:遺留分の計算に含める株価を合意時の時価に固定する合意です。これにより、その後の後継者の貢献による株価の上昇分が遺留分の計算に含まれないため、後継者の経営意欲を阻害しません。
  • 附随合意:上記の除外合意や固定合意と併せて行う合意で、後継者が贈与を受けた自社株以外の財産や後継者以外の親族が贈与を受けた財産を、遺留分の計算から除外する合意です。これにより後継者と他の親族の公平を図ります。

事業承継税制の利用

事業承継税制は、自社株を後継者に贈与・相続により承継する際の税負担について、納税猶予・免除する特例です。一定の要件を満たしつつ、所定の手続を経ることで適用されます。

親族内承継の相続発生後の対応

親族内承継においては、自社株の後継者への譲渡・贈与・遺言等での承継対策がなされていない場合、残された親族で話し合って自社株を含む相続財産を、誰に、どのように分けるのか、決める必要があります。

本章では、親族承継の相続発生後の対応について解説します。

遺産分割とは

遺産分割とは、相続人の間で遺産を分ける手続です。例えば、経営者の配偶者と2人の子どもの合計3人が相続人の場合、配偶者が相続財産の半分を、子どもたちがそれぞれ4分の1ずつを相続することになります。相続財産には、資産と負債の両方が含まれ、相続人はどちらの財産も引き継ぐことになります。

遺産分割協議

通常、法定相続分に従って各相続人が相続することが一般的ですが、相続人同士で合意すれば法定相続分と異なる割合で相続することもできます。

遺産分割調停・審判

相続人同士で協議が成立しない場合は、各相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。そして、裁判所で話し合いが行われます。調停が決まらない場合は、家庭裁判所の判断により遺産分割の審判が行われます。家庭裁判所の審判は、原則として法定相続分による分割がなされます。

遺産分割の審判の結果、資産が相続人同士で共有されることもあります。その場合は共有関係を解消するために共有物分割の手続が必要となり、紛争が長期化することも考えられます。

相続税の納税

自社株の評価額が高い場合には、相続税も多額になります。そのため、その納税資金の工面は生前から対策を講じておくことが望ましいです。

納税資金対策の1つとして、後継者らが相続により取得した自社株を会社に譲渡して、金庫株(自己株式)にする方法も考えられます。中小企業のオーナー家では、実務上ポピュラーな方法になります。

親族内承継を成功させるポイント

本章では、相続による事業承継、株式譲渡等を含む親族内承継のどちらの場合にも留意すべきポイントについて解説します。

早めに着手する

事業承継を円滑に進めるためには、何よりも早めに準備を開始することが重要です。特に、後継者候補が見つからない場合には、選定や育成に時間がかかることが予想されるため、計画段階から事業承継までに数年~10年位かかる場合があります。

家族経営における事業承継は、親族が後継者であることから、経営者の引退を意味する事業承継について話し合いにくい状況が生まれることがよくあります。そのため、第三者への事業承継と比べて、経営者が亡くなる直前まで現役を退かず、事前対策が疎かにされるケースが多いです。

後継者を育てる

適切な後継者の選定と育成に取り組むためには、経営者が率先して取り組む必要があります。特に創業者は、何でもこなしてきたスーパーマンであることが多いですが、後継者はそうであるとは限りませんので、時間をかけて根気強く育成し、後継者の成長を待ちましょう。

相続と会社の事業承継は別々の課題と認識する

オーナー経営者にとって、相続と事業承継は密接に関係するテーマです。一方で、直接の利害関係者が、相続問題はあくまでも親族に限られるのに対して、事業承継は従業員や取引など広範に及ぶため、その成功・失敗の影響は計り知れません。

このため、相続と事業承継の両対策の連動性は図りつつも、こと事業承継に関しては、ときに経済合理性で割り切らないと事が進まないことがあることを認識して課題に取り組みましょう。

相続と事業承継の両者に強い専門家に相談する

親族内承継の成功に、専門家への相談は欠かせません。最終的に相続、贈与、株式譲渡、いずれの手段を選択するによせ、その検討過程では、相続・贈与と事業承継のいずれにも明るい税理士法人・その系列コンサルティング会社に相談し、適切なアドバイスを受けることで、円滑な事業承継が実現できるでしょう。

まとめ

事業承継と相続は、いずれも検討範囲が広くて、深く、正解が1つとは限らない、という特性があります。また、関係各方面への細やかな目配せが大事という点でも共通です。

適切な対策や進め方を取らないと、取り返しの付かない事故に繋がりかねません。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

竹内忍
竹内忍執行役員 名古屋事業法人第一部長
国内商業銀行において、法人向けファイナンスのスペシャリストとして活躍。貸出先企業に対して多彩な経営支援を行うコンサルティング室のリーダーとして、幅広い業界での支援実績を残す。みつきコンサルティングでは、ITから製造業まで幅広い領域をカバーし、多様な支援実績を有する。
監修:みつき税理士法人