M&A(株式譲渡や事業譲渡)が増加しています。自社の様々な課題を解決するために、M&Aを検討中の企業も多いことでしょう。本記事では、M&Aの需要の高い業種や注目度の高い業種、それぞれの動向について解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
そのような漠然とした疑問をお持ちではありませんか? みつきコンサルティングでは、本格的なご検討の前でも、情報収集を目的とした無料相談を随時お受けしています。まずはお話をお聞かせください。
M&Aの人気業種は?
M&Aにおいてニーズが高い主な業種は、サービス業、建設・不動産業、Web・IT業、小売業、飲食業、製造業の6業種です。M&Aを成功させるためには、譲渡側・譲受側、それぞれの業界の動向をしっかり把握する必要があるでしょう。
▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
M&Aの需要が高い業種6選
ここからは、M&Aにおけるニーズ(需要)が高い6つの業種を紹介します。以下のグラフは、2024年の日本企業のM&A件数について、およその割合を示したものです。業種区分などに推計が含まれるため、正確な数値ではないことにご注意ください。

上のグラフにあるM&A件数の統計データに基づきつつも、中小企業M&Aを念頭に、筆者の経験・体感を加味した特にM&Aニーズが高い6業種を以下で紹介します。
▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
サービス業
サービス業界では、長年人手不足が問題視されてきました。なかでも、介護業界の人材不足は深刻です。厚生労働省の調査「介護人材の確保・介護現場の革新」によると、人材の不足感を訴える事業所は過半数を超えています。このような背景から、業務効率の向上を目的に、M&Aを実施する事例が増えています。譲受や譲渡の対象は、主に同業界の大手企業や、介護向けICT・AIシステムや介護ロボットを開発する企業です。
▷関連:介護業界のM&A|動向・特徴・メリット・成功ポイント・案件事例
他にも、教育業、美容業、人材業でのM&A需要が高いです。
▷関連:学習塾・予備校のM&A|業界動向・戦略・成功ポイント・成約事例
▷関連:人材業界のM&A動向とは?メリットや手順、注意点、事例を解説
建設業・不動産業
建設業・不動産業は、同業種や隣接業種のM&Aが盛んな業界です。同業種に属する2社の販売網・ノウハウなどの経営資源を活かすことで、競争力の向上やシェア(市場占有率)の拡大にもつながっています。
▷関連:成功する「建設業M&A」のポイント!注意点や対処法も解説
▷関連:設備工事業とは?M&A動向・利点と欠点・成功ポイント・事例を紹介
▷関連:不動産M&Aとは?通常売買との違い・手法・利点と欠点・税務に注意
Web・IT業
Web・IT業はめざましい技術革新を遂げており、まさしく日進月歩の世界です。技術が進歩するごとに、新しい技術に対応できる人材の確保が必要となるため、M&Aを実施するケース(事例)が数多くあります。また、人材確保を目的とし、異業種間のM&Aも積極的に行なわれている業界です。Web広告業では、海外企業の買収等の動きが見られます。
▷関連:IT業界のM&Aで2025年の崖を解決できる?成約事例を紹介
▷関連:SES業界のM&A|価格相場・高値譲渡のポイント・近年の成約事例
小売業
小売業は、もともとM&Aが活発な業界として知られています。近年は、誰もが知っている大手企業同士のM&Aも増えており、多くの注目を集めています。小売業は以前から価格競争が激化しており、店舗の入れ替わりが激しい業界です。こうした背景から、生き残り戦略の1つとしてM&Aが選択される場合もあります。
▷関連:食品スーパーマーケットの最新M&A動向!異業種との成約事例も増加
▷関連:自動車小売業のM&A|新車・中古車ディーラーの課題と売却事例
飲食業
飲食業では、消費者のニーズ(需要)の多様化に対応するため、M&Aが盛んに実施されています。また、飲食業はサービス業と同様、人手不足が深刻化している業界です。そのため、効率化を目指したM&Aにも注目が集まっています。店舗を承継した時点で、サービスの提供エリアや客層が明確なため、譲受側にとっては「顧客選定の失敗が少ない」という点もメリットです。
▷関連:飲食店のM&Aは増えている?価格相場とメリット・デメリット
製造業
製造業は、比較的M&Aが活発な業界として知られています。その専門性の高さから新規参入が難しく、譲受側が見つかりやすい業種です。近年は国内だけでなく、海外メーカー(製造業者)との競争に打ち勝つために、M&Aが選択されるケース(事例)も増えています。
▷関連:製造業界のM&Aは多い?動向や傾向・IT技術の影響・成功要因とは
その他の業界
上記で紹介した業界以外にも、エネルギー業界(LPG、太陽光関連など)や食品業界(健康食品など)もM&Aが活発です。
▷関連:リサイクル・環境業界のM&A|再生資源卸売業の売却事例・外部環境
▷関連:M&Aを活用する食品業界!海外展開も加速・成功ポイントと事例
M&Aが注目される業種3選と将来動向
続いては、M&Aにおける注目が高まっている3つの業種を紹介します。
調剤薬局
調剤薬局とは、病院から患者に処方された薬を、医師の指示に基づいて調剤する薬局のことです。
調剤薬局は人手不足が懸念されており、後継者問題に頭を悩ませている個人薬局も少なくありません。さらに、調剤報酬に関する改定にともなう収益減に対応するため、生き残り戦略としてM&Aが選択されるケースも増えています。業界を牽引する調剤薬局による大規模M&Aも相次いでおり、今後も目が離せません。
▷関連:調剤薬局のM&A件数は?2025年の最新動向・売却相場・成約事例
▷関連:ドラッグストアのM&A|成功する売却方法・業界動向・価格相場
ホテル・旅館業界
ホテル業界では、コロナ禍の影響によってM&Aの件数が増加しました。現在でもその余波から、M&A市場は拡大の一途をたどっています。また、ホテル事業のコスト(費用)削減や運営体制の見直しのために、他社との協業を選択する企業も増加しています。今後は、利用者の多様なニーズ(需要)に対応するためのM&Aも増えていく見込みです。
▷関連:成功する「ホテル業界のM&A」とは?買収する魅力・対象の選び方
▷関連:人手不足が深刻な「宿泊業・旅館のM&A」の課題・譲渡事例
医療業界(病院・クリニック)
医療業界は、国による制度の緩和や新設など、業界再編が積極的に進められている業界です。また、後継者不足や医師の高齢化などの課題を抱えている医院も多いため、M&Aを選択する医院は今後も増えていくでしょう。
▷関連:医療法人のM&Aスキーム|持分あり・なし、注意点、MS法人の譲渡
▷関連:病院・クリニックのM&Aとは?個人医院の相場・スキーム・事例
M&Aが増加している理由
2025年1月のレコフデータ調べよると、2024年の日本企業のM&A件数は4,700件で(公表ベース)、過去最高でした。多くの日本企業が抱える課題を紹介するとともに、国内でM&Aが増加している理由を解説します。
人手不足を解消するため
日本では少子高齢化や技術革新などにより、人手不足に陥っている業界が数多くあります。M&Aを実施すれば、2つの企業の人材を合わせることが可能です。実際に、人手不足を解消するため、M&Aを選択する企業が増加しています。
後継者が不足しているため
帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」によると、52.1%の企業が後継者不在の問題を抱えています。せっかく事業が軌道にのっても、引き継ぐ人材がいなければ事業を継続できず、最悪の場合は廃業に追い込まれてしまうでしょう。後継者不在の企業は、外部に事業を承継するためにM&Aを選択する場合が少なくありません。
経営を安定させるため
企業間競争が激化するなか、多くの中小企業が倒産に追い込まれていることも、M&Aが増加している一因です。M&Aは、他社との協業を実現することにより、事業を継続しやすくなるというメリットがあります。一見すると安定的な業種でも、経営難により倒産する可能性はゼロではありません。経営の安定化を目指してM&Aを選択する企業は、今後も増えていくでしょう。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
業種別M&A よくある質問
業種別のM&Aについて、よくある質問にお答えします。
同業種を選ぶべき?異業種を選ぶべき?
同業他社とのM&Aを実施すれば、互いの経営資源を活用した相乗効果を期待できます。一方、異業種とのM&Aは、事業への新規参入のニーズ(需要)を満たせる点がメリットです。双方のメリットを把握したうえで、自社にとって最適な方法を選びましょう。
▷関連:M&A「買い手」の比較|譲渡するなら同業種・異業種・ファンド?
特定の業種に特化したM&A仲介会社はある?
M&A仲介会社のなかには、特定の業種に特化したサービスを展開している会社もあります。特殊な業界におけるM&Aは、特化型の仲介会社への相談がおすすめです。
▷関連:中小企業のM&A仲介とは?メリットとデメリット・費用相場・選び方
業種別のM&A成約事例
幾つかの人気業種におけるM&Aの成約事例を紹介します。
サービス業M&Aの成約事例
ここからは、業種ごとのM&Aの成功事例を紹介します。まずは、サービス業の成功事例からです。
ソニー・ライフケア×ゆうあいホールディングス
介護付き有料老人ホームを運営するソニー・ライフケア株式会社が、同業種の株式会社ゆうあいホールディングスを完全子会社化。介護事業の拡大と、サービス品質の向上を目的としたものです。
マイナビ×リヴォート
2021年11月、株式会社マイナビとリヴォート株式会社は資本業務提携契約を締結しました。株式会社マイナビが持つ不動産業界との強力なネットワークと、リヴォート株式会社のデジタルソリューションをかけ合わせ、不動産業界のビジネスモデルの変革を図るねらいです。
▷関連:社会福祉法人のM&A|3つの方法と流れ、合併・事業譲渡の対価は?
建設業・不動産業M&Aの成約事例
次に、建設業・不動産業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
高松建設×大昭工業
高松建設株式会社は、大阪府高槻市の地場建設会社の大昭工業株式会社を子会社化しました。⼤昭⼯業株式会社が保有する不動産の有効活⽤や、両者の経営資源の相互活用による受注数増加を目的としたものです。
東邦ガス×ヤマサ
愛知・岐阜・三重の3県にガスを供給する東邦ガス株式会社は、株式会社ヤマサを子会社化しました。このM&Aのねらいとしては、株式会社ヤマサのLPガス事業を吸収し、都市ガス・LPガス・電気の3つのエネルギーを包括的に提供することが挙げられます。
▷関連:2025年問題が直撃する「建築会社のM&A」の動向|事例も紹介
Web・IT業M&Aの成約事例
次に、Web・IT業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
メルペイ×Origami
株式会社メルカリの子会社である株式会社メルペイが、同業種の株式会社Origamiを子会社化しました。ともにスマートフォン決済事業を行なう両者の強みを活かし、業界での競争力を高める目的です。
日本電気(NEC)×ARCON INFORMATICA S.A.
日本国内企業が、海外の企業を子会社化する事例もあります。日本電気株式会社(NEC)は、2016年8月にブラジルのITセキュリティ会社、ARCON INFORMATICA S.A.を子会社化しました。これによって、ARCON INFORMATICA S.A.が保有するITセキュリティ領域の技術・ノウハウを活用し、現地でのITセキュリティ事業を推進することが可能です。
▷関連:システム開発のM&A|中小企業の価格相場・成約事例・利点と欠点
小売業M&Aの成約事例
次に、小売業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
アークス×オータニ
北海道や東北地方でスーパーマーケットを展開する株式会社アークスは、栃木県を中心にスーパーマーケットを展開する株式会社オータニを完全子会社化しました。これによって、株式会社オータニの営業基盤を獲得し、関東進出の足がかりとすることができます。
アダストリア×プレティア・テクノロジーズ
衣料品類の企画・販売を手掛ける株式会社アダストリアと、ARクラウドをはじめとしたアルゴリズムの研究・開発を手掛ける、プレティア・テクノロジーズ株式会社が資本提携を発表しました。これは、アパレル小売領域におけるDXを推進し、顧客に新しい体験を提供することが目的です。
飲食業M&Aの成約事例
次に、飲食業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
木曽路×大将軍
愛知県名古屋市に本社を構え、多ジャンルの飲食店を展開する株式会社木曽路が、関東地方を中心に焼肉店を手掛ける株式会社大将軍を完全子会社化しました。両社の強みを生かして、より付加価値の高い店舗運営を実現し、業績向上を図るねらいです。
アークランドサービスHD×バックパッカーズ
カツ丼専門店「かつ屋」を運営するアークランドサービスホールディングス株式会社が、株式会社バックパッカーズを子会社化しました。この戦略によって、譲渡側に譲受側のノウハウを注ぎこみ、さらなる事業拡大と新業態のコンセプト開発能力強化を目指します。
▷関連:外食業界のM&A動向は?外食産業の課題・M&A成約事例とは
製造業M&Aの成約事例
最後に、製造業におけるM&Aの成功事例を紹介します。
ローツェ×イアス
半導体製造装置メーカーのローツェ株式会社は、同業種の株式会社イアスを完全子会社化しました。これは、両社の技術を融合し、次世代製品開発を推し進めることが目的です。
ヨシムラ・フードHD×丸太太兵衛小林製麺
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、札幌市で生麺を中心とする製造・販売業を展開する、株式会社丸太太兵衛小林製麺を完全子会社化しました。譲受側は、後継者問題や成長停滞など、さまざまな課題を抱える中小食品メーカーを支援する「中小企業支援プラットフォーム」事業を実施しており、今回のM&Aもその一環とみられます。
▷関連:食品メーカーのM&A|業界環境・目的・2024年までの成約事例
M&Aでの人気業種のまとめ
M&Aにおいて需要が高い業種は、主に「サービス業」「建設・不動産業」「Web・IT業」「小売業」「飲食業」「製造業」の6業界です。M&Aを成功させるためには、同業種のみならず、異業種との組み合わせも検討する必要があるでしょう。
業界の特色に合わせたM&Aの実現は、みつきコンサルティングにお任せください。経営コンサルティング経験者が数多く在籍する当社なら、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえで、貴社の課題解決を見込める候補先を紹介いたします。税理士法人グループであることから、M&Aにつきものの相続対策もワンストップで対応可能です。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年7月1日敵対的買収とは?中小企業に防衛策は不要・M&A事例も紹介
2025年6月30日人材派遣業界のM&A動向|業界再編・利点と欠点・注意点・売却相場
2025年6月30日設備工事業のM&A動向・利点と欠点・成功ポイント・成約事例を紹介
2025年6月30日MBOとは?事業承継での活用方法・ 流れ・非上場化を簡単に解説