ドラックストアのM&A|動向、メリット・デメリット、成功ポイントとは?

ドラッグストア業界は、他業種の参入や業界内での価格競争が激化により、M&Aが多く実施されている業界です。この記事では、ドラックストアの定義やM&Aが行われる理由、売却側のメリット・デメリットについても解説しますので、参考にしてください。

1.ドラックストアとは

ドラックストアとは、医薬品を中心に化粧品や食品、日用品などを販売する小売店舗のことを言います。ドラックストアの特徴は、集客するために、食品や日用品などを他業態よりも安く販売し、利益率の高い医薬品で収益を上げています。

業界の推移

ドラッグストア業界に大きな影響があった3つの法改正について下記に解説します。

  • 「2009年の薬事法改正」について…コンビニエンスストアにて、処方箋のいらない一般用医薬品の販売が解禁となる。
  • 「2013年の薬事法改正」について…インターネットにて、第一類医薬品と第二類医薬品の販売が解禁となる。
  • 「2017年のセルフメディケーション税制導入」について…測定の医薬品購入額について所得控除制度が導入される。

以上のように、規制緩和により医薬品販売で利益を確保しにくくなったり、税制の優遇で医薬品の需要拡大が期待されたりしています。

業界の市場規模

ドラッグストア店舗数は2014年以降、毎年増えています。店舗増加の理由は、「高齢化や消費者の健康志向」、「セルフメディケーションの推進」などが背景にあります。2022年のドラッグストアの商品別内訳は、食品が前年比7.1%増の2兆391億円と全体の約3割を占めている状況です。

※参考:2022年小売業販売を振り返る|その他の研究・分析レポート|経済産業省

2.ドラッグストア業界でM&Aが行われる理由

後継者不足のため

後継者問題を抱えるドラッグストアがM&Aで事業の存続を図るケースが増加しています。後継者がいないと、事業承継ができず廃業せざるを得ない場合もあるため、引退を控えた経営者に後継者がいないケースが多いことが1番多い理由となります。

経営の安定と売却益を獲得するため

M&Aにより経営規模が大きくなると、顧客の獲得や経営効率が向上し、売上の増加や利益率の改善が期待できます。また、M&Aによる売却益が獲得できれば、引退する経営者の老後資金の確保にもつながります。

人材獲得のため

薬剤師のような有資格者は不足しやすく、採用や育成も簡単ではないため、ドラックストア業界でも人材不足は深刻です。M&Aでドラッグストアを買収すれば、人材を引き継ぐことができ、即戦力が確保できるため人材確保の手段としてもM&Aが活用されています。

3.ドラッグストア業界におけるM&Aの動向

本章では、ドラッグストア業界におけるM&Aの動向について解説します。

大手は事業拡大のためのM&Aを実施

ドラッグストア業界は、大手によるドミナント戦略が一般化しています。ドミナント戦略とは、一定のエリアに集中的に出店する戦略のことで、特定地域におけるシェアを独占し、競合他社の参入余地をなくすことを目的としています。

また、大手ドラックストアは、売上シェアの獲得や事業規模の拡大を目指して、中小規模のドラッグストアをM&Aで買収することでもドミナント戦略を実行しています。

中小規模ストアは大手の傘下に

中小規模のドラックストアは、人口減少の地方では成長は難しく、都心部への新規参入の余地もありません。一方で、M&Aにより大手の傘下に入れば、新規販売エリアへの新規店舗の出店を行うことができます。このように、大手の傘下に入ることで生き残りを図る動きもあります。

異業種とのM&Aにより事業の拡大を図る企業も

コンビニエンスストアやECサイトの企業などとM&Aをしている企業もあります。具体的には、2014年4月にイオンはウエルシアHDを子会社化、2020年10月クスリのアオキホールディングスは食品スーパーのフクヤを子会社化しています。

4.売り手側のメリット

本章では、ドラッグストア業界でM&Aを行う売却側のメリットについて解説します。

事業承継が実現する

M&Aで会社の譲渡が成れば、廃業を避けて、第三者の適切な相手に事業を引き継いでもらうことができるため、M&Aは後継者問題の解決につながります

事業の改善・拡大が目指せる

譲受側企業の傘下に入ると、譲受側のブランドや知名度、資金力などを譲渡側でも活用することができます。また、業務体系を見直すことで、営業利益の確保がしやすくなったり、新規出店にも有利になったりします。

利益が得られる

会社を売却すると、株式や事業の売却益を得ることができ、ここで獲得した資金を新規事業や老後の生活などに充てることができます。

5.売り手側のデメリット

本章では、ドラッグストア業界のM&Aによる売却側のデメリットについて解説します。

従業員が離職する恐れがある

M&A後の契約内容や環境の変化に対して不満を持った従業員が離職・流出する恐れがあります。したがって、従業員へは適切なタイミングでM&Aについて伝えることや、従業員も納得できるお相手や条件でM&Aすることが大切です。

取引先から反発されたり事業展開が制限されたりする

売却側は、M&A後に経営上の権限や裁量が制限されることもあり、今まで通り取引できない場合もあります。また、元経営者や役員が新事業を行う場合、競業避止義務により事業展開を制限される可能性もあります。

6.ドラッグストア業界のM&A相場

会社の譲渡価格は、譲渡側と譲受側で条件交渉をした結果、合意した金額になります。具体的には、譲渡価格の相場は店舗数や規模により異なりますが、数千万円~数億円程度の案件が多いです。

7.M&Aを成功させるポイント

本章では、ドラッグストアでM&Aを成功させるポイントについて解説します。

地域に根付いている

地域密着型のドラッグストアは、地域住民から欠かせない店と位置付けられれば高評価を得られるため、地域に根付けているかがポイントとなります。また、ドラッグストアの立地がよければ、M&Aが成功する可能性も高くなります。

有資格者を多く確保している

薬剤師や登録販売者の有資格者のいる企業を欲しがる大手は多いため、ドラッグストア業界は、大手でも常に人材が不足している状態です。このため、有資格者を多く確保できているドラッグストアは、好条件でのM&Aが期待できます。

必要な情報は開示する

M&Aを成功させるには、必要な情報は惜しみなく開示することが大切です。交渉中に情報を伏せると、進みかけた計画が撤回される恐れもあります。また、信頼を損ねるような行動も、譲受側の価値を下げることにつながる可能がありますので、良い情報も悪い情報も包み隠さず情報開示することが大切です。

M&Aの専門家に相談する

M&Aが未経験の場合、自社のみで交渉するのは不利となるため、M&Aをスムーズに進めるには、専門家を利用することがおすすめです。さらに、M&Aを検討する段階から専門家に相談すると安心です。

8.ドラッグストアの売却手順

本章では、ドラッグストアをM&Aで売却する手順について解説します。

1.準備段階

M&Aの準備段階に検討すべき点について、下記に記載します。

  • M&Aの目標や戦略を明確にします。
  • FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)や仲介会社やなどの専門家を決めます。
  • 譲受企業を探します(FA会社や仲介会社から紹介してもらう形が一般的です)。
  • M&Aに必要な書類はあらかじめ用意すると流れがスムーズになります。

2.交渉段階

M&Aの交渉段階に検討すべき点について、下記に記載します。

  • FA会社や仲介会社を通じて、条件の交渉をする。
  • 場合により、譲渡側・譲受側の経営者が交渉前に先に面談することもあります。
  • 基本的な条件交渉に双方合意した場合、基本合意書を締結します。
  • 譲渡側に対してデューデリジェンス(買収監査・企業調査)が実施されます。

※デューデリジェンスとは…譲渡対象企業に対する調査手続きの総称です。譲渡対価が適正か、譲渡企業に潜在的なリスクがないかを様々な角度から、それぞれの専門家が検証・調査することです。

3.契約・クロージング(成約)の段階

M&Aの交渉段階に検討すべき点について、下記に記載します。

  • 基本的な契約項目や誓約事項、保証条項など最終契約書を締結します。
  • 株式の譲渡や対価の支払いなど、M&Aの取引自体を実行します。
  • 最終契約が締結し、M&Aが完了したら、従業員や取引先に向けて情報を公開します。

9.ドラッグストア業界のM&A事例2選

本章では、ドラッグストア業界のM&Aの事例2つご紹介します。

株式会社ココカラファインと有限会社薬宝商事

ココカラファインは、地域の健康増進を支援する「健康サポート薬局」づくりに重点を置き、「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という経営理念の実現を目指しています。

そのためにM&Aにも積極的に取り組み、中核事業であるドラッグストア事業と調剤薬局事業を拡充していましたが、2020年1月に、川崎市内で調剤薬局を2店舗運営している薬宝商事(売上高3億内外)のM&Aによる子会社化を実施しました。

今回の子会社化により、神奈川県におけるドミナントを深耕し、地域におけるヘルスケアネットワークの構築を推進することが目的とされいています。

株式会社クスリのアオキホールディングスとフクヤ

石川県を中心に、中部、関東、近畿、東北にチェーン展開をするクスリのアオキホールディングスは、2020年10月、京都府宮津市で食品スーパーを運営するフクヤとM&Aを実施しました。今後は、両社の持つ新鮮な食材の品揃えと、ドラッグストアの強みを生かし、地域から愛される店舗づくりを目指しています。

10.ドラックストアのM&Aまとめ

本記事では、調剤薬局及びドラッグストアのM&Aについて解説してきました。当業界において大切なことは、業界動向を踏まえたうえで、自社にとって適切なアドバイイスと譲受先の情報を有しているM&A仲介会社などの専門家とのつながりが重要であるということです。

みつきコンサルティングは税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択可能です。また、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先を紹介することが可能です。

さらに譲受候補先から事業分析や企業価値算定のために事業計画書の提出を求められることが増えてきていますが、経営コンサルティング経験者が精緻な計画を策定可能です。ららに、一般的に債務超過、収益赤字の企業はM&Aの対象になりにくいが、出資後(全部or一部)に事業再生を行い、企業価値を向上した上でM&Aを実施することも可能です。

最後に、M&Aに付き物である相続対策にもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

竹内忍
竹内忍執行役員 名古屋事業法人第一部長
国内商業銀行において、法人向けファイナンスのスペシャリストとして活躍。貸出先企業に対して多彩な経営支援を行うコンサルティング室のリーダーとして、幅広い業界での支援実績を残す。みつきコンサルティングでは、ITから製造業まで幅広い領域をカバーし、多様な支援実績を有する。
監修:みつき税理士法人