給食業界(会社)のM&A動向|目的・成功のポイント・譲渡事例

給食会社とは、取引先に対して調理済みの食事を提供することを主な事業としている会社のことを言います。この記事では、給食業界におけるM&Aの動向や事例について解説します。給食業界の経営者の方や給食業界へ新規参入をお考えの経営者の方は参考にしてみてください。

給食業界のM&A

給食事業には、飲食店、宿泊施設の食事、宴会料理を提供する「営業給食」と学校、保育所、病院、福祉施設、企業、官公庁などと契約し、特定の人数の利用者に継続的に調理済みの食事を提供する「集団給食」の2種類が存在します。

それぞれ異なった特徴や課題があるため、この記事では、「営業給食」「集団給食」それぞれのM&A動向について解説します。

給食業界の現状

一般社団法人・日本フードサービス協会の「外食産業市場規模推計について」によると、営業給食及び集団給食における推計市場規模の推移は以下のようになっています。

  • 2017年(平成29年)

営業給食17兆3,116億円、集団給食3兆3,791億円、

合計20兆6,907億円

  • 2018年(平成30年)

営業給食17兆3,941億円、集団給食3兆3,606億円

合計20兆7,547億円

  • 2019年(令和元年)

営業給食17兆8,993億円、集団給食3兆3,545億円

合計21兆521億円

  • 2020年(令和2年)

営業給食12兆7,175億円、集団給食2兆8,280億円

合計15兆5,455億円

  • 2021年(令和3年)

営業給食11兆9,639億円、集団給食2兆9,409億円

合計14兆9,048億円

2019年までは営業給食については、外食文化の盛り上がりや営業給食におけるサービスの種類の増加など、時代背景も手伝って増加傾向にありました。一方、集団給食については、少子化による人口減少に伴い、保育所や学校からの給食需要が減少傾向にあることから市場規模も減少傾向となっていました。しかし、超高齢化社会を背景に、病院や福祉施設からの給食需要は安定的なニーズが続いており、今後も微減または横ばいで程度で推移されると予想されていました。

2020年(令和2年)以降は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって、給食業界における事業環境が激変し市場規模の大幅な縮小が現在も続いています。近年ではコロナ禍から脱し自粛生活も開放されたことから、給食業界の復活が期待されていますが、物価高騰・人件費高騰・人材不足・低価格競争の激化など事業環境は厳しく、今後の動向は予断を許さない状況と言えます。

給食業界のM&A動向

給食事業は規模の優位性(スケールメリット)を得やすい事業であり、同業の給食事業者によるM&Aが活発に行われています。また、安定的な収益構造であるため近隣業種の事業者による進出も増加傾向にあります。その他、食の安全性が徹底されていないアジア圏への進出など商圏の確保を目的としたM&Aも進んでいます。

一方、譲渡側の傾向としては、他業種と同様、事業承継問題の解決策や大手企業が自社で抱える食堂事業の切り離しなどの動きも見られます。また、設備投資や仕入れ力などスケールメリットによるコストダウンを図ることが事業運営に大きく影響するため、中小規模の会社は、価格競争巻き込まれ事業の維持・拡大のためにM&Aを選択するケースも増えています。物価高や人件費の高騰、人材不足、価格競争などの厳しい事業環境も手伝って、今後も給食業界のM&Aは活性化する可能性が高い業種と言えるでしょう。

人材不足との向き合い方が重要

給食業界では、過酷な労働環境から高い離職率が問題視されています。コロナ禍も明け、徐々に外食や催し物が復活していることや超高齢化社会という背景に病院や福祉施設などの需要が継続していることなど市場規模は戻りつつありますが、現場では十分な人材を確保できていないのが現状です。

譲渡側は雇用環境や処遇の改善など、人材不足を解消するための努力を怠ってはいけません。この努力を怠り最低限の人員確保すらできていない状況ですとM&A取引が成立しないケースもありえます。一方、譲受側としても対象会社の人材確保状況を確認し、譲渡後も働きやすい環境整備で人材不足という課題に対処していくことが必要となります。

給食会社がM&Aする目的

給食会社のM&Aが行われる目的(メリット)を譲渡側と譲受側に分けて紹介します。

譲渡側の目的

給食会社におけるM&Aの際の、譲渡側の主なメリットを紹介します。

事業の選択と集中

大手企業における社内向けの食堂運営や事業規模の小さな給食事業などの切り離しのため、事業の選択と集中を目的としたM&Aです。人材や資金等のリソースを有望な事業に集中することでコスト削減が見込めるため、多くの事例が散見されます。

資本力の強化

大手企業にグループインすることで、資金調達力が強化され成長や業務効率化に対する投資を積極的に行うことが可能になります。このような資本力の強化を目的としたM&Aが多くあります。

競争力の強化

大手企業にグループインすることで、ネームバリューの向上・業務効率化による価額競争力の向上、人材育成・採用の強化によるサービス向上など、他社との競争力を高めることが可能です。

従業員の安定的な雇用及び処遇向上

大手企業へグループインすることで、雇用の安定化が図られます。また、福利厚生面の拡充や業績アップによる処遇の向上も期待でき、従業員にとってもメリットがあります。

後継者問題の解消

経営者の高齢化や人材不足により、中小企業では後継者問題を抱える企業が多く存在します。M&Aを活用し会社を引き継いでもらうことで後継者問題を解決し、事業の継続が期待できます。

創業者利潤の獲得

会社の事業や株式を譲渡するため、オーナー経営者は対価を獲得することができます。新規事業へ投入する資金や、自身の引退後の生活費として活用することが可能です。

借入金の個人保証の解除

株式譲渡スキームでM&Aを行った場合、譲受側が借入金を一括返済するか、連帯保証人の変更を行うため、オーナー経営者が対象会社の借入金に係る個人保証を行っている場合、解除(解消)が可能となります。

譲受側の目的

給食会社を譲り受ける主な目的は以下のようなものです。

事業規模拡大によるスケールメリットの享受

給食事業を営む同業の会社が給食会社のM&Aを実施した場合、取引先やエリアの拡大など新たな商圏を獲得することが可能です。また、従業員などの人的リソースの獲得や生産拠点の拡充により事業規模を拡大できることから、スケールメリット(仕入れコストの削減や食材ロス削減など)を享受することが可能です。

給食業界への新規進出

給食業界へ新規参入する際、業界知識やノウハウが乏しいためゼロから立ち上げると時間もコストも大幅に費やすことになります。M&Aで給食会社を譲り受けることで、これらの時間とコストが削減できるでしょう。これは、異業種の新規参入時に関わらず、営業給食分野のみで事業を運営していた会社が集団給食分野に進出する際なども有効な策と言えます。

M&A成功のポイント

この記事では、給食業界におけるM&Aを成功させるためのポイントについて解説します。譲渡側と譲受側それぞれの視点で解説しますので、給食業界の経営者の方でM&Aを検討されている方は参考にしてみてください。

譲渡側のポイント

  • 安全性確保のための衛生管理や品質管理の徹底
    • 食に関する安全性を重要視する時代であるため、衛生管理や品質管理を徹底している環境が重要です。
  • 人材集約型の事業であるため、正社員の配置・アルバイトスタッフの管理など人的リソース管理の徹底
    • 利益率の低い業界であるため、余剰人員を抱えない適切な人材配置が重要です。
  • 取引先や顧客との安定的な取引関係の継続
    • 多数の拠点を保有している、積極的に拠点を増やしているなど将来性のある取引先を抱えることで、効率的な営業活動が可能となります。
  • 業務の効率化・原価管理を徹底し厳格なコスト管理と業務の効率化
    • 価額競争に打ち勝つためにも、業務の効率化や徹底した原価管理で利益を最大化することが必要です。
  • 営業・業務ノウハウの積み上げや人材育成体制の構築
    • 自社の強みとなる営業や業務ノウハウの蓄積が重要となります。また、少子高齢化による人材不足は今後も続くことが予想されるため、優秀な人材を育てることも重要です。

譲受側のポイント

  • デューデリジェンスの徹底
    • デューデリジェンスは、譲受側が行う対象会社の買収監査のことを指します。財務・税務・ビジネス・労務など幅広い分野で調査を行い、譲受後リスクを洗い出すことでM&A実行後のトラブルを回避することが可能です。また、円滑なPMI(経営統合プロセス)実施のためにも重要なプロセスとなるため、専門家への依頼のもと入念に実施することをお勧めします。
  • PMI(経営統合プロセス)の実施
    • 譲受側においては、PMI(経営統合プロセス)も重要なポイントです。M&Aは、手続きが完了したことが成功ではなく、経営統合の上、期待したシナジー効果や収益を実現することで初めて成功と言えます。PMI(経営統合プロセス)を疎かにし期待したシナジー効果や収益が得られないまま失敗に終わるケースも多くあります。自社と対象会社の特徴を把握し計画的なPMI(経営統合プロセス)の実施がM&A成功の鍵と言えます。

給食会社のM&A成約事例

給食業界で行われた譲渡事例を幾つか紹介します。

トーカンによる三給の全株式をM&Aで取得

セントラルフォレストグループ傘下で食品・酒類食品卸を手掛けるトーカンは、外食・給食事業者向けの業務用食材卸売業を展開する三給の全株式を取得しました。三給の業務用食材卸売事業とトーカンの給食事業でシナジーが見込めること、三給の子会社であるヒカリのスーパー惣菜向けの食品卸売事業が、トーカンの戦略領域と合致したことを理由にM&Aを実施しました。

レバストがマシモのM&Aで食品工場部門をM&Aで取得

給食事業や食事宅配事業を展開するレバストは、寿司や弁当の製造・販売を行うマシモから食品工場を全事業譲渡により取得しました。レバストは、従来の給食・宅食事業に加え中食事業への新規参入を目的としM&Aを実行しました。

ACA Next、タイリョウの給食事業の一部をM&Aで取得

官公庁・病院・学校・介護福祉施設などの食事提供事業を主業に、人材派遣・ヘルスケア事業などを手掛けるACA Nextは給食事業の販路拡大・競争力の強化を目的に、タイリョウから給食事業の一部を譲り受けました。

京進、リッチの全株式をM&Aで取得

個別指導塾のフランチャイズ展開や英会話サービス、保育サービス、介護サービス、国際人材交流事業などを手掛ける京進は、産業給食事業や食堂委託事業、園児給食事業などを展開するリッチの全株式を取得しました。京進は、自社の配食サービスのノウハウ共有と業務効率化のシナジーを目的にM&Aを実施しました。

給食業界のM&Aのまとめ

給食会業界は、安定した需要が見込める事業でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、事業環境が激変した業界の一つです。この事業環境の変化で給食会社も業務の効率化・コスト削減などを図るため、スケールメリットを目的としたM&Aが増加傾向にあります。新しい商圏の確保・慢性的な人材不足対策の一つとして、今後も給食業界のM&Aは活発化すると予想されます。競争力の強化・事業承継問題の対策としてM&Aを検討してみることもお勧めします。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 また、みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法務面のサポートもワンストップで対応が可能です。M&Aをご検討の際はみつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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