年買法とは?年倍法の計算法、注意点、適正年数を詳しく解説!

年買法(年倍法)とは、譲渡対象企業(事業)の時価純資産に、利益等の複数年分(3〜5年分など)を加算して、企業(事業)の価値を計算する評価方法です。 利益等の複数年分は「のれん」と呼ばれます。本記事では、この評価方法について詳しく解説します。

年買法(年倍法)とは

年買法(年倍法)とは、企業価値を評価する方法の1つでコストアプローチの中の一種となります。一般的な算出方法としては、以下の算式で計算されます。

  • 株式価値 = 時価純資産 + 基準利益×年数倍率(3年~5年)

年買法(年倍法)の特徴は、最低限の会計知識があれば簡単に理解できる点になります。基準利益には決まりがなく、営業利益や経常利益などの税引前の概念が用いられることが一般的です。また、年数倍率となる3年~5年という期間は、業種や市場、利益水準や負債の額など対象会社によって異なります。

ソフトウェア開発やAIなどのIT関連業種のように収益性が高い業種や、M&Aにおける人気業種では、長い年数倍率が使われ、逆にOLDビジネスや斜陽産業など人気が低い業種では短い年数倍率が使われることになります。「時価純資産」とは、貸借対照表の数値を時価評価(含み損益や簿外債務を考慮)した後の純資産を言います。

年買法(年倍法)とは
年買法(年倍法)とは

年買法(年倍法)による計算方法

中小企業庁による計算式

年買法(年倍法)は、企業価値を簡便的に算出できるため、中小企業庁から出ている「経営者のための事業承継マニュアル」の中でも、年買法(年倍法)という記載ではありませんが企業価値算定方法の一つとして紹介されています。

中小企業庁が紹介している算定事例では、「時価純資産+のれん代=企業価値」とされており、のれん代とは年間利益(利益の基準はケースによって異なる)に一定の年数倍率を乗じたもので計算されています。

M&Aにおける企業価値とは、最終的に譲渡側と譲受側の交渉で合意される価額であり、対象会社の資産・負債の状況、収益やキャッシュフローの状況、市場相場の状況などを考慮し企業価値を算定します。年買法(年倍法)は、企業価値を簡便的に算出できることが特徴ですが、理論性に欠けることや恣意的に企業価値を変更できるなどの懸念点もあるため、M&Aにおける年買法(年倍法)での企業価値算定結果については、目安としてとらえる方が良いでしょう。

具体的な計算例

この記事では、年買法(年倍法)による企業価値評価の計算プロセスを解説します。自社の企業価値算定時やM&Aを検討している経営者の方は参考にしてください。

事例前提

  • 簿価純資産:800百万円、土地の含み益:40百万円
  • 売上高:1,000百万円、営業利益:80百万円

計算過程

年買法(年倍法)では、まず簿価純資産を検証し時価純資産額を算出します。その後、営業利益に年数倍率を乗じて「のれん代」を算出し、時価純資産額に「のれん代」加算し算出します。

上記の例では、簿価純資産800百万円に土地の含み益40百万円となっているため、簿価純資産800百万+含み益40万円=時価純資産840百万円となります。

次に、時価純資産に加算する「のれん代」を算出します。営業利益の3年分を加算すると仮定すると、時価純資産840百万円+営業利益80百万円(営業利益80百万円×3年=240百万円)となり、企業価値としては320百万円となります。

年買法(年倍法)の計算方法
年買法(年倍法)の計算プロセス

「のれん」の概念及び重要性

M&Aにおける企業価値評価では、「のれん」という概念が重要となります。「のれん」とは、企業のノウハウやブランド力、取引先や人材など、将来的な収益を生み出す可能性がある無形資産(現在数値化できない価値を持つ資産)を指します。「のれん」は、一般的に純資産額と買収価格の差額を指します。年買法(年倍法)では、利益に年数倍率を乗じた金額が「のれん」に該当します。実際に何年分の収益を生み出すかは不確定なため、どのくらいの年数倍率を加算するかは算出する人の主観になり理論的な根拠がないことから、M&Aの企業価値算定時に年買法(年倍法)を使用する際は、注意が必要です。

年買法(年倍法)と他の企業価値評価方式との関係

この記事では、M&Aにおいて用いられる主要な3つの企業価値算定方法についての解説と、主要な企業価値算定方法と年買法(年倍法)の関連性について解説します。企業価値算定の際の参考にしてください。

コストアプローチ

コストアプローチは、貸借対照表の純資産をもとに企業価値を評価する方法を言います。主な算出方法としては、簿価純資産法と時価純資産法があります。簿価純資産法は、貸借対照表の簿価純資産額を企業価値とする方法です。時価純資産法は、資産および負債を時価評価した際の純資産を算出し企業価値とする方法を言います。

メリット

  • 純資産を企業価値とするため、理解しやすい。
  • 複雑な指標や市場に左右されないため、評価がブレにくい。
  • 個別に資産、負債を分析するため、客観的な評価となる。

デメリット

  • 事業の収益性や将来性を企業価値に反映されない。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来得られる利益や配当などをベースに事業価値算出し、算出した対象会社の事業価値に非事業価値を加算することにより企業価値を評価する手法を言います。インカムアプローチで最も多く活用される方法としては、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法があり、フリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出します。その他にも、将来得られる収益を現在価値に落とし込む収益還元法や、株主に還元される配当金をベースに算出する配当還元法などがあります。

メリット

  • ファイナンス理論に基づくため、理論的な算出が可能
  • 将来性、成長性を企業価値に反映させることができる
  • 市場変動の影響を受けにくい

デメリット

  • 事業計画などをベースに将来性を考慮し算出されるため、恣意性が働きやすく客観性が薄い。
  • 対象会社の将来予測のみだけでなく、市場や事業環境の将来予測も必要となるため、算出根拠や前提の設定が難しい。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、同業他社のM&A事例や類似業種の株価比較を参考に企業価値を評価する方法を言います。算出方法としては大きく3つあり、類似取引の譲渡価格を参考に企業価値を算出する類似取引比較法、対象会社と類似する企業(上場会社)の株価を参考に企業価値を算出する類似会社比較法(いわゆるマルチプル)、譲渡対象企業の株式が市場で取引されている価格を譲渡価額とする市場株価法があります。

メリット

  • 事例に基づいて算出するため客観性がある
  • 算出方法が比較的容易
  • 市場の相場を反映が可能

デメリット

  • 類似企業や類似取引の選定に恣意性が入る可能性がある
  • 比較する上場会社で、類似企業が見つからない可能性がある
  • 評価対象企業の強みや弱み、特徴などが反映されにくい

年倍法はコストアプローチとインカムアプローチを組み合わせた複合型

これまで解説した通り、企業価値評価には3つの評価手法がありました。年買法(年倍法)は、純資産額に基づいて評価を行うコストアプローチと将来の営業活動から生み出される利益を考慮し評価するインカムアプローチを複合した評価方法と言えます。これまでに紹介した3つの評価方法にそれぞれメリット・デメリットがあるように、年買法(年倍法)にもメリット・デメリットがありますので下記を確認してみてください。

年買法(年倍法)のメリット

  • 現在の資産と負債のバランスと将来性を加味し評価が可能
  • 複雑な計算が不要で理解しやすい
  • 誰が評価しても大きな誤差を生まない

年買法(年倍法)のデメリット

  • ファイナンス理論に基づかないため、理論的な評価でない。
  • 過去の実績をベースに算出するため、将来の市場環境や景気などが考慮できない。
  • のれん代の加算額など恣意性が入るため、譲渡側と譲受側の主張が異なる可能性が高い。

年買法(年倍法)の注意点

中小企業のM&Aでは、年買法(年倍法)が簡便的な評価手法として広く活用されていました。譲渡側・譲受側の双方が適正に近い企業価値での取引を重視しており、交渉が効率的に進めることを優先していることが理由の一つです。しかしながら、年買法(年倍法)は過去の利益に基づく評価であるため、将来の収益を保証できないことや市場や事業環境の変化を考慮できないなどの問題点があります。

このため、適正価値に近いとしても、譲受側としてはM&Aに投じた資金の回収が想定よりも長くなったり、予想収益が保証できなかったりというリスクを抱えながらM&Aを実行することになります。年買法(年倍法)は、企業価値評価の本質を見極めることが難しく、過大評価や過少評価のリスクが存在するため、年買法(年倍法)のみでの企業価値評価だけでなく、他の評価方法でも企業価値を算出し総合的に判断することが重要となります。

年買法(年倍法)の適正年数の考え方

年買法(年倍法)とは、純資産に営業利益などの基準利益に年数倍率を掛けた金額を加算することで企業価値を算出する手法です。複雑な計算方法を用いず簡便的に算出できるため、中小企業のM&A取引において多く使用されています。

しかし、年買法(年倍法)で用いる年数倍率は、将来性を反映する意味もあり恣意性が入る可能性を排除することができません。譲渡側と譲受側の双方が納得できる年数倍率を設定することが重要となります。年買法(年倍法)における年数倍率は、一般的に3年から5年と言われていますが、事業や市場、対象会社の財務状況を考慮し、譲渡側と譲受側で交渉することになります。

M&A業界で人気のある業種では、比較的大きい年数倍率の加算も散見されますが、事例などを見ると3年程度の年数倍率が相場になってきているようです。基準となる利益が1億円などになると年数倍率1年加算で企業価値が1億円変動することから、2.5年や3.5年など年数倍率を小刻みに設定するケースもあります。また、年買法(年倍法)のみの評価ではなく、他の手法による企業価値算定結果なども踏まえ、M&Aの取引価額を交渉することをお勧めします。

企業価値をアップさせる要素

年買法(年倍法)における企業価値を向上させるポイントについて解説します。将来、事業拡大や事業承継の選択肢としてM&Aを見据える経営者の方は、参考にしてみてください。

資産価値を高める

年買法(年倍法)の算出方法は、純資産額に基準利益(営業利益・計上利益など)の年数倍率を加えたものを企業価値となります。純資産額を増やすことで企業価値が向上することは言うまでもありませんが、純資産額は企業の事業活動(利益を増加・負債を減少など)の蓄積によって形成されるため、短期間で増加させることは困難と言えます。健全な経営や無駄なコストの削減など、日々の積み重ねが重要となります。

無形資産の価値を向上させる

営業権(のれん)などの無形資産の価値を高めることで、企業価値が向上します。重要なのは企業が持つ無形資産を正確に認識し、M&Aでは、人材や技術力、取引先との関係、ノウハウ、顧客ネットワークなど数値化できない無形資産も評価の一つとなります。この無形資産の価値を高めることで譲受側の買収意欲を向上させることによりM&A取引金額の増加や相手候補先の増加に繋がるでしょう。

収益力を上げることが基本

指標となる利益(営業利益・経常利益・税引き後最終利益など)を増やすことは企業価値の上昇に直結します。M&Aにおける年買法(年倍法)は、設定した基準利益に年数倍率を掛け合わせ企業価値を算出します。基準利益の額が大きいほど年数倍率を掛けた際の加算額が増加することや、年数倍率の倍率を大きくする交渉をやりやすくなる環境を整えるためにも、指標となり利益の向上を意識することが重要です。

年買法(年倍法)のまとめ

年買法(年倍法)は、コストアプローチとインカムアプローチを組み合わせた複合型の企業価値算定方法で、算出方法がシンプルで理解しやすい点が大きなメリットです。景気や取引先に自社の業績が受けやすい中小企業においては、将来の事業計画や予想利益の担保が難しい状況を考慮すると、M&Aの取引金額検討の指標として欠かすことのできない評価方法の一つであると言えます。基準利益に年数倍率を掛けた金額を加算する部分は、譲渡側と譲受側それぞれの立場で検討が必要になりますが、他の企業価値算定方法で算出した結果も踏まえ、お互いが納得できる取引金額をみつけることが望ましいでしょう。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があります。中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法務面のサポートもワンストップで対応可能です。M&Aをご検討の際は、弊社みつきコンサルティングに是非一度、ご相談ください。 

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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