高額譲渡できるアプリ案件とは?業界動向・M&A方法・相場・手順

近年、アプリのM&Aはビジネス戦略の一環として注目され、増加傾向にあります。本記事では、アプリのM&Aを検討している人に向けて、アプリそのものの定義やアプリのM&Aの概要や種類・方法・相場などを解説します。また、M&Aを行うポイントや仲介会社の選び方もまとめました。アプリのM&Aに関する理解を深めるために、ぜひ参考にしてください。

アプリのM&A案件とは

M&Aにおいてアプリ案件はあります。まずは基礎的なところから説明します。 

アプリとは?

アプリとは、アプリケーションの略称で、iOSやAndroidなどのOS上にダウンロードして使用するソフトウェアの総称です。かつては、パソコン上でダウンロードして使用するソフトウェアを指していました。

アプリは、「ネイティブアプリ」と「Webアプリ」に分けられます。ネイティブアプリは、先に述べた端末のOSの機能を使用して動作するアプリです。一方、Webアプリはブラウザ上で動作するアプリで、Webを介して提供されます。一般的には、ネイティブアプリを「アプリ」と呼びます。

アプリをM&Aする、の意味

アプリケーションの開発に携わる企業もアプリのM&Aを行っています。企業の譲渡だけではなく、アプリそのもののM&Aや、アプリ制作・運営会社全体を譲受するケースも存在します。

アプリ業界の近年のM&A動向

アプリ業界において、M&Aはどのような状況でしょうか。ここでは、近年の動向について解説します。

スタートアップ企業・ベンチャー企業のM&Aが増加している

アプリ業界は中小規模の企業が多く、中小企業やスタートアップ企業が事業拡大をはかる手段としてM&Aを選択するケースが増加しています。大企業もアプリ開発のノウハウや魅力的なアイデアを持つ企業に注目し、譲受を通じて成長戦略の実現を目指しています。

個人が開発したアプリのM&Aは少ない

アプリ業界のM&Aは増加傾向にあり、競争も激しいものの、個人が開発したアプリがM&Aの対象となるケースはまだ少数です。アプリ開発には多額の資金とリソースを要し、個人で要件を満たすのは限度があります。ただし、教育やビジネスなどニッチな分野では、個人開発者も大手企業によるM&Aの対象に選ばれる可能性があるでしょう。

アプリM&Aの3パターン

アプリのM&Aは、対象となるものによって分類されています。以下で、アプリのM&Aの種類について解説します。

M&Aの対象が「アプリ単体」

「アプリ単体」がM&Aの対象になる場合、アプリの一部または全部を譲渡します。しかし現在、「アプリ単体」のM&Aは積極的には行われていません。理由として、アプリの運営には定期的なアップデートが必要で、そのためのコスト(費用)がかかることが挙げられます。

M&Aの対象が「アプリ制作会社」

M&Aの対象が「アプリ制作会社」である場合、アプリ開発の専門知識やリソース(資源)が不足している企業にとって、M&Aは有益な戦略です。アプリ制作会社は、基本的にアウトソーシングでアプリの制作を受注して運用するため、企業側は内部開発をせずに済みます。そのため、短期間で自社アプリの市場投入が可能です。

M&Aの対象が「アプリ制作・運営会社」

アプリ制作・運営会社のM&Aは、アプリ開発と運営の両方のノウハウを持つ会社が対象です。新しいアプリをリリースするスキルを必要としている企業にとって、アプリ制作・運営会社を譲受することが効果的でしょう。アプリの市場投入が早期に実現することに加えて、継続的な運営やメンテナンスにより、競争力の向上が見込めます。

アプリM&Aの方法

アプリのM&Aの手法は、様々ありますが、他業界と同様に「株式譲渡」か「事業譲渡」が多いです。それぞれの概要やメリットとデメリットを解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、株式を譲渡して会社の経営権を移す、または経営参画してもらう方法です。メリットは、譲渡側の資産や各種契約などをそのまま承継できて、手続きが簡単であることです。また、M&Aにかかる税金が抑えられるメリットもあります。デメリットは、株式の割合によって譲渡側は経営権を失う危険性や、譲受側は簿外債務を引き継ぐリスクがある点です。

事業譲渡

事業譲渡とは、事業の一部もしくはすべてを譲渡する方法です。譲渡側のメリットは、譲渡する事業や資産を選べることです。譲受側においては、必要な事業のみを選択することで、意図しない債務を引き継ぐリスクを減らせることがメリットといえます。

一方で、双方の合意が得られない場合に、契約や資産の移転手続きに手間や時間がかかること、アプリ運営を担当している人材から個別に同意を得る必要があるといったデメリットがあります。M&Aにかかる税金の負担が大きくなってしまう点も、デメリットといえるでしょう。

アプリM&Aの価格相場

アプリ単体のM&Aと、アプリ制作会社などのM&Aでは、相場が異なります。以下で、それぞれの相場について解説します。

アプリ単体のM&Aの相場

アプリ単体のM&Aの相場は、複数の要因で決まり、一般的には、アプリのジャンルやユーザー数、類似するほかのアプリの金額をもとに算出されます。しかし最終的な価格は、譲渡側と譲受側の交渉によるため、双方の利益を考慮し、価格の合意が必要です。その結果、実際の相場と大きくかけ離れた価格で成立する場合もあります。

アプリ制作・運営会社のM&Aの相場

アプリ制作・運営会社のM&Aの相場は、主に株式譲渡と事業譲渡の2つの算出方法があります。株式譲渡の場合の計算式は「時価純資産+2〜5年分営業利益+退任される役員の役員報酬」です。一方、事業譲渡の計算式は「譲渡する資産+2〜5年分の事業利益」です。(※事業利益=対象事業単体の損益)

ただし、上記の算出方法は一般的なものです。実際のM&A取引では、譲渡するアプリのユーザー数や需要、譲受側との交渉によって譲渡額が変動することがあります。

良い条件で譲渡できるアプリ

アプリの売却においては、どのような点に注目すべきでしょうか。ここでは、アプリの譲渡を良い条件で行うポイントについて解説します。 

ユーザー数が多いアプリ

アプリのユーザー数は、M&Aの評価における重要な基準となります。利用者が多いと、アプリの知名度や市場での存在感が高まり、価値が上がります。特に重要なのは、実際にアプリを利用し続けている「アクティブユーザー数」です。

また、アプリのアカウント数も評価のポイントです。アカウント数は、会員登録して本格的にアプリを利用するユーザー数で、特に有料アカウント数は収益化の面でも大きな要素となります。

iOS/Android両方に対応している

iOS/Android両方への対応も必須です。iOSとAndroidは、それぞれが異なる開発言語を使用しており、リリース時の申請先もユーザー層も異なります。それぞれのユーザーは異なる特性を持ち、異なる地域やデバイスでアプリを利用しています。両方のプラットフォームに対応することで、より広範なユーザー層にアプローチができ、アプリの価値を高められるでしょう。

複数の譲受側の候補と交渉する

アプリのM&Aにおいて、譲渡金額はさまざまな要因の影響を受けます。そのため、単一の交渉相手に依存せず、複数の譲受側候補と積極的に交渉することが重要です。複数の交渉相手とのプロセスを通じて、譲渡条件や契約内容を改善し、より有利な条件でM&Aを進められるでしょう。

アプリM&Aの手順

アプリのM&Aの流れは、およそ以下の通りです。

  1. M&A仲介会社を選択
  2. M&A仲介会社に依頼・契約
  3. 必要資料の準備・企業価値の評価
    • (財務情報や運営データから、企業評価をする)
  4. 譲受側のリストアップと選定
    • (譲渡対象のアプリから、適切な譲受側を選ぶ)
  5. 両経営者の面談・条件の交渉
  6. 基本合意書を締結
  7. デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を実施
  8. 最終契約書を締結 

アプリM&Aで有名な事例

アプリのM&Aは、さまざまな分野の企業間で、実際に行われています。ここでは具体的な事例を紹介します。

楽天とFablicのM&A

2016年9月、フリマアプリ「フリル」を運営するFablicは、楽天に全株式を譲渡し、楽天の完全子会社となりました。このM&Aの狙いは、Fablicが持つフリマアプリ市場のノウハウと、幅広い事業を展開する楽天の顧客基盤を組み合わせ、Eコマースでの事業拡大をはかることです。M&Aの結果、楽天は両社の強みを活かしてサービスの利便性向上を実現し、多くの利用者を獲得しました。

メルペイとOrigamiのM&A

2020年2月、スマートフォン決済サービス「Origami Pay」の運営をしていたOrigamiは、メルカリの子会社のメルペイに株式を譲渡し、メルペイの完全子会社となりました。Origamiは複数の企業に対し資金投入の要請をしたものの、よい回答を得られずにいました。そこでメルペイとのM&Aによって事業を成長させるために、完全子会社化の決定に至ります。

このM&AによりメルペイとOrigamiは、競争が激化しているスマートフォン決済市場で、独自の価値の提供を目指しています。

毎日新聞とPoliPoliのM&A

2018年6月、PoliPoliは俳句アプリの「俳句てふてふ」を、毎日新聞に譲渡(事業譲渡)しました。PoliPoliは、学生起業家が運営する俳句のSNSサービス「俳句てふてふ」の成長について、運営体制・資産状況から限界を感じ、譲渡を検討していました。

一方、毎日新聞は、長きにわたり俳句のコンテンツを提供してきました。近年は、M&Aを通じて俳句事業を拡大し、俳句愛好家向けの新たなサービスやコンテンツの提供を進めています。M&Aにより、両社の資源と専門知識を活かし、日本の俳句文化のさらなる発展に寄与できるでしょう。

アプリM&Aをサポートする仲介会社の選び方

アプリのM&Aを成功させるためには、仲介会社のサポートが不可欠です。ここでは、仲介会社を選ぶポイントについて解説します。

良心的な料金体系である

仲介会社の手数料や報酬体系を、事前に確認しましょう。成功報酬のみを受け取る完全成果報酬型の仲介会社も存在します。公正な料金体系を提供する仲介会社を選ぶことが、M&Aの成功に向けた重要なステップです。

実績が豊富・専門家が在籍している

仲介会社の重要な要素は、実績と専門性です。譲渡側・譲受側の双方に豊富なネットワークを持つ仲介会社は、適切な相手企業を見つける力になるでしょう。また、税務や法務の専門的な知識も必要であるため、会計士や弁護士などの専門家の在籍も重要なポイントです。

アプリ案件のM&Aのまとめ

アプリのM&Aは、急速に成長するアプリ業界で、競争力を強化し、市場シェアを拡大するための重要な戦略の一環です。アプリのM&Aに欠かせないのが、信頼性のある仲介会社選びです。

みつきコンサルティングは、経験豊富な税理士法人グループで、経営コンサルティング経験者が詳細な事業分析とシナジー(相乗効果)創出をサポートします。信頼性と専門性を備えたみつきコンサルティングは、アプリのM&Aの成功に向けた強力なパートナーとなるでしょう。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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