既存のブランドの獲得を目的としてM&A(買収)が行われることがあります。本記事では、このブランドM&Aについて、アパレル業界を中心に、実施する目的な注意点を解説します。事例も幅広に紹介しますので、ブランドM&Aを検討している方は、参考にしてください。
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ブランドM&Aとは
ブランドM&Aとは、既でに高い知名度を持つブランドを譲り受けることで、スピーディーな事業展開が可能となるM&Aの手法です。実施する狙いは企業ごとに異なりますが、近年は増加しています。
M&Aの手法としては、ブランドを含む会社を丸ごと譲渡する場合には、株式譲渡が選択されます。ブランドの事業(部門)単位で譲渡する場合には、事業譲渡を利用します。なお、ブランドの名前やロゴのみを対象とするような取引であれば、営業権(のれん)譲渡とでも言うべき取引になりますが、事業譲渡との区別は難しく、また区別する実益もありません。
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ブランドの重要性と価値
会社の譲渡を考えるとき、工場や土地といった目に見える資産だけでなく、「会社の名前」や「お客様からの信頼」といった、目に見えない資産も非常に重要です。この目に見えない資産こそが「ブランド」であり、M&Aの成否を左右することもあります。ここでは、中小企業のオーナー経営者に向けて、M&Aにおけるブランドの価値と、その評価の仕組みについて、分かりやすく解説します。
M&Aで「ブランド」が重要視される理由
近年、M&Aは企業の成長戦略として当たり前の選択肢になりました。M&Aにおいて、技術力や販売網などと並んで、近年注目されているのが「ブランドの価値」です。譲受企業は、譲渡企業のブランド力を活用して、自社の事業をさらに成長させたいと考えています。譲渡企業が長年かけて築き上げてきたブランドは、譲受企業にとって、お金を出してでも手に入れたい、価値ある資産なのです。
ブランドとは何か、その価値はどう測るのか
そもそも「ブランド」とは何でしょうか。 ブランドとは、単なる会社の名前や商品のロゴマークではありません。お客様があなたの会社や商品に触れる中で感じた、良いイメージや信頼の積み重ねそのものです。言い換えれば、ブランドとはお客様との「確かな約束」であり、その結果として会社に「将来の安定した収益」をもたらしてくれる大切な資産といえます。
では、この目に見えないブランドの価値、すなわち「ブランド力」は、どのように評価されるのでしょうか。 M&Aの調査では、主に次の4つの要素から総合的に判断されます。
- 認知度:あなたの会社の名前や商品、サービスが、事業を行っている地域や業界でどれだけ知られているか、という点です。
- ロイヤリティ:「次もこの会社の商品を買いたい」「ここのサービスを使い続けたい」と考えてくれる、いわゆる「ファン」のお客様がどれだけいるか、という点です。
- ブランド連想:お客様があなたの会社の名前を聞いたときに、「高品質」「安心」「革新的」といった、どのような良いイメージを思い浮かべてくれるか、という点です。
- 知覚品質:お客様が、あなたの会社の商品やサービスに対して「品質が良く、信頼できる」と感じているか、また「多少高くても買う価値がある」と思えるほどの魅力があるか、という点です。
これらの4つの要素が高く評価されるほど、あなたの会社のブランドは価値あるものと見なされ、M&Aの交渉においても有利に働く可能性が高まります。
ブランド力はどのように企業価値へつながるのか
譲受企業は、先ほどの4つの要素で評価したブランド力を、自社の成長にどう活かせるかを考えます。
例えば、あなたの会社のブランドが、譲受企業がこれまでアプローチできていなかった新しい顧客層に強く支持されている場合を考えてみましょう。譲受企業は、あなたの会社のブランドを手に入れることで、新たな市場で売上を伸ばすことができると期待します。また、あなたの会社が「高級」「高品質」というイメージを持たれている場合、譲受企業はそのブランドイメージを利用して、より付加価値の高い商品を開発し、利益率の改善を図ることができるかもしれません。
このように、あなたの会社のブランドが、譲受企業の弱みを補ったり、新たな成長機会をもたらしたりする場合、それは譲渡価格にも反映される重要な評価ポイントになります。
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ブランドM&Aが活発化している要因
ブランドの売買が活発化している背景には、以下のような要因があります。
国内市場の成熟化
日本国内の市場は少子高齢化や人口減少の影響を受けており、新たな成長機会を見つけることが難しくなっています。そのため、企業は他社のブランドや資産を取り込むことで事業を拡大しようとする動きが加速しています。
デジタル化への対応
デジタル化の進展により、EC事業の強化やデジタルマーケティングの必要性が増しています。こうしたデジタル分野のノウハウを持つ企業やブランドを取り込むことが、競争力を維持するために重要とされています。
異業種からの参入
総合商社やIT企業など異業種の企業がアパレルブランドや食品ブランドの買収に乗り出しています。これにより、業界の枠を超えたM&Aが活発になっています。
事業承継問題
中小企業を中心に、後継者がいないために事業を譲渡せざるを得ないケースが増えています。こうした事業承継問題がM&Aの増加を後押ししています。
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ブランドM&Aにおける注意点
M&Aを成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
商標権の確認
買収対象となるブランド名の商標登録状況を事前に確認することが欠かせません。商標権が未登録の場合、後から法的なトラブルに発展するリスクがあるためです。
ブランド価値の評価
買収対象ブランドが市場でどのように評価されているか、また将来の成長性がどの程度見込めるかを慎重に分析する必要があります。ブランド価値を正確に評価することで、適切な買収金額を見極めることができます。
統合後の戦略
買収後にブランドをどのように統合し、再構築していくかを計画しておくことが大切です。統合がうまくいかないと、買収したブランドの価値を損なう可能性があるため、具体的な戦略を立てることが求められます。
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ブランドM&Aが多い業界
日本企業を売り手(対象会社)とするM&Aにおいて、ブランドの獲得を目的としたM&Aが多い業界は、以下のような業界が挙げられます。
食品・飲料業界
日本の食品や飲料ブランドは、品質の高さや独自性が海外でも評価されており、特に和食や日本酒、緑茶などの伝統的な製品は世界的に人気があります。
例えば、キリンやサントリーなどの飲料ブランドが買収の対象になるケースがあります。地域に根ざした食品メーカーが、海外の大手企業により買収される例もあります。
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化粧品・美容業界
日本の化粧品ブランドは「高品質」「安全性」「独自の技術」で知られ、特にアジア市場や欧米で需要があります。
例えば、資生堂やコーセーといった大手だけでなく、中小規模のブランドもM&Aの対象になることがあります。韓国や欧米企業が日本ブランドを買収することで、現地市場へのアクセスを拡大させることもあります。
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アパレル・ファッション業界
日本のアパレルブランドは独自のデザイン性や品質で一定のブランド価値を有しており、特に「メイド・イン・ジャパン」のイメージが重視されています。
例えば、国内外で人気のあるセレクトショップやブランド(例:ユナイテッドアローズやビームス)が買収されるケースがあります。スニーカーやストリートファッションブランドも注目されています。
伝統工芸・高級品業界
和紙、陶磁器、漆器といった日本の伝統工芸品や高級ブランドは、文化的な価値が高く、海外の高級市場で需要があります。
例えば、高級腕時計ブランドや陶磁器メーカーが海外企業による買収対象となることがあります。
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飲食チェーン業界
日本の飲食チェーン(ラーメン、寿司、居酒屋など)は海外展開に成功している事例が多く、現地市場でのプレゼンスを高める目的で買収されることがあります。
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ブランドM&Aの成約事例
アパレル・ファッション業界を中心に、ブランドの売買を目的としたと思われるM&Aの成約事例を紹介します。
アパレル企業同士の事例10選
アパレル・ファッション業界の企業同士のブランドM&Aについて、具体的な事例を紹介します。
TSIホールディングスと3ミニッツ
TSIホールディングスは、アパレルの企画から販売までを取り扱う多数の傘下企業を持ちます。同社は、Webマガジンの運営を行う3ミニッツに対してM&Aを実施しました。デジタル企業化を目的とした、経営戦略の一環です。ETRÉ TOKYOの事業を譲受し、新たに設立した子会社で同事業の運営を行うことで、新たな顧客層の獲得や市場拡大が期待されています。
C.R.E.A.Mとジャパンイマジネーション
レディースのカジュアルブランドを手掛けるジャパンイマジネーションと、ドレスの企画から販売までを行うC.R.E.A.Mの事例です。C.R.E.A.Mは、フォーマルなシーンを意識した事業展開だけではなく、他分野への展開も模索していました。このM&Aでは、ジャパンイマジネーションから2つのブランドを譲受し、自社サイトを活用した展開を行っています。
W&Dインベストメントデザイン・八木通商とリデア
多くの海外ラグジュアリーブランドを扱うセレクトショップ「STRASBURGO」を展開するリデアと、W&Dインベストメントデザイン、八木通商の間で行われた事例です。ファンド運用会社であるW&Dインベストメントデザインと、数々のブランドを扱う繊維専門商社である八木通商がリデアの共同スポンサーとなり、新設されたオンラインストアに事業が譲渡されました。
宝島ジャパンとアパレルECサイト運営会社
アパレルショップ3店舗を運営する宝島ジャパンと、アパレル・雑貨を中心とするECサイト運営会社の事例です。宝島ジャパンは、アパレル販売ビジネスのデジタル化を目的として、インターネットに強く、類似事業を取り扱う企業とのM&Aを検討していました。
過剰在庫を抱えるECサイト運営会社とニーズ(需要)が合致し、デジタル面の強化やシナジー(相乗効果)が期待できることから、宝島ジャパンが事業と在庫を譲受しました。
ワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーと神戸ザック
創業約50年もの歴史を持つ神戸ザックと、セレクトショップを運営するワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーの事例です。このM&Aの背景には、神戸ザック側の後継者不足があります。廃業を検討していましたが、神戸市産業振興財団のサポートチームによる支援を受けたことがきっかけで、M&Aに至りました。
神戸ザックが、ワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーに「イモック」の事業を譲渡し、神戸ザック前代表の指導の下で製造・販売される流れとなりました。
ニッセンとマロンスタイル
大きいサイズの女性専用アパレルサイトを運営するマロンスタイルと、婦人服を中心にさまざまな通販事業を手掛けるニッセンの事例です。ニッセンは、特殊サイズセグメントへの経営資源集中を目指しており、その一環としてM&Aを実施しました。ニッセンがマロンスタイルの全株式を取得し、同社を完全子会社化しました。
ワールドとラクサス・テクノロジーズ
高級ブランドバッグのレンタルサービスが特徴のラクサス・テクノロジーズと、多数のアパレルブランドを展開する企業の持株会社であるワールドの事例です。それぞれのニーズ(需要)が合致して、大きなシナジー(相乗効果)が期待できるため、ワールドが譲受する形でM&Aが行われました。
アングローバルとアンドワンダー
アングローバルが、アンドワンダーの全株式を取得し、子会社化した事例です。TSIホールディングスの子会社だったアングローバルが、EC分野を得意とするアンドワンダーを取り込むことで、事業規模の拡大を図りました。
花菱縫製とメルボグループ
オーダースーツの企画から販売までを行う花菱縫製と、紳士服やメンズウェアーを扱うメルボグループの事例です。花菱縫製とメルボグループは、生産・販売事業を統合することでシナジー(相乗効果)を発揮できると考え、M&Aに至りました。
TSIホールディングスがHUF
TSIホールディングスは、HUFの株式を90%取得し、子会社化しています。HUFは、アメリカ・欧州に事業展開するアパレルブランドです。日本での販売権は、「STUSSY」を展開するTSIホールディングスの子会社が取得しています。同グループ企業のノウハウを積極的に取り入れることで、国内・アジアを中心とした海外市場での成長が見込まれています。
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異業種とアパレル企業の事例8選
異業種とアパレル・ファッション業界の企業とのM&Aも行われています。例えば以下のような事例です。
Spiberと豊島
豊島がSpiberの第三者割当増資を引き受けて、両社の間で共同研究契約を締結した事例です。環境に配慮した素材に注目し、アパレル産業全体に関わる事業を展開している豊島と、植物由来構造たんぱく質素材の産業化に取り組むSpiderとの、シナジー(相乗効果)が期待されました。主な目的は、さまざまな分野で構造タンパク質繊維を普及させるための共同開発です。
アパレルReSTARTファンドとFactory Express Japan
アパレルReSTARTファンドが、Factory Express Japanの全株式を取得し、完全子会社化した事例です。どちらも支援事業を展開する会社であり、Factory Express Japanの事業拡大を目的として行われました。
インキュベイト・ファンドとpark&port
インキュベイト・ファンドとEast Venturesが、park&portによる第三者割当増資を引き受けて、出資した事例です。park&portの資金調達を目的として行われ、この事例によって、park&portが調達した資金は、累計1億円を突破しました。
九州オープンイノベーションファンドとpatternstorage
patternstorageが、九州オープンイノベーションファンドとちゅうぎんインフィニティファンドを引受先とする第三者割当増資をした事例です。patternstorageは、アパレル生産管理クラウドソフトウェアなどを開発しており、アパレル製造業に対して、サプライチェーンのDX支援ソフトウェアの提供を予定しています。
FFGベンチャービジネスパートナーズが運営する九州オープンイノベーションファンドと、中国銀行と中銀リースが運営するファンドのちゅうぎんインフィニティファンドを対象に、資金調達を目的として行われました。
ZホールディングスとZOZO
日本最大級のファッションECサイトを運営するZOZOと、大手インターネット企業Zホールディングスの事例です。Zホールディングスが、議決権割合50.10%にあたる株式を取得してZOZOを子会社化し、両社の間で資本業務提携契約が締結されました。
ヤギとアタッチメント
繊維の卸売業などを生業とする株式会社ヤギが、アパレル事業を行うアタッチメントに注目し、M&Aに至った事例です。株式会社ヤギは、有限会社アタッチメントの全株式を取得し、子会社化しました。M&Aの目的は、自社で商品の企画から販売まで行うノウハウの獲得です。ブランド力と販売事業強化も期待されています。
AnyMind GroupとLÝFT
AnyMind GroupがLÝFTに資本参加し、資本業務提携契約した事例です。インフルエンサーを起用した、協同ブランドの立ち上げを計画していたAnymind Groupは、その一環として、フィットネスブランド事業を手掛けるLYFTとの資本提携を行いました。一方、LYFT側は、Anymindの持つグローバル網を活用した販路拡大を目的としています。
丸井グループの子会社とGOOD VIBES ONLY
アパレル業界向けにCGやAIを駆使したDXソリューションを提供するGOOD VIBES ONLYと、多くの事業を展開する丸いグループの子会社の事例です。丸井グループ子会社のD2C&Co.は、GOOD VIBES ONLYへ出資して、資本業務提携契約を締結しました。
丸井グループの実店舗運営やクレジットカード事業と、GOOD VIBES ONLYが提供するサービスのシナジー(相乗効果)を期待して行われました。
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M&Aはブランドをさらに飛躍させる機会
M&Aを通じて、あなたの会社が大切に育ててきたブランドが、さらに大きく成長する可能性があります。特に、国内市場が成熟し、海外への展開が重要になっている現在、特定の国や地域で既に高い認知度を持つブランドは、譲受企業にとって非常に魅力的です。あなたの会社のブランドが、譲受企業のグローバル戦略を加速させるための、強力な武器になることもあります。
M&Aは、単に会社を譲渡するということだけではありません。創業者や経営者が人生をかけて築き上げた事業とブランドを、次の世代に承継し、さらなる発展へとつなげるための重要な機会なのです。
ブランドM&Aのまとめ
あなたの会社のM&Aを成功させるためには、自社が持つブランドの価値を正しく理解し、それを譲受企業に的確に伝えることが何よりも大切です。そのためには、まず自社の「企業理念」や「社会における存在意義」を明確にしておくことが全ての出発点となります。どのような想いで事業を始め、どのような価値をお客様に提供してきたのか。その想いこそが、ブランドの核となるストーリーです。そのストーリーに共感し、あなたの会社のブランドの価値を本当に理解してくれる譲受企業と出会うことが、従業員の幸せや事業の未来にとっても、最良の選択となるでしょう。
みつきコンサルティングには、経営コンサルティング経験者も多く在籍しています。対象企業の詳細な事業分析を実施した上で、シナジー創出を見込める候補先を紹介します。M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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