業務移管と事業譲渡は、業務の管理を他の部署や他の会社に移すという点では共通していますが、それぞれの目的や効果が異なります。本記事では、両者を比較しながら、その違いを解説します。
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業務移管とは
いわゆるM&Aでは株式譲渡が最も一般的な方法になります。これとは別に、業務移管(事業移管)や事業譲渡という概念があります。まずは、それぞれの意味合いを説明します。
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業務移管(事業移管)とは
企業内における特定の業務の管轄を、社内の別部門や外部企業(グループ会社等)に移すことを言います。管轄とは、その業務を管理・実行する権限を意味しており、業務や事業の管理、実行する権限を別の部署や外部企業へ移すことを指します。また、業務移管は事業移管とも呼ばれ、業務のみならず事業の管轄を移す意味でも使われます。例えば、バックオフィス業務を持ち株会社(ホールディングス等)へ移管、関東工場で行っていた事業を九州工場に集約などが該当します。
事業譲渡とは
業務や事業を他へ移すことは業務移管と変わりませんが、業務を移す方法としては売却(取引)により移します。例えば、事業譲渡を考えている企業がレストラン事業と不動産賃貸業を行っており事業の選択と集中のため、レストラン事業のみを他社へ売却するなどが該当します。事業譲渡の移管方法は、売却(取引)であることから対価が発生することが業務移管と大きく異なる点です。
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業務移管と事業譲渡の比較
以下では、幾つかの観点から、業務移管(事業移管)と事業譲渡を比較します。
目的の違い
業務移管(事業移管)と事業譲渡は、そもそも実施する目的が異なります。それぞれの目的について解説しますので、業務移管や事業譲渡を検討する際の参考にしてください。
業務移管(事業移管)の目的
業務移管を実施する主な目的を下表にまとめました。効率化やコスト削減、人員確保、事業再建など、企業の経営課題に応じて様々な目的で活用されています。
| 業務移管の目的 | 詳細内容 |
|---|---|
| 業務の効率化 | 業務の一元化により、業務効率の向上を図ります。 |
| 業務集約によるコスト削減 | 業務の一元化により、重複業務を無くしコストダウンを図ります。 |
| 人員確保 | 地域によっては十分な人員確保が難しいため、事業や業務を管轄する地域の変更など人員確保策として活用されます。 |
| 事業再建のため | 経営リソースを集約することで、不採算事業の再建に注力します。 |
事業譲渡の目的
事業譲渡は、譲渡側と譲受側の立場が違う2者によって実行されるため、譲渡側と譲受側それぞれの目的について解説します。
事業譲渡の目的|売り手側
譲渡オーナー側における事業譲渡の主な目的を下表にまとめました。後継者問題の解決、法人格の維持、経営資源の集中、事業再生など、様々な経営課題への対応として活用されています。
| 事業譲渡の目的 | 詳細内容 |
|---|---|
| 後継者不足 | 後継者不在であるが、従業員の雇用を守ることや取引先に迷惑をかけないよう事業を継続させることを目的とします。 |
| 法人格の継続 | 事業の譲渡は企図するが、オーナーが屋号や法人格に思い入れがあり、法人格をオーナーの手許に残した状態で事業を譲渡することを目的とします。 |
| 事業の選択と集中 | 自社が継続したい事業や将来の成長が見込める事業への経営リソースを集中させることを目的とします。 |
| 再生型M&A | 不採算事業の再生に必要な経営リソースがない場合や自社の財務内容悪化による資金調達の手段を目的とします。 |
事業譲受の目的|買い手側
譲受企業側における事業譲受の主な目的を下表にまとめました。事業成長のスピードアップ、節税効果、リスク管理など、戦略的な観点から様々な目的で活用されています。
| 事業譲受の目的 | 詳細内容 |
|---|---|
| 事業成長の手間・時間を減らすため | 自社にない技術や商品を獲得し、譲受けた事業と自社のシナジー効果で事業規模拡大のスピードアップを企図します。 |
| 節税 | 事業譲渡時に発生するのれんの償却による節税効果があります。のれんは5年で償却することができます。 |
| リスク回避 | 必要な部分のみを選び譲受が可能なため、簿外債務や訴訟リスクなどを回避できます。 |
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対象業務の違い
業務移管(事業移管)や事業譲渡の対象となる業務や事業について解説します。
業務移管(事業移管)の対象
業務移管の対象となりやすい業務を下表にまとめました。場所の制約を受けにくい業務や、一元管理することで効率化が期待できる業務が対象となります。
| 移管業務の種類 | 具体例と詳細 |
|---|---|
| デスクワーク業 | 入力業務やコールセンターなどが該当します。 |
| マニュアル化できる生産性業務 | 工場における業務など一部のマニュアル化できる業務が該当します。 |
| バックオフィス業務 | 総務、人事、経理などのバックオフィス業務が該当します。 |
| 専門性の高い業務 | 専門知識を要するため、リソースを集約することを目的とします。 |
場所の制約を受けにくい業務や一元管理することで効率的な業務などが、業務移管の対象となります。
事業譲渡の対象
事業譲渡の対象となる要素を下表にまとめました。業務移管と異なり、幅広い構成要素が譲渡対象となります。
| 譲渡対象の種類 | 詳細と具体例 |
|---|---|
| 債権債務 | 譲り受ける事業に付随する債権債務が該当します。 |
| 人材 | 譲り受ける事業に従事する人材はもちろんのこと、譲受企業が希望する人材も対象とすることが可能です。バックオフィス人材も含まれます。 |
| 組織 | 譲り受ける事業の組織や事業を支援するバックオフィス的な組織も該当します。 |
| ブランド | 屋号やサービス・商品のブランド名などが該当します。 |
| ノウハウ | 人材に寄与することも多いですが、譲り受ける事業の運営上必要なノウハウが該当します。 |
有形・無形の財産に関わらず、譲り受ける事業の構成要素は事業譲渡の対象になります。譲渡の範囲は、譲渡側・譲受側の協議の基、取り決めます。
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メリット・デメリットの違い
業務移管(事業移管)、事業譲渡ともに当然のことながらメリットとデメリットが存在します。事業譲渡の場合、譲渡側と譲受側の2者間で実施することになります。譲渡側・譲受側によって事業譲渡のメリットが異なりますので、それぞれの立場でのメリットについて解説します。
業務移管(事業移管)のメリット・デメリット
業務移管のメリットとデメリットを下表に整理しました。
| 業務移管のメリット | 業務移管のデメリット |
|---|---|
| 同一企業内での業務移管の場合は、財産・負債・契約・従業員に関して、契約の再締結等、個別の承継対応が不要 同一企業内で業務移管を実施する場合、保有資産の承継手続、債権者への通知、取引先との契約、人材の転籍など承継のための手続や対応が不要で簡便的に業務や事業の移管が可能です。 業務の一元化による効率化、コスト削減、人員確保、従業員の負担軽減等が実現可能 業務の一元化で、重複業務やコストの解消、人材リソースの確保、業務フローの改善による従業員の労働負担の軽減等が実現可能です。 不採算事業の立て直し 不採算事業を、事業に関係性のある関連会社等に移管することにより、リソースが集中し事業立て直しの効果が見込まれます。 | 業務移管先が他の法人である場合、承継手続や対応を個別で行う必要がある 社内での業務移管は手続や対応が限定されており、比較的簡便に進めることができますが、他の法人への業務移管の場合は契約・財産・負債等の承継手続や対応を個別で行う必要があり、時間と手間が多く発生する可能性があります。対策としては、業務移管する対象を明確にすること・移管元と移管先における引継ぎを計画的に実施することでスムーズな実行が可能となります。 社内体制変更による不満、就業場所・雇用者の変更による従業員の社内でのハレーションや人材流出の機会が一時的に高まる可能性がある 対策としては、業務移管に影響を受ける人材に丁寧な説明を実施・対象人材の意向ヒアリング、相談窓口の明確化などの対策を実施し、従業員へのケアを手厚く実施することが必要となります。 |
業務移管は、社内やグループ企業の再編及び効率性の向上を目的に実施されるケースがほとんどです。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡のメリット・デメリットは売り手と買い手に分けて説明します。
事業譲渡のメリット・デメリット|売り手側
譲渡オーナー側における事業譲渡のメリットとデメリットを下表に整理しました。資産の選択や現金化といった利点と、手続の複雑さや制約といった課題を比較することで、適切な判断が可能となります。
| 事業譲渡のメリット | 事業譲渡のデメリット |
|---|---|
| 事業の一部を譲渡でき、残しておきたい資産・社員を選んで確保ができる 経営リソースを集中することが可能となります。自社で集中したい事業・資産・人材を残し会社のスリム化が可能です。 譲渡利益を現金化できる 事業譲渡は、事業の売却となりますので売却対価が獲得できます。自社の経営戦略に不要となった資産・負債・人材・ノウハウ・ブランド・技術などを売却することで現金化が可能です。 | 取引先や社員と個別に承継手続及び対応が必要 取引先との契約や社員との雇用契約など譲受側と再締結するなど個別の手続が必要となるため、譲受完了まで多くの手間がかかります。 事業譲渡後、20年間は同一事業を行えない 譲渡オーナーは同一の市町村や隣接する市町村で、譲渡した事業と同一の事業を営むことはできません。事業譲渡後、原則20年間は競合避止義務を負うことになります。 事業譲渡益に対して税金が課される 法人が、事業を譲渡することになるので対価は法人が受領します。よって事業譲渡にかかる譲渡益は法人税の課税対象になります。 |
事業譲渡は、不採算事業の切り離し、事業の成長性を考えての譲渡、資金調達の手段などの目的で行われます。M&Aとしての事業譲渡は、第三者への事業の売却となるため、取引先や従業員に対する丁寧な説明が必要となります。これを怠ると事業譲渡の対象とした資産やリソースが譲受側へ確実に引き継げないなどのリスクが発生しますので、事業譲渡により影響を受ける方へ丁寧且つ迅速に説明することをお勧めします。
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事業譲受のメリット・デメリット|買い手側
譲受企業側における事業譲受のメリットとデメリットを下表に整理しました。リスク管理や節税効果といった利点と、手続の複雑さや統合リスクといった課題を比較することで、適切な判断が可能となります。
| 事業譲受のメリット | 事業譲受のデメリット |
|---|---|
| 自社にとって必要な事業のみを承継できる 譲受企業が、譲り受けたい事業を選べるため、不要な事業や資産を引き継ぐ必要がありません。 買収後リスク軽減 簿外債務や訴訟などの偶発債務等のリスクの回避が可能です。 のれん償却による節税 譲り受ける資産と負債の差額をのれんとして計上することができます。計上されたのれんは、5年で償却することが可能なため、他のM&Aスキームに比べ節税効果が大きいと言えます。 | 取引先や従業員と個別に承継の手続が必要 個別の承継手続を進める際、これを機に条件変更を求められたりすることもあるので注意が必要です。 不動産や特許の移転手続や許認可の再取得が必要 事業譲渡資産に不動産がある場合は、所有権の移転手続が必要となります。事業運営に必要な許認可は一部を除き引き継ぐことができないため、再取得が必要となります。事業の譲受前に許認可取得要件を満たせているかの確認が必要です。 事業統合がうまくいかず、期待したシナジー効果が得られない可能性 企業文化の違いや事業運営環境の変化等で譲受前に期待したシナジー効果が得られない可能性があります。対策としては、事業譲受後の統合計画を綿密に練ることをお勧めします。 |
譲受側のデメリットは、事業譲渡を実行してみないと、どの程度のリスクとなるのか見積もることが難しいため、デメリットに注力するよりはどのようにして回避するかに注力することをお勧めします。
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業務移管(事業移管)の留意点
業務移管を行うこと自体は簡単できますが、業務移管に期待する効果をスピーディーに獲得することが重要です。対策としては移管後の事業統合を確実に実施することが重要となります。事業統合は人事、労務、業務、システムなど多岐にわたるため、計画的に実施することが求められます。無計画に事業統合を行うと事業や業務が滞る原因となり、会社全体の業績に悪影響を及ぼすので注意が必要です。業務移管後の統合作業は、計画的且つ迅速に行うことが重要です。
業務移管(事業移管)に必要な契約書・覚書
社内での業務移管の場合には、特別な契約書は作成されません。グループ内の別法人間での業務移管の場合は、ケースバイケースですが、事業譲渡に準じて、第三者への業務移管と同様に以下のような契約書ないし覚書が作成されることがあります。
秘密保持契約書
社外へ業務移管する場合、移管業務の協議をすることになりますので情報管理を徹底することが重要です。
業務移管(事業譲渡)契約書
事業譲渡スキームを用いて社外へ業務移管する場合は事業譲渡契約書が必要となります。これらの契約書は社内で作成することも可能ですが、法律に則って適切な手法で実施したことのエビデンスにもなるため、弁護士など法律の専門家に相談することをお勧めします。
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業務移管(事業移管)のスケジュール
業務移管のスケジュールは柔軟性を持たせる必要がありますが、事業譲渡と比較して、法的なステップが少ない分、比較的短期間で完了することが可能です。ただし、関係者間での合意形成や移管対象業務の複雑性によっては長期化することもあります。
1. 移管計画の策定(開始から1~2か月程度)
業務範囲や対象部門を明確化し、移管の目的や必要性を整理します。この段階では現行業務の分析や移管後のリスク検討が含まれます。
事業譲渡との違い
業務移管はあくまで特定業務の役割や責任を移すことに焦点があり、資産や契約全般の移行を伴う事業譲渡とは異なります。
2. 関係者との調整(計画後1~3か月)
- 移管対象の従業員や部門との詳細なヒアリングを実施
- 法的的な確認(特に労務や業務委託契約の再検討)
- 必要に応じて外部パートナーの選定
事業譲渡との違い
事業譲渡では契約の再締結や株式譲渡に伴う外部ステークホルダーへの影響が大きい一方で、業務移管では内部での調整が主となります。
3. 移管の詳細設計と準備(4~6か月)
業務プロセスの再設計、業務移管の教育やトレーニングを実施します。また、ITシステムや設備の移行が含まれる場合には、この段階で並行して対応します。特に重要なのは、既存の業務が中断なく進行できるようにするための体制構築です。
4. 移管の実行(7~9か月目)
- 業務責任や指揮命令系統の正式な移行
- 移管後のフォローアップ体制を設置し、円滑な稼働を確認
- トラブルが発生した際の即応プランの用意
5. 評価と調整(10か月以降)
移管後に生じる課題の分析や、継続的な改善を進めます。このフェーズでは、計画段階で想定していなかった問題点が明らかになる場合も多いです。
業務移管(事業移管)のまとめ
業務移管は社内やグループ内で業務効率化やコスト削減を目的とし手続きが簡便です。事業譲渡は対価を伴う売却で事業の選択と集中や資金調達が目的ですが個別承継手続きが必要で競業避止義務が発生します。達成したい目的を明確にし、それぞれのメリットとデメリットを把握した上で検討することが重要です。
みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。事業譲渡を検討の際は相手先選定や価値算出が必要となりますのでぜひご相談ください。みつき税理士法人と連携し税務や法律面のサポートもワンストップで対応可能です。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
-
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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