業務移管・事業移管と事業譲渡は違う?メリット・デメリットも比較

業務移管と事業譲渡は、業務の管理を他の部署や他の会社に移すという点では共通していますが、それぞれの目的や効果が異なります。この記事では、目的の違いやメリット・デメリット、留意点などについて詳しく解説します。業務移管・事業譲渡を比較検討する際の参考にしてください。

業務移管と事業譲渡の基本概要

➀業務移管とは

企業内における特定の業務の管轄を、社内の別部門や外部企業(グループ会社等)に移すことを言います。管轄とは、その業務を管理・実行する権限を意味しており、業務や事業の管理、実行する権限を別の部署や外部企業へ移すことを指します。また、業務移管は事業移管とも呼ばれ、業務のみならず事業の管轄を移す意味でも使われます。例えば、バックオフィス業務を持ち株会社(ホールディングス等)へ移管、関東工場で行っていた事業を九州工場に集約などが該当します。

➁事業譲渡とは

業務や事業を他へ移すことは業務移管と変わりませんが、業務を移す方法としては売却(取引)により移します。例えば、事業譲渡を考えている企業がレストラン事業と不動産賃貸業を行っており事業の選択と集中のため、レストラン事業のみを他社へ売却するなどが該当します。事業譲渡の移管方法は、売却(取引)であることから対価が発生することが業務移管と大きく異なる点です。

業務移管と事業譲渡の目的の違い

業務移管と事業譲渡は、そもそも実施する目的が異なります。それぞれの目的について解説しますので、業務移管や事業譲渡を検討する際の参考にしてください。

業務移管の目的

  • 業務の効率化

⇒業務の一元化により、業務効率の向上を図ります。

  • 業務集約によるコスト削減

⇒業務の一元化により、重複業務を無くしコストダウンを図ります。

  • 人員確保(業務遂行人員の確保)

⇒地域によっては十分な人員確保が難しいため、事業や業務を管轄する地域の変更など人員確保策として活用されます。

  • 事業再建のため

⇒経営リソースを集約しすることで、不採算事業の再建に注力します。

事業譲渡の目的

事業譲渡は、譲渡側と譲受側の立場が違う2者によって実行されるため、譲渡側と譲受側それぞれの目的について解説します。

事業譲渡側の目的

  • 後継者不足

⇒後継者不在であるが、従業員の雇用を守ることや取引先に迷惑をかけないよう事業を継続させることを目的があります。

  • 法人格の継続

⇒事業の譲渡は企図するが、オーナーが屋号や法人格に思い入れがあり、法人格をオーナーの手許に残した状態で事業を譲渡することを目的があります。

  • 事業の選択と集中

⇒自社が継続したい事業や将来の成長が見込める事業への経営リソースの集中させることを目的があります。

  • 再生型M&A

⇒不採算事業の再生に必要な経営リソースがない場合や自社の財務内容悪化による資金調達の手段を目的があります。

事業譲受側の目的

  • 事業成長の手間・時間を減らすため

⇒自社にない技術や商品を獲得し、譲受けた事業と自社のシナジー効果で事業規模拡大のスピードアップを企図する目的があります。

  • 節税

⇒事業譲渡時に発生するのれんの償却(5年で償却)による節税効果あります。

  • リスク回避

⇒必要な部分のみを選び譲受が可能なため、簿外債務や訴訟リスクなど回避が可能。

業務移管と事業譲渡が対象とする業務

業務移管(事業移管)や事業譲渡の際、対象となる業務や事業例について解説します。

業務移管される業務

業務移管において対象となりやすい業務例を下記に記載します。

  • デスクワーク業

⇒入力業務やコールセンターなどが該当します。

  • マニュアル化できる生産性業務

⇒工場における業務など一部のマニュアル化できる業務が該当します。

  • バックオフィス業務

⇒総務、人事、経理などのバックオフィス業務が該当します。

  • 専門性の高い業務

⇒専門知識を要するため、リソースを集約することを目的とします。

このように場所の制約を受けにくい業務や一元管理することで効率的な業務などが、業務移管(事業移管)の対象となります。

事業譲渡される業務

業務移管と異なり、事業譲渡に関しては譲渡対象が幅広くあります。該当例を以下に記載します。

  • 債権債務

⇒譲り受ける事業に付随する債権債務が該当します。

  • 人材

⇒譲り受ける事業に従事する人材はもちろんのこと、買主が希望する人材(バックオフィス人材)も対象とすることが可能です。

  • 組織

⇒譲り受ける事業の組織や事業を支援するバックオフィス的な組織も該当します。

  • ブランド

⇒屋号やサービス・商品のブランド名などが該当します。

  • ノウハウ

⇒人材に寄与することも多いですが、譲り受ける事業の運営上必要なノウハウが該当します。

このように有形・無形の財産に関わらず、譲り受ける事業の構成要素は事業譲渡の対象になります。譲渡の範囲は、譲渡側・譲受側の協議の基、取り決めることが重要です。

業務移管と事業譲渡のメリット・デメリットの比較

業務移管・事業譲渡ともに当然のことながらメリット・デメリットが存在します。この記事では、それぞれのメリット・デメリットについて解説しますので、比較検討する際の参考にしてください。

業務移管のメリット

業務移管を実施する際の主なメリット例を以下に記載します。

  • 同一企業内での業務移管の場合は、財産・負債・契約・従業員に関して、契約の再締結等、個別の承継対応が不要。

⇒同一企業内で業務移管を実施する場合、保有資産の承継手続き、債権者への通知、取引先との契約、人材の転籍など承継のための手続きや対応が不要で簡便的に業務や事業の移管が可能です。

  • 業務の一元化による効率化、コスト削減、人員確保、従業員の負担軽減等が実現可能。

⇒業務の一元化で、重複業務やコストの解消、人材リソースの確保、業務フローの改善による従業員の労働負担の軽減等が実現可能。

  • 不採算事業の立て直し

⇒不採算事業を、事業に関係性のある関連会社等に移管することにより、リソースが集中し事業立て直しの効果が見込まれます。

業務移管は、社内やグループ企業の再編及び効率性の向上を目的に実施されるケースがほとんどです。

業務移管のデメリット

1つ目は、業務移管先が他の法人(グループ会社)である場合、承継手続きや対応を個別で行う必要であることが挙げられます。社内での業務移管は手続きや対応が限定されおり、比較的簡便に進めることができますが、他の法人(グループ会社等)への業務移管の場合は契約・財産・負債等の承継手続きや対応を個別で行う必要があり、時間と手間が多く発生する可能性があります。対策としては、業務移管する対象を明確にすること・移管元と移管先における引継ぎを計画的に実施することでスムーズな実行が可能となります。

2つ目に社内体制変更による不満、就業場所・雇用者の変更(転籍)による従業員の社内でのハレーションや人材流出の機会が一時的に高まる可能性があることが挙げられます。対策としては、業務移管に影響を受ける人材に丁寧な説明を実施・対象人材の意向ヒアリング、相談窓口の明確化などの対策を実施し、従業員へのケアを手厚く実施することが必要となります。

事業譲渡のメリット

事業譲渡の場合、譲渡側と譲受側の2者間で実施することになります。譲渡側・譲受側によって事業譲渡のメリットが異なりますので、それぞれの立場でのメリットについて解説します。

譲渡側企業のメリット

事業譲渡を行う譲渡側が期待できる主なメリットは以下の通りです。

  • 事業の一部を譲渡でき、残しておきたい資産・社員を選んで確保ができる

⇒経営リソースを集中することが可能。

⇒自社で集中したい事業・資産・人材を残し会社のスリム化が可能。

  • 譲渡利益を現金化できる

⇒事業譲渡は、事業の売却(取引)となりますので売却対価が獲得できます。自社の経営戦略に不要となった資産・負債・人材・ノウハウ・ブランド・技術などを売却することで現金化が可能。

譲渡側事業譲渡には上記のようなメリットがあり、不採算事業の切り離し、事業の成長性を考えての譲渡、資金調達の手段などの目的で行われます。

譲受側企業のメリット

事業譲渡を受ける譲受側が期待する主なメリットは以下の通りです。

  • 自社にとって必要な事業のみを承継できる

⇒譲受側が、譲り受けたい事業を選べるため、不要な事業や資産を引き継ぐ必要がない。

  • 買収後リスク軽減

⇒簿外債務や訴訟などの偶発債務等のリスクの回避が可能。

譲受側には上記のようなメリットがあり、この他にも譲り受ける資産と負債の差額をのれんとして計上することができます。計上されたのれんは、5年で償却することが可能なため、他のM&Aスキーム(株式譲渡スキーム)に比べ節税効果が大きいと言えます。

事業譲渡のデメリット

この記事では、事業譲渡に伴うデメリットについて、譲渡側と譲受側の両方の観点から解説します。

譲渡側企業のデメリット

譲渡側の主なデメリットについては、以下の通りです

  • 取引先や社員と個別に承継手続き及び対応が必要

⇒取引先との契約や社員との雇用契約など譲受側と再締結するなど個別の手続きが必要となるため、譲受完了まで多くの手間がかかります。

  • 事業譲渡後、20年間は同一事業を行えない

⇒譲渡側・譲受側は、お互いの利益を阻害する可能性があるため、売主は同一の市町村や隣接する市町村で、譲渡した事業と同一の事業を営むことはできません。事業譲渡後、原則20年間は競合避止義務を負うことになります。

  • 事業譲渡利益に対して税金が課される

⇒法人が、事業を譲渡することになるので対価は法人が受領します。よって事業譲渡にかかる譲渡益は法人税の課税対象になります。

事業譲渡は第三者への事業の売却(売買取引)となるため、取引先や従業員に対する丁寧な説明が必要となります。これを怠ると事業譲渡の対象とした資産やリソースが譲受側へ確実に引き継げないなどのリスクが発生しますので、事業譲渡により影響を受ける方へ丁寧且つ迅速に説明することをお勧めします。

譲受側企業のデメリット

譲受側の主なデメリットは以下の通りです。

  • 取引先や従業員と個別に承継の手続きが必要

⇒個別の承継手続きを進める際、これを機に条件変更を求められたりすることもあるので注意が必要です。

  • 不動産や特許の移転手続きや許認可の再取得が必要

⇒事業譲渡資産に不動産がある場合は、所有権の移転手続きが必要となります。事業運営に必要な許認可は一部を除き引き継ぐことができないため、再取得が必要となります。事業の譲受前に許認可取得要件を満たせているかの確認が必要です。

  • 事業統合がうまくいかず、期待したシナジー効果が得られない可能性

⇒企業文化の違いや事業運営環境の変化等で譲受前に期待したシナジー効果が得られない可能性があります。対策としては、事業譲受後の統合計画を綿密に練ることをお勧めします。

譲受側のデメリットは、事業譲渡を実行してみないと、どの程度のリスクとなるのか見積もることが難しいため、デメリットに注力するよりはどのようにして回避するかに注力することをお勧めします。

業務移管に必要な書類

業務移管に必要な書類としては、秘密保持契約書が挙げられます。社外へ業務移管する場合、移管業務の協議をすることになりますので情報管理を徹底することが重要です。その後、事業譲渡スキームを用いて社外へ業務移管する場合は事業譲渡契約書が必要となります。これらの契約書は社内で作成することも可能ですが、法律に則って適切な手法で実施したことのエビデンスにもなるため、弁護士など法律の専門家に依頼することをお勧めします。

業務移管を実施する際の留意点

業務移管を行うこと自体は簡単できますが、業務移管に期待する効果をスピーディーに獲得することが重要です。対策としては移管後の事業統合を確実に実施することが重要となります。事業統合は人事、労務、業務、システムなど多岐にわたるため、計画的に実施することが求められます。無計画に事業統合を行うと事業や業務が滞る原因となり、会社全体の業績に悪影響を及ぼすので注意が必要です。業務移管後の統合作業は、計画的且つ迅速に行うことが重要です。

業務移管のまとめ

業務移管と事業譲渡は、どちらも他の部門や会社へ業務の責任範囲を移転する点では同じですが目的が異なります。達成したい自社の目的を明確にし、それぞれのメリット・デメリットを把握した上で検討することをお勧めします。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 事業譲渡を検討の際は、お相手の選定や事業譲渡価値の算出などが必要となりますので是非、一度ご相談ください。

また、母体となるみつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、お気軽にご相談頂ければと思います。 

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋事業法人第二部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人