M&Aで買収プレミアムを付ける理由とは?算出方法や注意点も解説

買収プレミアムとは、譲受価額と時価総額(市場価値)との差額のことです。本記事では、M&Aにおける買収プレミアムの支払い背景やメリット・算出方法・事例について解説します。買収プレミアムの重要性とリスクを理解し、M&A戦略を成功させるための参考にしてください。

M&Aにおける買収プレミアムとは

株式市場で株式の過半数を買い集めようとすれば、一般的には、市場株価で買い集めることは難しく、市場株価に幾らか上乗せした価格でないと既存株主が売却してくれないことが多いです。その上乗せ分を買収プレミアムと呼びます。平たく言えば、買収金額と時価総額の差額が買収プレミアムということになります。

M&Aの買収プレミアムの平均割合

平均的な買収プレミアムの割合は、約30~40%です。たとえば時価総額が100円の場合、平均的な取引価格は130~140円です。ただし、譲渡側に特定の技術や優れたブランド力がある場合は、40%以上の買収プレミアムが提示されることもあります。平均額は参考程度と考えましょう。

買収プレミアムが付く理由

M&Aで買収プレミアムを支払う背景として考えられる、2つのケースを紹介します。

シナジー効果が期待できる

自社事業とM&A対象会社の事業にシナジー(相乗効果)が期待される場合、買収プレミアムが提示されます。期待されるシナジー(相乗効果)としては、原材料の共同購買による費用削減や配送会社の集約、物流拠点の統合などが挙げられます。また、ブランド力や売上拡大に対する期待値などが挙げられるでしょう

無形資産の価値が評価される

無形資産の価値が高く評価される場合にも、買収プレミアムが提示されることがあります。無形資産とは、有形資産や金融資産以外のすべての要素を指します。具体的には、企業の知的財産権、経営者や従業員の能力、顧客エンゲージメント、企業統治力、企業文化などです。いずれも直接株価には反映されませんが、企業の価値創造能力に重要な影響を及ぼす要素となります。

コントロールプレミアム

株式市場で付いている株価は、基本的には、市場で1株を売買するとした場合の価格です。他方で、市場を通じて過半数の取得を目指す場合には(通常、TOB規制に服します)、その後、残存株主を排除(スクイーズアウト)して100%子会社化を目指す取引と相まって、それらは支配権を獲得する行為であり、その支配権獲得の対価として市場株価を上回る価格で既存株主に報いることが通例です。(市場株価を下回る価格で買収するディスカウントTOBも存在します。)

逆に、既存の株主からすれば、TOBに応じない場合には、非公開化により流動性を失うリスクがあり、買収プレミアムは、そのようなネガティブ要因に対する見返りという見方もできます。

買収者側の現実的なメリット

M&Aでの買収企業には、上記以外に、次のような経済メリットが見込めます。

短期間でM&Aが行える

買収プレミアムによって譲受価額が高くなると、譲渡側は自社が高く評価されたと感じます。そのため、積極的に交渉を進められる可能性も高まるでしょう。

交渉を優位に進められる

競合他社がいる場合、買収プレミアムを高く設定することで、自社が選択される可能性が高まります。譲渡側との交渉も、自社が優位に立って進めることができるでしょう。高い買収プレミアムは、競争が激しいM&A市場において差別化を図り、交渉で有利な立場を築く手段といえます。

買収プレミアムの算出方法

M&Aの買収プレミアムは、スタンドアローンバリュー(単独価値)、または企業価値から算出するのが一般的です。ここでは2つの算出方法について解説します。 

スタンドアローンバリューから算出する

スタンドアローンバリューとは、シナジー(相乗効果)を考慮せずに、企業の株主価値を評価する概念です。貸借対照表の詳細な分析とデューデリジェンス(買収監査・企業調査)の実施を通じて、正確な企業の単独価値を算出します。

株式市場に上場する企業の支配権獲得を目指すM&Aの場合には、この方法が用いられることは殆どないと思われます。

企業価値から算出する

企業価値から買収プレミアムを求める算出方法として3つの方法があります。

コストアプローチ

コストアプローチは、企業の保有している資産および負債をもとに、企業価値を算出する方法です。企業の純資産に着目するため、客観性に優れた評価ができます。中小企業のM&Aにおいて、比較的採用されやすい方法です。

コストアプローチは、評価する項目の違いにより、以下の3つに分けられます。

簿価純資産法企業の財務諸表にある帳簿上の価値をもとに評価する
時価純資産法資産と負債を市場価値で評価する
時価純資産+営業権無形資産も考慮に入れ、包括的に評価する
コストアプローチの方法

マーケットアプローチ

「マーケットアプローチ」は、譲受対象の企業と類似企業の情報や譲受事例などをもとに、企業価値を算出する方法です。

マーケットアプローチには、以下のような方法があります。

類似企業比較法類似企業の平均的な企業価値を参考にして算出する
類似取引比較法類似企業で過去に実施されたM&Aの取引内容を参考にして算出する
マーケットアプローチの方法

インカムアプローチ

「インカムアプローチ」は、対象企業の将来の利益やキャッシュ・フロー予想に基づき、リスクを考慮した収益を現在価値に換算し、企業価値を評価する手法です。

インカムアプローチには、以下のような方法があります。

DCF(Discounted Cash Flow)法予想される将来の利益を用いて算出する
配当還元法過去2年間の平均配当金額を、利率10%と仮定して算出する
残余利益モデル(オルソンモデル)株主に属する企業価値を、会計利益によって算定する
インカムアプローチの方法

買収プレミアムを確定するときのポイント

買収プレミアムを確定する際は、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を綿密に行いましょう。その結果、対象企業の問題点や懸念事項が判明した場合、買収プレミアムの修正やM&A自体の中止を検討します。

譲受後に収益効果が得られない場合、譲受への投資が回収できない状況に陥る恐れがあります。リスクを避けるためにも、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の結果を踏まえることが重要です。

買収プレミアムを付ける際の注意点

ここでは、M&Aの買収プレミアムの注意点を2つ、解説します。

のれん減損のリスクがある

買収プレミアムは、買収後に得た資産と、負債の時価を買収価格が超える場合に発生します。この差額が買収プレミアムで、「のれん代」として計上されます。予想水準の収益性が得られない場合、会計上で、のれんの減損が発生するかもしれません。のれんは定額法に従って規則的に償却される必要があるため、のれんの減損は利益の減少につながる恐れがあるでしょう。

投資金額の回収が長期化することがある

下記のような場合は、投資金額の回収が長期化する恐れがあります。場合によっては、改修しきれないケースもあるでしょう。

  • 対象企業を過大に評価してしまった場合
  • 予想よりも対象企業の業績が低迷する場合

ただし、買収プレミアムが低すぎても、取引の不成立や譲渡側の不信感につながります。M&Aを成功させるためには、適切な買収プレミアムを算出することが重要といえます。

買収が買い手の株価に及ぼす影響は不明

買収実行後の買収者の株価がどうなるかは、ケースバイケースになります。長期的には、買収後に予定したシナジーが十分に発揮できるか次第と思われます。

買収プレミアムが付いた事例

ここでは、M&Aの買収プレミアムの具体的な事例を10件、紹介します。

HCホールディングスによる譲受

2020年4月、HCホールディングスによる日立化成の譲受が行われました(買収プレミアム13.48%)。日立化成は2020年4月28日付けで、昭和電工の連結子会社になりました。技術や事業の統合を進めて、世界的な機能性化学メーカーを目指しています。

Yahooによる譲受

ヤフー株式会社は、大手ECサイトである株式会社ZOZOを譲受(買収プレミアム20.96%)しました。物流システム「ZOZOBASE」のノウハウ獲得を目的としています。

ニトリによる譲受

ニトリは、2020年12月に島忠を譲受(買収プレミアム91.10%)しました。島忠のTOB(株式公開買いつけ)価格は、競合他社の価格を3割ほど上回る、1株5,500円でした。

三井不動産による譲受

2021年1月、三井不動産は東京ドームを譲受(買収プレミアム44.93%)し、完全子会社化しました。東京ドームが持つ施設運営のノウハウを活用した収益向上が、M&Aの主な目的です。

電通による譲受

2018年11月、電通はセプテーニ・ホールディングスを譲受(買収プレミアム53.9%)し、2022年1月4日に連結子会社化を果たしました。インターネット広告分野の強化と、デジタルマーケティング分野の拡大という狙いがあります。

武田薬品による譲受

2019年1月、武田薬品は、アイルランドの製薬大手であるシャイアー社を、約6兆8,000億円で譲受(買収プレミアム64.4%)しました。この取引の主な目的は、競争力を高めて新薬開発を優位に進めることです。

Microsoft社による譲受

2016年12月、Microsoft社はLinkedIn社を1株あたり196ドル、合計約2兆9,800億円で譲受(買収プレミアム49.5%)しました。Microsoftはビジネスソーシャルネットワークを取得し、クラウドサービスとの統合を強化、プロフェッショナルネットワークの拡大を図りました。

帝人による譲受

2021年3月、帝人はジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)を、約192億円で譲受(買収プレミアム27.33%)しました。J-TECは富士フイルムの子会社で、再生医療製品を製造・販売しており、帝人は自社の基盤とJ-TECの技術を結びつけたことで、さらなる成長を見込んでいます。

ヤマダホールディングスによる譲受

2020年10月、ヤマダホールディングスはヒノキヤグループを譲受し、完全子会社化しました。(買収プレミアム14.35%)家電・家具・住宅リフォーム商品の連携を強化し、住宅の拡販を促進する狙いがあります。

アサヒグループホールディングスによる譲受

アサヒグループホールディングスは、2012年5月にカルピス社を、約1,200億円で取得しました。(買収プレミアム約30%)この取引でアサヒは国内清涼飲料業界でシェア3位となり、国内外の飲料事業を強化・拡大する戦略を推進しました。

M&Aの買収プレミアムの相談先

買収プレミアムの設定には、専門的な知識と経験が必要です。M&A仲介会社やM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。専門的な見地からアドバイスをもらうことで、複雑な企業譲受のプロセスを明確にして、買収プレミアムを適切に決められます。

まとめ

買収プレミアムは、シナジー(相乗効果)や無形資産の価値が期待できる場合に支払われます。短期間でM&Aを成約し、交渉を有利に進める効果が期待できるでしょう。

適切な買収プレミアムを設定するためには、M&Aのコンサルティング会社に相談することをおすすめします。みつきコンサルティングは、公認会計士・経営コンサルタントのサポートにより、最短2ヵ月でM&A成約を実現します。多種多様な業種・業界での成功実績と独自ネットワークを活かし、最適な候補先の選定が可能です。完全成功報酬で途中費用はかからないので、お気軽にご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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