M&Aには手数料や情報漏えい、人材流出など多様な課題が潜んでいます。本記事では、中小企業の経営者に向け、M&Aが行われる背景から具体的な課題と対策までを網羅的に解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
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M&Aの課題を理解する意義
M&Aを検討するとき、経営者が最初に直面するのは「何が壁になるのかよく分からない」という漠然とした不安です。課題を体系的に掴めば、対策を先回りで打てます。整理が付かない交渉に入れば、途中で条件が二転三転し、予定していた譲渡金額や成約時期が大きく狂う恐れがあります。適切な相手先に円滑にバトンを渡すためにも、課題の全体像を把握することが成功への第一歩です。
課題把握がもたらすメリット
課題を洗い出すと、優先度の高い論点から順に手を付けられます。たとえば費用が重いと分かれば複数社の見積を比較し、情報漏えいの懸念が強いと分かれば秘密保持契約を厳格に設計する、といった具合です。結果的に交渉期間が短縮され、従業員や取引先への影響も抑えられます。
従業員が抱く主な不安
会社を売却するに際して従業員が感じる不安は、一般に以下の4つです。
- 会社や事業の方向性
- 給与・賞与・福利厚生、その他労働条件
- 組織改組・人事異動の有無
- 業務手続・システム変更の有無
譲渡に至る背景や、譲受企業がどのような先か、経営者からの伝え方などによって、従業員の不安が募ったり、むしろ将来への展望が開けたりします。
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事業承継とM&Aの現状
国内の中小企業は全企業の99.7%を占め、日本の雇用と技術基盤を支えています。しかし経営者の高齢化が進み、東京商工リサーチの調査では平均年齢が62.77歳に達しました。後継者候補が見つからず黒字のまま廃業を選ぶ企業は、2021~2022年だけで休廃業・解散した企業の約55%に及びます。このままでは地域経済の屋台骨が失われかねません。
後継者不在と廃業リスク
帝国データバンクによると、後継者不在率は52.1%で、多くのオーナーが「事業承継の意向がない」または「候補者の資質不足」で出口に悩んでいます。こうした背景から、M&Aは第三の承継手段として急速に浸透しています。
中小企業M&A件数の増加
中小企業白書は、後継者問題を抱える企業のM&A実施率が年々高まっていることを示しています。国や自治体は税制優遇や補助金で後押しし、「事業承継型M&A」は珍しい選択肢ではなくなりました。適切に進めれば雇用や技術を守りつつ資本回収も図れるため、潜在ニーズは今後さらに拡大すると見込まれます。
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M&Aが選ばれる背景
M&Aは単なる会社売却ではなく、企業の存続と成長を同時にかなえる戦略ツールです。
譲渡オーナー側の動機
譲渡オーナーの最大の課題は後継者不在です。さらに株の譲渡で創業者利潤を得られる点、従業員の雇用や事業ノウハウを守れる点も大きな魅力です。M&Aであれば自社の歴史を理解する譲受企業を選べるため、地域や業界への責任を果たしつつ安心して引退できます。
譲受企業側の成長戦略
譲受企業にとってM&Aは、時間とコストを節約できる加速装置です。新分野へ進出する場合、ゼロから人材とノウハウを育てるのは容易ではありません。すでに実績のある企業を譲受することで、一気に市場参入できるため、国内外の競争が激しい業界では重要な選択肢となっています。
クロスボーダーM&Aの動向
大手企業は国内市場の成熟を背景に、海外企業を対象とするクロスボーダーM&Aに注目しています。レコフの調査によれば件数自体は前年比で減少局面もありますが、成長マーケットを取り込む狙いは変わっていません。国境を越えた取引では言語や法制度の違いが追加の課題として加わるため、専門家支援の重要性が一層高まります。
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中小企業M&Aに共通する課題
ここからは、譲渡オーナーが直面しやすい四つの課題を整理します。
譲渡費用(手数料)の高さ
M&A未経験の中小企業では、仲介会社への報酬体系が分かりづらいという声が多く聞かれます。着手金、月額報酬、成功報酬など組み合わせは千差万別で、料率も会社ごとに異なります。契約締結前に支払タイミングと計算根拠を確認し、複数社を比較する姿勢が不可欠です。
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相手先探索の困難
譲渡オーナーが自力で譲受企業を探すのは至難の業です。一方、譲受企業側も優良案件を見つけられず機会を逃す場合があります。M&A仲介会社は広範な情報ネットワークを有し、希望条件に合致する候補を匿名で洗い出せるため、活用メリットは大きいと言えます。
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譲渡価格の妥当性
売却金額は交渉の結果で決まりますが、根拠となる企業価値評価が適切でなければ着地点が見えません。財務に強いM&A仲介会社等のによるを評価を受け、評価プロセスを文書化すれば、譲渡オーナーと譲受企業双方が納得しやすくなります。
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情報漏えいリスク
交渉過程でM&Aの動きを知られると、従業員が不安を抱き、取引先が様子見に回る恐れがあります。情報開示のタイミングを慎重に設計し、秘密保持契約を早期に締結することでリスクを抑えられます。
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手法別に深掘りする課題と対策
M&Aは目的や事業規模に応じて最適なスキームを選ぶ必要があります。ここでは、代表的な株式譲渡と事業譲渡を取り上げます。
株式譲渡のポイント
株式譲渡は手続が簡潔でスピード感に優れますが、会社全体を承継するため不要資産や簿外債務も一体で移転する可能性があります。譲受企業はデューデリジェンスで財務・法務・労務を精査し、不測の債務が見つかった場合は表明保証や価格調整条項でリスクを分担する方法が有効です。譲渡オーナー側は、自社に潜むリスクを交渉前に洗い出しておけば、価格交渉を有利に進められます。
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事業譲渡のポイント
事業譲渡は必要な資産・負債を選択的に移せる柔軟性が特徴です。一方、許認可の取り直しや従業員との雇用契約再締結が求められるため、時間とコストが増大しやすい点が課題となります。対策としては、取得すべき許認可の一覧を早期に作成し、取得までの工程表をPMI計画と連動させること、雇用条件を再契約する従業員に個別説明の機会を設けることが欠かせません。
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M&A後の課題
ここからは、M&Aをした後で課題になりやすいテーマを紹介します。
人事面の課題と解決策
M&A後の労働条件の悪化懸念と従業員離職リスクは常に課題で、人事面のケアは優先事項になります。
待遇悪化の抑止策
クロージング時に譲受企業へ労働条件維持を誓約させ、一定期間は現行制度を維持することで安心感を提供できます。さらに、早期に新処遇案の策定プロセスを公開し、従業員代表を交えた協議体を設置すると、透明性が高まり不信感の芽を摘めます。
従業員離職を防ぐ方法
参考資料では、M&A発表時に正社員の4割以上が転職を考えたと報告されています。離職防止には、①譲渡オーナーによる感謝と未来像の発信、②譲受企業役員との懇談会、③疑問を即時解消するQ&Aチャネルの開設、という三段階アプローチが効果的です。
企業文化ギャップへの対応
文化は見えづらい分、衝突すると軋轢が長期化します。「暗黙知を言語化し共有する」ことが出発点です。両社の行動規範や成功体験をワークショップ形式で棚卸しし、「残す文化」「変える文化」を合意形成していくと、相互理解が深まります。
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M&A後の統合作業(PMI)の課題と対策
原文はPMIの失敗例として「システム統合で事業に支障」「シナジー不発」を挙げています。参考資料でも「人事制度やITシステムの変更」が頻繁に問題化すると示されています。
システム統合で事業を止めないコツ
いきなり全業務を一本化せず、①財務・販売など基幹系、②原価・在庫など準基幹系、③グループウェアなど情報系、と三層に分け、試験導入→フィードバック→本稼働の順で進めます。この方法なら、万一トラブルが起きても限定的な範囲で収束できます。
シナジー不発を避ける統合モデル選択
連邦型・支配型・吸収型のいずれを採るかは事前のシミュレーションが重要です。たとえば販路拡大が主要目的なら、ブランドを並立させる連邦型が適し、コスト削減が目的なら吸収型が成果を出しやすい――この整理をクロージング前に済ませ、PMI計画に組み込む必要があります。
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M&A後に顕在化しやすい5つの組織課題
参考資料では、①企業文化・組織風土の変更、②従業員モチベーション低下、③人事・賃金制度やITシステムの変更、④経営ビジョン共有、⑤技術・ノウハウ伝承、の五点が挙げられています。どれも軽視するとシナジー発揮が遠のきます。
課題1 企業文化・組織風土
暗黙の了解を可視化するワークショップが有効です。
課題2 従業員モチベーション
短期KPIを設定し、成果を速やかに称賛する仕組みでモチベーション維持を図ります。
課題3 制度・システム変更
変更の順序とタイミングを明確化し、不公平感を抑制します。
課題4 経営ビジョン共有
トップが一貫したメッセージを発信し、社内説明会で双方向コミュニケーションを徹底します。
課題5 技術・ノウハウ伝承
属人化を解消するため、キーパーソンが保有する情報をマニュアル化し、チーム単位で共有します。
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組織課題への対策
参考資料は、①適時・的確な情報伝達、②人材交流を通じたノウハウ融合、③属人化解消、④先代社長の計画的サポート、の四つを推奨しています。以下で要点を整理します。
対策1 情報伝達
M&A成立を正式発表したら即座に従業員・主要取引先へ事実とビジョンを共有します。重要顧客には事前説明を行い協力を要請する場合も。
対策2 人材交流
拠点統合や短期出向で実質的な交流を増やし、制度変更を“自分ごと”として捉えてもらいます。
対策3 属人化解消
経営資源が特定個人に集中している場合は、マニュアル・動画・ワークショップで知識を形式知化し、社内資産へ転換します。
対策4 先代社長サポート
先代社長が一定期間残る場合は、役割と期間を明記した業務委託契約を結びましょう。長過ぎる在籍は新体制の権限を曖昧にします。
M&Aの課題のまとめ
本記事では、M&Aの課題を知りたいと思っている経営者に向け、M&Aにおける課題・対策法、実施される目的、現状などについて解説してきました。M&Aの課題を回避したり、解決したりすることは、専門性や経験が問われるものであり、自社のみで進めることが困難なため、M&A仲介会社などの専門家のアドバイスを早い段階から受けることが重要です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、PMI戦略の立案や実行、会計税務に関する各種課題解決会社も得意としておりますので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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