M&Aは後継者がおらず、第三者に事業承継するための手段として多く用いられています。後継者に悩んでおり、M&Aを検討している経営者も多いでしょう。この記事では、M&Aを検討したい経営者に向けて、M&Aに向けてすべきことや譲渡後の選択肢について解説します。M&Aを検討する際の参考として、ぜひ役立ててください。
2023年:後継者不在率は53.9%
帝国データバンクが2023年11月に公表した全業種の会社に実施した全国「後継者不在率」動向調査によると、全国の後継者不在率は 53.9%と、半数以上の企業で後継者がいないという結果が出ています。また、M&Aなど(買収や出向、分社化など)による事業承継は20.3%と、上昇基調です。このことから、事業承継の手段としてM&Aを選択する経営者が増加していることがわかります。
適当な後継者がいない経営者にとって、M&Aは身近な選択肢となっています。
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M&Aによる事業承継までの6ステップ
事業承継の際には、中小企業が作成した「事業承継ガイドライン」が参考になります。これは、中小企業・小規模事業者が円滑に事業承継するための指針です。その中で紹介されている事業承継に向けての5ステップをベースに、費用負担のステップを加えるなど、少し補足して説明します。
ステップ1:何をいつから準備すればよいか把握する
M&Aによる事業承継は、経営者が60歳になる頃を目安に準備を始めましょう。事業承継はすぐにできるものではありません。準備には数年程度かかるため、早めに準備を始めることがポイントです。
事業承継の適切な方法を検討する
事業承継の方法はM&Aだけではありません。親族に譲る、従業員などに譲るといった方法もあります。そのため、自社にとって適切な事業承継についてしっかりと検討しましょう。M&Aと他の方法を比較し、どちらが最適かを検討するのも重要です。この際、早めに専門家に相談するとスムーズに進みます。
ステップ2:経営状況・経営課題などを可視化する
自社の経営状況や経営課題を洗い出して、可視化しましょう。スムーズに事業承継を進めるためには、現状を正確に把握することが大切です。
ステップ3:事業承継を見据えてブラッシュアップする
事業承継は、事業を飛躍させる機会でもあります。次世代に承継するまでに、事業の維持や発展に努めましょう。経営状態の改善や自社の強み、魅力をアップさせることで、事業承継を有利に進めやすくなります。
ステップ4:事業承継計画を策定する
自社だけでなく、自社を取り巻く環境を整理しながら具体的な事業承継計画を策定しましょう。自社の現状、会社の理念などを確認し、計画を立案します。計画を立案した後は、譲受側の会社を探す「マッチング」を実施しましょう。
ステップ5:M&Aを実行する
事業承継計画に沿って、M&Aの手続きを進めていきましょう。M&Aを進めていくうえで、社会状況や経営環境が変化するケースもあります。状況を見ながら、事業承継計画を柔軟に修正・ブラッシュアップしておくこともポイントです。
M&Aの条件を検討する
M&Aで事業承継することを決めた場合は、条件を検討しましょう。たとえば、会社や事業の売却価格や従業員の待遇など、譲受側に求めることについて検討します。M&Aの目的や優先する項目などを明確にしたうえで希望する条件を洗い出し、専門家に相談するなどして詳しい条件を詰めていくとよいでしょう。
M&Aの契約を締結する
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)を行い、財務内容が正しいか、法的リスクなどの確認を行います。デューデリジェンスの結果を確認した後は、価格を含めた条件の調整を行いましょう。問題がなければ最終契約に進みます。契約時は専門的な知識が必要になるため、専門家に依頼してサポートを受けることがおすすめです。
ステップ6:M&Aに関する費用を支払う
M&Aを行うと、さまざまな費用が発生します。
M&A仲介会社などの専門家への報酬
中小企業がM&Aを進める場合、通常は専門的な知識を持つM&A仲介会社などの専門家へ依頼する必要があります。その際、M&A仲介会社に対して支払う依頼料が発生します。具体的な依頼料の項目は次のとおりです。
相談料・着手金:
M&A仲介会社と正式に契約を結んだ際に、最初に支払う費用です。最近では、中小企業向けに着手金が無料のM&A仲介会社も増えてきています。
月額報酬:
M&Aの譲受企業を探し、成約に至るまでの間、毎月支払う費用です。月額報酬についても、近年は無料とする会社が多くなってきています。
中間報酬:
譲受企業が見つかり、具体的な条件について基本合意がなされたタイミングで支払う費用です。M&Aの手続が順調に進んでいることへの成功報酬の一部と考えられます。
成功報酬:
最終的にM&Aが成立した際に支払う費用です。成功報酬は、譲渡企業の譲渡金額に一定の料率を掛けて計算され、一般的には譲渡金額が高額になるほど報酬料率も上がる仕組みとなっています。
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譲渡に伴う税金
M&Aでは、税金についてもあらかじめ確認しておく必要があります。どのような税金がかかるのかは、M&Aの手法によって異なります。
株式譲渡の場合の税金:
中小企業のM&Aでは、一般的に株式譲渡がよく使われます。株式譲渡による利益(譲渡所得)が発生すると、それに対して「譲渡所得税」が課されます。
この譲渡所得税の税率は20.315%で、他の多くの税金と比較しても比較的低い税率となっています。そのため、譲渡企業にとっても負担の少ない方法と言えます。
事業譲渡の場合の税金:
事業譲渡によってM&Aを行う場合には、「消費税」と「法人税」の2種類がかかります。消費税は、事業譲渡において、課税対象となる資産を譲渡する場合には、売却金額に対して消費税がかかります。
法人税は、事業譲渡によって得られた利益は、法人の収益として計上されます。そのため、譲渡する事業に関連する資産から負債を差し引いた売却益に対して、法人税が課税されます。
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M&A後の経営者の選択肢
M&Aで譲渡した後、経営者には2つの選択肢があります。ここでは、譲渡した後の選択肢を詳しく解説します。
会社に残って働く
経営者の年齢が若い、まだまだ気力があるなど、自身が希望する場合には「子会社の社長」などの立場で会社に残り、引き続き働くことも可能です。経営者が技術者という場合には、専門家として在籍し活躍することもできるでしょう。ただし、いずれにしても経営者だった頃より収入は下がるのが一般的です。
会社に残らずゆっくり過ごす
会社に残らずゆっくり過ごすのも選択肢の1つです。年齢的に働くのが難しい場合には、引退して妻と二人で旅行したり、家族の時間を増やしたりする経営者もいます。今まで支えてくれた家族に対する恩返しをする人も多いようです。また、新たなチャレンジをしたり趣味を見つけたりするなど、自分の時間を大切にするのもよいでしょう。
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経営者がM&Aするメリット・デメリット
M&Aでの事業承継には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここでは、M&Aによる事業承継のメリット・デメリットを解説します。
経営者のメリット
経営者がM&Aで事業承継するメリットとしては、後継者がいない場合でも事業を続けられることです。後継者が不在のまま経営者が退いた場合、会社が廃業せざるを得ません。しかし、M&Aで事業承継することで廃業を回避することができるため、従業員と従業員の家族を守れます。
また、企業規模の拡大によって、労働条件が向上する可能性もあります。M&Aにおいては、買収側の企業規模は自社よりも大きいケースがほとんどです。そのため、財政面での余裕が生まれて労働条件や業績の向上などが期待できます。
経営者のデメリット
M&Aで会社を譲ることにより、喪失感に襲われる可能性があるでしょう。人生をかけて打ち込んできた仕事がなくなることで、喪失感を覚えて生きがいを失ったような感覚になる経営者も少なくありません。
会社を譲った後、会社に残るケースもあります。しかし、その場合には権限は小さくなり買収先の企業方針に従わなければいけません。会社を離れる場合には継続的に得ていた収入がなくなってしまうこともデメリットでしょう。譲渡したことで得た利益や貯蓄などで生活できるかしっかり検討することが重要です。
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経営者をサポートする主な専門家
M&Aでは、専門家のサポートが必須です。ここでは、M&Aで経営者をサポートする専門家について解説します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、譲渡側と譲受側の間に立って、双方をフォローします。M&Aを成約に導くためにさまざまなサポートをする専門家で、M&Aのマッチングからクロージング(成約)までフルサポートするケースが多いようです。M&A仲介業者は中立的かつ客観的な立場で、M&Aのすべてをサポートします。
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会計士・税理士
M&Aの各種手続きにおいて、会計や税務の専門知識が必要になる場面は多いです。たとえば、財務諸表の確認や企業価値の算出などが必要になるため、会計や税理の専門家のサポートは欠かせません。また、税金の計算なども必要となるため、会計・税務の専門家である会計士や税理士にサポートしてもらうとよいでしょう。
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M&Aで企業譲渡する経営者のまとめ
後継者がいない場合には、M&Aによる事業承継をするのも選択肢の1つです。M&Aで事業承継する際には、早めに準備を始めましょう。タイミングを見極めることで、好条件で譲渡できる可能性が高まり、従業員の雇用の維持や待遇向上などを実現しやすくなります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループです。M&Aありきの提案ではなく、複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して、適切な事業承継方法をご提案できます。また、経営コンサルティング経験者が緻密な計画を策定できるため、候補先から事業計画書の提出を求められた際も安心です。M&Aによる事業承継をお考えなら、お気軽にご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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