M&Aのリスクとは?譲渡企業と譲受企業が注意すべきリスクと回避策

後継者不在などを理由に事業継承課題解決の為、M&Aの検討をしている中小企業が増えています。

M&Aはこのような課題解決のみならず、M&Aによるグループイン後に発生するメリットも多くあります。一方でメリットばかりではなく、リスクもありますので事前の対策が必要です。

M&Aにおける譲渡企業と譲受企業のリスクやその対策について解説しますので、参考にしてください。

1.M&Aにおけるリスク

M&Aを検討する段階では、表面上に現れていないが、M&A実行後に現れる可能性があるものがリスクとなります。例えば、未払い残業の支払いを巡る係争や取引先との基本契約で、譲渡対象企業が圧倒的に不利な条件での取引条件が締結されているなどがあります。

また、M&Aを機に譲渡対象企業のキーマンや技術力のある人材が退職してしまうなど、譲渡後の運営方法に起因するリスクなどもあります。

M&Aのリスクを意識しておくことの重要性

M&Aには、検討段階から実行後まで何らかのリスクがあるとの認識で進めることが重要です。M&Aにおけるリスクを的確に把握することにより、事前対策を講じることができリスク回避の可能性を上げることが可能です。

2.M&Aのリスク 4種類

M&Aにおけるリスクは、

  • 財務
  • 経営
  • 人材
  • 法務

と大きく4つに分類することができます。

特に中小企業のM&Aではリスク発生の可能性が高い傾向にありますので注意が必要です。4つのリスクについてそれぞれ解説しますので、M&A検討時の参考にしてください。

財務リスク

財務リスクとは、譲渡対象企業の財務状況に起因するリスクです。

譲渡側にとっては、取引金額を下げられる要因となりますし、譲受側にとっては譲受後に余分な対応が必要となったり、追加資金の支払いが発生することになったりなど、深刻なリスクとなる可能性があります。

財務リスクの具体例としては、未払い残業代が発生していた、架空在庫が発覚した、売掛金に不良債権が含まれていたなど、企業価値の基準となる純資産額が減額される要因となります。

対策としては、専門家への依頼のもとデューデリジェンス(買収監査)実施時に、財務リスクの洗い出しをすることで財務リスクを軽減または排除することが可能です。

経営リスク

経営リスクとは、譲渡対象企業における経営方針に起因し発生するリスクのことを言います。

譲渡側にとっては、M&A後に責任追及される可能性があります。譲受側にとってはM&A後、想定していたシナジー効果が得られないなど深刻なリスクとなる可能性があります。

経営リスクの具体例としては、職場環境や業務プロセスの変化、M&A後の企業文化の違いにより従業員のモチベーション低下などが挙げられます。

人材リスク

人材リスクとは、譲渡対象企業の役員・従業員に起因し発生するリスクを言います。

譲渡企業の企業価値は、役員や従業員などがいてこその企業価値と言っても過言ではなく、人材リスクは譲受企業にとって深刻なリスクとなる可能性があります。

人材リスクの具体例としては、役員・従業員のモチベーション低下や離職、企業文化・業務フローの違いによるトラブルなどが挙げられます。

対策としては、譲渡側と譲受側で人材情報の共有をすることや雇用条件のすり合わせをしっかり行うこと、譲受前に譲受企業と譲渡企業のキーマン(役員や従業員の代表者)との面談を行うことで人材リスクの軽減・排除が可能となります。

法務リスク

法務リスクは、会社運営に係る法務を起因として発生するリスクを言います。

譲渡側にとっては、M&A取引金額を下げられる要因となります。譲受側にとっては、譲受後の係争発生や取引トラブルなど深刻なリスクとなる可能性があります。

法務リスクの具体例としては、M&Aを機に取引先との条件が変更される、会社法や労務などの違法が発覚し対応が必要となるなどが挙げられます。

対策としては、専門家への依頼のもとデューデリジェンス(買収監査)実施し、法務リスクを洗い出すことで法務リスクの軽減・排除が可能です。

3.売り手が注意すべきリスクと対策

譲渡企業が注意すべきリスクとしては、M&A検討時の情報漏洩や譲渡後の社内体制に起因するトラブルなどが挙げられます。起りうるリスクを把握し、事前対策を講じるよう心がけましょう。

情報漏洩のためにM&Aに失敗するリスク

M&Aにおいて、情報漏洩は最も気を付けなければならないリスクです。

M&A交渉を進めているとの情報が洩れると譲渡対象企業の事業運営に支障をきたす可能性があります。例えば、従業員に情報が洩れると不安に思った従業員が離職、取引先に情報洩れると経営が危ないのではないかと詮索され取引条件が変更される、金融機関に情報が洩れると、新たな融資が通らない、借入条件の見直しなどの例があります。

情報漏洩リスクの対策としては、社内での検討メンバーを最小限にすること、交渉先を常に把握し情報管理をお互いに徹底することを周知するなどの対策が必要です。

譲渡オーナーがM&A後に損害賠償を受けるリスク

損害賠償リスクは、多い事例ではないですがM&Aにおけるリスクとして存在するのは確かです。

譲渡企業に対し予期せぬ訴訟を受けて賠償が発生するなどの偶発債務や退職給付債務や未払い残業の発覚などの簿外債務が発生した場合、譲渡オーナー個人が損害賠償を受けるリスクがあります。

対策としては、デューデリジェンス(買収監査)実施時に、今後予想されるリスクがあれば、譲受側へ確実に伝えることが重要です。最近では、M&A表明保証保険など損害賠償を受けた際の一部を補填してくれる保険に加入するなどの対策を講じる企業もあります。

従業員の理解が得られないリスク

譲渡側の従業員へM&Aのことを周知するタイミングは会社によって異なりますが、会社を存続させることで従業員の雇用を守るとの側面がM&Aにはあるにも関わらず、従業員から思わぬ反発を受け離職者が出たり、M&A後の会社運営に非協力的なってしまったりするリスクがあります。このリスクの要因は、ほとんどが従業員の不安から起こっていると推察されます。

対策としては、条件が固まるまで情報が洩れないように配慮・注意する、従業員への説明を丁寧に行う、大幅な減給や強制的な転勤など従業員に不利益となる条件をできるだけ排除しておくことが重要です。

取引先との関係が悪化するリスク

取引先との長年の実績により培った良好な関係は、譲渡側の現経営陣が徐々に築いてきたものです。しかし、M&A完了前に取引先に情報が洩れることや取引先への説明が不十分であると築いてきた信頼関係が崩れ、取引解除や取引条件の改悪などが起こるリスクがあります。

対策としては、M&A完了まで徹底した情報管理を行うこと、M&A後速やかに、今回のM&Aの経緯や今後の会社運営方針など丁寧な説明が重要です。

譲渡価格が下がるリスク

悪条件が重なることやM&Aの知識不足は、譲受企業との交渉に弱くなりM&A取引金額が下げられる、M&Aが成約しないなどのリスクとなります。M&Aが成約しない場合、状況によっては廃業・倒産などの可能性も出てきます。

対策としては、M&Aにおいては将来獲得するであろう収益性が評価される為、事業・経営の改善に努めることが重要です。また、M&A仲介会社などM&Aの専門家に相談することをお勧めします。

4.買い手が注意すべきリスクと対策

譲受企業が注意すべきリスクとは、M&A前に顕在化している問題点や潜在化している問題点を把握せずにM&Aを実施してしまうことが一番大きなリスクと考えます。M&A後に予期せぬリスクを発生させないよう事前に対策を検討することをお勧めします。

簿外債務・偶発債務に気付かず買収するリスク

譲受企業しては、M&A後に簿外債務や偶発債務が発生する可能性が無いかの確認が必要です。これらの債務に気付かずに譲受すると、M&Aの投資金額以上の損失が出たり、投資回収期間が長くなる等のリスク考えられます。

簿外債務とは退職給付債務や未払い給与(残業代)などを言い、偶発債務とは取引先とのトラブルによる損害賠償請求などを言います。対策としては、専門家に依頼の元、慎重なデューデリジェンス(買収監査)を行うこと。最終契約書に表明保証や補償規定を反映し損害賠償の請求ができる建付けにしておくことが考えられます。

のれんを高く評価し過ぎるリスク

M&Aにおける、のれんとは数値化できない企業価値や将来獲得するであろう収益力を評価した企業価値のことを言います。

のれんは基準となる企業価値に加算されますので、高く評価すると取引金額が高騰します。また、のれんは一定期間で償却し費用計上する必要がある為、のれん金額が高すぎるとマイナス収益となるリスクがあります。

対策としては、取引金額を決定する際、のれんの評価を適切に行うことや過大評価しないよう市場や業界の情報を元に検討することをお勧めします。

想定していた収益が得られないリスク

譲受した企業を過大評価したり、十分な統合戦略が無いまま譲受したりしてしまうと、従業員の離職や取引先の離脱などが発生します。これによりM&Aによるシナジーが薄れてしまう可能性があります。シナジー効果が薄れると、想定していた収益が得られないなどのリスクが考えられます。

対策としては、専門家への依頼の元、十分なデューデリジェンス(買収監査)を実施すること、アドバイザリーなどM&Aの専門家に意見を聞き事前にリスクの把握することをお勧めします。

統合作業・組織再編に難航するリスク

M&A後は、グループ企業として事業運営していく為、統合作業や組織再編を行う必要があります。しかし、企業風土や文化が異なることや、急な環境変化に拒否反応を示す従業員が出てくるなど、統合作業や組織再編に難航するリスクが考えられます。

対策としては、会社理念・経営方針・組織体制・評価制度・雇用条件などを明確にしたうえで統合作業の計画を立てることが重要です。この計画を遂行する為、専門家の意見や支援を受けながら、着実かつ丁寧に計画を遂行することをお勧めします。

優秀な人材が離職してしまうリスク

従業員に対するM&Aの経緯や目的の説明が不足したり、急な環境変化(雇用条件の改悪や強制的な転勤など)を強要したりすると、M&A後に優秀な人材が離職してしまう可能性があります。人材の離職はM&A後に想定していた収益を獲得できない、取引先が離脱するなどリスクを誘発させます。

対策としては、キーマン(譲渡企業の重要人物)との事前面談や従業員とコミュニケーションの機会を増やすなどをお勧めします。

5.リスク回避のための準備

M&Aのおけるリスク回避の為に重要なことは、譲渡側・譲受側がお互いに信頼関係を築き良いことも悪いことも共有できる環境を作ることと考えます。また、M&Aの検討範囲は非常に幅広く専門的知識が必要となる為、M&Aの専門家の意見を参考にすることも重要です。それぞれ解説します。

譲受企業と譲渡企業の信頼関係を築く

M&Aのリスク回避には、譲渡側・譲受側の協力無くして実現できません。譲渡側が、自社が抱える課題を譲受側に隠したり、譲受側が過度に自社に有利な条件を押し付けたりすると互いが疑心暗鬼になり、協力体制が構築できません。

譲渡側は自社の従業員や取引先の引き継ぎをお願いする相手であり、譲受側は長年運営してきた会社を引き継ぐ相手候補として選んで頂いたことを考慮し、お互いに敬意を払い交渉を進めることで、強固な信頼関係を築くことができるのではないでしょうか。その信頼関係が、M&Aリスク回避の為の協力体制構築には欠かせないと考えます。

互いの企業について十分に調べる

M&Aは、実行すると後戻りはできません。よってお互いがどれだけ相手企業のことを理解できるかが重要となります。譲渡側が譲受側の理解を深める為には、紹介元であるアドバイザリーにヒアリングを依頼する、企業情報会社などで調査するなども有効です。

譲受側が譲渡側の理解を深める為には、デューデリジェンス(買収監査)実施による譲渡企業の調査が有効です。最も必要なことは譲渡側・譲受側の面談を重ね、譲渡後の従業員の雇用条件確認や経営方針の確認など相手から直接情報を取得する機会を多く実施することです。

M&Aの専門家の意見を聞く

M&Aの検討範囲は、幅が広く専門的な知識が必要となります。財務・税務ですと公認会計士や税理士、法務ですと弁護士など各分野の専門家からアドバイスをもらうことが、M&Aリスクの回避につながります。

また、M&A仲介会社などのM&Aの専門家は、これまでの経験値からM&A交渉におけるリスクを熟知しておりますので、有益なアドバイスを受けることが可能です。M&Aの失敗確率を低くする為には、専門家への相談が必要不可欠です。

6.リスク回避のための必須事項

譲渡企業がM&Aを成功させるために必ずやっておくべきこととし、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)とPMI(統合プロセス)の2つが挙げられます。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、M&A前にリスクを洗い出しそのリスクに対しての回避策検討に必要です。

PMI(統合プロセス)は、M&A後にM&A戦略実現の為に必要なプロセスで、PMIに失敗することがM&Aのリスクとなってしまいます。それぞれについて詳しく解説します。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)とは、譲受側が専門家へ依頼し、譲渡企業の財務・税務・法務・ビジネスなどの状況を調査することを言います。

簡易的な資料では把握できない問題点や課題を抱えていないかなど、詳細情報を元に、買収リスクの有無を把握することを目的に実施されます。

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)実施により、簿外債務や偶発債務発生の可能性が把握し、労務や法務違反事項の有無などリスクの洗い出しが可能となります。M&Aを成功させる為に必ず実施すべきであり、譲渡側もM&A後に揉めない為に積極的に協力すべき検討フローです。

PMI(統合プロセス)

PMI(統合プロセス)とはM&A成約後、譲受企業が譲渡企業と協力し、自社のM&A戦略実現の為実施する経営統合プロセスを言い、M&A実行前に選定したM&A戦略を実現する為の体制構築を目的に実施されます。

譲渡側の協力や、譲受側の目的を明確にしたうえでスピーディーに実行することが重要です。

しかし、従業員とのコミュニケーションを疎かにすると思わぬ反発を受けたり、PMI(統合プロセス)の協力が得ることができない可能性も出てきますので、スピーディー且つ慎重に行うことも重要です。

7.M&Aのリスクのまとめ

M&Aにおけるリスクは、譲渡側と譲受側の信頼関係の元、お互いが協力的に交渉を進めることが重要です。協力体制が構築できれば、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)実施によるリスクの洗い出しやPMI(統合プロセス)実施がスムーズに進めることが可能となりますので、M&A失敗確率を軽減できると考えます。

弊社みつきコンサルティングは、会計系M&A仲介会社の強みを生かし、財務・税務分野の支援はもちろん、これまで培ってきたM&Aにおける知見を活用しM&A成功へのお手伝いが可能でございます。M&Aご検討の際は、是非ご相談くださいませ。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋事業法人第二部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人