デューデリジェンスの費用は、譲渡企業の規模や調査範囲によって大きく変動します。この記事では、デューデリジェンスの費用相場や内訳、コストを抑えつつ質の高い調査を行うためのポイントを詳しく解説し、譲受企業にとってM&Aを成功に導くための知識を提供します。
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デューデリジェンスとは
デューデリジェンス(Due Diligence、略してDD)は、「当然払うべき努力・注意義務」を意味する言葉です。M&Aや投資を行う際に、譲受企業が譲渡企業や事業の価値、そして潜在的なリスクを詳細に調査するプロセスを指します。M&Aの成否を左右する重要な手続の一つです。
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事業譲受の判断材料となるデューデリジェンスは、主に以下の目的で実施されます。
- リスクの把握と意思決定精度の向上:譲渡企業の財務状況、法的な問題、事業の将来性などを正確に把握し、簿外債務や粉飾決算、訴訟リスクといった潜在的な問題を特定します。これにより、M&A後の予期せぬトラブルを回避し、適切な意思決定を行うことが可能となります。
- 適切な譲受価格の算定:調査で検出されたリスクや機会は、譲渡企業の企業価値に影響を与えます。デューデリジェンスの結果を基に、適正な譲受価格を見極めることができるのです。
- 最終契約への反映:デューデリジェンスで特定された重要な論点は、株式譲渡契約書などの最終契約書に反映されます。特別補償、誓約事項、クロージングの前提条件、表明保証条項などに織り込むことで、譲受企業のリスクを軽減します。
- PMI(M&A後の統合プロセス)に向けた準備:円滑な事業統合のためにも、デューデリジェンスで収集された情報は重要です。事業計画の修正や組織体制の整備、課題への早期対応策の立案に役立てられます。
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デューデリジェンス費用の相場と変動要因
デューデリジェンスの費用は、案件の規模や内容によって大きく異なります。一般的には、中小企業のM&Aにおけるデューデリジェンスの費用は200万円から500万円前後が目安とされていますが、大規模案件では数千万円以上になることもあります。
企業規模による費用の違い
譲渡企業の規模は、デューデリジェンス費用に最も大きな影響を与える要因の一つです。財務DD+法務DDのみを実施する前提での一般的な相場感は次のとおりです。
- 小規模企業(売上:~数億円): 200万円~300万円程度で対応可能です。比較的簡易な調査で済むことが多いです。極端に簡素なデスクトップDDなら、200万円を切ることも可能な場合があります。
- 中規模企業(売上:数億円~数十億円): 300万円~1,000万円程度が相場です。
- 大規模企業(売上:数十億円以上): 1,000万円~数千万円以上かかることがあります。調査対象の情報量が多く、複雑性が増すため、費用も高額になる傾向があります。
デューデリジェンスの種類と費用
デューデリジェンスには様々な種類があり、実施する調査の種類によって費用が変動します。以下では、対象会社が中小企業である場合の一般的な費用相場を紹介します。
財務デューデリジェンス(FDD)
費用相場は100万円~300万円です。譲渡企業の財務諸表の信頼性、簿外債務や偶発債務の有無、正常収益力の把握などを目的とします。公認会計士や税理士が中心となって実施し、譲受価格や契約条件に大きく影響します。
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法務デューデリジェンス(LDD)
費用相場は100万円~300万円です。契約、訴訟、知的財産、許認可などの法的リスクを評価し、M&A後のトラブル回避に役立てられます。弁護士などの法務専門家が担当します。
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ビジネスデューデリジェンス(BDD)
費用相場は100万円~数千万円です。譲渡企業の収益構造、競争優位性、成長性、事業計画、シナジー効果などを評価します。経営コンサルタントや業界専門家が実施し、M&Aの戦略的妥当性を見極めるために不可欠なプロセスです。
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IT・人事・環境・人権デューデリジェンスなど
- ITデューデリジェンス: 情報システムやセキュリティ体制を評価します。
- 人事デューデリジェンス: 組織構造、人事制度、労務管理、キーパーソンの評価などを行います。
- 環境デューデリジェンス: 土壌・大気汚染や法令遵守状況を確認します。特に工場などの製造施設における潜在的な環境リスクの可視化を目的とし、賠償責任リスクやレピュテーションリスクを把握します。高額な浄化費用や事業活動の制限につながる土壌汚染の有無、PCBやアスベストなどの有害物質の管理状況などが調査されます。
- 人権デューデリジェンス: 強制労働や児童労働、ハラスメントなどのリスクを評価します。
これらのデューデリジェンスは、目的や譲渡企業の特性に応じて費用感は大きく異なります。選択的に実施することで、費用対効果を最大化できます。
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調査範囲と深度が費用に及ぼす影響
デューデリジェンスの費用は、スコープをどこまで広げ、どれだけ深く掘り下げるかによって大きく変動します。
項目 | 内容 |
---|---|
調査対象期間 | 過去1年分を見るか、3年以上遡るかによって作業量が変わります。 |
対象となる会社数 | 対象会社に子会社・関連会社等がある場合、どこまでのグループ会社を調査範囲に含めるかによって、調査時間は大きく変わります。 |
調査項目の網羅性 | 全項目を網羅的に調査するか、リスクの高い項目に絞るかによって費用が変わります。 |
分析の深度 | 書類確認のみに留めるか、経営陣や従業員へのインタビューを含めるかによって費用が変わります。 |
報告書の詳細度 | 簡易なサマリーで済ませるか、提言を含む詳細なレポートを作成するかによって費用が変わります。 |
深く広範な調査ほど費用は上がりますが、その分、M&Aの成功確率を高めるための重要な情報を得ることができます。
専門家の報酬レートとチーム構成
デューデリジェンスは高度な専門知識を要するため、公認会計士、税理士、弁護士、M&Aコンサルティング会社といった専門家への依頼が一般的です。費用は専門家の経験、所属するファームの規模、そしてチーム構成によって変動します。
- 専門家の経験・実績:実績豊富な専門家ほど報酬レートが高くなる傾向にあります。
- 所属ファームの規模:大手ファームは中小事務所よりも報酬が高めであることが多いです。
- チーム構成:調査に関与する専門家の人数や、パートナー、マネージャー、スタッフといった役職ごとの時間単価と稼働時間によって人件費が変動します。
複数の専門家から見積もりを取得し、費用と質のバランスを見極めると良いでしょう。
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デューデリジェンス費用の内訳
デューデリジェンスにかかる費用は複数の項目で構成されています。
主な費用項目
DD費用の内訳を理解することで見積もりの妥当性を判断できます。
人件費
デューデリジェンス費用のうち、最も大きな割合を占めるのは専門家の人件費です。人件費は、専門家の役職に応じた時間単価と、調査に要する稼働時間の積算で計算されます。具体的な単価は、専門家のスキルや経験、所属する組織によって異なり、パートナー、マネージャー、シニアアソシエイト、アソシエイトなど、階層別に設定されています。
資料準備・データルーム費用
デューデリジェンスでは、売主から提供される大量の資料を安全かつ効率的に共有する必要があります。これに伴い、資料準備やバーチャルデータルーム(VDR)の利用に関する費用が発生します。
資料準備コスト
資料の収集、整理、電子化にかかる費用が含まれます。売主(譲渡企業)側が負担することもあります。
VDR利用料
オンライン上で資料を共有・管理するためのシステム利用料です。利用期間、容量、利用者数によって費用が変動します。大規模案件や遠隔地間のM&AではVDRの利用が主流であり、無視できないコスト要素となります。
物理データルーム設営費
必要に応じて、実地で資料を確認するための物理的なデータルームの設営・運営にかかるコストです。売主(譲渡企業)側が負担することもあります。
交通費・現地調査費などの諸経費
デューデリジェンスでは、現地調査や情報開示に伴い、交通費や宿泊費などの諸経費が発生します。これらは調査の規模や場所によって変動するため、見積もり時に内訳を確認することが重要です。
- 交通費: 新幹線代、航空券代、タクシー代などの移動費用が含まれます。
- 宿泊費: 遠隔地での調査にかかるホテル代が含まれます。
- 印刷・通信費: 資料印刷費、郵送費、国際電話代などの実費が含まれます。資料印刷費、郵送費は売主(譲渡企業)側が負担することもあります。
これらの諸経費は人件費とは別に請求されることが多いため、総費用を把握する上で確認が必要です。
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費用負担の交渉と会計・税務上の取り扱い
デューデリジェンスの費用負担は、譲受企業と売主の間でどのように取り決められるのでしょうか。また、会計上、税務上はどのように扱われるのでしょうか。
費用負担の取り決め
デューデリジェンスは、基本的に譲受企業がその費用を負担します。譲受企業がM&Aの意思決定を行うために、自ら情報収集と分析を行うためです。
しかし、デューデリジェンスの結果、譲渡企業に簿外債務や偶発債務、あるいは事業計画の蓋然性に関する問題点などが発見された場合、譲受企業はこれらのリスクを理由に買収価格の減額交渉を行うことがあります。過去の事例でも、デューデリジェンス費用を上回る減額に成功したケースが報告されています。
デューデリジェンス費用の会計処理
M&Aにかかる費用の会計処理については、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」により定められています。連結財務諸表上では、譲受に関連するアドバイザリー報酬などの付随費用は、発生した事業年度の費用として処理されます。この場合、のれんの額は小さく計算されます。
一方で、株式の取得対価は、連結財務諸表上は表示されません。子会社の時価評価後の純資産と投資・資本の相殺消去が行われるためです。子会社株式の取得価額が子会社の時価純資産額を超過する部分は、のれんとして連結貸借対照表に計上されます。
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デューデリジェンス費用の税務上の取り扱い
デューデリジェンス費用を税務上、一時損金(費用)として処理できるか、それとも株式の取得価額に算入しなければならないかは、実務家でも議論が分かれる点でした。しかし、直近の国税不服審判所による裁決により、一定の判断基準が示されています。
現在の税務上の見解では、特定の対象企業を特定している段階で行われたデューデリジェンス費用は、原則として株式の取得価額に算入されます。これは、興味のない会社のデューデリジェンスは行わないため、費用は実質的にその株式を購入するために要した費用と見なされるという考え方に基づいています。この判断は、取締役会などの意思決定の前に行われたデューデリジェンス費用にも適用されます。
ただし、合併に係るデューデリジェンス費用は、株式を取得しないため、一時損金として処理される旨が国税庁の質疑応答事例で示されています。
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コストを抑えつつ質の高いデューデリジェンスを実施する方法
デューデリジェンスにはまとまった費用がかかりますが、進め方を工夫することで費用対効果を最大化し、M&Aに必要な情報を効率的に得ることができます。
調査にメリハリを付ける
デューデリジェンスの費用を抑えるには、調査範囲に戦略的なメリハリをつけることが有効です。
プレ・デューデリジェンス
本格的なデューデリジェンスに入る前に簡易調査を行い、特にリスクの高い領域を絞り込むことで、その後の調査リソースを効率的に配分できます。
リスクベース・アプローチ
案件の特性やM&Aの目的に合わせて、重要度の高い項目に調査リソースを集中させます。例えば、IT企業であればITデューデリジェンスを、製造業であればオペレーショナルデューデリジェンスや環境デューデリジェンスを重点的に実施するなどが挙げられます。
段階的デューデリジェンス
初期段階では浅く広く調査し、必要に応じて深い調査に進むことで、費用をコントロールします。
M&Aの目的や譲渡企業の特性に合わせて調査を設計することが、無駄な費用を抑えるポイントです。
補助金制度の活用
「事業承継・M&A補助金」を活用することで、デューデリジェンス費用の負担を軽減することが可能です。この補助金では、一定要件を満たすことで、補助率3分の2または2分の1、補助上限800万円まで支援を受けることができ、デューデリジェンス費用も補助対象経費に含まれています。
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デジタルツールを活用した効率化
デューデリジェンスの効率化には、デジタルツールの活用が不可欠です。作業時間の短縮、ミスの防止、コスト削減に貢献する主な手段として、バーチャルデータルーム(VDR)があります。
VDR(バーチャルデータルーム)とは
オンライン上で大量の資料を安全に共有・管理できるプラットフォームです。資料の共有、閲覧、質疑応答を一元的に行うことができ、物理的な資料準備やデータルーム設営のコストを削減できます。
失敗事例から学ぶコストオーバー回避策
デューデリジェンスにおいて費用が想定以上に膨らんでしまう「コストオーバー」は、M&Aの失敗要因にもなり得ます。過去の失敗事例から学び、適切な対策を講じることが重要です。
調査範囲の明確化
デューデリジェンスの依頼時に、譲受企業と専門家との間で調査範囲や目的を明確に合意しておくことが重要です。曖昧な指示は、専門家が広範囲に調査を進めてしまい、結果的に費用が膨らむ原因となります。
専門家との連携強化
デューデリジェンスは専門家に任せきりにせず、譲受企業も積極的にコミットすることが求められます。中間報告を頻繁に行い、進行状況や発見事項をリアルタイムで共有することで、不要な調査を早期に中断したり、優先順位を調整したりすることが可能になります。
見積もりと実績の比較
複数の専門家から詳細な見積もりを取得し、費用だけでなく、過去の実績や提案内容も比較検討することが推奨されます。
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よくある質問|デューデリジェンスの費用(FAQ)
デューデリジェンスの費用に関して、中小企業のオーナー経営者やM&A担当者からよく寄せられる疑問とその回答をご紹介します。
Q:デューデリジェンスの費用はどれくらいかかるのが普通ですか。
デューデリジェンスの費用は、譲渡企業の規模やM&Aの複雑さによって大きく異なります。中小企業のM&Aでは、財務DD+法務DDのみ実施することが多く、その場合は200万円から500万円が目安です。ただし、調査の種類(ビジネス、環境、ITなど)、調査の深度、専門家の関与度合いによって、費用は500万円から数千万円規模になることもあります。譲受企業は、譲渡企業の規模や業種、M&Aの目的に合わせて、最適なデューデリジェンスの範囲と予算を検討することが重要です。
Q:デューデリジェンスの費用は売り手と買い手どちらが払うのですか。
デューデリジェンスの費用は、基本的に譲受企業(買い手)が負担します。これは、デューデリジェンスは譲受企業がM&Aの意思決定を行うために、自らリスクや価値を評価する手続であるためです。しかし、デューデリジェンスで譲渡企業側に大きなリスクや問題が発見された場合、譲受企業はそのリスクを理由に、譲受価格の減額交渉を行うことがあります。結果的に、デューデリジェンスの発見事項が買収価格に影響を与えるため、実質的に売主もその費用を負担していると考えることもできます。
Q:デューデリジェンス費用は経費として計上できますか。
デューデリジェンス費用が税務上、経費(損金)として計上できるか否かは、M&Aの形態や調査の目的によって判断が分かれます。対象企業が特定されている段階で行われたデューデリジェンス費用は、原則として株式の取得価額に算入されます。これは、その費用が株式を購入するために要した費用と見なされるためです。一方で、合併に関するデューデリジェンス費用は、経費(損金)として処理します。
Q:デューデリジェンスの費用を安くする方法はありますか。
デューデリジェンスの費用を抑えつつ、質の高い調査を行う方法はいくつかあります。まず、調査範囲にメリハリをつけることが重要です。M&Aの目的や譲渡企業の特性に合わせて、リスクの高い分野や重要度の高い項目に調査リソースを集中させます。
次に、バーチャルデータルーム(VDR)などのデジタルツールを積極的に活用することで、資料共有や管理の効率化を図り、コストを削減できます。また、専門家への依頼時には、事前に明確な調査目的と範囲を伝え、複数の専門家から見積もりを取得し、費用対効果を比較検討することも有効です。
デューデリジェンス費用のまとめ
デューデリジェンスは、M&Aの成功に不可欠な「投資」であり、譲受企業の規模や調査範囲によって費用は大きく変動します。財務、法務、ビジネスなどの種類に応じた費用相場を理解し、調査範囲のメリハリ、デジタルツールの活用、専門家との連携を密にすることが、コストを抑えつつ質の高い調査を行う鍵となります。特に税務上の取り扱いについては最新の裁決事例を把握し、適切な会計処理を行うことが重要です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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