M&Aにおいては、法律の知識が必要不可欠です。特に、会社法はM&Aの手続きに適用されるため、よく理解しておいたほうがよいでしょう。この記事では、M&Aに関わる会社法について知りたい人に向けて、会社法が関わるM&Aの主な場面や具体的な条項などについて解説します。ぜひ参考にしてください。
会社法とは
会社法とは、会社の設立、組織管理、資金調達、清算といった会社運営に関するルールを取りまとめた法律です。2005年に定められ、何度か改正を重ねています。最新の改正が行われたのは、2023年6月です。
会社法を構成する8つの条文構造
会社法の条文は、第1~8編に分けられています。具体的には以下のとおりです。
- 第1編:総則(会社法第1~24条)
- 第2編:株式会社(会社法第25~574条)
- 第3編:持分会社(会社法第575~675条)
- 第4編:社債(会社法第676~742条)
- 第5編:組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転(会社法第743~816条)
- 第6編:外国会社(会社法第817~823条)
- 第7編:雑則(会社法第824~959条)
- 第8編:罰則(会社法第960~979条)
このうちM&Aに関わる内容は、第1編、第2編、第5編です。第1編では、会社法の目的や概要などの基礎が定められています。第2編で定められているのは、株式会社に関する基本的な内容です。株式の譲渡についても定められているため、M&Aの際はよく理解する必要があります。
また、第5編では、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転の手続きについてまとめられています。これらの方法でM&Aを行う場合、確認しておきましょう。
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会社法上の主な犯罪
会社法の定めに違反すれば、罰則の対象になります。会社法上の主な犯罪の内容とそれに対する罰則をまとめると、以下のとおりです。
犯罪の内容 | 罰則 | |
---|---|---|
特別背任罪(第960~961条) | 発起人、取締役、支配人、検査役、代表債権者、決議執行者などによる背任行為 | 10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方 (代表債権者、決議執行者の場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方) |
株式などに関する不正行為(第964~966条) | 虚偽文書の行使、株式の発行における預合い、株式の超過発行 | 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方 |
贈収賄罪(第967条) | 取締役、会計参与、監査役、執行役などが不正の請託を受けて行った財産上の利益の収受(収賄)、供与、申し込み、約束(贈賄) | 収賄は5年以下の懲役または500万円以下の罰金、贈賄は3年以下の懲役または300万円以下の罰金 |
商法から会社法への改正
従来、会社に関する法律は複数あり、さまざまな内容が個別に定められていました。それぞれの内容をまとめた会社法が2005年に制定され、2006年に施行されています。会社法で定められている会社の種類は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4つです。
2014年には改正され、社外取締役や社外監査役の要件の見直しなどが行われています。また、2021年の改正では、株主総会で提案できる議案数が制限されました。
会社法の目的は、会社、株主、取締役、第三者の利益の調整です。それぞれの立場の利害関係や法律について整理し、ルールを定めることで柔軟な会社経営に取り組めるようにしています。会社法のルールに沿って取引や運営を進めると、スムーズなやり取りを実現することが可能です。
M&Aでの会社法の利用場面
会社法は、M&Aにどう関わっているのでしょうか。以下で具体的な場面について解説します。
相手方との交渉
M&Aにおける譲渡側と譲受側の交渉にも、会社法は関わっています。具体的には、会社法では株式の取得によって得られる権利が定められているため、双方が確認したうえで交渉を進めることが大切です。
M&Aスキームの検討
M&Aのスキームによって、会社法で必要とされている手続きは異なります。そのため、スキームごとに手続きの確認が必要です。特に、合併や会社分割などの組織再編の手続きは複雑であるため、注意しましょう。
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)においては、会社法に則った会社運営を行っているかチェックする必要があります。会社法と照らし合わせて確認し、法的なリスクが存在しないか吟味すべきです。
契約締結・クロージング
契約の締結後は、会社法に則って株式の譲渡を承認したり名義の書き換えの手続きをしたりします。また、M&Aの契約や実行のために必要な書類についても会社法で詳細が定められています。
PMI(M&A後の統合プロセス)
PMI(統合プロセス)に関しては、特に労務について早い段階から検討が必要です。その際も会社法に基づいて対応します。早い段階から着手すると、統合を進めるうえでのトラブルの発生を防止することが可能です。
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M&Aスキームと会社法
主なM&Aスキームをまとめると、以下の3つです。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 組織再編
以下では、それぞれのスキームの概要と参照すべき会社法について解説します。
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株式譲渡
株式譲渡とは、譲受側が譲渡側の株式を取得する方法です。一般的によく行われるM&Aのスキームであり、会社法上も原則として自由に株式を譲渡できることになっています。株式譲渡でM&Aを成立させるために必要な法律上の手続きは、以下のとおりです。
- 株式譲渡承認の請求
- 取締役会・株主総会における承認
- 株式譲渡の承認通知
参照すべき会社法
株式譲渡について参照すべき会社法は、以下のとおりです。
- 会社法第107条1項1号、2項1号
- 会社法第108条1項4号、4項4号
- 会社法第127~154条
- 会社法第122~126条
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事業譲渡
事業譲渡とは、譲渡側の事業の一部を譲受側に引き継ぐ方法です。会社法で事業譲渡の具体的な定義は定められていませんが、以下の手続きが必要だとされています。
- 株主総会における事業譲渡契約書の承認
- 株式買取請求に係る株主への通知・公告
参照すべき会社法
事業譲渡について参照すべき会社法は、以下のとおりです。
- 会社法第467~470条
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組織再編行為
組織再編は、合併、会社分割、株式交換、株式移転の4つです。さらに、合併には新設合併と吸収合併、会社分割には新設分割と吸収分割があります。組織再編において法律上必要な手続きは、以下のとおりです。
- 書類備置
- 株主総会決議
- 差止め
- 反対株主の買取請求
- 債権者異議手続き
参照すべき会社法
組織再編行為について参照すべき会社法は、以下のとおりです。
- 会社法第2条27号~32条
- 会社法第743~816条
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その他のM&A関連法
会社法以外にも、M&Aに関係のある法律が存在します。以下で具体的に解説します。
労働契約承継法
M&Aスキームが会社分割である場合、労働契約承継法についての理解が必要です。それまでと異なる事業に従事することがないよう、労働者を保護する目的があります。
独占禁止法
独占禁止法に関する知識は、企業結合において必要です。公正取引委員会による審査についてまとめられています。
金融商品取引法
金融商品取引法は、譲渡側や譲受側が上場企業である場合のM&Aに関係します。理解すべき内容は、情報開示やインサイダー取引の規制についてです。
法人税法
法人税法は、譲受側が投資資金を回収するうえで押さえておくべき法律です。改正頻度が高いため、こまめに確認する必要があります。
許認可に関係する法律全般
引き継ぐ業務によっては、許認可に関係する法律についても理解しておく必要があります。業務によって確認すべき法律が異なるため、注意しましょう。
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いわゆる特別委員会とは
特別委員会とは、公正な取引を実現するために設立する、独立した立場の合議体です。ケースによっては、「独立委員会」や「第三者委員会」などと呼ばれることもあります。会社法で義務付けられているわけではないものの、適切な手続きのためには特別委員会の設置が望ましいです。
設置の必要性
M&Aにおいては、公正性を担保するために特別委員会の設置が推奨されています。特別委員会は社外取締役や社外監査役などで構成されており、M&Aの是非を検討して最終的な判断を下します。
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M&Aにおけるコンサルティング会社の役割
M&Aには会社法を中心とし、さまざまな法律が関係しています。すべてを完璧に理解するのは簡単ではないため、法務や労務の専門家に頼るケースが多いです。M&Aを専門に扱うコンサルティング会社に相談すれば、法律上の手続きも含めた全面的なサポートを受けられます。
M&Aと会社法のまとめ
M&Aは会社法で規定されており、実際に行う際は法律の内容に従って進行する必要があります。今回解説した内容を踏まえ、関係のある法律それぞれについて一通り把握したうえで手続きを開始しましょう。
税理士法人グループのみつきコンサルティングは、中小企業のM&Aを支援しています。M&Aは会社法などの法律に基づいて進める必要があり、手続きが複雑です。書類の作成にも手間がかかります。法律に基づいた適切なM&Aをスムーズに実現するために、ぜひご相談ください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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