株式譲渡制限会社とは|非公開会社は定款規定・利点と欠点・譲渡手続

株式譲渡制限会社とは、すべての発行済株式が譲渡制限付株式である会社です。本記事では、非公開会社とも呼ばれる株式譲渡制限会社について、と公開会社の違いや、それぞれのメリット・デメリット、株主総会への影響等について解説します。

株式譲渡制限会社とは

株式譲渡制限会社とは、発行する自社の株式譲渡に制限を設けている会社のことを言います。このような会社は「非公開会社」、「閉鎖会社」などと呼ばれています。一般的な譲渡「制限」では、株式を譲渡しようとする株主は取締役会や株主総会の承認が必要、という制約条件が設定されます。

一方、株式の譲渡に制限を設けていない会社を「公開会社」と言います。これは上場会社のように市場に株式を公開しているということではなく、上場・非上場に関わらず発行する株式の譲渡に制限がない会社のことを言います。

どちらの会社形態を選択するかで組織運営や経営の方法が大きく異なるため、会社運営を安定的且つ効率的に行える形態をそれぞれの会社で選択することになりますが、組織体制やガバナンスが整っていないことが多い新設法人や中小企業では、株式譲渡制限会社(非公開会社)の形式を採用することが一般的です。

株式譲渡制限会社かどうかは定款・履歴事項証明書で確認

自社が株式譲渡制限会社(非公開会社)かどうかは、定款に規定します。例えば、「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する。」というような規定あれば、株式譲渡制限会社ということになります。「当会社の承認を要する」ではなく、「取締役会の承認を要する」、「株主総会の承認を要する」、「代表取締役の承認を要する」などのように、承認機関を具体的に定めている会社もあります。
なお、「当会社の承認を要する」と定めた場合の承認機関は、取締役会設置会社であれば取締役会、取締役会が設置されていない会社であれば株主総会、になります。

株式譲渡制限会社か否か、どのような制限を設けたかは、履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)を見れば分かります。具体的には、「株式の譲渡制限に関する規定」という箇所に、例えば「当会社の発行する株式は、すべて譲渡制限株式とし、当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を得なければならない。」というような記載が確認できたら、その会社は株式譲渡制限会社(非公開会社)であることが分かります。
なお、履歴事項全部証明書は第三者でも取得できるため、気になる会社が譲渡制限会社か否かを調べることもできます。

株式譲渡制限会社のメリット・デメリット

多くの会社は株式譲渡制限会社(非公開会社)ですが、メリット・デメリットが存在します。内容を正確に理解し自社にあった方法を選択することが重要です。

メリット

株式譲渡制限会社のメリットは以下のようなものです。

経営者の経営権がコントロールしやすい

株式譲渡制限会社(非公開会社)では、定款で定められた承認機関の承認がないと株式の譲渡を実行できません。よって会社にとって好ましくない株主が経営に参画されることを防ぎ、経営の安定化が図られます。新設法人や中小企業は事業規模が小さいため、大企業に比べ少ない資金で株式を取得することが可能となります。言い換えれば、第三者に簡単に買収される(経営を掌握される)リスクがあるため、株式譲渡制限会社にすることで経営権の保護を図ることができます。

株式市場へのアクセスが限定される

株式譲渡制限会社(非公開会社)では、保有株式の譲渡が制約されることから、資金調達の選択肢が制限されることになります。株式を保有する株主としては、株式譲渡を検討した際、資本市場で売却するという選択肢を取りえないため、不特定多数の好ましくない株主が自社の経営にアクセスしてくることを防ぐことができます。

会社の体制が整えやすい

  • 取締役・監査役の任期の伸長

株式会社の場合、取締役の任期は4年、監査役は2年と定められていますが、非公開会社の場合、最長10年まで設定することが可能です。任期を伸ばすことで重任の手続きや登記手続きを減らせるため、手続きの手間やコストを削減することが可能です。

  • 取締役会、監査役の設置義務なし

株式会社の場合、取締役会の設置が必要ですが、非公開会社の場合、取締役会の設置義務はありません。また公開会社の場合、取締役を3名以上の選任が必要となり、監査役又は会計参与を配置しなければなりません。しかし、非公開会社の場合、取締役1名のみの選任も可能なため、この場合、監査役や会計参与の配置も必要ありません。

  • 発行可能株式数に制限なし

公開会社の場合、発行済み株式数の4倍までが上限となりますが、非公開会社の場合、発行可能株式数の上限がありません。資金調達を目的に新株を発行する際など、自由に株式を発行することが可能となることから資金調達の視点から見ても自由度が高いと言えます。

  • 買収防衛策として利用できる

株式譲渡制限会社は、敵対的買収など経営陣の合意を得ないM&Aへの対策としても有効です。株式の譲渡の際に承認機関での承認が必要となるため、経営陣の合意を得ない一方的な買収成立が難しいことから、買収防衛策として有効であると言えます。

デメリット

株式譲渡制限会社のデメリットは以下のようなものです。

株式買取請求権の発生

株式買取請求権とは、会社が株式譲渡の承認を行わなかった際に、公正な価格で自らが保有する株式を会社に買い取らせることを請求できるという株主の権利を言います。株式買取請求権は、少数株主の権利を保護するもので、会社法で定められた権利です。この権利が行使されると、会社と譲渡希望株主の間で買取価額の協議を行うことになります。非公開会社の場合、株式の取引市場がないことが多く、公正な取引価額を決定する協議となると揉めるケースも少なくありません。会社と株主の協議で買取価額の合意に至らない場合、裁判所に「株式買取価額決定の申し立て」を行うことになります。株式買取請求権の行使で問題となるケースとしては、ある程度の規模の会社や創業からの期間が長い、株主が多数いる場合が想定されます。

売渡請求権がリスクとなる可能性

売渡請求権とは、対象会社の総株主の議決権10分の9以上を有する特別支配株主が、一定の手続きを経ることで少数株主が保有する株を強制的にすべて取得することができる権利のことを言います(いわゆるスクイーズアウトと呼ばれるものです)。万が一、対象会社の大株主が相続にて、事業に従事していない者が対象会社の株式譲渡制限株式を相続した場合、売渡請求権を行使できる要件を満たせば、当然、権利行使される可能性が出てきます。対象会社の運営を行う少数株主からすると権利の行使は強制的に経営から排除されることになるため、デメリットとなりうる可能性があります。

決算公告が求められる

株式譲渡制限会社(非公開会社)では、毎年の決算を公表する義務があります。これを「決算公告」と言います。具体的には、会社の財務状況を記載した書面を、会社が定めた方法で一般に公開することが求められます。決算公告は、株式市場に上場している企業と同様に、株式譲渡制限会社(非公開会社)も実施し必要で、官報などに掲載すること一般的です。官報への掲載は、約6万円の掲載料が発生します。

株式譲渡制限会社の株式譲渡手続

譲渡制限株式を譲渡する場合、以下のような手続きが必要になります。株式譲渡制限会社(非公開会社)への変更を検討の際の参考にしてください。

譲渡人からの譲渡承認請求

譲渡制限株式を譲渡しようとする際、譲渡人は会社に対して株式譲渡承認請求書を会社の定めた承認機関に提出します。また、株式を保有する株主から委任を受けた代理人よる株式譲渡承認請求も可能です。

会社が譲渡の可否を決定

会社は、譲渡人から提出のあった株式譲渡承認請求を承認するか否かを承認機関(取締役会や株主総会等)で決定し、株式譲渡承認請求を行った譲渡人に対して結果を通知します。

会社が譲渡を承認した場合

株式譲渡が承認された場合、対象会社における株式譲渡手続きが完了し、譲受人は新たな株主となります。譲受人は新な株主となったことを証明するため、対象会社に対して、譲渡人と連名で株主名簿の書換を請求し最新の株主名簿に譲受人の情報を記載してもらいます。

会社が譲渡を承認しなかった場合

会社は株主に対し、請求のあった株式譲渡の否認決議から2週間以内にその旨の通知を譲渡人に行う必要があります。株式譲渡承認請求が否認となった通知を行わなかった場合、会社は株式譲渡を承認したものとみなされてしまうため、確実に通知する必要があります。ただし、株式譲渡承認請求が否認された場合、会社又は指定された買取人は、譲渡人が保有する株式を買取らなければなりません。

この際の買取価額は、譲渡人と会社又は指定された買取人の協議で決定することになりますが、利益が相反する立場の者同士の協議となるため、合意に至らないケースも多くあります。この場合、会社又は指定された買取人による買取り通知から20日以内であれば、裁判所へ売買価額決定の申し立てをすることが可能です。

裁判所が介入すると、裁判所が決定した売買価額での取引となるため、会社や指定された買取人は、想定以上の買取価額での買取をしなければならないこともあり、会社の資金繰りなどに大きな影響を及ぼす可能性が出てくることに注意が必要です。

公開会社への変更時の留意点

この記事では、株式譲渡制限会社(非公開会社)を公開会社へ変更する方法や手続きの流れについて解説します。新設会社や中小企業では、株式譲渡制限会社(非公開会社)として設立されることが多くあります。時を経て事業規模の拡大や長年の事業運営の中で、非公開会社から公開会社へ変更が必要になるケースもあるかと思いますので、変更を検討する際の参考にしてください。

公開会社への変更が必要になるシチュエーション

株式譲渡制限会社(非公開会社)を公開会社へと変更が必要となるシュチュエーションとしては「株式市場への上場」が挙げられます。上場会社の株式は、株式市場で自由に取引が可能なため、公開会社となります。新設会社や中小企業が事業を拡大し、株式上場をすることは株式譲渡制限会社(非公開会社)から公開会社へ変更することになります。また、公開会社は上場しなくても変更が可能です。自由な資金調達を実施するため、非上場会社でも株式譲渡制限(非公開会社)から公開会社へ変更する例もあります。よって公開会社は、上場・非上場会社であるか否かのみで判断する訳ではないことに留意ください。

譲渡制限の廃止が必要

株式譲渡制限会社(非公開会社)を公開会社へ転換するためには、自社の株主総会で定款変更の特別決議によって「譲渡制限」を廃止することになります。特別決議は、株主総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。「譲渡制限」を廃止し公開会社へ変更することは、株主間の合意さえ取れていれば簡単な手続きで変更が可能ですが、公開会社に変更後に必要な対応がいくつかありますので忘れないようにしてください。

取締役会と監査役の設置が必須

公開会社への変更にあたっては、「取締役会」と「監査役」の設置が必要となります。現状で取締役が3人未満の場合、3人以上の取締役を選任し「取締役会」を設置する必要があります。また、監査役が不在の場合には1人以上の監査役を選任する必要があります。

「発行可能株式総数」の変更が求められる

公開会社へと変更は、「発行可能株式総数」の変更が必要になる可能性があります。株式譲渡制限会社(非公開会社)では「株式の発行制限」が存在しません。一方、公開会社では「発行可能株式総数」は「発行済株式総数の4倍まで」と発行制限があります。したがって、登記されている「発行可能株式総数」が現在の発行済株式総数の4倍を超える総数の場合、「発行可能株式総数」の変更及び登記手続きが必要となります。「発行可能株式総数」の変更は「譲渡制限」の変更手続き同様、自社の株主総会において特別決議が必要となります。自社の現状を把握した上で、公開会社への変更に伴う必要な対応を忘れずに行うようにしましょう。

株式譲渡制限会社のまとめ

「株式譲渡制限会社(非公開会社)」は、新設会社や中小企業が自社の経営を安定継続させるため、会社法に定められた制度です。現在の経営者が経営権を安定的に掌握するという意味では、メリットが多くあると言えます。一方で、株主が保有する株を自由に譲渡ができないため、優秀な経営人材の流入や自由な資金調達、株主の投資回収を目的とした現金化にも一定の制限がかかるなどのデメリットもあります。現在は非公開会社の形態で良いが、数年後、会社の状況が変わり公開会社へ変更することも検討が必要になるかも知れません。これらのメリット・デメリットを正確に把握し、自社にあった選択をすることが重要です。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。また、みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法務面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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