上場・非上場問わず、株主が分散すると株主間で意見の相違が生まれることが多々あり、経営方針決定のスピードが遅くなることがあります。スクイーズアウト(キャッシュアウトとも呼ばれます)は、このような対立構図が生まれた株主間のパワーバランスを集約することを目的に、大株主が少数株主を排除し意思決定を迅速且つ簡便的に進めるために活用される手法です。この記事では、スクイーズアウトに関する基本概念や手続き手法、実施に伴うメリット・デメリットについて解説します。
スクイーズアウト(キャッシュアウト)の概要と手法
スクイーズアウトとは、大株主や経営陣が、自社の事業運営や経営方針の意思決定に伴うパワーバランスを集約するため、少数株主の株式を強制的に取得し、自社から排除する特別な手法のことを言います。「キャッシュアウト」とも呼ばれます。
スクイーズアウトは、主に以下のような理由で実施されます。
- 自社の意思決定において複数の株主の同意が必要となり、時間がかかる場合
- 第三者への株式の売却が複雑化するリスクを回避したい場合
- 長期的な経営戦略に注力し、上場廃止を検討するような場合
スクイーズアウト(キャッシュアウト)と株価の関係
スクイーズアウトを実施するには、大株主が少数株主の株式を取得するため、対象株式の株価算定が必要となります。その買取価額は、大株主が主導することになりますが、少数株主が納得できる「公正な価額」で買い取ることが重要です。
株価算定に関して少数株主が納得できない場合、少数株主は裁判所に価格決定に関する異議申立てを行うことができます。裁判所が算出する株価は、対象会社が事業を継続的に行うことを前提とした株価算定となるケースが多くあります。株価の算定方法としては大きく3つに分けられますが、将来のキャッシュフローを現在価値に割引いて算出するインカムアプローチが採用されることが多いため、少数株主と買取価額で合意できない場合は、想定よりも高い株価で買取が必要となるケースがあります。参考にスクイーズアウトの際の株価算定の代表的な評価方法について紹介します。
インカムアプローチ
将来のキャッシュフローを現在価値に割引いて評価する方法
代表的な算定方法としてはDCF法が挙げられます。
コストアプローチ
事業運営に必要な資産や負債を時価評価し、再現コストを計算する方法
代表的な算定方法としては、簿価純資産法・時価純資産法が挙げられます。
マーケットアプローチ
自社と類似する上場企業の指標を参考に、相対的な評価を行う方法
代表的な算定方法としては、類似企業比較法・類似取引比較法が挙げられます。
株価算定を行う対象会社の特徴や市場環境を加味し、どのアプローチ法で株価算定を行うか決定します。これらの株価算定法を用いて公平な株価を算出することが、スクイーズアウトを進める上で重要となります。
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スクイーズアウト(キャッシュアウト)が適用される状況
以下のケースでは、スクイーズアウトが使われることがあります。
経営に関与していない株主がいるケース
以前の商法では会社設立に7名の発起人が必要だったため、その時代に設立された企業では、経営に関与していない株主が存在するケースが多くありました。こうした株主は、時間を経て所在が不明になったり、会社の乗っ取りを画策されたりすることがあるため、現経営者に経営権を集中するため、スクイーズアウトを検討することがあります。
相続によって株式が分散しているケース
経営者が亡くなり、相続人が複数いる場合、今まで関与がなかった者が経営に参画したり、株主が増加し経営方針等で対立しトラブルになってしまうケースもあるため、トラブル要因回避のため、スクイーズアウトが検討されることがあります。
従業員や取引先が株式を保有しているケース
中小企業では従業員のモチベーション向上や取引先との関係強化を目的とし自社の株式を保有させているケースがあります。これらの株主は、自社の経営方針次第で利害関係が生まれる可能性が高く、スムーズな意思決定が困難になることがあります。よって自社の経営方針と利害関係のある者を排除するため、スクイーズアウトを検討することがあります。
M&Aを実施する必要があるケース
M&Aを行う際には、株主総会等で会社の承認が必要となるため、反対勢力となる株主を排除することや、議決権を100%保有し会社の承認を省略し手続きを簡便的にするため、スクイーズアウトが検討されることがあります。
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任意買取手続きについて
スクイーズアウトは、大株主と少数株主の同意を得て実施するケースと同意を得ずに実施するケースがあります。この記事では大株主が株式集約のため、少数株主から同意を得た上で少数株主を排除する際の手順について解説します。
買取株式数の確認
スクイーズアウトを実施するためには、大株主はまずスクイーズアウト実施に必要な株式数を把握します。スクイーズアウトの手法によっては、議決権の3分の2以上が必要なケースと、持ち株比率が9割以上を要件とするケースがあります。
買取相手の選定と交渉戦略
必要な株式数を把握することができたら、どの株主と交渉を進めるかを検討します。大株主との関係性や保有株式数などを考慮して選定することになります。
買取方法の選定
次に買取方法を決定します。買取方法の例を下記に紹介します。
- 経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)
- 支配株主による株式取得
- 特別目的会社を設立して株式取得
買取後の目的や資金状況に応じて最適な買取方法を選ぶことが重要です。
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買取価格の決定
企業価値評価や市場環境、自社の業績を加味し、株価算定方法を決定した後、最終的には大株主と少数株主の交渉でお互いが納得した価額を決定します。過剰な買取価格では資金調達リスクがあり、逆に低すぎる買取価額では少数株主からの同意が得られないことから、慎重な検討とお互いが歩み寄る姿勢での交渉が重要となります。
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スクイーズアウト(キャッシュアウト)の手法
スクイーズアウトについて、以下に代表的な4つの手法について解説します。スクイーズアウトを検討中の経営者の方は、参考にしてください。
- 株式等売渡請求
- 株式併合
- 株式交換
- 全部取得条項付種類株式
これらの手法を決定するには、株主間の関係性や対象会社の状況、タイムスケジュールを考慮し、選ぶことが重要です。上記4つの手法の特徴や要件を加味し自社にあったスクイーズアウトの方法を選ぶようにしてください。
株式等売渡請求
株式等売渡請求は取締役会設置会社の場合、株主総会での決議は必要なく、取締役会の承認手続きによって実行が可能となります。株式等売渡請求が承認されると、少数株主は株式の売渡を拒絶できず、会社の定めた価格で強制的に株式を売却しなければなりません。株主総会の決議が不要であるため、他の方法と比べて迅速にスクイーズアウトを実行することが可能となります。
株式等売渡請求を実行する要件として、議決権の90%以上を持つ「特別支配株主」が存在していることが必要となります。また、売渡価格に関しては対象会社の状況や市場を加味し株価算定を行い、公平な株価を設定することが求められます。不当な株価な設定は、裁判所に対する価格決定の申立てをされるリスクがありますので、注意が必要です。
株式併合
「株式合併とは」
複数の株式を1株にまとめ株式を圧縮し少数株主の保有する株式を端株にすることで、議決権などの権利を消失させる手法です。例えば1,000株を1株にする株式併合を実施すれば、保有する株式数が1,000株に満たない株主は、1株にも満たない端株になります。端株は議決権など株が要する権利が認められていません。株式併合を実行し、端株を買い取れば、少数株主を排除することが可能となります。平成26年の会社法改正以降、株式併合がもたらすメリットが会社にとっても大きいことからスクイーズアウト以外の目的でも多く活用されるようになりました。
株式併合を行うためには、株主総会における特別決議が必要となります。特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席した株主総会で3分の2以上の賛成によって成立する決議のことを言います。株式併合手続きのハードルは、そこまで高くないと言えます。
株式交換
「株式交換とは」
株式交換は上場会社が子会社の少数株主を排除する目的で、多く使われる手法です。親会社と子会社の株式交換を実施することで、子会社から少数株主を排除し、持ち株比率を100%にすることが可能となります。しかし、株式交換の対価を親会社の株式とした場合、親会社の株主に子会社の少数株主が残ることに注意が必要です。株式交換の対価は親会社の現金でも可能なため、少数株主の株式交換の対価を現金とすることで完全に少数株主を排除することが可能となります。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは種類株式の1つで、会社の決議により権限が行使された場合、強制的に会社へ売却をしなければならない株式のことを言います。平成26年の会社法改正以前には、スクイーズアウトの手法として一般的でしたが、種類株式発行の手間や範囲を限定するなどの事前準備や全部取得条項付種類株式の権限行使のための手続きなどが煩雑なため、スクイーズアウトの方法として活用されることは減っています。
スクイーズアウト(キャッシュアウト)に関する会社法改正の影響と注意点
スクイーズアウトの実施方法は、会社法の改正を経て変化してきました。平成26年の会社法改正以前には、前述の通り全部取得条項付種類株式を利用したスクイーズアウトが主に利用されていましたが、改正後には特別支配株主による株式等売渡請求制度や株式併合等が可能になり、実行の手間や時間的観点からスクイーズアウトの手法も変化しました。スクイーズアウトは、迅速な意思決定を可能にすることや会社にとって好ましくない株主を排除するなど、会社オーナーや経営者にとって安定的な経営を継続するためには必要な手段と言えます。一方で、少数株主の権利をないがしろにならないよう権利保護についても重要視されてきています。スクイーズアウトは少数株主の同意を得ず実行が可能ではありますが、大株主や経営者は少数株主に配慮した対応が求められることは変わりませんので、慎重に検討し実行することが重要と言えます。
株式併合を用いたスクイーズアウト(キャッシュアウト)の手続
この記事では、スクイーズアウトの代表的な事例として昨今、利用が増えている株式併合を活用したスクイーズアウトの具体的な手続きと手順について解説します。スクイーズアウト検討の際の参考にしてください。
取締役会の開催による株主総会の招集決定
株式併合の実施および株式併合を議題とした株主総会を開催するため、取締役会を開催します。取締役会の開催は、取締役会開催日の1週間前までに各取締役および各監査役に通知する必要があります(会社法368条1項)。また、取締役会の適正開催及び決議事項を証明するため、取締役会議事録を作成し、出席取締役および監査役の署名または記名・押印が義務付けられています(会社法369条3項)。
株式併合に関する資料の本店への備置
取締役会で株式併合が決議された後、株式併合の概要、併合割合の相当性、最終年度の貸借対照表などを会社本店に備え置くことが必要です。(会社法182条の2第1項および会社法施行規則33条の9)。期間としては、株主総会の2週間前、または株主への通知、公告の日のいずれか早い日から6ヶ月間会社本店に備え置くことが必要となります。
株主総会招集通知の発送
自社の定款で特段の定めがない場合は株主総会開催のため、株主総会開催日の2週間前までに株主総会招集通知を各株主に発送します(会社法299条1項)。定款で株主の同意があれば招集通知を省略できるなどの定めがあれば、省略することも可能です。
株主総会の実施
株主総会における株式併合の決議には、議決権を持つ株主の過半数の出席、議決権の2/3以上の賛成が必要となります(会社法309条2項4号、180条2項)。株主総会における決議内容は議事録に記載し、法律で定められた事項を含めて作成します。
株主への個別通知の送付
株式併合により端株が発生する場合は、株式併合の効力発生日20日前までに、すべての株主に対して、株式併合の概要や併合割合などを記載した通知書を送付します。(会社法181条1項、182条の4第3項)。端株が発生しない場合は、効力発生日の2週間前までに通知書の送付が必要となります。業歴の長い中小企業や複数の株主がいる上場会社では、連絡の取ることのできない株主がいる場合もあります。その場合でも、株主名簿に記載のある住所に郵送すれば通知が完了したことになるため、株主へは必ず通知するようにしてください。
株式併合の効力発生
株主総会で決議された効力発生日に、株式併合割合による株式数に変更されます。効力発生し株式数が変更されることにより端株となった株は、議決権等の権限を失うことになります。よって端株となった少数株主保有の株は、株式併合の効力発生後に買取ることになります。
株式併合完了後の資料本店備置
株式併合の効力発生日から6ヵ月間、株主がいつでも閲覧できるよう株式併合に関する資料を本店に備置することが義務付けられています(会社法182条の6)。
以上が、株式併合を用いたスクイーズアウトの手続きと手順の概要です。適切に手続きを行い、法律上の義務を果たすことが重要です。
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スクイーズアウト(キャッシュアウト)の注意点
スクイーズアウトは、会社にとっては反対勢力を排除し、経営の意思決定を円滑に進めることができる等のメリットがあります。一方、排除される側である少数株主にとっては、強制的に保有株式を買い取られ経営から追い出されることから、受け入れがたい制度と言えます。特に、中小企業の株主は、親族や知人、創業仲間といった複雑な人間関係が絡むことも多いため、トラブルが発生しないよう慎重に進めることが重要です。
また、スクイーズアウトに係る買取価額が不当に低い場合、少数株主は裁判所に申し立てることができます。裁判所が介入すると想定より高い金額で買い取らなければならない可能性があります。
スクイーズアウトは、適法な手続きを踏み、公正な買取価額の設定を行うことが、少数株主との対立回避策として最も重要であります。仮に裁判所が介入し、会社側が勝訴したとしても企業イメージが低下する可能性があります。スクイーズアウトを進める際は、トラブルにならないよう丁寧な対話と適切な手続きで進めるようにしましょう。
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スクイーズアウト(キャッシュアウト)が行われた事例
日本製鉄が日鉄物産を公開買付(TOB)およびスクイーズアウト手続きによって連結子会社化・非公開化したケースを紹介します。日本製鉄は、世界でもトップクラスの鉄鋼メーカーで鉄鋼卸を主業とした専門商社である日鉄物産とのグループ化で営業力の強化を企図。日本製鉄は日鉄物産の株主であったものの、資本関係が限定的でシナジーが見込みにくい関係性であることや今後の経営戦略が中長期的な戦略となることで少数株主との利益相反になる可能性があることを理由に公開買付(TOB)およびスクイーズアウトを実施しました。これにより日鉄物産は非公開会社となり、日本製鉄の連結子会社となりました。スクイーズアウト後、一貫したサプライチェーン構築でコスト競争力の強化や海外における営業力の強化などを図っています。
スクイーズアウト(キャッシュアウト)のまとめ
スクイーズアウトとは、大株主や経営者にとって自社を円滑に経営するために必要な制度と言えます。しかし、少数株主や反対株主もまた自社の経営を思っての行動である場合もあります。スクイーズアウトはお互いの同意なく実行できる制度ではありますがトラブル回避のため、慎重に検討しお互いにコミュニケーションを取りながら進めることをお勧めします。
弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 スクイーズアウトを活用したM&Aのご支援も可能でございます。また、みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法務面のサポートもワンストップで対応可能でございます。M&Aをご検討の際は、是非一度、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人
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