経営戦略としてのM&A|経営戦略の流れ・買収メリット・注意点とは

「自社の企業活動だけでは解決できない問題を、M&Aにより得た資源や知識で解決しようと考える企業は少なくありません。この記事では、経営戦略としてM&Aを実施するメリットや、実施する流れについて解説します。また、経営戦略としてM&Aを実施した事例も紹介するため、M&Aを検討する際の参考にしてください。

経営戦略とは

経営戦略とは、日々の競争環境のなかで、経営目的・経営目標を達成するための方針や計画全般を指します。企業活動の基軸となる指針や、指標などが含まれるのもポイントです。企業としての方向性を明確にすることは、従業員の事業環境への理解度向上にもつながります。

経営戦略のレベル

経営戦略は3つのレベルで策定されます。ここでは、各レベルの内容について解説します。

企業戦略

企業戦略とは、企業全体として、どのような事業領域で活動し、成長を目指すのかを策定する戦略です。企業戦略には、事業の資源配分の方向付けや経営ビジョンの策定などが含まれます。企業戦略の策定においては、経営資源の活用方法や成長の具体的な道筋を明確にすることが重要です。

事業戦略

事業戦略とは、個別の事業分野としての活動内容を定めることを指します。商品やサービスの内容など、いくつかの事業モデルを決定するのも重要です。事業戦略には、市場や競合企業の分析、自社の分析、ビジネスプロセスの設定、事業モデルの設定などが含まれます。

機能戦略

機能戦略とは、どのような機能を作り、運営していくのかを具体的に策定する戦略です。企業戦略や事業戦略と整合性を取りながら、日々の活動に落とし込むことで、企業として目指す方向性を明確にします。

経営戦略の重要性

グローバル化に伴って、企業間の競争が激しさを増しています。また、昨今は経営環境が変化しやすく、いかに明確な成長シナリオを描けるかが重要視されているのが現状です。経営者は、自社の強みや特性を把握したうえで、事業の方向性を迅速に決断しなくてはなりません。

経営戦略としてのM&A

M&Aは、経営戦略を達成する手段のひとつです。自社の企業活動だけでは解決できない問題を、M&Aによって得た資源や知識を活用して解決に導きます。

経営戦略としてのM&Aの流れ

経営戦略としてM&Aを実施する場合、どのように進めていけばよいのでしょうか。ここでは、おおまかなM&Aの進め方について説明します。

市場調査

競合他社が他業種である可能性も含めて、市場調査を行い、譲受予定の企業の将来性や収益性などを明確にします。新規事業の譲受を目的とする場合は、より慎重な市場調査が必要です。

競合分析

自社を分析し、自社の強み・弱みを理解することが重要です。自社分析の方法の1つに、フレームワークがあります。フレームワークのメリットは、自社の現状をメタ的な視点から把握し、分析できることです。メタ的な視点とは、見方そのものを客観的にとらえる思考を指します。

事業の拡大を目的としてM&Aを実施する場合は、自社と他社の両方について分析をしなければなりません。

他社分析をする

他社を分析し、資産や債務について把握しましょう。M&Aにおいて譲受側は、譲渡側の不要な資産や簿外債務も引き継ぐため、事前のリスク確認は欠かせません。また、M&Aを実施することで得られるシナジー(相乗効果)についても、あらかじめ確認し、理解しておくとよいでしょう。

自社の強みを明らかにする

自社のゴールやリソース、実現させたい将来像を確立させることで、効率的な戦略が立てられます。特にSWOT分析は、自社の本質的なニーズ(需要)を探るためにも有効です。SWOT分析とは、自社の環境を「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの要素で分析する手法です。

M&Aの目的の明確化

自社分析や市場調査の結果から、M&Aの目的やビジョンを明確にします。特に、自社に足りない部分をM&Aによって補うことで、シナジー(相乗効果)が期待できるでしょう。

M&Aを経営戦略に取り入れる企業は、どのような効果や結果を目指しているのでしょうか。一般に、主な目的は以下のようものです。

技術・機能の確保

経営戦略としてM&Aを実施する目的のひとつとして、技術や機能の確保が挙げられます。機能の確保とは、生産や調達、アフターケア、企画など、自社が欲しい機能を得ることを指します。近年、技術確保のM&Aが増加していることから、技術を保有する企業のM&Aは効率的であるといえるでしょう。

再建・規律の確保

業績が停滞している自社の再建、規律確保の徹底などを目的として、M&Aが実施されるケースもあります。将来性や無形資産の価値は、のれん代としてM&Aの譲受金額に上乗せされます。また、自社再建を目指す場合は、自社の弱みを補える企業の譲受が重要です。

譲受先企業を検討する

20~30社ほどのロングリストから、徐々に企業数を減らし、ショートリストを作成する方法が一般的です。目的に合った譲受先企業を選ぶことを意識しましょう。譲受先企業の選定と同時に、譲受条件やM&Aの譲受対象も明確にします。

経営戦略としての企業買収のメリット

M&Aを経営戦略に掲げて実施することで、譲受企業はさまざまなメリットを得られます。ここでは、主なメリットについて解説します。

新規事業の立ち上げを達成できる

新規事業を立ち上げる際は、M&Aが有効です。参入したい事業をすでに手がけている企業や、市場参入に必要なリソースを有する企業に対してM&Aを実施することで、迅速に事業を立ち上げられます。新規事業に関するノウハウや経験だけでなく、既存企業・事業のリソースや信用力、ブランド力も活用できるため、事業を成功させやすい点もメリットの1つです。

経営課題の解決につながる

企業によっては、経営課題を抱えているケースも少なくありません。内部で解決できない課題は、M&Aにより人材やノウハウを獲得することで、解決につなげられます。具体的には、人材不足の解消などがあります。

時間の短縮ができる

経営戦略を実行するにあたり、人材の育成やノウハウの浸透などに時間を要する場合があります。しかし、M&Aを実施すれば、事業関連のスキルを持つ人材やノウハウを即座に得られます。目的達成までに必要な時間を、大幅に短縮できるでしょう。

シナジー(相乗効果)が期待できる

相対的に競争力のある中核事業の強化につなげられることも、М&Aのメリットの1つです。自社のみで事業を進めるよりも、シナジーによって大きな成果が期待できます。期待できるシナジーとして挙げられる例は、物流コストの削減や研究開発力の強化などです。

経営戦略としてのM&Aの注意点

経営戦略でM&Aを実施するうえで、知っておくべき注意点について解説します。

譲渡側、譲受側のリスクを把握する

譲渡側、譲受側のリスクを把握しておきましょう。それぞれのリスクは、以下のとおりです。

譲渡側従業員の理解が得られない
雇用を継続できない可能性がある
譲受側PMI(統合プロセス)実施によって、手続きに時間を要する
両社の従業員の待遇格差への対応が必要となる

双方に生じるリスクは、M&Aの条件を詰めていくことで解決が可能です。段取りや条件を、当事者同士だけで決めるのではなく、専門知識のある仲介業者を活用することで、成約後のトラブル発生を防げます。

また、それぞれの従業員に対し、M&A後の待遇や会社の方向性について十分に説明を行い、雇用や業務に関する不安を払拭するよう努めることが重要です。

M&A自体を目的化しないようにする

M&Aそのものが目的になってしまうという、すり替わりに気を付けましょう。M&Aは、あくまでも経営戦略のひとつです。自社が目指すビジョンの内容によっては、M&A以外の経営戦略が適しているケースもあります。

自社内の既存の経営資源(商品・サービス、人材、技術など)を活かして収益を拡大させる(オーガニックグロース)戦略と常に比較する視点は必要です。

M&Aの経営戦略の事例

日本においても、多くの企業が経営戦略としてM&Aを実施しています。ここでは、具体的な事例について紹介します。

リクルートの事業拡大を目的としたM&A

2007年、業界5位のリクルートが、業界1位の株式会社スタッフサービス・ホールディングスを1,700億円で譲受しました。当時は人材派遣業界の競争が激化していたことから、業界内での地位確立を図り、M&Aを実施しました。

さらに、2012年には株式会社Indeedを譲受し、人材とマッチングビジネスという共通項を活かしたシナジー(相乗効果)を発揮し、顧客数を伸ばしています。

株式会社オンワードの新規事業拡大を目的としたM&A

2017年2月、株式会社オンワードは、株式会社KOKOBUYと米国のInnovate Organics, Inc.の株式を取得して子会社化しました。同社は、2社の株式を取得することで、化粧品業界への参入を実現しました。

経営戦略とM&Aのまとめ

経営戦略としてのM&Aには、シナジー(相乗効果)をはじめとする、さまざまなメリットがあります。ただし、М&Aのメリットを享受し、経営戦略を成功させるためには、正しい知識と十分な分析・調査が必要です。

税理士法人グループの「みつきコンサルティング」は、M&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など、複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して提案します。M&Aの知識がなく不安がある、M&Aについてサポートを受けたいといいう場合には、ぜひ「みつきコンサルティング」にご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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