M&Aで利用されるエスクローとは、取引の安全性を確保し、契約条件の履行を保証するための金銭的な仲介手段です。この記事では、M&A取引でエスクローの利用を検討している方に向けて、M&Aでエスクローが利用される理由やエスクローの仕組み、利用するメリット・デメリット、2種類の方法について解説します。エスクローを活用したM&Aの事例も紹介するため、ぜひ役立ててください。
M&Aで利用される「エスクロー」とは?
エスクローとは、商品やサービスの売買などの際に、契約する両者の間に第三者が入り、代金の決済などの取引が安全に行われるように仲介をするサービスです。このサービスは、決済資金の預かりをメイン業務としており、特に高額の資金が動く取引において、リスクを軽減するために利用されます。
アメリカの不動産売買などで利用されることが多く、海外のM&Aでも一般的に採用されています。近年では、日本のM&Aでも増加傾向です。
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なぜM&Aでエスクローが利用されるのか
エスクローがM&Aで利用されるのは、大規模な資金移動にともなう取引の安全性と公正さが求められるためです。
譲渡側は、デューデリジェンス(買収監査・企業調査)において、譲渡代金の確実性に不安要素がある場合、エスクローを利用することで資金を安全に保管して、信頼感を得られます。一方、譲受側もエスクローを通じて資金を確認することで、安心して取引が可能です。エスクローはM&Aにおけるクロージングの信頼性と透明性を高めて、双方に大きな利益をもたらします。
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エスクローの仕組み・利用するときの流れ
エスクローの基本的な仕組み、一般的な利用の流れは以下のとおりです。
1.譲渡側と譲受側で売買契約を結ぶ
譲渡側は商品を提供し、譲受側は購入代金を支払う契約を締結する。
2.譲受側は、エスクロー事業者に購入代金を送る
購入代金はエスクロー事業者の信託口座に預けられ、安全に保管される。
3.エスクロー事業者から譲渡側へ入金の連絡をする
エスクロー事業者は、譲受側からの入金を確認した後、譲渡側に連絡する。
4.譲渡側は譲受側に商品を渡す
購入代金が確認されたあと、譲渡側は商品やサービスを譲受側に提供する。
5.譲受側は、エスクロー事業者に商品受理を報告する
譲受側は商品やサービスを受け取り、品質や数量が契約どおりであることを確認し、エスクロー事業者に受け取りの連絡をする。
6.エスクロー事業者は、譲渡側から預かり、保管・運用していた購入資金を譲渡側へ入金する
エスクロー事業者は、商品の受理の連絡後に取引代金を譲渡側に支払い、取引が完了する。
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M&Aでのエスクローのメリット
M&Aにおいてエスクローを利用することで、譲渡側にも譲受側にもさまざまなメリットがあります。ここでは、4つのメリットについて解説します。
損害賠償金未払いの場合のリスク対策になる
M&Aでエスクローを利用することは、損害賠償金未払いのリスク対策になります。例えば、受け取った情報の虚偽や何らかの損害の発生時に、損害賠償請求をしたにも関わらず、譲渡側が応じないケースなどです。エスクローは、最終契約書に含まれる補償条項により、損害賠償が生じた場合でも賠償金が確保されるため、安心感が得られます。
エスクローの介入により、資金の一部が保管され、未払い時には譲受側が資金を受け取ることができます。損害賠償金の未払いの不安を軽減し、信頼性とセキュリティを提供できることから、エスクローはM&A取引の信頼関係を強化する重要なツールといえるでしょう。
見解の相違がないよう第三者にチェックしてもらえる
M&A取引の際、譲渡側と譲受側で認識の相違が生じる場合があります。しかし、仲介役としてエスクローを導入することで、第三者機関であるエスクロー事業者が契約内容を詳細にチェックし、可視化してくれるため、認識の相違を回避するのに役立ちます。譲渡側と譲受側の間で公平な状況を維持し、契約の破綻やトラブルを防ぐためにも、第三者機関のエスクローは貴重なツールです。
M&Aが終了した後に確実に入金される
M&Aの終了後に確実に入金されるため、譲渡側の入金に関する不安解消に有効です。エスクローの導入により、入金を確認した後にM&Aを実行できるため、契約した金額が支払われる保証が得られます。また、事前に入金を確認できるため、誤差がなく、想定外のトラブル回避が可能です。エスクローの活用で、両者の信頼を築きながら、円滑にM&Aを進められます。
M&Aの実績がなくても安心して取り組める
M&Aの実績がない企業にとって、金銭授受の確実性は大きな懸念点の1つです。エスクロー事業者が間に入ることで、入金が可視化され、契約条件に基づいて確実に処理されます。そのため、M&Aに関する実績がない企業でも、安心して取り組むことが可能です。エスクロー事業者の仲立ちによって、新規参入企業やM&A未経験の事業者も、市場で成功するチャンスが広がるでしょう。
M&Aでのエスクローのデメリット
エスクローの利用には、コスト(費用)や労力がかかるというデメリットがあります。
手数料がかかる
エスクローの利用には手数料がかかります。エスクロー事業者によって手数料は異なりますが、一般的には取引価格の約1〜2%が相場と考えるとよいでしょう。事前に契約書の文面に、割合を記載するのが一般的です。
エスクローの利用は、手続きに手間がかかる一方で、リスク軽減と信頼性の向上に寄与します。適切に計画し、コスト(費用)とリターンのバランスを考慮しながら、エスクローの利用を検討することが重要です。
手続きに手間がかかる
エスクローを利用する際、通常のM&A取引と比べて追加の手続きが必要です。エスクローサービス業者が仲介し、支払い条件や取引ルールを詳細に設定し、透明性と信頼性を高めます。しかし、やり取りの合意形成と業者の情報提供が必要で、管理が煩雑で時間がかかる可能性もあるでしょう。スピーディーな取引を希望する場合は、スケジュール調整が不可欠です。
エスクローの2種類の方法
エスクローには2種類の方法があります。以下で、それぞれの方法と流れを解説します。
信託契約を利用する方法
M&Aにおけるエスクローの選択肢として、信託契約があります。譲受側が資金を信託財産として管理者に預けて、取引の安全性と信頼性を高める手段です。資金は厳格に管理され、取引条件の達成まで触れられないため、譲渡側と譲受側に安心感を提供します。
譲渡代金のほか、損害賠償金として預ける資金も信託として扱うことが可能です。手続きが煩雑で時間を要しますが、信託契約を利用することで、M&Aプロセスの安定性を確保できます。当事者のニーズやリスク許容度に応じて検討しましょう。
信託契約を用いたエスクローの流れ
信託契約を用いたエスクローの流れは以下のとおりです。
- 譲受側はエスクロー事業者と信託契約を締結する
- 譲受側は、エスクロー事業者に信託財産として資金を委託する(預ける)
- 取引期間中、エスクロー事業者は、信託財産を管理・運用する
- 契約条件が達成されたら、エスクロー事業者は、預かっていた信託財産を譲渡側に渡す
このようにして信託契約を進めることで、M&A取引においてエスクローが効果的に活用されます。
銀行口座を利用する方法
エスクロー事業者が、譲渡側と譲受側の双方の名義で金融機関に口座を開設し、資金を管理するのが「銀行口座を利用する方法」です。この方法は規約の設定が少なく、長期化しにくいという特徴があります。また、金融機関に支払う手数料も少ないため、経済的にも利用しやすいでしょう。
ただし、エスクロー事業者が期間中に倒産した場合には、入金の保証がない可能性があります。利用を検討する際には、エスクロー事業者の信頼性や安定性の確認が必要です。
銀行口座を用いたエスクローの流れ
銀行口座を用いたエスクローの流れは以下のとおりです。
- 譲渡側、譲受側、またはエスクロー事業者のいずれかが金融機関で口座を開設する
- 譲受側が譲渡代金を口座に入金する
- エスクロー事業者が口座を運用・管理する
- 契約条件達成後、譲渡側に譲渡代金を支払う
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エスクローを活用したM&Aの主な事例
エスクローを活用したM&Aの事例のなかから、3つ選んで解説します。
アーンアウトを採用してリスク軽減を図る事例
アーンアウト制度は、M&Aにおける支払いの柔軟性とリスク軽減のためのものです。スタートアップ企業の不確実性を考慮して、将来の業績目標を設定して、達成度に応じた支払い金額を、段階的に分割する制度です。エスクローと併用して信頼性と安全性を高め、M&Aプロセスをスムーズに進められるようになり、双方にメリットをもたらします。
複数の譲渡対象がある場合の事例
M&Aを行うにあたって、チェーン店などで譲渡対象が複数ある場合に、各店舗と契約をしなければならないことがあります。複数の対象の中で、契約に賛同しない店舗が1店でもあると、M&Aを完了できません。しかしエスクローの場合は、店舗ごとに支払うことができるため、円滑にM&Aを進められます。
エスクロー口座から分割して支払う事例
事業譲渡で、複数の店舗を譲受する場合、すべての店舗の家主と賃貸借契約の更新をする必要があります。しかし、すべての店舗が交渉に同意するとは限りません。
エスクロー口座からの分割支払いは、複数店舗の事業譲渡の際に、それぞれの課題に対処できる有用な方法です。契約のまとまりに依存しない取引、効率的なプロセス、リスク管理が実現し、M&Aの円滑な進行とリスク軽減が可能です。
M&Aにおけるエスクローのまとめ
エスクローは、損害賠償リスクへの対策や、第三者のチェックを通じてM&A取引の安全性を向上させる重要なサービスです。また、エスクローを活用することで、M&Aの実績がない企業でも、取引に安心感を持つことができます。ただし検討する際には、手数料や手続きの手間がかかることを考慮しておくとよいでしょう。
税理士法人グループのみつきコンサルティングには、経営コンサルティング経験者が多数在籍しています。対象企業の詳細な事業分析を実施し、満足いただけるM&Aのサポートを行うため、M&Aに不安を感じている人や安心なM&Aを行いたい人は、ぜひご相談ください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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