ベンチャーのM&A|出口と成長・IPOと比較した利点と欠点・事例

ベンチャー企業がM&Aをして創業者利潤を手にしたり、更なる成長を果たすケースが増えています。本記事ではベンチャー企業におけるM&Aの重要性やメリット・デメリット、実施時の注意点や事例を紹介します。M&Aを検討しているベンチャー企業経営者の方は、参考にしてください。

ベンチャー企業の出口戦略

ベンチャー企業のイグジット手段として、かつてはIPOが主流でした。多くの経営者がIPOを目標に掲げていましたが、最近ではM&Aを選択する企業が徐々に増えています。

M&Aを出口としたニュースが増加

M&Aは、ベンチャー企業にとってのイグジット(出口戦略)の1つとして、定着しつつあります。ベンチャー企業を売却して利益を獲得し、そこから新しい事業を立ち上げるケースも増えています。ベンチャー企業の将来を決める方法として、M&Aが検討される事例は今後も増加すると考えられるでしょう。

ただし、海外と比べると日本のベンチャー企業のM&A市場はまだ小規模です。経済産業省の調査によると、日本のベンチャー企業のイグジット内訳はIPOが約70%、M&Aが約30%です。なお、米国ではM&Aが約90%を占め、IPOは約10%にとどまります。このことからも、日本でも出口としてのM&Aが増えると考えられます。

M&Aはベンチャー企業における成長戦略にもなる

ベンチャー企業はM&Aで他社の事業を統合し、自社に足りない部分を補うこともあります。そのほか、M&Aによって注目度を高めて、ベンチャー企業を宣伝することも可能です。専門的な人材やノウハウなども継承できるため、さらなる成長に期待できる点に注目が集まっています。ベンチャー企業として効率的な成長を目指す際には、1つの方法としてM&Aによる統合を視野に入れておくとよいでしょう。

IPOとM&Aの比較

新興企業が成長戦略を練る際、IPO(新規株式公開)とM&A(会社売却)は重要な選択肢となります。これらの手法は、ベンチャー企業の将来に大きな影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。以下では、IPOとM&Aのそれぞれの特徴、メリット、デメリットを比較しします。

IPO(新規株式公開)

IPOとは、未上場企業が株式市場に上場し、一般投資家に株式を公開(売却)することです。IPOには以下のような特徴があります。

メリット

次のようなメリットがあります。

資金調達手段の多様化、調達規模の大型化

IPOを通じて、企業は広範な投資家から大規模な資金を調達できます。これにより、事業拡大や研究開発投資などの戦略的施策を実行する余地が広がります。

企業価値の向上

上場企業としての地位は、取引先や顧客からの信頼性を高め、ブランド価値の向上につながります。これは新規取引の獲得や優秀な人材の採用に有利に働きます。

従業員のモチベーション向上

株式報酬制度(ストックオプションなど)の導入が可能となり、従業員の会社への帰属意識や業績向上への意欲が高まる可能性があります。

デメリット

IPOのマイナス面です。

準備の負担

IPOには綿密な準備が必要で、多大な時間とコストがかかります。財務諸表の整備、内部統制システムの構築、法令遵守体制の確立など、多岐にわたる準備が求められます。

厳格な審査

証券取引所や証券会社による厳格な審査があり、すべての企業が上場基準を満たせるわけではありません。

株式売却の制限

経営者や主要株主は、市場の信頼を維持するため、保有株式の売却に制限を受けることがあります。これは個人の資産流動性を制限する要因となります。

M&A(株式の一部または全部の売却)

M&Aは、企業の合併や買収を通じて事業を拡大または売却する戦略です。これには以下のような特徴があります。

メリット

M&Aのプラス面です。

後継者問題の解決

ベンチャー企業にとっても、M&Aは後継者問題の解決につながる可能性があります。立ち上げた企業を存続させたまま勇退したいけれど、条件に合う後継者がいないというケースは、ベンチャー企業でも珍しくありません。そこでM&Aを実施し、技術力や経験値が高い人材を後継者に選定する方法が検討されます。自分の立ち上げた企業がその後成功を収めれば、自身の実績としてアピールできる点もメリットです。

人材の採用・育成

自力で新規の人材を採用したり、育成しようとすると、多くの時間や労力が必要となります。これはIPOした場合であっても同様です。他方で、M&Aで大手企業のグループに入れば、単独でIPOするよりも、採用面・育成面での相乗効果はより大きなものとなる可能性が高いです。

迅速な資金化

M&Aでは、株主が保有株式を比較的迅速に現金化できます。これは創業者や投資家にとって魅力的な選択肢となります。

IPOよりハードルが低い

IPOと比較して、M&Aは一般的に準備期間が短く、コストも低くなる傾向があります。

柔軟性

企業規模や業績に関わらず、買収側との合意さえあれば実行可能です。これにより、幅広い企業がM&Aを選択肢として検討できます。

シナジー効果

適切なパートナーとのM&Aは、技術、市場、人材などの面でシナジーを生み出し、急速な成長をもたらす可能性があります。

支援機関が多い

ベンチャー企業に限ると出口はIPOが主流ですが、社会全体ではIPOよりM&Aの方が圧倒的に多いです。そのため、IPOを支援する関係者よりも、M&Aを支援する機関の方が多いです。

デメリット

M&Aで注意すべき点です。

経営権の喪失

通常、M&Aでは経営権が買収側に移転します。これにより、創業者や現経営陣の影響力が大幅に低下する可能性があります。

企業文化の変容

買収後、企業文化や経営方針が大きく変わる可能性があり、従業員の不安や離職につながることがあります。

最適なパートナー探しが困難

企業価値を最大化できる理想的な買収先を見つけることは容易ではありません。これにより、M&Aプロセスが長期化したり、最終的に断念したりするケースもあります。M&Aマッチングサービスや仲介会社の利用など、さまざまな対策を取り入れることが重要です。特にM&A仲介会社は、M&A全体のサポートを一貫して行ってくれるため、成約に至る可能性を高められます。

総括

IPOとM&Aは、いずれもベンチャー企業の成長戦略において重要な選択肢です。各企業は、自社の成長段階、市場環境、財務状況、そして長期的なビジョンを慎重に評価し、最適な方向を選択する必要があります。総じて、IPOは独立性を維持しながら成長を目指す企業に適している一方、M&Aは迅速な資金回収や事業拡大を求める企業にとって魅力的な選択肢となります。経営者は、これらの選択肢のメリットとデメリットを十分に理解し、株主、従業員、そして企業全体の利益を最大化する戦略を選択することが求められます。

ベンチャー企業におけるM&A成功のポイント

ベンチャー企業がM&Aを成功させるには、いくつかのポイントを踏まえて適宜対応する必要があります。以下では、ベンチャー企業がM&Aを成功させるポイントについて解説します。

会社売却のタイミング

M&Aは、ベンチャー企業の価値が高まっているときに実施することが大事です。M&Aでは譲渡後の将来性も加味されるため、価値が上昇しているときほど高値で譲渡できます。逆に企業と成熟しきってしまい、将来性を見出せない場合、スムーズなM&Aが難しくなる可能性があるでしょう。

譲受企業のニーズの理解

M&Aにおける譲受側企業のニーズ(需要)を理解し、必要な情報を提示することがポイントです。M&Aによって高いシナジー(相乗効果)を引き出せると判断してもらえれば、交渉を進めやすくなります。取引企業の視点に立って、譲受のニーズ(需要)を考えてみるとよいでしょう。

無形資産のアピール

無形資産をアピールしたM&Aも、有効な手段となります。無形資産には、技術力、事業ノウハウ、アイデア、ブランド力、経営者の能力などが含まれます。企業として無形資産に価値があると判断される場合には、その点をアピールする計画を立てることが重要です。具体的な数値や実績などを提示して、交渉相手の興味を引く方法が考えられます。

ベンチャー企業がM&Aする際の注意点

ベンチャー企業がM&Aに挑戦するときの注意点を解説します。

必ずしも希望価格で譲渡できるとは限らない

M&Aにおける交渉次第では、必ずしも希望価格では譲渡できないケースもあります。お互いの利害が一致する価格を設定しないと、交渉が難航する可能性も懸念されます。目標を明確にしつつ、ある程度妥協するケースも想定することが、M&Aのスムーズな成約につながるポイントです。

従業員にM&Aの理解を得ておく

M&Aを実施する際には、従業員の理解を得ておくことも重要です。M&Aをきっかけに従業員が離職しないように、納得してもらったうえで計画を進める必要があります。なぜM&Aが必要なのか、M&Aによって従業員にどのような影響が出るのかを、正確に伝える準備が求められます。

ベンチャー企業のM&A事例

ベンチャー企業がM&Aを実施した事例は、すでに多数あります。以下では、ベンチャー企業のM&A事例を5つ紹介します。

パラフトの事例

ITフリーランス人材の仕事紹介サービスを営んでいた「パラフト株式会社」は、M&Aで「ランサーズ株式会社」にグループ化しました。パラフト株式会社のフリーランス向けマッチングサービス「PROsheet」のデータベースを統合し、事業に活用することに成功しました。

CLEARの事例

「株式会社CLEAR」は、学生へのオンライン学習コンテンツを提供している企業です。国内文具における高いシェアを持つ「コクヨ株式会社」に譲受され、中高生向け学習サービス「Clear」などの事業成長を加速させました。

UMNファーマの事例

「株式会社UMNファーマ」は製薬ベンチャー企業として、塩野義製薬の完全子会社となりました。コロナのワクチン事業の影響で、両者のシナジー(相乗効果)を導き出せた点が、M&A実現の理由となっています。こちらは内的要因ではなく、社会情勢がM&Aに影響した事例の1つです。

ラクサス・テクノロジーズ株式会社の事例

「ラクサス・テクノロジーズ株式会社」は、サブスクリプション型レンタルサービスで、ブランドバッグを提供する企業です。アパレルの大手である「株式会社ワールド」に譲受され、ITを基軸にしたビジネスの強化を進めました。同社は既存システムを軸に、ビジネスの規模を拡大させています。

Fablicの事例

「株式会社Fablic」が提供していたサービスに、スマホで簡単に取引ができるフリマアプリ「フリル」が挙げられます。同社はM&Aによって「楽天株式会社」の完全子会社となりました。同サービスは既存サービスのフリマアプリ「ラクマ」との統合によって、ユーザー数と利用者層の拡大を図っています。

ベンチャー企業のM&Aのまとめ

ベンチャー企業にとって、M&Aは事業の成長やその後の活動に、大きな影響を与える手段として注目されています。ベンチャー企業の画期的なアイデアや、ノウハウを持つ従業員を求める企業は多いため、きちんと準備ができればM&Aが成約する可能性は高いです。この機会にM&Aの基本を確認し、ベンチャー企業としての今後を考えてみてはいかがでしょうか。

M&Aを計画する際には、みつきコンサルティングにご相談ください。成約に至るまでコスト(費用)がかからない完全成功報酬型であるため、費用面での不安を解消しつつM&Aを進められます。専門知識を持つ税理士、会計士、コンサルタントが、目的や状況を考慮した上で最適な提案を実施します。M&Aについてのお悩みをお持ちなら、みつきコンサルティングにお問い合わせください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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