IPOとM&Aは企業の未来を決定づける2大出口戦略です。資金調達規模や経営自由度、換金スピードなどの違いを整理し、株式の流れとメリット・デメリットをやさしく比較。中小企業オーナーが後悔しない選択を行うための視点と判断基準を解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
そのような漠然とした疑問をお持ちではありませんか? みつきコンサルティングでは、本格的なご検討の前でも、情報収集を目的とした無料相談を随時お受けしています。まずはお話をお聞かせください。

▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
IPOとM&Aの基礎知識
IPOとM&Aは、企業が“次のステージ”へ向かう二つの大きな扉です。どちらの扉を開くかによって、その後の経営者の人生も社員の将来も大きく変わります。まずは両者の仕組みを落ち着いて整理し、言葉のイメージだけで判断しないようにしましょう。
IPOとは
新規株式公開、通称IPOは、未上場企業が証券取引所という公共の舞台に“デビュー”することを意味します。長く密室で鍛え上げたビジネスモデルを、大勢の投資家の前にさらし、評価を受ける――それはスポットライトが当たる華やかな舞台である一方、厳しい視線を浴び続ける覚悟を要する場でもあります。
IPOにおける株式の流れ
上場日の鐘が鳴ると、オーナー経営者が保有する株式の一部が投資家の手へ渡り、会社自身も増資を通じて新たな株式を発行します。たとえば80%の株式を握っていた創業者が30%を市場に放出し、残り50%を維持する構図が典型です。市場に参加した株主は株価の動きを通じ会社の未来に期待や懸念を投影し、株価は日々上下します。創業者は上場時に得た資金を基に、さらなる成長投資や個人の資産形成を図りますが、多くの場合、上場後も経営の最前線に立ち続けることが求められます。
M&A(会社売却)とは
対照的にM&Aは、譲渡オーナーが会社の“所有権”そのものを譲受企業へ明渡す取引です。経営権のバトンを渡した瞬間、企業は新たな親会社の傘下で事業を継続し、譲渡オーナーは売却代金を手にして次の人生へ踏み出します。M&Aはゴールテープというよりもバトンタッチ。マラソンの途中で別のランナーにタスキを託すイメージに近いかもしれません。
M&Aにおける株式の流れ
この取引では、譲渡オーナーが保有する株式の大半、中小企業のM&Aでは通常100%が譲受企業へ移転します。その結果、譲渡オーナーの持株比率はゼロとなり、完全に経営から退くことも可能です。売却資金は一括で受け取れるのが一般的で、資産の確定と経営責任からの解放を同時に実現できる点が大きな特徴です。
▷関連:中小企業のM&A仲介とは?メリットとデメリット・費用相場・選び方
IPOの主なメリットとデメリット
IPOは“社会のチカラ”を味方に付ける戦略です。しかし同時に、“市場の掟”に縛られる現実も受け入れなければなりません。まずはメリットを深掘りしましょう。
IPOのメリット
IPOは、企業を一気にスケールアップさせる燃料タンクを手に入れる行為です。全てがバラ色ではありませんが、以下の4点は誰もが羨む恩恵と言えます。
大規模な資金調達が可能
上場によって得られる資金は桁違いです。非上場のままでは銀行融資か少数の投資家からの出資に限られるところ、IPOなら不特定多数の投資家が一斉に資金を投じてくれます。社外から得た巨額の“燃料”を用いれば、新規拠点の開設や研究開発への投資、海外進出など、これまで夢だった計画を一気に実行に移しやすくなります。加えて、信用力が上がることで借入コストが低下し、レバレッジを効かせた資本政策が描きやすくなる点も見逃せません。上場のニュースは新聞やネットメディアでも取り上げられるため、自然と広告効果も得られます。
信用力の向上と採用力の強化
証券取引所の厳密な審査を通過した事実は、取引先にとっての“品質保証書”のようなものです。上場企業との取引は安心という先入観が働き、新規顧客の開拓ハードルが下がります。さらに、就活生や経験豊富なプロ人材が「上場企業で働きたい」と考える傾向は根強く、採用市場での競争力が一気に高まるメリットもあります。社員の家族からの安心感も高まり、社内エンゲージメントが向上しやすい点も見逃せません。
企業価値の大幅な増加
株式市場では、将来への期待が株価へ反映されます。実態の利益水準からは想像できないほどの時価総額が付くこともあり、市場参加者の“夢”が企業価値を押し上げる現象が起こります。M&Aの査定が“実績+シナジー”で決まるのに対し、IPOは“実績+期待値”で評価されるため、場合によっては雲の上のようなバリュエーションが付くのです。これは「看板効果」とも呼ばれ、ブランドイメージの向上に大きく寄与します。
社員のモチベーション向上
自社のロゴがニュースで取り上げられ、株価欄に社名が並ぶ――これほど社員の誇りを刺激する出来事は多くありません。ストックオプションなどのインセンティブ制度があれば、業績向上と株価上昇が直結し、全員が“株主としての視点”を持ちながら成長にコミットする好循環が生まれやすくなります。
IPOのデメリット
一方で、IPOは“高い山”に登る行為です。ロープ1本で崖を登るような覚悟と準備が必要です。主なリスクは以下の5つです。
難易度が高く不確実性が伴う
上場審査は“通過率”が公表されない試験です。業績が伸び悩んだ、相場環境が急速に悪化した――そんな外部要因だけで計画が頓挫することもあります。途中まで費やしたコストや労力が無駄になる可能性を織り込まねばなりません。特にベンチャー企業の場合、市況の冷え込みは深刻な影響を与え、撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。
長期間の準備が必要
ガバナンス体制や社内規程の整備、監査法人との協業など、上場前のToDoリストは細かく、重く、長いのが現実です。短距離走ではなくフルマラソンを走る覚悟が欠かせません。準備期間中は経営リソースが分散し、本来注力すべき事業開発が後回しになるジレンマも生じがちです。
経営の自由度の制約
四半期ごとの決算短信、適時開示、株主総会――上場後は“説明責任”が日常化します。大胆な長期投資より、次の四半期利益を優先する圧力が強まるのは避けられません。創業者のスピード感ある意思決定が、株主の視線にブレーキを踏まれる場面も増えます。意図せぬIR情報の漏洩はインサイダー取引のリスクを高め、経営判断の自由度は想像以上に狭まります。
資金換金の困難さ
上場時に全株を売り切ることは不可能です。上場時の大量売却は、株価を押し下げマーケットからの批判を招きますし、そもそも主幹事証券会社が許しません(上場後も同様です)。TOBやインサイダー規制といった法的ハードルも高く、現金化には時間と手間が掛かります。創業者が老後資金を得るために株式を処分したいと考えても、実行までに長い年月を要するのが現実です。また、市場での株価が上がるほど自社株の換金が困難になるジレンマに陥ります。
事業継続の責任とストレス
上場企業の社長は常に“公人”に近い立場となり、株価の値動きもメディアの注目も浴び続けます。業績が思うように伸びない局面では、SNSや投資家説明会で厳しい声が飛ぶことも少なくありません。精神的負荷は計り知れず、投資家視点と創業者視点を同時に満たす舵取りが難題として立ちはだかります。株価が期待通りに上がらないときの焦燥感や、24時間ニュースにさらされるストレスは、想像以上に重くのしかかります。
▷関連:創業者利益とは?上場とM&Aの比較、税金、最大化するポイントを解説
M&Aの主なメリットとデメリット
ここからは、もう一つの選択肢であるM&Aについて見ていきましょう。IPOが“公開市場”への挑戦だとすれば、M&Aは“交渉”によって出口を開く戦略です。
M&Aのメリット
M&Aの最も大きな魅力は、譲渡オーナーが短期間で資金を確定できる点にあります。ここでは代表的な利点を順に確認します。
即座に全株を換金できる
M&Aは契約成立と同時に譲渡対価が支払われるため、資金繰りの不安を抱えることなく、まとまった現金を手にすることが可能です。数十年かけて築いた会社の価値を“いまこの瞬間”に現金として確定できるメリットは計り知れません。
短期間での実施が可能
IPOのように年単位の準備を必要とせず、交渉が整えば数か月から一年以内にクロージングできるのがM&Aの強みです。監査法人による厳格な審査や内部統制の整備といった手続が不要で、オーナー経営者の心理的負担を大幅に軽減します。事業環境が急変しやすい現代において、“スピード感”はまさに最大の武器となります。
経営責任からの解放
譲渡オーナーにとって、M&A後に経営責任から解放されることは大きな魅力です。日々の資金繰りや人材マネジメント、将来戦略の策定から離れ、家族との時間や新たな趣味に集中できるようになります。経営者として背負ってきたリスクと重圧を手放し、第二の人生を始めるための自由時間を確保できるわけです。
シナジーによる急速な成長
譲受企業が持つ資金力、販路、ブランド、人材――これらと自社の強みが組み合わさることで、単独では達成できなかったスピードで事業が拡大する可能性があります。赤字に苦しむ会社であっても、譲受企業のノウハウ次第では黒字化と企業価値向上を同時に実現できるケースも珍しくありません。M&Aは単なる“売却”ではなく、“共創”である点に注目すべきです。
柔軟な事業運営
上場企業と異なり、市場や株主からの四半期ごとの厳しい視線を受けない分、M&A後の会社はより中長期的な視点で事業を展開しやすくなります。短期的な利益に縛られず、新しい技術への投資や既存事業の見直しといった施策を腰を据えて実行できる点は、経営の自由度を重視するチームにとって魅力的です。
ここまで、IPOの長所と短所、そしてM&Aが提供するスピードと安心感に焦点を当ててきました。次のセクションでは、M&Aのデメリットと、両者をどう比較し、どのように選択の判断材料とするかを掘り下げていきます。自社の状況と目標を照らし合わせながら、最適な出口戦略を考えていきましょう。
M&Aのデメリット
M&Aは多彩なメリットを備える一方、譲渡オーナーの価値観によっては看過できないデメリットも潜んでいます。ここでは代表的な3点を確認し、後悔しない出口戦略に役立てましょう。
経営権の喪失
譲渡オーナーは株式を手放すことで、これまで自ら描いてきた経営ビジョンの舵取り権を失います。譲受企業が実施する方針転換に伴い、社内文化の急激な変化や事業の統廃合が進むケースもあり得ます。「育てた会社は家族同然だ」と感じるオーナーにとっては大きな心理的負担です。
企業価値評価の上限
M&Aの価格は一般に“実績数値(純資産など)+シナジー(のれん等)”で決まるため、IPOで見込めるような“期待値プレミアム”は乗りにくい傾向があります。黒字・成長企業であっても、上場時のような数百億円規模のバリュエーションは望みにくい点を理解しておく必要があります。
名誉欲は満たされない
上場は経営者にとって分かり易い“実績”ですが、M&Aを選択すればその勲章を得る機会は消えます。社会的評価やメディア露出をモチベーションに事業を推進してきたオーナーにとっては、達成感を味わえないまま引退となる可能性があります。
▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
IPOとM&A、どちらを選ぶべきか
出口戦略の選択は二択ではなく、“会社の未来像をどう描くか”という羅針盤の設定です。ここからは、具体的な判断材料を整理します。
選択の判断材料
IPOとM&Aのどちらが自社にフィットするかを測るには、自社のステージ・志向・外部環境を多層的に比較することが大切です。以下の視点をチェックリストとして活用してください。
事業の市場規模と資金ニーズ
参入市場が急拡大し、タイムリーな巨額投資が競争力の源泉になる場合、IPOで調達できる資金量が大きなアドバンテージとなります。逆に、ニッチ市場で深い専門性を武器にするビジネスでは、M&Aによるピンポイントのシナジーの方が効率的に成長を後押しするケースも多いです。
事業を継続・拡大する意思と自信
「10年先も自ら経営の最前線に立ち続けたい」なら、IPO後の株主責任とも向き合える可能性が高いでしょう。反対に「そろそろ次の挑戦へ時間を割きたい」という想いが強いなら、経営責任を引き継げる譲受企業を探すM&Aが候補に挙がります。
魅力的な買収提案の有無
すでに具体的なシナジー提案や高水準の買取価格が提示されている場合、IPOによる将来価値を見込む以上の成果を短期で得られる可能性があります。譲受企業が提示する成長ストーリーが自社の強みを最大化できるかどうかを吟味しましょう。
事業の現状と財務状況
赤字や資金繰り難といった課題が膨らんでいる場合、IPOに要する長い準備期間を乗り切れないリスクがあります。その際は、M&Aによる資金注入と経営再建の方が現実的な解となりやすいです。
事業運営に対する姿勢
柔軟な経営を続けながら“外圧”なく長期戦略を進めたいなら、M&A後に非上場子会社として動く方が適しているかもしれません。
経営能力への自信
従業員数が100人を超え、海外子会社や研究開発部門を抱えるなど、組織的複雑性が増す局面でもマネジメントを統率できる自信があるか。IPO後はガバナンスと情報開示の専門知識が不可欠なため、経営体制の拡張に対する覚悟が必要です。
新たな事業への意欲
既存事業を手放して得た資金で次のビジネスを育てたい場合、M&Aは再挑戦の資本を確保できる魅力的な選択肢です。
事業の安定性への志向
景気変動の影響を強く受ける分野で、従業員の雇用安定を最重視するなら、資金力のある譲受企業の傘下で守りを固めるアプローチも検討に値します。
資金回収の意欲
創業者利潤を早期に確定し、リスクから解放されたい場合は、M&Aが合理的です。将来の株価上昇より直近のキャッシュを優先する価値観との相性が良好です。
事業領域の上場企業としての適切性
規制強化や社会的評価の波を受けるビジネスでは、上場企業としてのマイナスイメージが株価に反映されやすい場合があります。この場合もM&Aで非公開化された環境の方が安定的な経営が可能となるケースがあります。
経営への疲労感
慢性的なプレッシャーから解放されたいとの思いが強い場合、M&Aによるリタイアメントプランは精神的安全策として大きな価値があります。
対外的な露出への魅力
記者会見や決算説明会でスポットライトを浴びることが苦ではなく、むしろ高揚感を覚えるタイプの経営者であれば、IPOによる社会的注目はモチベーションを高める装置として機能しやすいでしょう。
既存投資家の意向と評価
株主のなかにVCなど外部投資家がいて上場益を期待している場合、IPOを選択することで利害を一致させやすい一方、投資家が早期Exitを志向する局面ではM&Aも有力です。資本政策の前提条件を共有しながら進路を選びましょう。
中小企業におけるM&Aの重要性
日本の中小企業では、後継者不在による承継問題が年々深刻化しています。M&Aは承継策としてだけでなく、販路拡大や技術補完といった成長戦略の一環として活用される例も増えています。特にIPOはハードルが高く時間も資金も潤沢に要するため、事業フェーズや経営課題によっては“M&Aでパートナーを得る”ことが、社員と取引先を守りながら未来へ舵を切る最適解となるケースが少なくありません。
近年の動向|スタートアップからスケールアップへ
設立間もない会社を「スタートアップ」企業と呼びますが、それから成長してネクストステージにいる状況の会社を「スケールアップ」企業といいます。一般に、スケールアップ企業とは、立ち上げから数年ほどで急激な規模拡大をしている企業を指すことが多いです。
スケールアップを目指す成長性の高い企業の中では、IPOは出来るにも拘わらず、敢えてM&A(資本参加の受け入れが多い)を選ぶ企業が増えています。
資金調達先の多様化
成長期待の大きい企業の場合、海外やCVC(事業会社による自己投資)、ファンドといった先からの資金調達が可能な状況になっています。例えば、SaaS(クラウド経由でソフトウエアを提供するサービス)企業の中には、海外から資金を集めて成長する企業があります。
大型IPO狙い
日本のIPOの小型化が問題となっていますが、成長意欲の高い企業経営者は、小粒な状態でIPOしても調達できる資金が少ないことを知っています。それよりも、いったん外部資本を受け入れた上で大きく成長し、ゆくゆく大型上場として大きな資金調達を目指します。
スイングバイIPOの潮流
スイングバイIPOは、大企業の支援を受けて成長したスタートアップが、後に独立して上場を目指す新しい成長モデルです。以下では、このハイブリッド型のイグジット(出口)戦略を紹介します。
スイングバイIPOとは
大手企業によるM&A(合併・買収)をいったん受け入れたうえで、新規株式公開(IPO)を目指すスタートアップが増えています。この手法は「スイングバイIPO」と呼ばれ、単純なIPOやM&Aとは異なる「第3の出口戦略」として注目されています。スイングバイIPOを選択することで、スタートアップはじっくりと時間をかけて成長することができ、大手企業との協業のチャンスも得られます。このような成長戦略が、将来的に広く定着することが期待されています。
スイングバイIPOの由来
スイングバイIPOの由来は、惑星の引力を利用して探査機を加速させる宇宙用語にあります。これは、大手企業の力を借りてスタートアップが成長していく姿を表現しています。この名称は日本発祥であり、具体的なモデルケースも存在します。2024年3月に約600億円の時価総額で東証グロースに上場したソラコムがその一例です。ソラコムは、KDDIのスタートアップ協業プログラムの支援を受け、成長を後押しされました。この「スイングバイIPO」という呼び名は、ソラコムの社員が考案し、KDDIも賛同して広まった経緯があります。
スイングバイIPOは第三の出口戦略
ソラコムの成功は、スタートアップにとって新たな選択肢となりました。これまでスタートアップが出資者の利益を確定して成長に一区切りを付ける「出口戦略」は、単独でのIPOか大企業の傘下に入るM&Aの二択が一般的でした。日本では経営の独立性を重視してIPOを選ぶ企業が約8割とされていますが、投資資金の回収を急ぐベンチャーキャピタル(VC)の期待により、企業価値が小さいまま上場してしまうことが多く、その後の成長戦略の欠如や資金不足で伸び悩む「小粒上場」の問題が指摘されてきました。
従来の出口戦略とスイングバイIPOの比較
従来の出口戦略としては、単独でのIPOと大企業の傘下に入るM&Aの二つが一般的でした。しかし、スイングバイIPOはこれら二つの中間的な性格を持っています。M&Aで大手企業の傘下に入っても、合意の上で経営の独立性を守りながら将来のIPOを目指すことができるという利点があります。このような手法は、スタートアップにとって大手企業のリソースを活用しつつ、自社の独立性を保持できる新たな成長戦略となります。
スイングバイIPOのメリット・デメリット
スイングバイIPOのメリットは、将来のIPOを容認しつつ、大企業とスタートアップがそれぞれの強みを生かして成長を加速させる点にあります。この手法は日本企業と非常に相性が良いとされています。他方で、いわゆる親子上場の問題は、日本固有の資本市場の問題として従来から指摘されてきたところです。親子上場の是非の議論を踏まえつつ、当事者固有の事情に照らして、スイングバイIPOの選択を採用するかどうかを検討することになるでしょう。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
よくあるご質問|IPOとM&Aの比較に関するFAQ
オーナー経営者様が、会社の将来を考える上で、IPO(新規株式公開)とM&A(事業承継・譲受)のどちらを選択すべきか迷われることは少なくありません。ここでは、両者の主な違いやメリット・デメリットについて、よくあるご質問にお答えします。
Q:IPOとM&Aの主な違いは何ですか?
IPOは、会社を社会の力を借りて大きく成長させ、資金調達を容易にするための手段です。この場合、譲渡オーナーは経営の主導権を維持します。一方、M&Aは、基本的に会社全体の株式を譲渡し、新たな譲受企業へ事業を承継することで、まとまった対価を得ることを目的とします。両者の目的は根本的に異なりますので、ご自身の目的を明確にすることが重要です。
Q:IPOとM&A、どちらを選ぶべきか判断する基準はありますか?
長期的に会社を大きく成長させ、社会の力を借りてさらに伸ばしていきたいという強い意志がある場合は、IPOが適していることが多いです。これに対して、早くまとまった売却対価を得たい、将来の事業リスクを回避したいといった個人の事情が強い場合は、M&Aが選択肢として有効です。最終的には個別の状況を考慮して判断することが重要になります。
Q:M&Aを選択する際のメリットは何ですか?
M&Aの最大のメリットは、譲渡オーナーがまとまった売却対価を早期に得られる点、そして会社売却後の将来的な事業リスクを基本的に回避できる点です。また、譲受企業とのシナジー効果により、譲渡後に会社がより大きく成長する可能性もあります。このシナジーが譲渡価格に反映されることもあり、譲渡オーナーにとって経済的なメリットにつながることが期待されます。
Q:IPOを選択する際のメリットは何ですか?
IPOの主なメリットは、今後の資金調達が容易になること、そして譲渡オーナーが経営の主導権を維持しながら事業拡大を進められることです。会社の信用力が向上し、M&Aよりも高い評価を得て時価総額が上がる可能性もあります。また、従業員のモチベーション向上にもつながる場合があります。社会的な企業になることで、優秀な人材の確保にも寄与するでしょう。
Q:IPOを検討する上でのデメリットはありますか?
IPOには、準備に多くの時間とコストを要するものの、最終的に実現できないリスクがあります。また、上場後は株価が常に変動するため、経営者の精神的ストレスとなる可能性があります。会社を完全に売却しようとした場合、時価総額が高すぎると譲受企業が見つかりにくいこともあります。インサイダー取引規制など、上場企業特有の制約も増えます。
Q:M&A実施時に従業員からの印象を気にする必要はありますか?
M&Aに対しては「ハゲタカ」といった負の印象を持つ従業員が一部存在し、一時的に動揺するケースもあります。しかし、経験上、多くの従業員は数ヶ月後には売却が成功して良かったと捉えることが多いです。そのため、過度に気にする必要はないでしょう。ただし、特に重要なキーパーソンが退職する可能性があり、それが事業に大きな影響を与える場合は、慎重な対応が求められます。
Q:IPOとM&Aを同時に検討することは可能ですか?
IPOとM&Aを同時に検討することは可能です。しかし、両方を並行して進める場合、最終的にM&Aを選ぶ譲渡オーナーが多い傾向にあります。これは、M&Aのメリットに魅力を感じるためです。IPOを目指すのであれば、外部への株式譲渡は最低限に抑え、自社で株式を保有して進める方が、上場後の企業価値を最大化できる可能性が高いでしょう。
▷関連:ハッピーリタイアできる「事業承継M&A」とは?実現するポイント
参考:IPO実現までのプロセス
中小企業がIPOを実現するまでの道のりは、準備期間を含めて最低でも3年程度の時間が必要です。IPOまでの全体的な流れは、「3期以上前」「2期前」「1期前」「申請年度」という4つの段階に区分されます。各段階で実施すべき重要な取り組みについて概要を説明します。
3期以上前の準備段階
IPO実現に向けた最初の段階では、基盤となる体制作りが中心となります。この時期に取り組むべき主要な事項は以下の通りです。
- 上場時期と対象市場の選定
- 経営陣直轄のIPO専門チームの設置
- 監査法人によるショートレビューの実施(課題の洗い出しと改善点の明確化)
- 顧問弁護士やメインバンクなど関係機関との連携体制の構築
ショートレビューは、IPOに向けた課題を洗い出す重要な作業であり、この段階で実施することが推奨されます。
2期前の体制整備段階
IPO申請の2期前では、上場企業として求められる管理体制の構築が重要になります。この期間における主な取り組み内容は以下の通りです。
- 監査体制の本格的な整備
- 監査法人による適正意見の取得
- 主幹事証券会社の選定と決定
監査法人による会計監査が本格的に開始されるため、会計方針の明確化や社内規程の整備・運用も並行して進める必要があります。
1期前の申請準備段階
IPO申請の直前期では、申請書類の作成と内部管理体制の最終調整が中心となります。この時期に実施すべき主要な業務は以下の通りです。
- 取締役会運営、労務管理、会計管理等の運用体制の完成
- 上場申請書類および投資家向け説明資料の作成
- 監査法人による適正意見の再取得
申請書類の作成準備や印刷会社との契約なども、この段階で進める必要があります。
申請年度の最終段階
IPO申請年度では、実際の申請手続と審査対応が主要な業務となります。この期間における具体的な取り組みは以下の通りです。
- 申請書類一式の最終完成
- 証券取引所への正式な上場申請
- 取引所による上場審査への対応(審査期間は約2〜3ヶ月)
- 現地調査や経営陣ヒアリングへの対応
証券取引所から上場承認を得ることができれば、IPOが実現します。
東京証券取引所の市場区分
東京証券取引所では、かつては「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「JASDAQ」という4つの市場区分が存在していました。しかし、これらの市場区分には各市場のコンセプトが曖昧であるという課題がありました。このような問題を解決するため、2022年4月4日に市場区分の大幅な見直しが実施され、以下の3つの新しい市場区分が開始されました。
- プライム市場
- スタンダード市場
- グロース市場
各市場のコンセプトと特徴について紹介します。
プライム市場
プライム市場は、グローバルな投資家との建設的な対話を重視する企業向けの市場として位置づけられています。従来の東証第一部に相当し、3つの市場区分の中で最も厳格な上場基準が設定されています。主要な上場要件の概要は以下の通りです。
- 株主数:800人以上
- 流通株式時価総額:100億円以上
- 収益基盤:売上高100億円以上、最近2年間の利益合計25億円以上、純資産50億円以上など
スタンダード市場
スタンダード市場は、公開市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場です。従来の東証第二部とJASDAQを統合した位置づけとなっており、上場基準はプライム市場に次いで厳しく設定されています。主要な上場要件は以下の通りです。
- 株主数:400人以上
- 流通株式時価総額:10億円以上
- 収益基盤:最近1年間の利益1億円以上、純資産額がプラス(正の値)
プライム市場と比較すると要件は緩和されていますが、多くの中小企業にとって全ての条件をクリアすることは容易ではありません。
グロース市場
グロース市場は、高い成長可能性を有する企業向けの市場として設計されています。従来のマザーズ市場に相当し、3つの市場区分の中で最も上場基準が緩和されています6。そのため、中小企業がIPOを目指す場合、グロース市場が最も現実的な選択肢となります。
グロース市場の上場基準
グロース市場への上場を実現するためには、「形式要件」と「実質審査基準」の2つの基準を満たす必要があります。
形式要件
形式要件は、株主数や流通株式時価総額などの数値で明確に定められた定量的な基準です。グロース市場の主要な形式要件は以下の通りです。
- 株主数:150人以上
- 流通株式数:1,000単位以上
- 流通株式時価総額:5億円以上
- 流通株式比率:25%以上
- 事業継続年数:1年以上
これらの基準は、他の市場区分と比較して最も緩和された水準となっています。
実質審査基準
実質審査基準は、企業が上場企業として適切かどうかを総合的に判断するための基準です。具体的には、以下の5つの項目で構成されています。
- 企業内容、リスク情報等の開示に関する適切性
- 企業経営の健全性
- コーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 事業計画の合理性
- その他、公益や投資家保護の観点から必要と認める事項
特にグロース市場では、事業計画の合理性が重要な評価要素となっており、高い成長可能性を有していることについて主幹事証券会社の見解が求められます。
M&AとIPOの違いのまとめ
自社を伸ばすか手放すか──IPOとM&Aは、どちらもオーナー経営者の人生観や会社の存在意義を映し出す鏡です。大規模資金と社会的信用を追求するIPO、確実な資金回収と経営責任の解放を実現するM&A。それぞれの長所と短所を多角的に比較し、事業の将来像と自身のライフプランに照らして最良の航路を選びましょう。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年7月6日IPOとM&Aを比較!メリット・デメリットの違い・どちらを選ぶ?
2025年7月6日M&A案件(相手方)の探し方|仲介会社・銀行・税理士など
2025年7月5日M&Aで行われる調査|目的・プロセス毎の調査項目・成功ポイント
2025年7月5日M&Aでの銀行の役割は?助言・融資・モニタリング、仲介との違い