M&A会社に支払う手数料には、いくつかの種類があります。着手金や中間金、月額費用などです。本記事では、そのなかでも「成功報酬」、「完全成功報酬」と呼ばれる手数料体系について解説します。
成功報酬とは
一般に、成功報酬とは、相談者から委託された目的を達成して始めて発生する報酬をいいます。M&Aの場合は、譲渡契約を締結したり、譲渡が実行されたりしてはじめて生じる手数料を成功報酬といいます。
成功報酬という用語に厳密な定義はないため、着手金や月額報酬は生じないものの、基本合意段階で中間金(想定される成功報酬の10%など)が生じ、その後成約・譲渡実行した際に残金を請求する手数料体系を採用しているような場合も含めて、成功報酬と呼ぶこともあります。「完全」成功報酬との違いについて、よく理解をすることが必要です。
M&Aにおける「完全」成功報酬とは
M&Aの完全成功報酬とは、M&A取引において、一般的になってきた料金体系のひとつです。この料金体系では、M&A仲介会社に対して着手金や中間金などの手数料は支払わず、M&Aが成立した時点で初めて報酬が発生します。M&Aが成約しなかった場合には手数料を支払う必要がないため、多くの企業や譲渡オーナーが魅力を感じ、完全成功報酬制を採用するM&A仲介会社が増加しています。
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完全成功報酬制のメリット・デメリット
いわゆる「完全」成功報酬制を、途中経過の費用が生じる通常の成功報酬制と比べた場合のメリットとデメリットを紹介します。完全成功報酬制は、特に初期費用を抑えたい際に魅力的な選択肢となります。
メリット
最初にメリットです。
費用負担の軽減
完全成功報酬制では、M&Aが成約するまで手数料が発生しません。これにより、以下のメリットがあります:
- M&Aの交渉中にかかる費用負担がない
- 万一、不成立となっても出費がない
会社を売却すると決心したわけでなく選択肢の一つという場合、また最後まで譲渡の可否判断を留保したい場合、などにおいては、完全成功報酬を採用しているM&A仲介会社に依頼するのがベターです。
透明性と予測可能性
M&A仲介会社は、M&Aが成約しないと手数料を得られない報酬体系のため、成約の可能性が殆どない場合は、そもそもアドバイザリー契約を受託しません。なお、M&A仲介会社の中には、契約を受託しつつも、早々に放置する会社がありますので、注意が必要です。
成約確度が高まる
完全成功報酬制の場合、成約しなければM&A仲介会社は手数料を受け取れません。そのため、担当者も成約を目指して積極的なマッチングを行うことが期待できるでしょう。ひとたび企業譲渡を決心したからには、必ず良いお相手と成約したい、それもできるだけ早期に、という場合には、完全成功報酬制のM&A仲介会社が適していると言えるでしょう。
デメリット
次に、完全成功報酬制のデメリットです。
進行が遅延するリスク
M&A仲介会社からすれば、完全成功報酬制では成約しなければ手数料が得られないため、担当者が取り組む案件に優先順位を付けることがあります。成約の望みが薄い場合は、後回しにされる可能性がある、ということです。
最低報酬が高額になるリスク
通常の成功報酬制であれ、完全成功報酬制であれ、最低報酬が設定されることは一般的です。金額感は、500万円~2,500万円の間で、1,000万円や2,000万円とするM&A仲介会社が多いです。完全成功報酬制の場合、途中費用が生じない分、最低報酬金額が大きくなっている可能性があります。また、想定譲渡価格が大きくないにも拘わらず、最低報酬金額の値下げ交渉に応じないM&A仲介会社もあります。
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M&A手数料の全体像
M&A仲介会社への手数料は、以下のように幾つかの種類が存在します。これらのうち、最後の「成功報酬」だけが生じる手数料体系が「完全」成功報酬制です。
相談料
相談料は、M&A仲介会社と正式な業務委託契約を締結する前に発生する費用です。多くのM&A仲介会社が事前相談を無料で行っているため、相談料がかかることはほとんどありません。極一部のFA(ファイナンシャルアドバイザー)や経営コンサルタント、弁護士にM&Aの相談を依頼した場合には、相談料が発生することがある程度です。
着手金
着手金は、M&A仲介会社と業務委託契約を結んだ際に支払われる費用です。近年、多くのM&A仲介会社が着手金を無料としており、着手金が必要なケースは少なくなっています。着手金が発生する場合の相場目安は、100万円から200万円程度です。なお、M&Aが不成立に終わっても、着手金は返金されないことが一般的です。
リテイナーフィー
M&A仲介手数料のリテイナーフィー(月額報酬)は、顧問料やアドバイス料といったもので、M&A仲介会社と業務委託契約を締結した後、成約まで毎月請求される費用です。ただし、現状ではリテイナーフィーを設定しているM&A仲介会社はほとんどありません。リテイナーフィーが設定されている場合の相場目安は、毎月50万円~100万円程度で、成功報酬からリテイナーフィー分を減額する会社もあります。
中間金
中間報酬は、M&Aの譲渡側と譲受側が交渉の大筋で合意し、譲受側からの意向表明が譲渡側に受理された時点、又は基本合意を交わした時点で請求されること多い費目です。中間報酬を請求するM&A仲介会社と、無料でサービス提供を行うM&A仲介会社に分かれます。中間報酬が必要な場合、相場目安は50万円から200万円程度、または成功報酬の前払い分として成功報酬の10%から20%相当分となります。
M&Aが不成立に終わった場合でも、中間報酬は返金されません。また、意向表明書・基本合意書には法的拘束力はなく、この時点ではM&Aの成立が確定していないことから、十分な注意が必要です。また、成功報酬の内金になるかどうかの確認も必要です。
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デューデリジェンス費用
デューデリジェンスとは、一般的に譲受側が譲渡側企業に対して行う詳細な調査のことで、それにかかる費用がデューデリジェンス費用です。譲受側が費用を負担します。デューデリジェンス費用の相場目安は、50万円~300万円程度で、士業などの専門家に依頼します。デューデリジェンス費用は報酬として支払われるため、他のM&A仲介手数料とは異なります。譲渡側においては、譲受側からの質問事項など自社で対応できない内容を顧問税理士に依頼する場合などは費用が発生するケースもありえます。
なお、デューデリジェンス費用は、M&Aが不成立に終わっても返金されないことに注意しておく必要があります。
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成功報酬
M&Aにおいて、成功報酬とは、成約時に支払われる費用のことで多くのM&A仲介会社では、レーマン方式という方法を使い成功報酬の金額を決定しています。成功報酬の相場目安は、M&Aの取引価額の3%~5%程度です。(別途、最低報酬が設定されることが一般的です。)
以下では、レーマン方式の詳細や計算方法、相場目安について順を追って説明していきます。
レーマン方式とは
レーマン方式とは、成功報酬を計算する際に用いられる基準額を、いくつかの金額帯に分割し、それぞれの金額帯に対して異なる手数料率を設定し、その合計額を総費用とする方法です。多くのM&A仲介会社がこのレーマン方式を採用しており、一般的な金額帯と手数料率は以下の通りです。
レーマン方式による計算例を示します。ここでは、成功報酬基準額を120億円と仮定します。
- 5億円までの金額帯:5億円×5%=2,500万円
- 5億円超~10億円までの金額帯:5億円×4%=2,000万円
- 10億円超~50億円までの金額帯:40億円×3%=1億2,000万円
- 50億円超~100億円までの金額帯:50億円×2%=1億円
- 100億円超~120億円までの金額帯:20億円×1%=2,000万円
これらの金額を合計すると、成功報酬額は2億8,500万円となります。
レーマン方式は、成功報酬を計算する基準額がM&A仲介会社によって異なることがあります。そのため、手数料率が同じ設定でも基準額が高ければ、成功報酬の相場目安も高くなることに注意が必要です。一般的に、M&A仲介会社が採用している成功報酬の基準額は以下の4種類のいずれかとなっています。
- 譲渡価額(株式価値):最も低い成功報酬額が算出される設定
- オーナー受取額:株式価値+会社への役員貸付の返済分+役員退職金
- 企業価値:株式価値+有利子負債総額
- 移動総資産:株式価値+負債総額
これらの設定の中で、下に行くほど報酬算出基準額が高くなり、成功報酬額も高くなります。そのため、M&A仲介会社と契約する際には、成功報酬の計算方法を確認することが重要です。
▷関連:M&Aの成功報酬の計算方法は?「レーマン方式」について解説
最低報酬の設定がある
M&A仲介会社は、それぞれ異なる基準に基づいて最低報酬を設定することがあります。最低報酬が適用される場合、成功報酬額はレーマン方式での計算結果と最低報酬のうち、高い方が適用されます。主な目的は、M&Aの規模が小さい場合に、仲介会社が赤字に陥るリスクを抑えるためです。
最低報酬の相場は次の通りです。
- 小規模会社専門のM&A仲介会社:300万円~600万円程度
- 小規模のM&A仲介会社:1,000万円程度
- 中堅、大手のM&A仲介会社:2,000~2,500万円程度
事前に最低報酬制度の有無や金額を確認しておくことが重要です。
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M&A会社に支払う報酬相場
M&Aの手数料は、各仲介会社が独自に設定しており非公表のことも多いので、相場が把握しにくい部分もあります。しかし、一般的には、各手数料の相場はおおよそ下表に示した額だといわれています。
M&A関係の費用相場
相談料 | ゼロ~10万円程度/1回 |
着手金 | 中小規模案件: ゼロ~100万円程度 大規模案件: 100万円~300百万円程度 |
中間金 | 想定される成功報酬の5%~20%程度(またはゼロ~300万円程度) |
月額報酬 | ゼロ~100万円程度/月額 |
デューデリジェンス費用 | 100万円~1,000万円程度が多い(譲受側が負担) |
成功報酬 | 取引金額の3%~5%程度(レーマン方式) 最低報酬は500万円~2,500万円程度 |
M&A会社への支払手数料は経費(損金)になる?
M&A仲介会社に支払う成功報酬の税務上の取り扱いは、譲渡側(個人を想定)と譲受側(法人を想定)で異なります。
売主の場合
売主が個人の場合、M&A仲介会社に支払う手数料(成功報酬を含む)は譲渡経費として扱われます。したがって、株式譲渡益の計算上、株式の譲渡収入から控除し、その残額(譲渡所得)に税率(20.315%)を乗じたものが税金になります。
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買主の場合
買主が法人の場合、M&A仲介会社に支払う手数料の税務上の取り扱いは、M&Aのスキームによって異なります。
株式譲渡
中間金と成功報酬は、損金算入できず、株式の取得原価(資産)になります。着手金は損金になります。M&Aが不成立となった場合は、すべての手数料が損金になります。
デューデリジェンス費用は、原則として資産計上しますが、買収の意思決定前に発生した部分があれば損金になります。
以上が原則ですが、税務上の取り扱いは複雑で、個々の状況によって異なる可能性があるため、具体的なケースについては税理士や公認会計士に相談することをおすすめします。
事業譲渡、吸収合併
成功報酬を含むすべての手数料が損金に算入されます。
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M&A仲介会社の概要
国内のM&Aの大部分をサポートしているM&A会社の業態がM&A仲介会社です。以下では、そのM&A仲介会社の概要を説明します。
利用するメリット・デメリット
M&A仲介会社に相談する主なメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
主なメリットです。
取引金額・条件の妥当性確保
M&A取引では、それぞれの当事者にとって割高・割安での譲渡を避けることが最も重要です。M&A仲介会社は過去の取引事例などを参考にして妥当な金額を試算し、双方に適切なアドバイスを提供しています。自身で相手先を探す場合は情報が少ないため、交渉先数が少なくそれに伴い取引条件が厳しくなることが多いでしょう。M&A仲介会社に依頼する事で、交渉先を増やし有利な条件で交渉が出来るメリットがあります。
工数削減
M&Aの完了までには数ヶ月~1年程度の期間が必要で、経営者自らがM&Aに取り組むことは時間的制約を考えると現実的ではありません。M&A仲介会社に依頼することで、M&Aに関する業務の大部分を委託でき、自らは経営に集中することができます。仲介会社の豊富なノウハウと知見により、効率的にM&Aプロジェクトを進めることで、結果的にM&Aの成功確率が向上します。
トラブル回避
M&Aの進行過程でトラブルが発生した場合、M&A仲介会社が間に入ることで自社が被るリスクを抑えることができます。また、トラブルの際に、直接交渉をすることは中々難しいものです。その点、仲介会社は仲裁役としての機能も期待できるため、トラブルが発生した際の対応においてもメリットはあります。
デメリット
M&A仲介会社を利用することには以下のようなデメリットも存在します。
利益相反するアドバイス
当事者双方にそれぞれアドバイスを行うM&A仲介会社では、取引が成立しなければ成功報酬が発生しないため、取引成立に向けた強いインセンティブが働くことがあります。これにより、提供されるアドバイスが利益相反を引き起こす可能性は否定できません。
着手金や中間金が返金されない
M&Aが成立しなかった場合、支払った着手金や中間金は返金されません。そのため、途中でM&Aをストップしたケースでは、支払った費用が無駄になります。M&A仲介会社に依頼する場合は、事前に、途中で中断する可能性の有無を検討してください。依頼者側の事情でストップした場合ならまだしも、M&A仲介会社側の実力不足により交渉が進まないケースも考えられ、着手金や中間金の発生するM&A仲介会社への依頼は十二分に注意が必要です。
手数料が高額
M&A仲介会社やFA会社の手数料は譲受価格の5%程度が必要で、さらに相談料、着手金、中間金、リテイナーフィーがかかることもあります。小規模な会社の譲渡の検討において、手数料を節約したい場合は、M&Aプラットフォームを利用することをお勧めします。特に譲渡オーナーにとっては、手数料無料のM&Aプラットフォームを利用することで、M&A仲介会社を利用した場合よりも譲渡手取額を増やすことができます。この観点からは、M&Aプラットフォームの利用が経済的な選択肢と言えます。
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M&A仲介会社の選び方
M&A仲介会社選びのポイントを紹介します。様々な視点がありますが、ここでは以下の4つを紹介します。
契約タイプ
M&A仲介会社との業務委託契約は、「仲介タイプ」と「アドバイザリータイプ」の2つのタイプが存在します。
仲介タイプは、M&A仲介会社が譲渡側・譲受側双方と契約し、両者の間を取り持つスタイルです。短期間でM&Aが成立しやすいとされますが、条件面での妥協が求められることがあるかもしれません。
一方、アドバイザリータイプは、いわゆるFA(ファイナンシャル・アドバイザー)で、M&A仲介会社がどちらか一方の当事者とのみ契約し、クライアントの利益を最優先して交渉を行います。妥協せずに理想的な条件でM&Aが成立する可能性は高まりますが、交渉が長引くこともあります。
どちらのタイプが適切かは、自社の状況を考慮して判断しましょう。
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実績の確認
M&A仲介会社選びにおいて、実績チェックは重要です。チェックすべき実績は以下の3つです。
- 担当してきたM&Aの規模
- 担当してきたM&Aの業種
- 担当してきたM&Aの地域
これらの実績を踏まえて、自社に合ったM&A仲介会社を選びましょう。また担当者がM&A業務においてどこまで経験があるかも重要です。分業制の会社の場合、担当者が実務の詳細を理解しておらず、マッチング後に難航するケースなど注意が必要です。概ね、M&A業務従事年数に比例するといえます。
得意業種の確認
M&A仲介会社には、特定業種に特化した会社や、いくつかの業種を得意とする会社があります。自社の業種で実績がある会社を選ぶことで、スムーズな取引が期待できます。一方で、会社単位で業種特化型の場合、交渉相手先として異業種の紹介ができないなど、選択肢の幅を狭めてしまうこともあり注意が必要です。
完全成功報酬制
仲介手数料に不安がある場合、完全成功報酬制のM&A仲介会社を選ぶことがおすすめです。ただし、完全成功報酬制だけで選ぶのではなく、成功報酬の計算方法にも注目しましょう。報酬算出基準額と手数料率の設定が適切であることが重要です。
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M&Aにおける完全成功報酬のまとめ
完全成功報酬制は、成功報酬以外全て無料のわかりやすい料金体系です。コスト面では有利ですが、やる気のない会社が交渉してくるおそれがあるといったデメリットが発生することもあります。各料金体系のメリット・デメリットを見比べて、完全成功報酬制にすべきか判断しましょう。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
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国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人
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