近年は医療法人も、後継者問題などを抱えるケースが増えています。後継者問題を解決する方法の一環として、M&Aが実施されることも多いです。本記事では医療法人のM&Aの基本や特徴、実施時のポイントや注意点を解説します。M&Aを検討しているのなら、医療法人ならではの特徴を確認してみてください
医療法人M&Aとは
「医療法人M&A」の基本を理解することが、医療法人の譲受・譲渡を実践する際のポイントです。以下では、医療法人M&Aの基本について解説します。
医療法人が実施する持分譲渡・事業譲渡・合併
医療法人M&Aとは、その名の通り医療法人が実施するM&Aのことを指します。一般企業ではなく医療法人も、M&Aによる持ち分譲渡や合併、事業譲渡を実施するケースがあります。医療法人が抱える事業上の問題を、M&Aの仕組みが解決するケースも珍しくありません。今後も医療法人M&Aは増加していくでしょう。
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医療法人が抱える後継者問題
医療法人M&Aの増加には、医療法人が抱える後継者問題が関係しています。以下では、医療法人の後継者問題について解説します。
医療法人も後継者問題に悩まされるケースが増えている
昨今は、医療法人において理事長の高齢化や医療費削減などの影響によって、医療法人も後継者問題に悩まされるケースが増えています。帝国データバンクが実施した2020年11月のデータによると、医療法人(病院・医療)の後継者不在率は全国で73.6%です。これは全業種の平均である65.1%よりも、高い数値になっています。今後も経営者がより高齢化していくと、閉院する医療法人が増加する可能性も懸念されます。
医療法人の事業承継が進まない理由
医療法人の事業承継が進まない理由には、承継の難しさが1つの理由となっています。医療法人の理事長になるには、医師や歯科医師の資格が必要です。医療に携わっていない人が承継に興味を持っても、事業を引き継げる資格がないため断念せざるを得ません。そのため一般企業のM&Aと比較して、承継者が少ない点が医療法人の課題となっています。
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医療法人M&Aと一般的なM&Aの違い
医療法人M&Aは、一般的なM&Aと比較してさまざまな違いがあります。以下では、医療法人M&Aにおける違いを解説します。
医療法人M&Aでは株式交換や株式移転などの手法がない
医療法人M&Aは、株式交換や株式移転などの手法で事業承継ができません。そのため一般的なM&Aと比較して、手段が限定されてしまいます。M&Aにおける自由度の低さは、医療法人M&Aと一般的なM&Aの大きな違いです。
医療に関する専門知識などが求められる
医療法人M&Aには、医療関係の専門知識が必要になります。仮に医療法人を譲受しても、企業に医療関係の知識がなければ、承継した事業やノウハウを活用できない可能性があります。M&Aの譲受側にとって、医療法人との交渉には一種のリスクが含まれる形になります。結果的に医療法人M&Aに参入できる企業の数は減少し、成約に至れないケースが増えてしまいます。
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医療法人のM&A手法
医療法人M&Aの際には、いくつかのスキーム(手法)があります。以下では、医療法人M&Aにおけるスキーム(手法)の詳細を解説します。
経営権の承継
医療法人の経営権を移転する方法として、現在の経営陣が退任し、新たな経営者が就任するという手法があります。具体的には、譲渡側のM&Aを機に勇退する予定の理事・役員・社員・評議員が退任し、代わりに譲受側の人材がそれらの役職に就くことで、実質的に経営権がバトンタッチされます。旧経営陣への譲渡対価は、役員退職慰労金として支給することになります。
この方法は、医療法人の形態・種類(社団医療法人か財団医療法人か、持分の有無など)を問わず利用できる柔軟性の高い手法といえるでしょう。他のM&A手法に比べ、概して手続が簡便である点もメリットです。保育園などの社会福祉法人でも同様のM&A手法が採用されることがあります。
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事業譲渡
医療法人の事業の全部又は一部を譲渡する方法です。事業譲渡の際には地域医療構想との関係を考慮し、地域医療構想調整会議が必要になります。
医療法人の事業譲渡の際には、様々な権利義務が譲渡の対象となります。まず、医療法人が所有する医療機器や薬品、空調・給排水設備などです。また、リース物件についても、買い手がリース契約を引き継ぐか、売り手がリース残債を支払って所有権を取得してから譲渡します。医療法人の名称や商標、知的財産権、医薬品や医療材料の卸売業者との取引契約、患者カルテなどの営業上の情報や、自由診療の継続治療契約も譲渡対象となります。医療法人の建物や土地の所有権、賃借権なども譲渡対象とすることがありますが、譲渡対象に含めずにM&A後は賃貸借とすることもあります。
職員の雇用に関しては、原則として、売り手のもとでスタッフがいったん退職して買い手と雇用約されます。退職金に関する債務も、売却時に精算せずに退職金受給権や勤続年数も含めて雇用を引き継ぐ場合があります。
以上につき、取引先、職員、患者、不動産の貸主などの第三者との契約を承継する場合は、契約の相手方の同意が必要です。また、不動産や知的財産権などを引き継ぐ際には登記を行う必要があります。
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持分譲渡
譲渡側の医療法人の持ち分譲渡や、社員株主の入社・退社を併せて実施する方法です。医療法人社団のM&Aでのみ可能とされる方法で、医療法人における出資持分には経営権がともなわないため、持分譲渡のみでM&Aは完了しない点には注意が必要です。総社員の過半数が社員総会に出席し、出席者の過半数が医療法人社団の役員選任・解任に賛成することで、経営権を取得できます。定款の変更、役員の除名、解散の決議などは、総社員の2/3以上の出席と、出席者の2/3以上の賛成が必要です。また、 持ち分譲渡ができる医療法人は、平成24年3月末までに設立されたいわゆる「旧法での医療法人」に限定されます。
医療法人は、社団医療法人と財団医療法人の2つに大別されます。このうち社団医療法人は、議決権を持つ社員によって構成されるため最高意思決定機関は社員総会であり、理事会が日々の運営を担当します。一方、財団医療法人は、寄附された資金をもとに設立され、外部の医療専門家や有識者で構成される評議員会の監督下で理事会が運営を行います。
また、社団医療法人は、「持分あり」と「持分なし」の法人に区分されます。「持分あり」社団医療法人は、持分を出資した社員で構成される医療法人ということになります。持分は、株式会社の株式に似ていますが、出資額に関係なく1人1票の議決権があり、剰余金の配当は行われません。社員が退社(退任)する際には、出資比率に応じて法人財産の払い戻しを受ける権利があります。持分を譲渡すると、社員としての議決権も一緒に移ります。
持分譲渡によるM&Aは、この「持分あり」社団医療法人の持分を、譲受側に譲渡する手法になります。持分譲渡によって過半数の議決権を取得すれば、理事の選任や解任を通じて医療法人の経営を実質的に支配することができます。この手法では以下の点に留意が必要です。
- 持分譲渡のみではM&Aは完了しません。その後、総社員の過半数が社員総会に出席し、出席者の過半数が理事の選任・退任に賛成することで、理事会を支配(経営権を取得)できます。
- 持分譲渡ができる医療法人は、2012年3月末までに設立された、いわゆる「旧法での医療法人」に限られます。現在の法制度では、新たに「持分あり」社団医療法人を設立することはできません。
吸収合併
吸収合併とは、複数の医療法人を合併するM&Aの方法です。1つの法人がそのまま存続しつつ、もう一方の法人が解散手続きを取らずに消滅する形で、存続企業と合併します。医療法人M&Aでは主に吸収合併が実施され、コスト(費用)の合理化やスムーズな人材配置、病床の移動(同一医療圏の場合)などを行います。
全社員の合意(財団医療法人では理事の3分の2以上の合意)や都道府県知事による認可、債権者保護手続(合併に異議のある債権者への対応)、合併登記などの手続が必要になります。
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医療法人M&Aのメリット
医療法人M&Aには、一般的なM&Aとは異なるメリットがあります。以下では、医療法人M&Aにおけるメリットを解説します。
後継者問題の解決と従業員の雇用維持が可能
M&Aにおける譲渡側には、後継者問題の解決と従業員の雇用維持が可能な点がメリットです。医療法人は多くの従業員を抱えていることも多いため、M&A後の雇用状況にも気を配る必要があります。従業員の雇用継続を条件にして、M&Aを実施するケースも検討されます。
患者を継続して診療できる
M&Aにおける譲渡側には、既存の患者を継続的に診療できる点がメリットです。患者の中には高齢者も多く、中々他の医療法人で診療を受けることができない方も存在します。そういった方に対しても継続的に診療をすることで、地域の患者へ迷惑をかけないことを目的として、M&Aを実施するケースも検討されます。
医師や看護師などの人材確保
M&Aの譲受側にとっては、医師や看護師といった専門的な人材を確保できる点がメリットです。人手不足に悩む医療法人が、M&Aを通して事業と人材を確保するケースもあります。また、医療法人同士によるM&Aでは、病床増加も可能です。受け入れられる患者数の増加が見込めれば、さらなる収益の確保にも期待できます。
医療法人M&Aの注意点
医療法人M&Aには、いくつかの注意点があります。以下を参考に、医療法人M&Aで注意すべきポイントを把握しておきましょう。
非営利性の確保が必須
医療法人のM&Aにおいては、非営利性の確保が必須です。非営利性が確保されている場合に限って、営利法人は出資や持分の買い取りが可能となります。剰余金の配当は禁止されているため、事前に注意が必要です。また、M&Aのために都道府県知事の許可を取る際に、営利目的の医療施設を開設することも不可能となっています。
長期的なスケジュールでM&Aを実施する
医療法人M&Aでは、長期的なスケジュールが求められるケースが多いです。例えば合併の場合には、行政への事前相談や医療審議会での書類提出、債権者保護などといった多くの手間と時間がかかります。成約に至るまでのスケジュールは余裕を持って確保し、焦らずにM&Aを進められる準備が必要です。
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医療法人の譲渡価格の相場
医療法人の譲渡価格は、一般に、時価ベースの純資産(資産と負債の差額)に「のれん代」を加えた金額として算出されます。医療法人のM&Aにおいては、譲渡前に存在していたすべての資産と負債を引き継ぐことが多いため、純資産を譲渡価格の基礎とすることは、直感的にも理解しやすいのではないでしょうか。
「のれん代」部分の算定は、ケースバイケースになります。一般に、例えば以下のような要素を考慮に入れつつ、(正常)営業利益の3~5年分を見込みます。ただし、医療法人であってもクリニックに近い事業規模の場合は、特定のドクターへの依存度が過度に高くなるため、(正常)営業利益の1~3年分を見込むことが妥当である可能性があります。
- 医療法人の地域での知名度・評判
- 優秀な医療スタッフの存在
- 効率的な医療・経営システム
- 特殊な医療技術や設備
- 地域医療連携の進行度
また、財務面、労務面、法務面における各種リスク評価も譲渡価格に反映させる必要があり、通常はマイナス要因として考慮されます。具体的なリスクの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 財務リスク:簿外債務、税務上の問題など
- 労務リスク:労働環境の問題、未払い残業代の存在など
- 法務リスク:係争中の医療訴訟、コンプライアンス違反など
これらの要素を総合的に評価し、適切に譲渡価格に反映させることで、より適正で現実的な価格設定が可能となります。医療法人の譲渡においては、決算書上の数字だけでなく、これらの見えにくい要素も含めて慎重に検討することが重要です。
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医療法人M&Aを進めるポイント
医療法人M&Aを進める際には、いくつかのポイントがあります。以下では、医療法人M&Aの計画時にチェックすべき項目を紹介します。
監督省庁の許認可を取得する
医療法人M&Aの際には、監督省庁の許認可が必要です。医療法人の種類ごとに監督省庁が変わり、手続き内容も異なるため、事前に詳細を確認しておく必要があります。例えば保健所に開設届を提出したり、都道府県に定款変更や役員変更の届出をしたりと、さまざまな対応が求められます。
営利企業が医療法人を買収する際には、会社の意思を伝える人材の派遣が必要
営利企業が医療法人を買収する際には、会社の意思を伝える人材の派遣が必要です。原則として営利企業は、法人として医療法人の社員・役員にはなれません。そのため会社の意思を代弁する人材を派遣し、経営をコントロールする必要があります。
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医療法人M&Aも「みつきコンサルティング」にお任せ
医療法人M&Aを計画する際には、「みつきコンサルティング」にぜひご依頼ください。
「みつきコンサルティング」では専任コンサルタントによるサポートが受けられる
「みつきコンサルティング」は、税理士や会計士が多数在籍している、税理士法人系のM&A仲介会社です。税理士や会計士といった財務のプロが、企業診断や財務分析を通して企業価値を算定し、最適な売却価格と方法を提案します。専任のコンサルタントがM&Aの初期からクロージング(成約)までを、トータルでサポート可能です。医療法人M&Aだけでなく、一般的なM&Aにお困りの際にも、ぜひ「みつきコンサルティング」にご相談ください。
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医療法人M&Aのまとめ
医療法人M&Aには、一般的なM&Aとさまざまな違いがあります。多くの制約があるため、詳細を確認した上でM&Aに臨む必要があるでしょう。M&Aには専門的な知識が求められるため、仲介会社などを活用する方法がおすすめです。この機会に実績のあるM&A仲介会社に、依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
「みつきコンサルティング」は、M&Aの成約率が80%以上の実績を誇る仲介会社です。完全成功報酬型となっているため、成約するまでコスト(費用)はかかりません。お気軽にM&Aに関する支援をご検討いただけるので、ぜひこの機会に「みつきコンサルティング」へお問い合わせください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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