製薬会社・医薬品業界の外部環境|売主・買主のM&Aの目的と事例

製薬会社・医薬品業界は、約10兆9,394億円もの規模を誇る、大きな市場です。この市場においては、近年M&Aが活発化しています。この記事では、製薬会社・医薬品業界について、市場規模や、業界を取り巻く状況、M&Aの動向などについて解説します。

製薬・医薬品業界とは

製薬会社は、医薬品の製造を事業としている会社です。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に基づいて、厚生労働大臣からの許可を得て営業しています。また、医薬品業界とは、製薬会社含め、新薬の研究・開発や効果の確認、販売などに携わる業界全般を指します。

製薬・医薬品業界の主な特徴

市場で販売される医薬品の90%以上が、医療用医薬品です。また、新たに開発された医薬品は、特許権により保護され製造・販売の独占が可能です。医療用医薬品は、新薬とジェネリック医薬品の2つに分けられます。

ジェネリック医薬品は、特許期間が過ぎた新薬と同様の成分で作られた、安価な医薬品を指します。一方、新薬の開発は、9年から17年にも及ぶ研究開発期間、数百億円単位の莫大な費用が必要です。そのため、大手製薬メーカーでなければ開発は容易ではありません。近年では、膨らむ医療費を抑制すべく、政府がジェネリック医薬品の積極的な利用を推進しています。

「医療用医薬品」と「一般医薬品」の違い

ここでは、医療用医薬品と一般医薬品の違いについて解説します。

医療用医薬品とは

医療用医薬品とは、処方せんがないと入手できない医薬品です。医療用医薬品は効き目が強い反面、副作用のリスクもあるため、処方せんなしでは受け取れないというルールが定められています。

処方せんは、医師が患者を診察して、病状の治療・回復のために薬を選定し、服用・投与方法などを記して発行するものです。処方せんを調剤薬局に提出することで、医療用医薬品を受け取れます。また、医療用医薬品の価格は薬価制度により定められており、製薬会社が価格を決めることはできません。

一般医薬品とは

一般医薬品とは、処方せんなしで入手できる医薬品です。一般的には、市販薬と呼ばれています。一般医薬品は、第1類医薬品・第2類医薬品・第3類医薬品の、3段階に分類されているのもポイントです。一般医薬品の価格は、医療用医薬品とは異なり、製薬会社が自由に設定できます。

製薬・医薬品業界の市場規模

IQVIAによる2022年(1~12月)における日本の医薬品市場は、約10兆9,394億円と、10兆円を超える規模です。世界的にみても、重要な市場といえるでしょう。日本の医薬品市場は、今後も大きくなっていく見込みです。

しかし、現在の日本では、超高齢化による医療費の高騰傾向が懸念事項で、国による薬価引き下げ政策が行われています。そのため、今後の国内売上高は、減少する可能性もあるでしょう。

製薬・医薬品会社を取り巻く状況

ここでは、製薬会社・医薬品製造業界が、どのような状況であるかについて解説します。

ジェネリック医薬品の使用が広がっている

現在の日本では、医療費抑制のために、政府の主導でジェネリック医薬品の使用が推進されています。厚生労働省は、ジェネリック医薬品の使用割合を、2023年度末までに80%とする目標を掲げました。2022年(令和4年)9月に行われた薬価調査では、79.0%を達成しています。

薬価改定により市場成長が鈍化している

医薬品の需要が伸びている主な原因は、高齢化です。政府は、高齢化による医療費の増大を懸念して、薬価引き下げの政策を進めています。また、薬価改定は2年に一度行われていましたが、2021年度以降は毎年実施されるようになりました。医療費の抑制推進によって、医薬品市場の成長は鈍化しています。

海外進出と競争が激化している

薬価改定による市場成長の鈍化を懸念し、海外進出する製薬会社が増えています。そのため、国際的な競争の激化や、業界再編の活発化の傾向がみられるようになりました。国内メーカーにおいては、自社の注力分野から外れる分野を、譲渡するといった動きも進んでいます。今後も業界再編の動きは活発化していくでしょう。

製薬・医薬品会社におけるM&Aの動向

コスト(費用)抑制のため、他社の人材や設備を獲得しようとする動きが活発化しています。新薬開発は期間や費用がかかり、ハードルが高い点も、このような動きの理由といえるでしょう。海外進出の足掛かりを目的とした、海外企業のM&Aも増えています。

製薬・医薬品会社におけるM&Aの目的

ここでは、製薬会社・医薬品業界におけるM&Aの目的について解説します。

譲渡側におけるM&Aの目的

譲渡側におけるM&Aのメリットは、大手企業の資本で研究開発できる点です。M&Aを通じて小規模な製薬会社が、大手企業の資本とリソースを活用することで、研究開発に関わる資金的な制約が大幅に緩和されます。革新的な医薬品の開発や研究プロジェクトの拡張ができると、企業の成長と技術革新が促進されるでしょう。

また、後継者問題を解決できる点もメリットの1つです。特に中小企業においては、経営者の後継者不足が深刻な問題となっています。後継者の確保に関する悩みをM&Aで解消し、事業の継続性を保てるでしょう。同時に、従業員の雇用安定や企業文化の維持にも貢献します。

譲受側におけるM&Aの目的

譲受側におけるM&Aのメリットは、優秀な研究員や施設を獲得できる点です。M&Aにより優秀な研究員や先進的な研究施設を獲得することで、新薬開発の速度と効率が向上し、研究分野の多様化が進みます。また、既存の知識と技術の組み合わせにより、革新的な成果を生み出す可能性も高まるでしょう。

また、新たな市場を獲得できるというメリットもあります。M&Aは、製薬会社にとって新しい地域市場や特定の治療領域にアクセスする手段の1つです。製品の販売ネットワークを拡大し、新しい顧客層へのアプローチも可能になるでしょう。

さらに、M&Aによって新規業界参入のハードルも下がります。M&Aによって、即座に業界知識や研究開発能力、規制対応の専門知識を得られるでしょう。これにより、市場に迅速に参入し、競争力を確立できます。

製薬・医薬品会社におけるM&Aの事例

ここでは、製薬会社・医薬品業界におけるM&Aの例を、具体的に解説します。

小林製薬による梅丹本舗のM&A

2019年、小林製薬は梅丹本舗の全株式を取得する、株式譲渡契約を締結しました。小林製薬は、食品分野において、食物繊維を簡単に摂取できる「イージーファイバー」ブランドや、生活習慣が気になる方の健康茶「杜仲茶」ブランドの取り組みを行ってきました。一方、梅丹本舗は、賣肉エキスを使った健康食品を製造・販売しています。

このM&Aは、90年以上の歴史を持つ梅丹本舗のブランド力と、小林製薬の持つ研究・開発能力によって、ヘルスケア部門を強化する狙いで行われました。

ロート製薬による天藤製薬のM&A

2021年、ロート製薬は天藤製薬の株式67.19%を取得し、子会社化をしています。天藤製薬は、江戸時代後期に創業し、1921年から日本の痔疾用医薬品の先駆けである「ボラギノール(R)」を製造・販売している企業です。

ロート製薬は、2030年のビジョンの1つとして、一般医薬品のリーディングカンパニーになることを目指しています。ビジョンを実現させる一歩として、天藤製薬とのM&Aを実施しました。将来的には「ボラギノール(R)」の海外展開も計画しています。

岩城製薬による鳥居薬品のM&A

2020年、岩城製薬は、鳥居薬品が所有する佐倉工場の取得に関わる株式譲渡契約を締結しました。岩城製薬は、皮膚外用剤を主力とした事業を展開している会社です。医薬品の製造・販売を展開する製薬メーカーである鳥居薬品の工場を取得することで、シナジー(相乗効果)創出を目指しています。

杏林製薬によるジェイタスのM&A

2017年、杏林製薬は、ジェイタスの全株式を取得するM&Aを締結しました。杏林製薬を含むキョーリン製薬ホールディングスは、医療用医薬品事業とヘルスケア事業を複合的に組み合わせた、健康生活応援企業を目指しています。

一方、ジェイタスは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所が開発した技術を産業活用することを目的に設立された産総研発ベンチャーです。超高速遺伝子定量装置「GeneSoC(R)」の開発など、優れた技術を擁している会社です。杏林製薬は、ジェイタスとのM&Aによって、感染症の診断など幅広い事業に展開する計画を立てています。

トーア紡コーポレーションによるムサシノ製薬のM&A

2022年、トーア紡コーポレーションはムサシノ製薬の株式を取得し、子会社化を実現しています。トーア紡コーポレーションは、ウール事業・半導体・不動産事業など幅広く展開している企業です。

同社は、フタアミンシリーズなどのスキンケア用品や、健康食品、化粧品などを多店舗に販売しているムサシノ製薬とのM&Aによって、事業の柱であるヘルスケア事業部の拡大を図っています。具体的には、商品開発および販売チャネルの獲得でシナジー(相乗効果)を狙うことが目的です。

製薬会社・医薬品業界のM&Aのまとめ

この記事では、製薬会社・医薬品製造業界の市場規模やM&Aの動向、M&Aのメリットなどについて解説しました。製薬会社とのM&Aにおいては、業界に関する基本的な知識を身につけたうえで、計画的にM&Aを進めましょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループであるためM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案が可能です。また、M&Aに伴う相続対策にもワンストップで対応しています。M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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