いわゆる「株式保有特定会社」について、その定義や特徴、株価評価方法、メリット・デメリット、そして「株特外し」の手法まで解説します。事業承継や相続対策を検討する際に役立つ情報をお伝えします。
株式保有特定会社とは
株式保有特定会社は、事業承継や相続対策において重要な概念です。その定義や特徴、設立背景について見ていきましょう。
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株式保有特定会社の定義
株式保有特定会社とは、「特定会社」の一種で、総資産の50%以上が「株式等」に分類される資産を保有する会社のことを指します。つまり、会社の資産のうち、株式保有割合が半数以上を占める会社がこれに該当します。
具体的には、以下の計算式で判断されます。
株式などの価格の合計 ÷ 総資産価格 ≧ 50%
ここで注意が必要なのは、「株式等」には単なる株式だけでなく、出資や新株予約権付社債、株券方式のゴルフ会員権なども含まれる点です。一方で、証券投資信託の受益証券や商法で定められた「匿名組合契約」に基づく出資は「株式等」に含まれません。
株式保有特定会社の特徴
株式保有特定会社に該当するケースとしては、他の株式会社をグループに入れ、子会社化している企業、つまりホールディングス化している場合が多く見られます。このような場合、持株会社を設立して他社の株式をまとめて保有するケースが多く、その持株会社が「株式保有特定会社」として判定されることが多いです。
株式保有特定会社の大きな特徴として、事業承継時に課される相続税や贈与税が高くなる可能性があることが挙げられます。これは、税額が自社株の評価に大きく左右されるためです。
株式保有特定会社の設立背景
なぜ株式保有特定会社に該当しやすいホールディングス会社や持株会社、資産管理会社が設立されるのでしょうか。主な理由として以下が挙げられます。
- 親族内外への事業承継でのMBOの利用
- 経営の効率化
- 税金対策
- 大口株主の所得税対策
- レピュテーションリスクの回避
これらのメリットについては、後ほど説明します。
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株式保有特定会社の株価評価方法
株式保有特定会社の株式価値の算定方法は、通常の会社とは異なる特徴があります。ここでは、主な評価方法とその適用ケースについて詳しく見ていきましょう。
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原則:純資産価額方式
株式保有特定会社が自社株の評価を算出する場合、原則として税務上の「純資産価額方式」が用いられます。純資産価額方式とは、課税時における自社の資産と負債から算出した「相続税評価額」を基に、自社株の評価を算出する方式です。
具体的には、以下の手順で計算されます。
- 会社の総資産の相続税評価額を算出
- 会社の負債総額を算出
- 総資産から負債を差し引いて純資産額を算出
- 純資産額を発行済株式数で割って1株当たりの純資産価額を算出
この際、含み益が発生する場合には、含み益の37%を法人税等相当額として控除することができます。
S1+S2方式
納税者の選択によっては、「S1+S2方式」という手法で自社株の評価を算出することもできます。
- S1:貸借対照表における「株式等以外の資産」
- S2:「株式等の資産」
S1は一般の価値算出方法で割り出し、S2のみ純資産価額方式で割り出します。これら2つを合わせて最終的な自社株の評価を算出します。
配当還元方式
株式保有特定会社であっても、同族株主等以外(一般に少数株主)が保有している株式は「配当還元方式」によって自社株の評価を行います。この方法では、直近2年間の期末で算出した「年間平均配当金額」を基にして、自社株の評価を算出します。
計算式は以下の通りです。
(年間配当金額 ÷ 10%) × (1株あたりの資本金 ÷ 50円)
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株価評価方法の比較
非上場会社の株式には市場価格がないため、自社株の評価を算出し、同族株主等に承継するときは「純資産価額方式」か「類似業種比準方式」の2種類の方法で評価します。
一般的に、「類似業種比準方式」の方が自社株の評価が低くなる傾向にあります。通常の会社では、自社株の評価は売上や従業員などによる会社規模ごとに「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」を一定の割合で組み合わせて算出しますが、株式保有特定会社は原則として「純資産価額法」のみを用いることになるため、相対的に株価が高く評価されます。
この結果、自社株の評価が高くなるほど、事業承継・相続において、自社株を後継者や相続人に移転(譲渡、贈与、相続)する際に課される税金も高額になるため、税務面でマイナスとなる可能性が高くなります。
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株式保有特定会社のメリット・デメリット
株式保有特定会社には、メリット・デメリットがあります。
メリット
主なメリットについて詳しく解説します。
経営の効率化
ホールディングス(持株会社)を設立することで、経営の効率化を図ることができます。具体的には以下のようなメリットがあります:
- 各業務における責任の所在が明確になる
- 意思決定がスピーディーに行える
- 会社単位で営業成績を把握しやすくなる
- 役員が全体の管理を行いやすくなる
これらの利点により、企業グループ全体の経営効率が向上し、競争力の強化につながります。
税金・相続の対策
持株会社や資産管理会社を設立することで、相続をはじめとした納税のタイミングで、オーナーが支払う税金を抑えることができる可能性があります。特に非上場企業において、このメリットは顕著です。
非上場企業のオーナーの場合、配当金が総合課税の対象となり、所得税と住民税を合わせた税率によって決められた金額の納税義務が生じます。場合によっては、税率が55%にも及ぶ可能性があり、これは大きな負担となります。この事態を回避するため、非上場企業のオーナーは「資産管理会社」を設立します。株式を資産管理会社へ移動させることで、所得税ではなく「法人税」が課されることとなり、法人税の税率のほうが低いため、結果として節税につながります。
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大口株主の所得税の対策
上場会社の大口株主(3%以上の株式を保有する株主)にとっても、持株会社や資産管理会社を設立することによる節税効果が期待できます。株式の保有を個人でなく会社が行うことで、所得税ではなく法人税に切り替えることができます。法人税の方が税率が低いため、節税が可能となります。3%以上の株式を保有するオーナーは、役員報酬なども高額であることが多いため、この節税対策は重要です。
レピュテーションリスクの回避
上場会社のオーナーが大株主である場合、株式を移動させる際にレピュテーションリスク(企業に対するネガティブな評判が広まるリスク)を考慮しなければなりません。大量の株式が動くことで、株価への悪影響を及ぼしたり、株主順位の変動によってレピュテーションリスクが生じる可能性があります。しかし、資産管理会社としての株式保有特定会社を設立することで、自社株をその会社名義にすることが可能です。
株式の移動自体を完全に伏せることはできませんが、個人ではなく会社単位で保有することで、レピュテーションリスクをある程度軽減できる可能性があります。
デメリット
株式保有特定会社には上記のようなメリットがある一方で、いくつかの重要なデメリットも存在します。ここでは、主なデメリットについて解説します。
自社株評価の上昇
株式保有特定会社の最大のデメリットは、自社株の評価を算出する際の方法に関連しています。基本的に株式保有特定会社が用いる「純資産価額方式」は、「類似業種比準方式」よりも自社株の評価が高くなり易い傾向にあります。
自社株の評価が高いほど高額な税金が課せられるため、税負担は重くなってしまいます。これは特に相続税や贈与税の計算において大きな影響を与えます。
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複雑な組織構造
ホールディングス(持株会社)を設立することで、組織構造が複雑になる可能性があります。これにより、以下のような問題が生じる可能性があります:
- 意思決定プロセスが複雑化する
- グループ内の調整に時間がかかる
- 管理コストが増加する
設立・運営コスト
株式保有特定会社を設立し運営するには、一定のコストがかかります。具体的には以下のようなコストが発生する可能性があります:
- 設立時の法的手続にかかる費用
- 追加の会計・税務処理にかかる費用
- 専門家(弁護士、税理士など)への相談費用
法規制への対応
株式保有特定会社は、通常の会社よりも厳しい法規制の対象となる可能性があります。
- より詳細な情報開示が求められる
- グループ内取引に関する規制が厳しくなる
- 税務調査の対象となりやすい
これらの規制に対応するために、追加の労力とコストが必要となる場合があります。
柔軟性の低下
株式保有特定会社の構造は、事業環境の急激な変化に対して柔軟に対応することが難しい場合があります。
- グループ再編の際に複雑な手続きが必要となる
- 新規事業への迅速な参入が難しくなる
- 資金の柔軟な移動が制限される
これらのデメリットは、特に急速に変化する業界や新興市場において大きな障害となる可能性があります。
株式保有特定会社でなくす「株特外し」
株式保有特定会社のデメリットを回避するための方法として、「株特外し」という手法があります。ここでは、株特外しの概要と具体的な方法について詳しく解説します。
「株特外し」とは
株特外しとは、意図的に「株式保有特定会社」と判断されないよう、対策を行うことを指します。つまり、文字通り「株式保有特定会社」でなくする、ということです。
株特外しの方法
株特外しを行うには、保有している資産のうち、株式の割合を減らす必要があります。主な方法としては以下のようなものがあります:
株式を売却する
最も直接的な方法は、保有している株式の一部を売却することです。保有している株式が減ることで、資産内の株式の割合も減少させることができます。
しかし、この方法には以下のような問題点があります:
- 効率的な企業経営の観点から、株式の売却が難しい場合がある
- 株式の売却によって経営権に影響が出る可能性がある
- 株式売却による税金の問題が生じる可能性がある
不動産を購入する
株式保有特定会社とされている会社が、不動産を購入するのは「株特外し」において有効な方法です。これは純資産のうち、株式以外の割合が増えれば、その分全体から見た株式の割合は減るためです。
不動産購入の良い点
- 借り入れがしやすい
- 長期的な資産価値の維持が期待できる
- 賃貸収入など、新たな収益源となる可能性がある
不動産購入の注意点
- 不動産市場の変動リスクがある
- 維持管理コストがかかる
- 流動性が低い
現金・預金を増やす
株式以外の資産として、現金や預金を増やすことも効果的な方法です。具体的には以下のような方法があります。
- 利益を内部留保として蓄積する
- 借入金を増やし、手元資金を増やす
- 株主からの増資を受ける
この方法のメリットは、資金の流動性が高く、様々な用途に柔軟に対応できることです。ただし、過度の現金保有は資金効率の低下につながる可能性があるため、バランスが重要です。
事業用資産を増やす
会社の本業に関連する事業用資産を増やすことも、株特外しの有効な方法です。
- 工場や設備への投資
- 研究開発費の増加
- 在庫の増加
この方法は、事業の拡大や競争力強化にもつながるため、会社の成長戦略と合致する場合があります。
株特外しの注意点
株特外しを行う際は、以下の点に注意が必要です。
- 計画的な実施: 株特外しは一時的な対応ではなく、長期的な視点で計画的に実施する必要があります。
- 税務上の影響: 資産構成の変更は税務上の影響を及ぼす可能性があるため、専門家に相談しながら進めることが重要です。
- 経営戦略との整合性: 株特外しの方法が会社の経営戦略と整合しているか、慎重に検討する必要があります。
- 定期的な見直し: 資産構成は常に変動するため、定期的に状況を確認し、必要に応じて対策を見直すことが重要です。
- 法令遵守: 株特外しを行う際も、関連法規を遵守し、適切な手続きを踏むことが不可欠です。
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株式保有特定会社に関する最新の動向
株式保有特定会社を取り巻く環境は常に変化しています。ここでは、最新の動向や法改正について解説します。
事業承継税制の拡充
近年、中小企業の事業承継を支援するため、事業承継税制が拡充されています。これにより、一定の条件を満たす場合、株式保有特定会社であっても、相続税や贈与税の納税が猶予される可能性があります。
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M&A市場の活性化
企業の事業再編や統合が活発化する中、株式保有特定会社の活用方法も多様化しています。M&Aを通じて、より効率的な企業グループ構造を構築する動きが見られます。
コーポレートガバナンス強化の流れ
株式保有特定会社を含む企業グループのガバナンス強化が求められています。透明性の高い経営体制の構築や、適切な情報開示が重要視されています。
デジタル化への対応
デジタル技術の進展に伴い、株式保有特定会社においても、デジタル化への対応が課題となっています。グループ全体のIT戦略の策定や、デジタル人材の確保が重要になっています。
株式保有特定会社のまとめ
株式保有特定会社の活用や適切な株価評価の実施は、事業承継や相続への取り組みにおいて、重要です。一方で、その活用には、高い専門性が求められるため、専門家との協力が不可欠となります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、株式保有特定会社の活用や自社の株式評価をご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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