クロスボーダーM&Aとは?最新の件数・アドバイザリー・成功・事例

クロスボーダーM&Aとは、国外企業とのM&Aです。本記事ではクロスボーダーM&Aの概要と、具体的な手順、成功のポイントなどを解説します。海外企業の買収等に関心をお持ちなら、ぜひ参考にしてください。

クロスボーダーM&Aとは

クロスボーダーM&Aとは、国境を超えて海外企業とM&Aを行うことで、「海外M&A」等と呼ばれることもあります。譲受・譲渡企業のどちらかが海外企業の場合、クロスボーダーM&Aに該当します。海外企業との交渉・契約になるだけで、基本的な手順や手法は一般的な国内M&Aと同じです。

2023年~2024年の件数

レコフデータ調べによると、2023年と2024年上半期のクロスボーダーM&Aのうち、IN-OUT(国内企業による海外企業の買収)の件数は以下のとおりです。

2023年のIN-OUT件数

  • 日本企業によるIN-OUT件数は661件で、昨対比5.8%の増加
  • 特にアメリカやシンガポール、ベトナムを対象とした取引が多い
  • 金額では、大型案件があり、前年に比べて取引金額が大幅に増加

2024年のIN-OUT件数

  • 2024年1~6月期では、日本企業のIN-OUT件数は340件で、前年同期比で6.9%の増加
  • 取引金額も47.4%増加し、取引件数・金額ともに堅調な推移。
  • 米国が最も多く、ASEAN諸国ではシンガポール、ベトナム、タイ、インドネシアが取引相手として主流。

クロスボーダーM&Aの2類型

クロスボーダーM&Aには、大きくは2つの類型に分類されます。

IN-OUT型

IN-OUT型とは、国内企業が海外企業を買収するM&Aです。近年はスタートアップやベンチャー企業による、IN-OUTの事例が増えています。アジアだけでなく、欧州をはじめとした巨大市場に参入しているのも特徴です。海外企業を買収することで、先に解説したように国内ではまだ普及していない技術やノウハウを、自社に導入できる可能性があります。

OUT-IN型

OUT-IN型とは、海外企業が国内企業を買収するケースです。国内企業の譲受をきっかけにして、日本市場に参入するケースもあります。一方で、日本市場は人口減少などを理由に縮小傾向にあり、また日本固有の文化・商慣習は海外企業にとっては参入障壁が高く、OUT-IN型のM&A事例は少ないです。

国内企業同士のM&Aは「IN-IN型」ということになります。

クロスボーダーM&Aの手法

クロスボーダーM&Aには、以下のような手法があります。これらのうち、IN-OUT(国内企業による海外企業の買収)案件で、現地企業が中小企業の場合は、株式譲渡か事業譲渡が一般的です。

株式譲渡

海外企業を買収する手法として、国内企業と同様に、株式譲渡が広く活用されています。この方法では、現地企業のオーナーが持つ株式を現金を対価として取得することで、経営権を握ります。ただし、外資規制が存在する国や業種もあるため、国境を越えたM&Aで株式取得を検討する際は、この点に注意が必要です。

海外企業との取引でこの手法を用いる際は、対象会社の全てを受け継ぐことになります。そのため、財務・法務・事業などの側面から詳細な調査(デューデリジェンス)を行い、買収対象としての適性を慎重に見極める必要があります。

LBO

LBOとは、「Leveraged Buyout」の略称です。譲渡企業の資産、今後の利益、キャッシュフローなどを担保に、金融機関から資金調達をする方法を意味します。譲受企業の資産を返済に当てる必要がないため、自己資金が少ない場合にも大型のM&Aが実現可能です。クロスボーダーM&Aは、比較的規模の大きな契約になりやすく、LBOを活用するケースが多いです。

事業譲渡

事業譲渡は、他企業が特定の事業部門を取得する手法です。株式譲渡と異なり、必要な部分のみを選択的に買収できる利点があります。しかし、個々の権利義務を個別に移転する必要があるため、手続が複雑化する課題も存在します。この方法は、企業が事業ポートフォリオを最適化し、経営資源を効率的に再配分する上で有効なツールとなります。ただし、実行には綿密な計画と専門知識が不可欠です。

国境を越えたM&Aで事業譲渡を実施する際は、譲受先の法人を慎重に選定する必要があります。既存の現地法人を活用するケースや、新会社を設立して譲渡を受けるアプローチなど、状況に応じた適切な選択が求められます。

三角合併

三角合併とは、存続会社が消滅する会社に現金や自社の株式を渡し、その代わりに親会社の株式を受け取る方法です。合併の当事者である2つの会社と、親会社が契約することから三角合併と呼ばれています。会社が所在する国が違い、その結果法的に合併当事企業になれない場合などに、実施される手法です。

クロスボーダーM&Aのメリット・デメリット

以下では、クロスボーダーM&Aにおけるメリットとデメリットを紹介します。

メリット

主なメリットです。

新規市場への迅速な進出

クロスボーダーM&Aを通じて海外企業を買収することで、新しい市場に素早く参入することができます。これにより、以下のシナジーが得られます。

  • 事業立ち上げにかかる時間と労力を大幅に削減
  • 既存の事業リソースをそのまま引き継ぐことが可能
  • 現地市場での事業ノウハウをすぐに活用できる

市場シェアの即時拡大

買収対象の海外企業がすでに市場シェアを持っている場合、M&A実行時点でそのシェアを取り込むことができます。これによる期待シナジーは以下です。

  • 海外市場への参入と市場シェア獲得を同時に実現
  • 短期間でさらなるシェア拡大の可能性

技術力と製品開発の向上

海外には日本にはない高度な技術を持つ企業が多く存在します。そのような企業を買収することで、技術・ノウハウが手に入ります。

  • 高い技術力を持つ新商品の開発が可能に
  • 複雑な工程が必要な希少価値の高い技術を獲得
  • 多くの利益を期待できる

人材とネットワークの獲得

買収先の海外企業が持つ優秀な人材や豊富なネットワークを自社グループに取り込むことができます

  • 専門性の高い人材を即時に確保
  • 現地の販売ネットワークを活用可能

グローバルプレゼンスの向上

積極的な海外進出は、企業のグローバルイメージを高めます

  • グローバル企業としての認知度向上
  • ブランドイメージの強化

再売却による利益の獲得機会

買収した海外企業を将来的に別の企業に売却することで、売却利益を得られる可能性があります

  • プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の投資手法の一つ
  • 企業価値を高めてから売却することで利益を出す

デメリット(リスク)

主なデメリット・リスクです。

予測困難なリスクの発生

クロスボーダーM&Aでは、様々な要因が絡み合うため、事前のリスク評価が難しくなります。具体的には、以下のようなリスクがあります。

  • 文化の違いによる労働環境の不適合
  • 法律や慣習の違いによる契約や取引の不効率
  • 現地政府の政策変更、経済変動、地政学的リスクなど

情報収集の長期化

国内M&Aと比較して、情報収集に多くの時間がかかる傾向があります。その背景には、以下のような環境があります。

  • 文化や言語の違いによるニュアンスの取りこぼし
  • 財務報告基準や慣習の違いによる情報の見落とし
  • 宗教や文化的理由による自社商品の受け入れ難さ

言語・文化の障壁

外国企業との交渉や統合において、言語や文化の違いが大きな障害となる可能性があります

  • ローカル言語での交渉や法的文書作成が必要
  • 交渉スタイルの違いによる相手企業の不満
  • 組織統合の困難さ

法的制限の可能性

クロスボーダーM&Aを実施する際、相手国の法律による制限に注意が必要です

  • 買収が禁止されている業種の存在
  • 規制当局への申請や認可の必要性
  • 公開買付(TOB)の規制

カントリーリスク

相手国の経済や政治情勢により、収益が変動して損害を受ける可能性があります

  • M&Aの成立を阻む可能性
  • 成立後の事業運営に大きな損害を及ぼす恐れ

PMIの難易度が高い

言語、法律、文化などの環境の違いから、M&A後の統合プロセス(PMI)が、国内M&Aと比べて難しくなります。これにより、統合手続きに時間がかかるリスクがあります。

クロスボーダーM&Aの流れ

クロスボーダーM&Aで日本企業が海外企業を買収する一般的な流れについて、詳しく説明します。

1. M&A戦略の立案

まず、自社の成長戦略の一環としてクロスボーダーM&Aの必要性を検討し、具体的な戦略を立案します。

  • 海外進出の目的の明確化
  • ターゲット国・地域の選定
  • 買収対象となる業種や企業規模の決定
  • 予算の設定

2. 候補先へのアプローチ・提案

M&Aアドバイザーや現地のネットワークを活用して、買収候補企業を探索します。

  • ターゲット候補のリストアップ
  • 各候補企業の概要情報の収集
  • 候補企業への初期アプローチ
  • 状況ににょり、関心表明書(IOI)の提出

3. 現地視察・初期面談

ターゲット企業との初期的な接触を行い、相互理解を深めます。

  • 候補企業の経営陣との面談
  • 事業内容や財務状況の概要把握
  • 文化的な適合性の確認

4. MOUまたはLOIの調印

基本合意(MOU)の締結、又は意向表明(LOI)の提出を行い、独占交渉権を取得します。

  • 買収の基本条件の合意
  • デューデリジェンスの実施合意
  • 秘密保持契約(NDA)の締結

5. デューデリジェンス

ターゲット企業の詳細な調査を行い、リスクや価値を評価します。

  • 財務DD:財務諸表の精査、税務リスクの確認
  • 法務DD:契約関係、訴訟リスクの確認
  • 事業DD:事業モデル、市場環境の調査
  • 人事DD:労務関係、人材の評価

6. 最終契約の締結

デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な契約条件を交渉し、契約を締結します。

  • 買収価格の最終決定
  • 株式譲渡契約書(SPA)の作成と締結
  • 各種付随契約の締結

7. 規制当局の承認

クロスボーダーM&Aの場合、現地の規制当局による承認が必要です。特に外資規制が厳しい国では、外国企業による買収に対する厳格な審査が行われます。規制当局からの承認を得るまでに、数か月かかることもあるため、この期間に調整を行い、買収後の統合計画も並行して進めます​。

8. クロージング(決済、実行)

契約で定められた条件が満たされたことを確認し、株式等の取得と対価の支払いを行います。

  • 各種許認可の取得確認
  • 株式譲渡手続の実行
  • 買収対価の支払い

9. PMI(ポストマージャーインテグレーション)

買収後の統合作業を行い、シナジー効果の実現を目指します。

  • 企業文化の融合
  • 経営体制の構築
  • 事業計画の策定と実行
  • 人事・組織の統合
  • システム統合

成功させるポイント

クロスボーダーM&Aを成功させるには、いくつかのポイントを把握することが重要です。以下では、クロスボーダーM&Aの成功を近づけるポイントを解説します。

ターゲット企業の現地事情に詳しいM&Aアドバイザリー会社を起用する

クロスボーダーM&Aでは、海外企業やその国の特徴に詳しい人材がいると頼りになります。国によって考え方や企業風土の捉え方は異なるため、相手の意思を尊重するためにも、交渉先の国に関する知識を持つ人材が重要視されます。自社に該当する人材がいない場合には、専門家を外注で確保することも検討しましょう。

越境M&Aでは、現地事情に詳しいアドバイザーが不可欠です。彼らは各国の商慣習、法制度、税制、文化、市場動向に精通し、取引成立までを支援します。アドバイザーは戦略策定から候補企業の選定、交渉、デューデリジェンス、法務、資金調達まで幅広くサポートします。特に中堅・中小企業が海外M&Aに挑戦する際、専門家の助言を得ることでリスクを抑え、最適な結果を得られる可能性が高まります。

PMIの計画を立てる

PMIの計画を事前に立てて、M&Aが譲受した後の経営統合をスムーズに行えるように備えることが、1つのポイントです。先に挙げたようにPMIは、クロスボーダーM&Aにとって重要なプロセスになるため、時間をかけて計画する必要があります。KPIの指標を設定したり、決算報告やレポートラインの構築をしたりといった対策が考えられます。

クロスボーダーM&Aの事例

クロスボーダーM&Aのうち、成長著しいASEAN企業を買収した近年の事例を紹介します。

オキツモによるタイ産業用塗料製造会社の買収

2023年、耐熱塗料で国内シェア50%超を誇るオキツモが、タイの産業用塗料製造会社を買収しました。この買収により、東南アジア地域への進出を加速させることを目的としています。

レカムによるマレーシアの照明器具卸売・小売会社の買収

2022年、東京都の一般機械・電気機器・電子部品製造販売会社であるレカムが、マレーシアの照明器具の卸売および小売会社を買収しました。この買収は、ASEANを中心とした拠点拡大戦略の一環として行われました。

STGによるマレーシアのアルミダイカスト製品製造会社の買収

2021年、大阪府のSTGが、マレーシアのジョホールバルにあるアルミダイカスト製品製造会社を買収しました。この買収により、STGの売上が76%増加し、海外M&Aによる成長のモデルケースとなっています。

クロスボーダーM&Aのまとめ

クロスボーダーM&Aでは、海外企業とM&Aの交渉・契約を締結します。国内でのM&Aにはないメリットがあるため、譲渡を検討する際には1つの手段として考えられるでしょう。一方で、クロスボーダーM&Aにはリスクもあります。事前に注意すべき要素や手順を確認し、トラブルに発展しないように備えるのもポイントです。

みつきコンサルティングは、グループにバンコク現地法人(みつきタイ)を有していいます。タイランドへの進出・撤退、タイ現地企業のM&Aをお考えの際は、ぜひご相談ください。日泰のコンサルタントが連携して、貴社のASEAN事業をサポートします。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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