新型コロナ禍を経て、旅行代理店や旅行会社の業界は、競争の激化によってM&Aを実施する企業が増えています。本記事では、旅行代理店・旅行会社のM&Aを検討している人に向けて、近年の動向やメリット、注意点などを解説します。成功事例も紹介するので、ぜひ役立ててください。
旅行代理店とは
旅行業界は、旅行会社と旅行代理店に分かれています。旅行代理店とは、旅行会社と代理店契約を締結し、旅行商品の販売を代理で行う業者のことです。
旅行会社は、下記の3種類に分類されます。
- 第1種:国内外の旅行を企画
- 第2種:国内旅行のみを企画
- 第3種:一定の条件下で国内旅行を企画
旅行代理店・旅行会社の現況
ここでは、旅行代理店・旅行会社を取り巻く現在の状況について解説します。
インターネットの普及による競争の激化
インターネットの普及により、旅行業界においても競争が激化しています。特に、インターネットでの旅行商品の販売が増加しました。インターネットによって、顧客は店舗に足を運ぶことなく、自宅などから簡単に旅行プランを検討したうえ、予約できるようになっています。これにより、旅行業界への参入障壁が低下し、新規参入企業が続出しています。そのため、業界では厳しい価格競争が起きているのが現状です。
旅行代理店を介さない旅行者の増加
旅行業界における大きな変化の1つとして、旅行代理店を介さずに旅行計画を立てる旅行者の増加が挙げられます。旅行スタイルが時代とともに変化し、旅行会社や旅行代理店が販売するパッケージ商品ではなく、個人で旅行をカスタマイズするケースが増加しています。これらの変化は、スマートフォンやパソコンから手軽に宿泊先の予約ができるようになったことなど、インターネットの普及が後押ししています。
アフター「コロナ」
新型コロナウイルスの感染拡大は、旅行業界に大きな打撃を与えました。世界的な移動の制限や入国禁止措置は、国内外の旅行市場に大きな影響を及ぼし、コロナ禍以前に伸びていた訪日外国人の数は大きく減少しました。
ただし、現在では入国制限は実質的に解除されているため、インバウンド観光客が大幅に回復しています。
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旅行代理店・旅行会社のM&A動向
ここでは、旅行代理店・旅行会社のM&Aの動向について解説します。以下のような動向から、旅行代理店の譲渡は、今後増えると見込まれます。
双方が大手旅行代理店のM&A
近年、大手の旅行代理店同士がM&Aを行うケースが増えています。その背景には、インターネットで手軽に旅行の手配ができるようになったことで、旅行代理店を利用しない旅行者が増加した点にあります。加えて、旅行業界への新規参入が容易になったことで価格競争が激化し、旅行代理店の収益は減少しているのです。
このような状況下で、大手旅行代理店同士がM&Aを行うことで、事業の強化や拡大、市場シェアの確保を図る戦略がみられます。
大手旅行会社と旅行代理店のM&A
近年、旅行者の旅行スタイルや需要が多様化しています。そのため、大手旅行会社は独自のサービスを提供する旅行代理店や特定の地域に強い旅行代理店を譲受するケースが増えてきました。この施策によって大手旅行会社は、さまざまなニーズに対応できる体制を整え、事業の多角化や市場範囲の拡大を図っています。
OTA企業とのM&A
旅行代理店・旅行会社は、OTA企業とのM&Aも始めています。OTA企業とは、取引を全てインターネット上で行う旅行会社を指す言葉です。従来の旅行代理店や旅行会社は、OTAに進出するノウハウを持っていないところが少なくありません。そのため、新興のOTA企業を譲受することで、そのノウハウを得るケースが多くみられます。
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旅行代理店・旅行会社がM&Aを実施する目的
ここでは、旅行代理店・旅行会社がM&Aを実施する目的(メリット)について解説します。
譲渡側の目的
譲渡側のメリットは、下記のとおりです。
- 大手企業の資金力による経営の安定化
- 人材不足・後継者問題の解決
- 従業員の雇用確保
- 譲渡による資金の獲得
M&Aを実施することで、譲渡側は大手企業の資金力を手に入れられます。より安定した経営基盤を築けるようになる点は、代表的なメリットです。中小企業は、後継者不足や専門的な人材の確保も課題です。M&Aによって、これらの問題を解決し、経営の継続性を保てる点は大きなメリットでしょう。
従業員の雇用が安定する点や、会社を売却することで資金を手に入れられることも、譲渡側のメリットとして挙げられます。
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譲受側の目的
譲受側のメリットは、下記のとおりです。
- 優秀な人材やノウハウの獲得
- 事業の拡大
- 異業種からの新規参入の実現
M&Aによって、譲渡側が持つ優秀な人材や特有のノウハウ、業界内での知識を獲得できます。新規事業立ち上げ時に比べて、より迅速かつ効率的な事業展開が可能になるでしょう。業界に新たに参入する際にも、スムーズな参入を実現できます。また、既存の事業領域を拡大し、市場シェアや売上を増やせる点もメリットの1つです。
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旅行代理店・旅行会社のM&A事例
ここでは、旅行代理店・旅行会社のM&A事例について解説します。
アソビューがそとあそびの株式を取得した事例
2021年、遊び予約サイト「アソビュー!」を運営するアソビュー株式会社は、株式会社アカツキより株式会社そとあそびの全株式を取得し、株式譲渡契約を締結しました。
株式会社そとあそびは、アウトドアレジャーの専門予約サイト「SOTOASOBI」の運営を行っており、「アソビュー!」とのシナジー(相乗効果)が見込まれたことによって、このM&Aが実施されています。M&Aによって「アソビュー!」は、コンテンツ拡大やユーザー獲得を図っています。
セブンフォーセブンエンタープライズとエボラブルアジアのM&A事例
2019年、国内航空券・海外航空券販売などを手がける旧株式会社エボラブルアジアは株式会社セブンフォーセブンエンタープライズの株式を取得し、子会社化しています。セブンフォーセブンエンタープライズは、ハワイ旅行専門ブランド「ファーストワイズ」を展開しており、ハワイに現地法人も持っていました。
旧株式会社エボラブルアジアはM&Aによって、オンライン旅行事業、特にハワイツアーを含めた中長距離ツアーの拡大を推し進められるようになりました。
令和トラベルが第三者割当増資を実施した事例
2021年、海外旅行ツアーの提供や海外旅行関係のアプリ開発などを手がける株式会社令和トラベルは、複数のベンチャーキャピタルなどを引受先として第三者割当増資を実施しています。この第三者割当増資は、旅行業務プロセスのDX推進やエンジニア採用の強化、マーケティング拡大のための資金調達などを目的として行われました。
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旅行代理店・旅行会社がM&Aを行う際の注意点
ここでは、旅行代理店・旅行会社がM&Aを行う際の注意点について解説します。
シナジー(相乗効果)を生み出せるか判断する
旅行代理店・旅行会社がM&Aを行う際には、相手方とのシナジー(相乗効果)を生み出せるかどうかをしっかり判断しましょう。譲渡側・譲受側の双方がシナジー(相乗効果)を得られるか精査することで、短期的・長期的なM&Aによるメリットが生み出しやすくなります。
譲渡側・譲受側にどのような強みがあるのか、自社にない要素を持っているのかなどを綿密に調査しましょう。
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将来性・タイミングを見極める
将来性やタイミングを見極めることも、旅行代理店・旅行会社がM&Aを行う際には、重要な観点です。譲渡側・譲受側の持つ事業が、どの程度の将来性を持っているのかを入念にリサーチ・分析しましょう。
市場動向や技術の進化、ユーザーの嗜好など、多角的な視点からみて成長が見込めるかどうかを検討することが大切です。どのタイミングでM&Aを実施するのかも、大きな検討事項となるでしょう。
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旅行代理店・旅行会社のM&Aのまとめ
旅行代理店・旅行会社がM&Aを検討する際には、業界の動向やM&Aによって得られるメリットなどを十分に精査しましょう。状況によっては、専門家への相談も視野に入れることをおすすめします。
旅行業界でのM&Aを検討している際には、ぜひみつきコンサルティングにご相談ください。税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案が可能です。また、M&Aに付き物である相続対策にもワンストップで対応しています。M&Aに関することは、お気軽にお問い合わせください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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