中国企業とのM&A|メリット・デメリットとM&A成約事例を解説

海外とのM&Aを検討する際、アジア、特に経済大国である中国とのM&Aの状況が気になる人も多いのではないでしょうか。この記事では、中国のM&Aの特徴、中国とのM&Aを進めるメリット・デメリットなどについて解説します。中国のM&A事情に加えて、中国企業に譲渡された日本の企業・海外の企業、日本企業が譲受した中国企業の具体例も紹介します。

中国企業とのM&Aの特徴

中国企業のM&A事情において特徴的なのは、中国が経済大国へと成長したことが、M&Aにも影響を与えている点です。中国企業の多くは、中国製品への信頼性・安全性の低さという、大きな課題を抱えています。

そのため、中国企業が日本企業を譲受する目的として、日本の高い技術力・安全性・信頼性の高いブランドの獲得などが挙げられます。一方、日本企業が中国企業を譲受するケースの多くは、事業拡大や中国進出を目的としています。また、中国企業のM&Aは、日本とは異なる規制や条件が存在していることも特徴的です。

中国企業によるM&Aの現状

中国企業のM&Aが日本や世界でどのような状況か見ていきます。

日本における中国企業によるM&Aの状況

2012年以前には、日本企業が中国に進出することを目的に、中国企業のM&Aが積極的に行われていました。しかし、2010年の尖閣諸島問題以降、両国の関係悪化により、M&Aが一時的に減少しました。近年は、中国が世界第2位の経済大国になり、経済力が大きく成長し、一方、日本では、経営難に陥る企業が増加しており、中国企業によるM&Aの増加につながっています。

世界における中国企業によるM&Aの状況

世界における中国企業によるM&Aは、米中貿易摩擦の影響を受けているといわれています。主な動向は、欧米による規制強化、ドイツ政府による譲渡の却下などが挙げられます。これは欧米企業が、技術力や知的財産が中国企業へ流出するのを懸念したのがきっかけです。中国政府においても、海外への資本流出の懸念から、投資事業に規制がかかりました。

中国企業に譲渡するメリット・デメリット

日本企業が譲渡側の場合のメリット・デメリットは以下のようなものです。

中国企業に譲渡するメリット

中国企業に会社を譲渡するメリットは、以下のとおりです。

  • 最先端技術を取得できる
  • グローバル化を実現できる
  • 経営危機からの脱出、利益拡大が期待できる
  • 譲渡対価が比較的高額である

世界第2位の中国マネーによる経営の立て直しや、IT・通信・AIなどの分野で日本を上回る最先端技術の取得などが、主なメリットといえるでしょう。

中国企業に譲渡する際のデメリット

中国企業に譲渡する際のデメリットは、以下のとおりです。

  • 社内の公用語が、中国語となる場合がある
  • 従業員の理解が必要となる
  • 中国語や中国の文化に慣れるまで時間がかかる
  • 日本人と中国人のメンタリティー(精神)の違いからくるハレーション(悪影響)が起こる可能性がある

中国企業を買収するメリット・デメリット

日本企業が譲受側の場合のメリット・デメリットは以下のようなものです。

中国企業を譲受するメリット

中国企業を譲受するメリットは、以下のとおりです。

  • 中国の巨大市場で事業展開できる
  • 中国への進出をきっかけに、世界への進出を目指せる
  • 豊富な労働力を確保できる
  • 2025年までの5か年計画で、外国企業の規制緩和により、中国に参入しやすい

中国参入のしやすさや世界への進出の第1歩としての事業展開などが、メリットと考えられています。

中国企業を譲受するデメリット

中国企業を譲受する際のデメリットは、以下のとおりです。

  • 現行の法律や規制、法解釈が変更されることで、経営方法を変更させられる可能性がある
  • 米中の貿易摩擦など、世界の経済状況の変化による影響が考えられる

中国企業を譲受することによって、経営方針の臨機応変な変更が必要になる可能性もあります。米中の貿易摩擦などの経済変化による影響も大きく、常に世界情勢を見極めていくことも重要です。

中国企業とのM&A事例

中国企業に譲渡又は譲受した成約事例を紹介します。

中国企業への譲渡事例8選

日本企業が譲渡側であるM&A事例です。

NECと富士通

Lenovo(聯想集団)が、2011年にNEC、2018年に富士通のパソコン事業を子会社とした事例です。NECレノボ・ジャパングループとして経営を一体化させ、富士通は独立して運営しています。NEC、Lenovo(聯想集団)、富士通の3社による国内パソコンシェアは、50%を超えています。

三洋アクア

2011年、三洋アクアはHaier(海爾集団)の子会社となりました。三洋アクアの経営難によりパナソニックの子会社となった際、冷蔵庫や洗濯機などを製造していた三洋アクアが、部門の重複により、中国企業の子会社になりました。なお、Haier(海爾集団)は、世界シェアで1位を連続14年達成したことで知られています。

東芝ライフスタイル

2016年、東芝ライフスタイルは、Midea(美的集団)の子会社となりました。親会社の東芝が不正会計などの不祥事の多発により、経営難に陥ったことが、M&Aのきっかけとなりまた。グローバル化やブランド力の獲得などを目的として、Midea(美的集団)によってM&Aが行われました。

東芝映像ソリューション株式会社

2018年、東芝映像ソリューション株式会社は、ハイセンスグループ(海信電器株式会社)の子会社となりました。REGZAの販売、東芝の不正会計などの不祥事の多発による経営難に陥り、ハイセンスグループ(海信電器株式会社)によってM&Aが行われました。

主なM&Aの目的として、技術力・ブランド力の獲得、市場規模拡大、グローバル化などが挙げられます。

タカタ

2018年、タカタはジョイソン・エレクトロニクス(寧波均勝電子)の子会社となりました。タカタは、大手自動車部品メーカー、エアバッグの世界シェア第2位でしたが、欠陥エアバッグのリコールにより経営破綻したのがM&Aのきっかけとなりました。

M&Aの実施によりタカタの名はなくなりましたが、従業員は同じ条件で雇用継続されており、エアバッグも継続して製造されています。

本間ゴルフ

2012年、本間ゴルフはマーライオン・ホールディングスの子会社となりました。老舗のゴルフクラブメーカーである本間ゴルフは、バブル崩壊後に経営が破綻しました。技術力と品質のよさによる信頼性の獲得を目的としてM&Aに至りました。M&A後、新製品の開発・契約プロの増加により経営改善したのがポイントです。

ホテルみかわ

ホテルみかわは、2017年に中国資本の日本法人「日本山嶼海(さんよかい)株式会社」に、譲渡されました。同ホテルは6期連続で赤字となり、経営難に陥っていたことからM&Aに至りました。近年は、中国企業による日本の観光施設へのM&A事例が増加する傾向にあります。

池貝

池貝は、2004年に上海電気(集団)総公司の子会社となり、後に台湾の友嘉実業集団に譲渡されました。このM&Aの目的は、大型工作機械分野における、国内トップクラスの技術の取得です。M&A後は、池貝本社の工場で上海電気(集団)総公司の従業員に研修を受けさせるなど、池貝の技術の中国への移転を実現しました。

日本企業による中国企業の買収事例5選

日本企業が譲受側であるM&A事例です。

小林製薬株式会社

小林製薬株式会社は、2017年に江蘇中丹製薬有限公司を子会社化しました。「熱さまシート」「のどぬ~るスプレー」など、ユニークな名前の医薬品を多く販売する同社は、中国の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で販売できなかった医薬品の販売拡大などを目的に、M&Aを行いました。

国分グループ本社株式会社

國分グループ本社株式会社は、2021年に上海恒孚物流有限公司を子会社化しました。酒類・食品などの卸売業・流通加工などを展開する国分グループ本社株式会社は、倉庫業務と配送業務を担う上海恒孚物流有限公司を子会社化することによって、中国における事業展開の加速を目指しました。

戸田工業

戸田工業は、2021年に江門協立磁業高科技有限公司を子会社化しました。酸化鉄トップメーカーである戸田工業は、化学素材の製造・販売を主に行っています。M&Aにより、サプライチェーンの安定化や事業承継を目指したのが特徴的です。

株式会社マーベラス

2020年、株式会社マーベラスと中国テンセントの香港子会社Image Frame Investment (HK) Limitedは資本提携をしました。株式会社マーベラスは「牧場物語」などのゲームタイトルで知られている企業で、ゲームソフトや音楽・映像コンテンツなどを展開しています。

一方、中国テンセントは、世界中でさまざまなインターネットサービスを展開する企業で、世界的にも有名なEpicGamesやSupercell、KRAFTONなどのゲーム製作会社に出資をしています。両者は、資本業務提携により、保有する知的財産の育成やグローバル展開を目指しました。

小倉クラッチ株式会社

小倉クラッチ株式会社は、2019年に中国企業の砂永精工電子有限公司の全持分を子会社化しました。小倉クラッチはクラッチやブレーキなどの製造・販売を展開しています、一方、砂永精工電子はOA器機用クラッチの製造・販売を手がけています。機器用クラッチの生産拡大やコスト(費用)削減を目的として、M&Aが行われました。

中国企業による外国企業の買収事例5選

中国企業が譲受側、非日系企業が譲渡側であるM&A事例です。

アメリカのIBM

2004年、アメリカのIBMのパソコン部門と、中国企業Lenovo(聯想集団)の間でM&Aが行われました。2003年にIBMが、パソコン事業で赤字を出していたことがきっかけとされています。Lenovo(聯想集団)は、M&Aによってパソコン業界におけるシェア世界1位を獲得し、ThinkPadブランドは高い人気を誇っています。

ドイツのクーカ

2016年、ドイツのクーカ社と、中国企業のマイティアグループ(美的集団)の間でM&Aが行われました。産業用ロボットメーカーであるクーカ社が、米国の軍需産業と取引があったことにより、承認に時間を要したのが特徴です。M&A後は、クーカ社の売り上げとドイツでの雇用が向上したものの、ドイツにおいては、中国企業への譲渡に対する規制が強化されました。

アメリカのゼネラル・エレクトリック

2016年、アメリカのゼネラル・エレクトリック社の家電部門と、家電事業の中国企業のハイアール(海爾集団)の間でM&Aが行われました。アメリカのゼネラル・エレクトリック社は、航空機エンジンなどの重電・機械分野を主軸としている企業であり、非中核事業である家電部門をハイアール(海爾集団)へ売却しました。。

中国で高いシェアを誇るハイアール(海爾集団)は、先進国市場の開拓が課題であったことがM&Aにつながりました。また、産業の高度化を掲げ、製造業を育成するという、習近平指導部の方針も背景にあるといわれています。

イギリスのブリティッシュ・スチール

イギリスのブリティッシュ・スチールと、中国企業の敬業集団の間でM&Aが行われました。ブリティッシュ・スチールは、イギリスの投資会社グレイブル・キャピタルがインド鉄鋼企業タタ・スチールのM&Aを行って発足した、イギリス第2位の鉄鋼企業です。

その後、ブリティッシュ・スチールは経営が破綻したため、中国企業の敬業集団によるM&Aにより再建を目指しました。譲渡の理由として、製品の幅の拡張、新しい市場の獲得、ブランド力の獲得などが挙げられます。

スウェーデンのボルボ社

2010年、スウェーデンのボルボ社と、中国企業のジーリーホールディンググループ(浙江吉利控股集団)の間でM&Aが行われました。1926年にスウェーデンで創業されたボルボ社は、アメリカのフォード社の傘下に入りました。しかし経営は改善せず、ジーリーホールディンググループ(浙江吉利控股集団)によるM&Aの結果、最高利益を出したのが特徴的です。

フォード時代に魅力を失なったボルボに、開発資金を提供して開発を促進したことにより、質と安全性が向上しました。

中国企業とM&Aする際の注意点

法律規則や商慣習などが大きく違う中国企業とのM&Aには特有の注意点があります。

法律や規制の内容が変更される可能性を考慮する

法律が都合の良いように整備・運用される傾向があり、法整備が不十分な場合、政府が介入する可能性があります。譲受・譲渡のどちらの場合においても、M&A時の計画が円滑に進まないケースを想定しておく必要があるでしょう。

中国の情報を充分に収集する

中国市場、中国と諸外国との関係、中国政府の考え方、中国企業の経営状況など、中国の情報を十分に調査することが必要です。メディアの取材を受けない企業も存在するため、中国内部の情報に精通した専門家に依頼するなど、さまざまな情報ルートの活用が重要なポイントです。

中国企業とのM&Aのまとめ

中国企業とのM&Aは、中国が経済大国に成長したことによって多くのメリットがあります。特に、ITやAIなどの分野における最先端技術や中国の巨大マーケットへの参入が、中国企業とのM&Aの魅力です。しかし、法律の違い、言語の壁や異文化への配慮など、注意すべき点もあります。M&Aの際には、中国情勢や市場の十分な調査が不可欠といえるでしょう。

みつきコンサルティングには、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上で、シナジー(相乗効果)創出を見込める候補先を紹介します。 また、海外子会社を譲渡したいケース、海外子会社を含め譲渡したいケースでも、海外拠点と連携しサポートが可能です。M&Aに関する相談は、財務のプロとして事業承継・M&Aを支援する、みつきコンサルティングにお任せください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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