投資ファンドとは?M&Aでの役割・最近の動向・譲渡する利点と欠点

M&Aにおける投資ファンドとは、出資後に企業価値を高め、株式の再売却などで利益を得る事業体です。本記事では、M&Aにおけるファンドの種類や特徴、活用する際の注意点などを解説します。

投資ファンドとは

投資ファンドとは、個人や機関投資家から資金を募り、株式、債券、不動産などに投資して得た収益を投資家に還元する仕組みです。ファンドには多様な形態があり、KKRのようなプライベートエクイティ(PE)ファンドやアクティビストファンドなどが含まれます。PEファンドは、新興企業向けのベンチャーキャピタル、成長期以降の企業を対象とするバイアウトファンド、財務的に困難な企業を支援する再生ファンドなど、さまざまな種類があります。

M&Aにおける主役はPEファンドで、その特徴は、銀行融資などを活用して対象企業の株式を完全保有し、事業構造の改革や資本効率の向上を図ることです。なお、時折ニュースになるアクティビストファンドは、企業の一部株式を取得し、上場を維持したまま経営に関与します。彼らは資産の効率的活用、株主還元の強化、経営陣の交代などを要求し、短期的な株価上昇を目指します。

投資ファンドの役割

M&Aにおける投資ファンドの役割は、出資先の中堅・中小企業業への経営支援を行うことで、企業価値の向上に寄与することです。ファンドは、将来的に、IPO(新規株式公開)や株式の再譲渡によって利益を得ていきます。M&Aでは、未上場株(上場株の非公開化を含む)への投資を行うプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)が多い傾向です。

投資ファンドの最近の動向

経営不振の企業を買収し、長期間をかけて再建を進める、という投資ファンドの従来のイメージが、最近では変化してきました。以前は、買収から再上場や売却までに長期間を要していました。例えば、アパレル企業のワールドは13年、外食チェーンのすかいらーくは8年かかりました。

しかし、近年は、投資から再売却までの期間が3~5年程度に短縮される案件が多い傾向です。この背景には、日経平均株価が2021年に3万円台を回復するなど、市況が好転し、新規株式公開(IPO)がしやすくなったことがあります。また、大企業の一部門を切り出して独立させる「カーブアウト案件」が増加したことも影響しています。PEファンドによる再編の約4割が、カーブアウト案件と言われるほどになっています。

代表的な投資ファンド5種

ファンドにも特徴があり、特定の業種(製造業に強いなど)、特定の地域(海外販路を持つ商社系、地場に強い地銀系など)に強み持つファンドがあります。また、ファンドにとってのイグジット(再譲渡)との関係で、IPO支援が得意とった特徴を持ったファンドもあります。以下では、M&Aにおける代表的な投資ファンドを5つ紹介します。

ベンチャーキャピタル(VC)

ベンチャーキャピタル(VC)は、将来的に高い成長が見込まれる、あるいは創業間もないベンチャー企業に対して投資をするファンド(企業)のことです。譲渡側から経営の助言や役員の派遣などを行い、ベンチャー企業の価値を高める取り組みを行っています。

ベンチャーキャピタル(VC)は、IPO(新規株式公開)や株式売却によって利益を獲得しますが、M&Aを活用して投資資金の回収を行うケースも多いです。

バイアウト(買収)ファンド

バイアウト(買収)ファンドとは、利益を安定して創出できる成熟した未公開企業への投資を行うファンドです。投資先の経営に関与して株式価値を向上させ、保有する株式の譲渡で得た収益を還元しています。投資手法は、TOB(株式公開買い付け)やMBI(Management Buy In:譲受後経営者を送り込むこと)を活用することが多い傾向です。

なお、ファンドが第三者に株式を譲渡する場合に、他の株主に対しても保有株式をすべてを同じ第三者に譲渡しなければならないことを請求できる権利(タグ・アロング・ライト)が設定されることがあります。

企業再生ファンド

企業再生ファンドとは、事業再生や経営不振などで、経営再建の必要な企業の立て直しを目的とした再生ビジネスに関与するファンドです。優れた技術やノウハウを持っているものの、収益性が伴っておらず経営がうまくいっていない企業を投資対象としています。人員削減や資金調達の見直しなど、直接経営に関与しながら企業再生を実施している点が特徴です。

MBOファンド

MBOファンドとは、MBO(マネジメント・バイアウト:経営者による譲受)を目指す人を対象としたファンドです。MBOとは、経営陣がオーナーから株式や経営権を買い取って独立することを指します。

MBOファンドは雇用や事業継続を前提としており、現代版の「のれんわけ」ともいわれています。株式上場後に第三者へ株式を譲渡して利益を取得する点が特徴です。

ディストレスファンド

ディストレスファンドとは、破綻・倒産しそうな困窮している(ディストレスト)企業に投資するファンドです。企業再建で価値を上げてから株式を譲渡し、利益を得るスキームです。企業再建が成功すれば大きな利益となりますが、失敗すれば損失となるハイリスク・ハイリターン(高リスク・高リターン)の投資である点が特徴といえます。

投資ファンドに譲渡するメリット

ここからは、譲渡側からみて、投資ファンドを譲受側とするメリットを解説します。

事業承継・後継者問題の解決

帝国データバンクの調査によると、2022年の全国・全業種約27万社の後継者不在率は57.2%です。多くの企業が抱えている事業承継問題は、M&Aによる第三者承継によって解決することができます。投資ファンドを譲受側にすれば、新たな経営陣や経営の専門家を迎え、企業のさらなる成長も目指せるでしょう。

資金調達と信用力の獲得

投資ファンドを譲受側とするメリットは、資金調達と信用力獲得を同時に実現できる点です。投資ファンドによって資金投入が行われれば、財務基盤が安定します。また、投資ファンドからの資金投入という実績によって、信用力が向上する効果も期待できます。さらに、設備や不動産のような有形資産に加え、顧客や取引先、技術などの無形資産も加わるため、事業規模の拡大が見込めるでしょう。

事業拡大と経営ノウハウの習得

事業を拡大しつつ経営ノウハウを習得できる点も、投資ファンドを譲受側とするメリットの1つです。具体的には、事業拡大に向け、販路拡大や幹部人材の採用に力を貸してくれます。また、組織的・計画的な経営ができるよう内部管理体制を強化することは、ファンドが得意とするところです。

色が付かない

事業会社に譲渡すると、その事業会社のグループ会社となり、良くも悪くも色が付きます。これを懸念する場合には、ファンドへの譲渡は有力な選択肢になります。通常、ファンドは無色透明だからです。

事業を窮地から救ってくれる可能性

過剰投資による過剰債務や、一活性の赤字が続き、自力では再生が困難な場合に、ファンドによる資金と経営の支援が期待できることがあります。既存の会社は清算させつつも、優良事業を残し、活かす方向での出口が一般的です。

投資ファンドに譲渡するデメリット

ここからは、譲渡側からみて、投資ファンドを譲受側とするデメリットを解説します。

リストラ・事業縮小の懸念

投資ファンドを譲受側とするデメリットの1つは、従業員のリストラや事業縮小のリスクがある点です。M&Aによるシナジー(相乗効果)によって雇用が維持される傾向はありますが、人件費の解消を目的に人員の絞り込みを行うことがあります。また、コア事業に注力され、ノンコア事業は事業削減や事業を譲渡されるケースもあります。

異なる企業文化での大量離職

M&Aの実施により生じた企業文化に変化が、対立や不和につながる恐れがあります。結果として、不満を抱えた従業員の大量離職につながる可能性も出てくるでしょう。対立を防ぐためには、継続的なコミュニケーションプランなど人事交流を積極的に行う工夫が必要です。

また、投資ファンドの特性として、M&Aを実施した企業は、最終的に譲渡することが予定されています。譲渡後にも、異なる企業文化の融合が必要となる点も押さえておきましょう。

ファンドへの譲渡は事業シナジーを見込めない?

投資ファンドには実業が無いから、ファンドに譲渡しても事業シナジーが見込めない、と言われます。

しかし、ファンドは通常、既存の複数の投資先があるため、それらの投資先との相乗効果が見込める場合があります。むしろ、近時のファンドの行動原理として、同業種・業態の複数の会社に投資してグループを形成し、その地域、その業界でのプレゼンスを高めたり、生産性を高めようとする戦略(ロールアップ)を狙うことが多いです。その結果、自社単独では難しいダイナミックな事業展開が可能となります。

M&Aにおけるファンド活用の注意点

ここでは、M&Aにおけるファンド活用の注意点について解説します。

企業成長の実績・方法を確認する

M&A前に、企業成長の実績や方法をあらかじめ確認しておきましょう。投資ファンドによって専門分野が異なるため、ベンチャー企業や大企業など、企業のステージに合わせたファンドの選択が重要です。投資ファンドがM&Aを実行する手段や方法、そして企業価値を向上させるためのプランを確認しておきましょう。

適切な後継者や事業のノウハウの有無を確認する

適切な後継者がいるかどうかや事業ノウハウの有無を確認することも大切です。M&Aの相手は、資本力があり、知名度がある企業ばかりが最適とは限りません。企業を引き継げるノウハウや考え方を有しているかどうかをしっかり確認しましょう。シナジー(相乗効果)が発現しやすい、企業文化が似ている投資ファンドがおすすめです。

投資ファンドとのM&A事例3選

ここでは、実際に投資ファンドとM&Aをした事例を3つ紹介します。

paizaへの投資(J-STAR株式会社)

東京に本社を置く株式会社エムアウトの子会社であるギノ株式会社は、2020年にJ-STAR株式会社とMBO支援契約を締結しています。J-STAR株式会社は、2006年2月に設立した、独立系プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)です。主に中小企業をターゲットとした投資を実施し、着実に業績拡大し続けてきました。

ギノ株式会社によって進められてきた、ITエンジニアの求職や学習プラットフォーム「paiza」事業の成長が期待されています。

アートジャパン株式会社の譲渡(株式会社日本投資ファンド)

ゴムパッドの製造・販売業を営むアートジャパン株式会社は、代表取締役の交代と共に株式の第三者への譲渡(M&A)を模索していました。そのなかで「経営のプロであるPEファンドと組めば、改革が実現できるのではないか」と期待し、株式会社日本投資ファンドとM&Aを実現しています。

このM&Aによって、ファンド担当者が管理本部長へ就任し、社内改革を実施しました。社内コミュニケーションの機会を積極的に設け、数種類の新製品開発を実現しました。その結果、前年比増の売上推移が続いています。

金城重機株式会社の譲渡(日本協創投資株式会社)

金城重機株式会社と日本協創投資株式会社によるM&Aも、投資ファンドとのM&A事例として挙げられます。金城重機株式会社は、引継ぎ期間を経てリタイアする創業経営者に代わり、PEファンドの日本協創投資株式会社が後継社長を選定するM&Aを実施しました。

これにより、社長交代とPEファンドで社内の理解促進を進めながら、管理体制を見直す体制を整えていきました。予算に対して上回る達成をすれば賞与で還元するなど、数値に基づいた目標管理が実施されています。また、従業員が自主的に業務改善に取り組む場面が増えており、M&Aの効果が如実に出ています。

投資ファンドとM&Aのまとめ

この記事では、M&Aにおけるファンドの種類や特徴、活用する際の注意点などを解説しました。M&Aを検討する際には、ファンドも1つの選択肢に入れておきましょう。

M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。みつきコンサルティングはで、税理士法人グループであるためM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案が可能です。経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえでシナジー(相乗効果)創出を見込める候補先を紹介できる点も強みです。M&Aに関することはいつでもお任せください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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